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第6章 退学のピンチ!
(2)ぴりつくお嬢さま
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「……ええ、そのとおりよ」
「やっぱり! あの猫、まだ逃げたままだったんだ」
「そうなの。わたし、ずっと捜しているのに、見つからなくて」
「へえ。……あれ? でも、捜すって、そんなのいつ――」
平日は授業を受けて、寮に帰って、宿題して、寝て、の繰り返しだった。捜しに行く暇なんてなかったはずなのに……。あっ、まさか。
「休みの日のロゼの用事って、これのことだったの?」
「ええ、そうよ」
「なんだ、そうだったんだ」
毎週、猫を捜しに行ってたんだね。真相がわかって、ちょっとすっきり。だけど。
「なんで教えてくれなかったの? 言ってくれれば、捜すの手伝ったのに」
「……だって、魔法を使えないリリイを、巻き込みたくなくて」
ロゼはしゅんと、肩を落とした。
「使い魔と言っても魔力を持った生きものだから、リリイには、危ないかなって」
え、それって……。
(わたしが人間で役に立たないから、相談してくれなかったのかな……)
せっかくすっきりしていた心が、ちくりと痛んだ。執事はお嬢さまに信頼されるものだって、シトリンは言ってた。でもわたしは、どうなんだろう。信用、されてないのかな。ロゼもわたしのこと、ただの「代打の執事」って思ってる?
また、胸がずきんと痛い。だってそれは、寂しい――。
「あら、おふたりとも、先生に呼び出されたんですって? 課題でも出されたのかしら~?」
「あ、イエローさん……」
顔を上げれば、金髪をなびかせて歩いてくるイエローさんがいた。シトリンは、今日はいないみたい。
「……あなたには、関係ないわよ」
ロゼが目をそらすと、イエローさんはむっと眉を寄せる。
「なあにその態度? ふたりが暗い顔だったから、心配してさしあげたのに」
「だから、イエローさんには関係ないでしょう。うっとうしいわね」
ちょ、ちょっと、なんか空気が悪いんだけど! しかも、ロゼは見たことがないくらい冷たい態度だ。うっとうしい、なんて、普段絶対に言わないのに……。イエローさんの眉はどんどん寄っていって、ふんっと腕を組んだ。
「まったく、魔法を使えないリリイさんと、貧乏なロゼさんじゃ頼りないから、声をかけてあげたのよ。課題を出されたなら、このわたしが手伝ってあげようかしらって――」
と、そのときだった。
「……けっこうよ! あなた、しつこいわねっ!」
ピシッ、と小さな音がした。見れば、校舎の窓ガラスにヒビが入っている。それから、バリバリバリ……ッ、とすごい音を立てて、窓が割れた。
(え。ろ、ロゼ……?)
これ、ロゼの魔法?
ロゼが、赤いひとみに、ぎらぎらした光を灯していた。……ぞくり、とした。その目は、怖い。実践授業のときに見たイエローさんの姿よりも、ずっとずっと――。
「行くわよ、リリイ!」
「――え、あ、ちょ、ちょっと待って……!」
ロゼはわたしの腕をつかんで、ずんずん廊下を進んでいく。
「やっぱり! あの猫、まだ逃げたままだったんだ」
「そうなの。わたし、ずっと捜しているのに、見つからなくて」
「へえ。……あれ? でも、捜すって、そんなのいつ――」
平日は授業を受けて、寮に帰って、宿題して、寝て、の繰り返しだった。捜しに行く暇なんてなかったはずなのに……。あっ、まさか。
「休みの日のロゼの用事って、これのことだったの?」
「ええ、そうよ」
「なんだ、そうだったんだ」
毎週、猫を捜しに行ってたんだね。真相がわかって、ちょっとすっきり。だけど。
「なんで教えてくれなかったの? 言ってくれれば、捜すの手伝ったのに」
「……だって、魔法を使えないリリイを、巻き込みたくなくて」
ロゼはしゅんと、肩を落とした。
「使い魔と言っても魔力を持った生きものだから、リリイには、危ないかなって」
え、それって……。
(わたしが人間で役に立たないから、相談してくれなかったのかな……)
せっかくすっきりしていた心が、ちくりと痛んだ。執事はお嬢さまに信頼されるものだって、シトリンは言ってた。でもわたしは、どうなんだろう。信用、されてないのかな。ロゼもわたしのこと、ただの「代打の執事」って思ってる?
また、胸がずきんと痛い。だってそれは、寂しい――。
「あら、おふたりとも、先生に呼び出されたんですって? 課題でも出されたのかしら~?」
「あ、イエローさん……」
顔を上げれば、金髪をなびかせて歩いてくるイエローさんがいた。シトリンは、今日はいないみたい。
「……あなたには、関係ないわよ」
ロゼが目をそらすと、イエローさんはむっと眉を寄せる。
「なあにその態度? ふたりが暗い顔だったから、心配してさしあげたのに」
「だから、イエローさんには関係ないでしょう。うっとうしいわね」
ちょ、ちょっと、なんか空気が悪いんだけど! しかも、ロゼは見たことがないくらい冷たい態度だ。うっとうしい、なんて、普段絶対に言わないのに……。イエローさんの眉はどんどん寄っていって、ふんっと腕を組んだ。
「まったく、魔法を使えないリリイさんと、貧乏なロゼさんじゃ頼りないから、声をかけてあげたのよ。課題を出されたなら、このわたしが手伝ってあげようかしらって――」
と、そのときだった。
「……けっこうよ! あなた、しつこいわねっ!」
ピシッ、と小さな音がした。見れば、校舎の窓ガラスにヒビが入っている。それから、バリバリバリ……ッ、とすごい音を立てて、窓が割れた。
(え。ろ、ロゼ……?)
これ、ロゼの魔法?
ロゼが、赤いひとみに、ぎらぎらした光を灯していた。……ぞくり、とした。その目は、怖い。実践授業のときに見たイエローさんの姿よりも、ずっとずっと――。
「行くわよ、リリイ!」
「――え、あ、ちょ、ちょっと待って……!」
ロゼはわたしの腕をつかんで、ずんずん廊下を進んでいく。
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