宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい

文字の大きさ
上 下
38 / 54
第十一章 ルリとミナセ、ピンチ!

(三)

しおりを挟む
 暗い闇の中をさまよっていた。

(わたし、なにをしていたんだっけ)

 頭の中に霧がかかったみたいに、ぼんやりしている。なにも思い出せない。だけど、ひどく身体が重かった。

『ルリ』

 声が聞こえた。

 呼んでる。この声は、ミナセだ。だけど、いつもおだやかな声が、いまは弱々しい。

『ルリ』
『ルリ』

 どうして、そんなに苦しそうな声で呼ぶんだろう。ミナセが泣いているのは、いやだ。声につられるように、わたしはゆっくりと、目を開いた。

「ルリ!」
「……みな、せ……?」
「あ! よかった、ルリっ!」
「うわあっ⁉」

 目を開けたとたんに、ぎゅうっと抱きつかれておどろいた。その衝撃に、一気に頭の中の霧も吹き飛んでしまう。

「ミナセ、ちょっと、いたい、いたいって!」
「あ、ごめん」

 背中をばんばんたたくと、ようやくミナセは身体を離してくれた。だけど、ぺたぺたとわたしの頬や頭をさわって、心配そうに聞いてくる。

「大丈夫? 痛いところ、ない?」
「いま、ミナセに抱きつかれて痛かった」
「ご、ごめん。それ以外は?」
「だいじょう、ぶ……」

 つぶやきながら、わたしははっと気づいた。

(そうだ、わたし、ルークさんに剣で斬られたんだ!)

 あわてて斬られた胸のあたりを確認した。だけど、あれ、と首をかしげる。傷がない。それどころか、服も破れていない。

「なんで?」
「剣の峰で斬られたみたいだね。魔法で衝撃は強かったみたいだけど、怪我はしていないみたい」

 峰っていうのは、剣の斬れない側のことだ。だから、助かったみたい。

 ほっとため息をつく。

「死んじゃうかと思った……」
「ほんとだよ! ルリのばか!」

 ほっとしたのもつかの間、険しい顔をしたミナセに肩をつかまれる。

「かばってくれたのは助かったけど、でも、ルリが怪我したり死んじゃったりしたら、なにも意味ないだろう!」

 ミナセは怒っているような、泣きそうな、必死の顔をしていた。こんなあせったミナセを見るのは、はじめてだ。

(心配、かけちゃったんだよね)

 じわっと心がしめつけられて、泣きそうになる。もしかしたら、死んでいたかもしれないって怖さと、ミナセが無事だったことの安心と、こんなにミナセに心配をかけたことへの申し訳なさで、胸がいっぱいになった。

「ごめん、ミナセ。でも、ミナセが生きててよかった。肩、平気?」

 狼に噛みつかれていたはずだ。

「たいしたことないよ。……ルーク殿が、手当てしてくれたんだ」

 え?

「ルークさんが? なんで?」
「モーリスさまの使用人を死なせると面倒だから、って言ってた」

 ミナセの肩には、白い包帯がぐるぐると巻いてある。自分の使い魔に襲わせておきながら、手当てしてくれたんだ。それは不思議だったけど、でもなにより、安心した。

「……よかった、ミナセが無事で」

 目の奥が熱くなって、思わず、涙があふれる。ミナセは目を見開いて、困ったような顔をした。手をのばして、わたしの涙を拭ってくれる。

「ぼくこそ、ルリが無事でよかった。助けてくれて、ありがとう」
「うん」
「……でも、あまりいい状況じゃないんだ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

circulation ふわふわ砂糖菓子と巡る幸せのお話

弓屋 晶都
児童書・童話
精霊魔法と剣の世界の片隅で紡がれる、少女と小さな幸せの物語。 まったりのんびりMMORPG風ファンタジー。 冒険者登録制度のある、そんなゲーム風ファンタジー世界で、パーティーでクエストをこなしています。 〜あらすじ〜 家事能力高めの魔法使い、正義感溢れる紳士な盗賊、マッドサイエンティストなヒールに白衣の魔術師の三人は、ある日、森で記憶を無くした小さな女の子を拾います。 その子を家族に返そうと調べるうち、その子の村がもう無い事や、その子に託された願いと祝福された力を知る三人。 この力を正しく使うためにはどうすればいいのか。 道に迷い悩む幼女と、それを支える仲間達の、友愛あふれるお話です。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

空の話をしよう

源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」  そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。    人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。  生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。  

小学生魔女アリス

向浜小道
児童書・童話
「――実はわたし、魔女なんです」 両親の仕事の都合で人間界の小学校へ通うことになったアリスは、母親からの言いつけを破り、クラスの自己紹介で正体を明かしてしまう。  そんな、バカ正直者の「小学生魔女アリス」の小学校生活が、今ここに始まる――。  *** ※表紙画像は、「かんたん表紙メーカー」様からお借りしました。 ※「NOVEL DAYS」にも同作品を掲載しております。 ●第9回「小学館ジュニア文庫小説賞」第一次選考通過作品を加筆修正したものです。 *** 【更新予定リスト】 ・「自己紹介」11/8(水)18:00 ・「第1話 人間界の小学校へ」11/8(水)18:00 ・「第2話 魔女の自己紹介(1)」11/15(水)18:00 ・「第2話 魔女の自己紹介(2)」11/16(木)18:00 ・「第3話 カエルとトカゲ事件(1)」11/22(水)18:00 ・「第3話 カエルとトカゲ事件(2)」11/23(木)18:00 ・「第4話 確かに感じた魔法の力(1)」11/29(水)18:00 ・「第4話 確かに感じた魔法の力(2)」11/30(木)18:00 ・「第5話 雪ちゃんの過去(1)」12/6(水)18:00 ・「第5話 雪ちゃんの過去(2)」12/7(木)18:00 ・「第6話 「美味しくな~れ」の魔法(1)」12/13(水)18:00 ・「第6話 「美味しくな~れ」の魔法(2)」12/14(木)18:00 ・「第7話 二人を繋いだ特別なマフィン(1)」12/20(水)18:00 ・「第7話 二人を繋いだ特別なマフィン(2)」12/21(木)18:00 ・「第7話 二人を繋いだ特別なマフィン(3)」12/22(金)18:00 ・「第8話 パパとママのお仕事って……?(1)」12/27(水)18:00 ・「第8話 パパとママのお仕事って……?(2)」12/28(木)18:00

ハンナと先生 南の国へ行く

マツノポンティ さくら
児童書・童話
10歳のハンナは、同じ街に住むジョン先生に動物の言葉を教わりました。ハンナは先生と一緒に南の国へ行き、そこで先生のお手伝いをしたり、小鳥の友達を助けたりします。しかしハンナたちが訪れた鳥の王国には何か秘密がありそうです。

処理中です...