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本編
第二十三話 初めての感情③
しおりを挟むそしてまだお互い名乗っていない事に気付き、私はアリアと名乗り、相手はノアと名乗った。
私は貴族の娘なので、今の婚約をなかった事にしてもすぐに父が新たな婚約者を見つけてくる可能性をノアに話した。
するとノアはいい考えがあると言い、私にそっと耳打ちしてくれた。
「本当にそんな事が出来るのですか?」
「あぁ、俺に不可能はないからな。取り敢えず、アリアそっくりの死体を用意して貴族令嬢としてのアリアには死んでもらう。そしたら今背負っている色んな柵から解放されるし、アリアの言う『愛する人』を探す事にも何の問題もないだろ?」
ノアの提案には、正直驚きの連続だった。
私そっくりの遺体を用意して、貴族令嬢から解放される…… ?
それは凄く魅力的な提案だったが、それと同時にいくつか疑問点もあった。
「あの、ノア。その私そっくりの遺体というのは、まさか他の誰かを傷つけたりするのでしょうか?出来ればそういった荒事は避けたいのですが……」
「あぁ、その点は心配ない。そっくりの人形を用意するだけだ。自死したように見えるように、ほんの少し細工すればいい」
「それなら安心しました。では、あともう一つだけ。私、平民として暮らした事がないので自力での生活の仕方が分からないのです。どなたか平民としての生き方を教えて下さる方を紹介していただけないでしょうか?」
本当は自分が全く無知な事を、人へ晒すのは消えたくなる程恥ずかしい。でも恥を忍んでお願いするとノアは、優しく微笑み私が安心するように膝を折り目線を合わせてくれた。
「なんだ、そんな事か。それも心配しなくていい。俺はアリアの願いを叶える為にここにいるんだ。ここを出てからの生活は、俺が保証する」
「ほ、本当に何から何まで……何てお礼を言ったらいいのか」
「気にするな。で、他に心配事は?あるなら今のうちに言ってくれ」
「いえ、ひとまず心配事はありません。ただ最後に、家族に手紙を書かせて欲しいのです。いいでしょうか?」
「いいんじゃないか?そういう小道具もあった方がより現実的だろ」
「ありがとうございます。では早速、自室に戻って準備を始めましょう」
そして私は全てを捨てる為に、最後の仕上げをする事にした。
手紙を送るこの人達に“愛される”という願いは最後まで叶わなかったけれど、私にとってはかけがえのない大切な家族だった。
はじめに父へ宛てた手紙を書く。出来るだけ短い文でも伝わるように思いを込めて。
そして次に婚約者のアイザック様とエミリーへ。これでもう2人を引き裂く邪魔者はいなくなる。だから、どうか幸せになってほしい。
最後にずっと側にいて支えてくれたノーラへ。あんなに慕ってくれていたのに裏切るようにいなくなる事への謝罪。そしてノーラの明るさに救われていた事への感謝。
「出来たか」
先程までどこかへ行っていたノアが、ちょうど手紙を書き終えた頃に戻ってきた。そしてノアへ向き直り、静かに頷く。
「さ、こっちも準備が整った。行くぞ」
そう言って差し出されたノアの手に、そっと自分の手を添える。次の瞬間ノアに思いきり手を引かれ、抱き締められる形になり慌てて離れようとすると突然目の前が真っ暗になった。そう、ノアに手で目隠しをされたのだ。
「ノ、ノア!?」
思わず叫ぶと『パチンッ』という音と共に、何かに引っ張られるような、グルグルと視界が回るような感覚がした。
「?アリア、もういいぞ」
そう言われ恐る恐る目を開けると、そこは今までいた侯爵邸の自室ではなく見た事もない部屋の一室だった。
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