【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

文字の大きさ
上 下
32 / 71
本編

第三十二話 それぞれのその後・エミリー視点①

しおりを挟む

 あれから、何度もレスター侯爵家に出向いてアイザック様に会わせて欲しいと伝えたけれど、全て門前払いだった。
 いつまでアリアを愛する演技をするのか。いい加減本当に愛している私の事に目を向けてもいいと思うのに……
 でも何度手紙を書いても、アイザック様から返事が来る事は一度もなかった。

 アリアが憎い——。

 生きている間は、厚かましくもアイザック様の婚約者の座に収まっていたくせに。亡くなってもアイザック様と私の仲を邪魔するアリアが憎くてたまらない。
 だけどどんなにレスター侯爵家に出向いても会う事すら出来なかった私は、だんだんと言い知れぬ不安を感じていった。

 (もしかして、アイザック様に何かあったのかしら?)

 どうにもならないこの現状に悶々とした日々を過ごしていたある日。
 両親から呼び出されその場で一通の茶会への招待状を手渡された。
 二人の好意を素直に受け取った私は後日招待された茶会へ出向き、そこで愛しのアイザック様の近況が噂されているのが耳に入ってきた。

「そう言えば、お聞きになりまして?レスター侯爵子息様、最近社交界でお見かけにならないでしょう?何でも不慮の事故で最愛の婚約者を亡くし、そのショックから心の病を患ってしまったようなんですの。それに最近では、亡くなられた婚約者がご自身の側にいると仰っているみたいですし、親であるレスター侯爵も心配でしょうね」
「まぁ、お二人ともとても仲睦まじくされていましたものね……その心情は計り知れませんわ」
「それに、後継についても弟のフィリップ様が引き継がれるのでしょう?」
「まぁ、そうだったんですの?」
「今後レスター侯爵家はどうなるのかしら」
 

 最愛の婚約者を亡くし、ショックから心を壊した?
 後継もアイザック様の弟に変更?
 それに……アリアが側にいるですって?


 ……どうしてそんな大事な話、最愛の私に話してくれなかったの?
 例え次期侯爵になれなくても、私は愛するアイザック様を捨てたりなんてしないのに。

 アイザック様に一日でも早くお会いしたい。
 会ってあの時みたいに情熱的に抱きしめてほしい。愛してると言ってほしい。

 すぐ横で延々と続くこの聞くに堪えない噂話に、早々に帰宅する事を決めた私は帰る為にふらふらと出口へ向かって歩いて行く。
 こんな嘘ばかりの茶会なんて知っていたら最初から来なかったのに。それに……、

「っふ……ふふっ……っはははははははははははははははははははは」

 突然笑い出した私をここにいる人達がジロジロ見てくるけど、気にしないわ。

「っふ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 気付けばその場で叫び、手当たり次第目に付いた物を掴み投げつけていたけれど、今の私からしたらそんな事些末な事だった。

「嘘吐き!!嘘吐き!!嘘吐き!!!!貴女達、覚えておきなさい。アイザック様の最愛はこの私!アリアなんかじゃないわ!あれは間違いなく死んだのよ!!」

 私は間抜け面の令嬢達に向かって思いっきり叫びながら教えてあげたわ。
 みーんな嘘ばっかり。アイザック様の最愛はこの私、アリアなんかじゃないわ。彼の最愛はここに居る。
 決して死んだ亡霊なんかじゃない。本当にここの連中は嘘ばっかり。
 
 アイザック様。私が貴方の最愛でしょう?そうよね?
 アリアに勝てた唯一がアイザック様からの愛なのに。
 それすらも違うと言うのなら、私は一体何の為にアリアからアイザック様を奪ったの?


 いいえ。いいえ、違うわエミリー。
 大丈夫。アイザック様は私を愛してる。そして私も彼を愛してる。だからこの想いは誰にも壊せない。
 私は彼が元気になるまで、いくらでも待てるもの。
 だって私は、貴方の最愛だから。

 何故だか涙が溢れてくるけれど、きっとこの涙は嘘ばかりの噂話を耳に入れたからよね。
 決して私は現実を知って絶望したわけじゃないわ。


 あぁ、アイザック様。どうか……どうか一日も早く私を迎えに来て。
 じゃないと私は——、
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

処理中です...