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本編
第二十二話 初めての感情②
しおりを挟む「っ……ぃ。おい!聞いてんのかよ?」
しかしいつまでも返事を返さない私に、痺れを切らしたのか男が近くまで来ていた。
「きゃっ!?」
俯いていた私が慌てて顔を上げると、男が同じ目線にいた事に驚き思わず短い悲鳴をあげてしまった。
現状に色々と混乱しているが、まずはこの状況をどうにかする為改めて目の前の男に視線を向けた。思わずゴクリと喉が鳴る。
私はここで死ぬ訳にはいかない。絶対に叶えてもらわなければならないのだから。
一度目を瞑り、ゆっくり深呼吸をしてから再度男の方を見た私は視線を逸らさずはっきりとした口調で伝えた。
「私の願いはただ一つ。自由になりたいのです」
男は何も言わない。
ただ少し考える仕草をしているだけだ。
(拒否されて殺されたらどうしよう)
不安が一気に押し寄せ、嫌な汗が背中を伝う。
この沈黙の時間がやけに長く感じ、思わず目を閉じる。
「おい、その自由とは何を指して言っているんだ?」
そう問われひとまず会話が続く事に安堵した私は、視線を男へ向け今回の経緯を話す。
「私には現在婚約者がいるのですが、その彼は私の従姉妹を愛しています。二人が結ばれるには婚約者である私の存在が邪魔になるのです。私は、……私はこのまま婚姻を結び、一生誰にも愛されない人生は嫌なのです。私も、私だけを愛してくれる存在が欲しいのです!」
今まで誰にも伝えた事のない、自分の正直な気持ちを目の前の男に曝け出した。
普段の私なら見ず知らずの人、ましてや男性に本心を話す事は絶対にない。
でもどうしてだろう。この目の前の男には、私自身の胸の内を聞いてほしいと思った。
そして私が話している最中、男は意外にもきちんと話を聞いてくれた。
貴族令嬢として無責任な考えだと自覚はあるので、もっと笑われたり呆れられるかと思ったがそんな事もなく、時々相槌も打ってくれていたので、呼び出したのは私なのになんだか呆気に取られてしまった。
「あの……実はもう一つお願いがあるのです。対価を支払うにあたって、二年だけ待っていただけないでしょうか?」
最後に最も大事な事を男に伝える。
「何で二年なんだ?」
男は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「先程もお伝えしたように、私も心から愛する人と出会いたいのです。ですがその為にも時間が欲しいのです。もし、二年経っても出会えなかったら私は潔く貴方のものになります」
約束は守るという意思が少しでも伝わればといいと思い、真っ直ぐ男を見つめる。
すると男は一瞬驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には楽しそうに笑った。
「いいだろう。お前の願い、この俺が必ず叶えてやる」
そう言ってこちらに向かって手を差し出し、男は綺麗に微笑んだ。そのあまりにも綺麗すぎる笑みに呼吸すら忘れ、私はしばらく男を見つめる事しか出来なかった。
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