【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

第三十三話 未来へ馳せる思い①

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「あの、ここは……どこなのでしょうか?」
「あー……王都の平民街だ。アリアは平民の生活を知らないって言ってたから、いきなり王都から出る生活はキツイだろ?……嫌だったか?」
 
 何故だろう。一瞬ノアの頭の上に垂れ下がった犬の耳が付いているように見えた気がしたが、気のせいだと思う事にした。
 
「いえ。気遣っていただいて本当に感謝しています。ノア、改めて本当にありがとうございます。あの、でも一つお聞きしたい事があるのですが……」
「なんだ?やっぱり部屋が狭いのか?」
「い、いえ!そうではなくて。そうではなく、むしろその逆で……あの王都の皆さんはこんなに立派なお家に住まわれているのでしょうか?」
 
 私はこの部屋に来てからずっと疑問だった事をノアに聞いてみる事にした。何故なら今いるこの部屋は、私の住んでいた侯爵邸の自室より広くて豪華絢爛だったからだ。

 ここが王族の部屋だと、そう説明されても普通に納得してしまうような広さと豪華さがあった。
 いくら私が世間知らずだと言っても、これは流石におかしいと分かる。
 
「そうか?みんなこんな感じのところに住んでるけどな。アリアの情報が間違ってるんじゃないのか?」
 
 ノアは至極真面目な表情で言うものだから、もしかして本当に私の知識が間違っているのかもしれない。
 だって彼は私より王都の暮らしを知っているみたいだったから、きっと私の知識が間違っているのだとなんだか恥ずかしくなってしまった。

「じゃ、今日からアリアは平民って事で。生活のサポートは俺がするから、何かあったら隠さず言えよな」
「っ!はい、これから二年間どうぞよろしくお願いしますね」
「おー。平民の生活は大変だと思うけど、まぁ頑張れよ」
 
 そう言って何故かノアは私の手を取り手の甲にそっとキスを落とした。
 
「っ!?」
 
 突然の事態に私は慌てて手を引こうとした。でも逆に引き寄せられ、彼は妖艶に微笑んだ。
 
「……おまじない。平民として、きちんと暮らせるように」
「あっ、そ、そうですわね」
 
 一体何がそうなのか。この時酷く動揺していた私は、今自分が何を言っているのかすらよく分からないまま、ただ頷く事しか出来なかった。

「あ、それといつまでも敬語だとやりづらいから普通に話してくれ。俺は初めからずっとこんな感じで話してるし」
「そうですよ……ではなくて、わかったわ。これからよろしくね、ノア」

 たった数刻で世界がガラリと変わってしまった。ほんの少し前まで貴族だった私は、今から平民として自分で生きていかないといけない。
 しかも横には禁忌とされる召喚された悪魔と共に。

 他の人だったら、この状況に不安になったり今後の自分の未来に悲観したりするのかもしれない。
 でも何故だろう。今の私はこれからの生活に心を弾ませていた。

 “平民として生きていく”

 それは貴族だった私が想像しているより、ずっとずっと過酷なのだと思う。
 今はまだ漠然とした事しか分からないし、平民になったと言っても家に到着しただけだ。
 この先決して楽しい事、幸せな事ばかりではないのは世間知らずの私でも分かる。でもそれは貴族の時も同じ事。
 例えこの先の未来が私が想像するより過酷な日々だったとしても、今の私は駒として使われる貴族令嬢でも、ましてやお飾りの婚約者でもない。

 “自分の意志で決め、自分の力で生きていく”

 生まれて初めて自分の意思で願ったこの現状に、私は初めて心からの喜びを感じていた。

 目の前にいるノアに向き合い視線を合わせる。
 私のこの思いが少しでも届くように。
 
「……ノア」
「ん?どうした」
「ありがとう。本当にありがとう」

 私は今伝えられる精一杯の感謝をノアに伝えた。
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