【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

文字の大きさ
上 下
23 / 71
本編

第二十三話 初めての感情③

しおりを挟む


 そしてまだお互い名乗っていない事に気付き、私はアリアと名乗り、相手はノアと名乗った。
 私は貴族の娘なので、今の婚約をなかった事にしてもすぐに父が新たな婚約者を見つけてくる可能性をノアに話した。
 するとノアはいい考えがあると言い、私にそっと耳打ちしてくれた。
 
「本当にそんな事が出来るのですか?」
「あぁ、俺に不可能はないからな。取り敢えず、アリアそっくりの死体を用意して貴族令嬢としてのアリアには死んでもらう。そしたら今背負っている色んなしがらみから解放されるし、アリアの言う『愛する人』を探す事にも何の問題もないだろ?」
 
 ノアの提案には、正直驚きの連続だった。

 私そっくりの遺体を用意して、貴族令嬢から解放される…… ?
 それは凄く魅力的な提案だったが、それと同時にいくつか疑問点もあった。
 
「あの、ノア。その私そっくりの遺体というのは、まさか他の誰かを傷つけたりするのでしょうか?出来ればそういった荒事は避けたいのですが……」
「あぁ、その点は心配ない。そっくりの人形を用意するだけだ。自死したように見えるように、ほんの少し細工すればいい」
「それなら安心しました。では、あともう一つだけ。私、平民として暮らした事がないので自力での生活の仕方が分からないのです。どなたか平民としての生き方を教えて下さる方を紹介していただけないでしょうか?」
 
 本当は自分が全く無知な事を、人へ晒すのは消えたくなる程恥ずかしい。でも恥を忍んでお願いするとノアは、優しく微笑み私が安心するように膝を折り目線を合わせてくれた。
 
「なんだ、そんな事か。それも心配しなくていい。俺はアリアの願いを叶える為にここにいるんだ。ここを出てからの生活は、俺が保証する」
「ほ、本当に何から何まで……何てお礼を言ったらいいのか」
「気にするな。で、他に心配事は?あるなら今のうちに言ってくれ」
「いえ、ひとまず心配事はありません。ただ最後に、家族に手紙を書かせて欲しいのです。いいでしょうか?」
「いいんじゃないか?そういう小道具もあった方がより現実的だろ」
「ありがとうございます。では早速、自室に戻って準備を始めましょう」
 
 そして私は全てを捨てる為に、最後の仕上げをする事にした。
 手紙を送るこの人達に“愛される”という願いは最後まで叶わなかったけれど、私にとってはかけがえのない大切な家族だった。

 はじめに父へ宛てた手紙を書く。出来るだけ短い文でも伝わるように思いを込めて。

 そして次に婚約者のアイザック様とエミリーへ。これでもう2人を引き裂く邪魔者アリアはいなくなる。だから、どうか幸せになってほしい。

 最後にずっと側にいて支えてくれたノーラへ。あんなに慕ってくれていたのに裏切るようにいなくなる事への謝罪。そしてノーラの明るさに救われていた事への感謝。

「出来たか」
 
 先程までどこかへ行っていたノアが、ちょうど手紙を書き終えた頃に戻ってきた。そしてノアへ向き直り、静かに頷く。
 
「さ、こっちも準備が整った。行くぞ」
 
 そう言って差し出されたノアの手に、そっと自分の手を添える。次の瞬間ノアに思いきり手を引かれ、抱き締められる形になり慌てて離れようとすると突然目の前が真っ暗になった。そう、ノアに手で目隠しをされたのだ。
 
「ノ、ノア!?」
 
 思わず叫ぶと『パチンッ』という音と共に、何かに引っ張られるような、グルグルと視界が回るような感覚がした。
 
「?アリア、もういいぞ」
 
 そう言われ恐る恐る目を開けると、そこは今までいた侯爵邸の自室ではなく見た事もない部屋の一室だった。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

貴方の運命になれなくて

豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。 ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ── 「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」 「え?」 「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

貴方への愛は過去の夢

豆狸
恋愛
時間は過ぎる。人は変わる。 私も恋の夢から醒めるときが来たのだろう。 イスマエルへの愛を過去の記憶にして、未来へと──でも、この想いを失ってしまったら、私は私でなくなってしまう気がする。それなら、いっそ……

処理中です...