セキワンローキュー!

りっと

文字の大きさ
18 / 60
第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~

1

しおりを挟む
 土日は一日練習となるため、沢高バスケ部の休みは毎週月曜日と定められている。

 バスケ部員がそれぞれ自由に過ごす、月曜日の放課後。ファストフード店で雪之丞の対面に座っている夏希は『誰でも最初は初心者! 簡単にわかるバスケットボール』を開いて、コホンと咳払いをした。

「じゃあ、バイオレーションの種類いくよ。……三秒ルール」

「攻撃チームのプレーヤーは、相手のバスケット下の制限区域内に三秒以上留まってはいけない」

「五秒ルール」

「……スローインでパスを出すまでに五秒以上かかってはいけない。フリースローで審判からボールをもらってからは、五秒以内にシュートを打たなければならない」

「それだけ?」

「……えっと、あるいはボールを持っている状態で、パスもドリブルもせずに五秒間留まっていてはいけない」

「オーケー。八秒ルールは?」

「あー……なんだっけ、ボールを持った時点から八秒以内に、ボールをフロントコートに入れなければならない?」

「じゃあ最後、二十四秒ルール」

「……攻めているチームはボールを持った時点から、二十四秒以内にシュートを打たなければならない! どうよ!?」

「……合格!」

 夏希が指で作ったOKマークを確認した雪之丞は、大きく息を吐いた。これで一応、バスケットボールの基本的なルールは覚えたはずである。

「しんどかったー! 頭から何度煙が出たことか……付き合わせてわりいな、夏希」

 入部して以来ずっと、ルールを覚えるための手伝いをしてくれた夏希に礼を告げた。夏希は雪之丞が久美子から渡されていたルールブックを片手に頬杖をつきながら、

「毎度毎度付き合わされるもんだから、わたしまでバスケのルール覚えちゃったわよ。さーて、目的は達成したわけだし? 誠意を見せてもらおっかな!」

「え、なんだよ。脱げばいいのか?」

「わたしゃどこの悪代官よ。シェイクでも奢ってもらおうかなって言ってんの! ストロベリーがいいな」

「安上がりな女だな。いくらでも買ってやるよ」

 雪之丞はレジに並んで、ストロベリーシェイク五個と自分のハンバーガー三個を購入した。夏希は甘いものが大好物のくせにまるで太らないのが不思議である。胸を中心にもう少し肉がつけば安藤智絵里ちゃん風の俺好みのスタイルになるのにと、夏希に怒られそうなことを思いながら席に戻ろうとすると、夏希が茶髪で色の黒い男に絡まれているのが見えた。

「ねえねえ、今からどっか遊びに行こうよぉー! 女子高生ってさあー、ドライブとか好きじゃん?」

 人を見かけで判断するのは良くないが、風貌や話し方から男は非常に軽薄な人間に思われた。夏希は完全無視を決め込んでいるようだが、男はなかなか根性を見せてしつこく声をかけ続けていた。

「俺、一緒にいると楽しいってよく言われるんだよねー! 君のことも絶対楽しませてあげる自信あるよーん!」

 夏希は男に目もくれず、スマホを弄っている。

「お? ママに今日は遅くなるって連絡してるのかなー? 俺、あっちの方も自信あるから超頑張っちゃうぜー!」

 男がウインクを決めながら夏希の手を握ろうとしたとき、

「そうか。でも残念だったな、こいつと遊んでもお前が楽しいことなんか何もねえぞ?」

 雪之丞は男の肩を掴んだ。男は凄みながら振り返ったが、雪之丞の顔を見た途端「冗談だよん」とヘラヘラと笑いながら去っていった。雪之丞の大きな体と目つきの悪さは、こういうときだけ役に立つ。

「……あんたが遅いから、面倒なことになったんだけど?」

「はあ? 俺のせいかよ」

「ジョーがヤンキーだの不良だのチャラ男だのを引き寄せるオーラを放ってんのが悪いのよ。売られた喧嘩は買う? みたいな挑戦的な姿勢っていうのかな。そういうの気をつけないと、いつか痛い目に合うんだからね」

 八つ当たりを受けながら機嫌の悪そうな夏希の前にシェイクを並べると、「多すぎ!」と呆れたように笑われた。

「ヘーヘーすみませんねえ。……でもよ、お前の格好にも責任はあるぞ? そんな露出の激しい服なんか着やがって」

 夏希が着ている肩が大きく開いているグレーのニットワンピは裾が短く、細い太腿の大部分は見えているし、耳にはピアス、腕にはブレスレットを重ね、目を中心に化粧もしている。雰囲気からは身持ちの固い女には見えないだろう。

「……これはねー、目つきの悪いあんたに合わせてやってんのよ。わたしが大人しい美少女だったら、一緒にいるだけでイジメみたいな構図になっちゃうでしょ?」

 言われてみれば、雪之丞が左手を失って絡まれることが増え、喧嘩が絶えなくなってきた頃と同時期に夏希は派手になっていった気がするが、どうせ自分の格好を正当化するための詭弁だろう。そう思った雪之丞は溜息を吐いた。

「余計なお世話だっつの。つか、美少女ってどこにいんだよ?」

「うっさいわね。……でもやっぱり、軽く見られがちなのは面倒だわ。あーいうの、しょっちゅうあるし」

 夏希は男が去っていった方向を見ながら、唇を尖らせた。

「実際はバリバリの処女なのにな」

「実は違うって言ったら、どうする?」

 夏希の言葉に、雪之丞は少しだけ不快な気持ちになった。

「……え、マジか? ……考えもしなかったけど……」

「けど?」

「……少し、嫌かもしれん」

 そう答えると、不思議と夏希は嬉しそうに微笑んだ。

「ふーん。そうなんだ? じゃあ、初体験はジョーにあげようか?」

「おい、やっぱ処女なんじゃねえかよ! もらってやってもいいけど、お前に勃つかどうか不安だな」

 夏希に向こう脛を蹴られた。思わず声をあげるくらい、強力な一撃だった。

「いってえな! ……お前、そういうこと口にするから軽いって思われるんじゃねえの?」

「安心して。こんな冗談、ジョーにしか言わないから」

 それは今の関係を壊しかねない重大発言にも思われたが、本気にして夏希にからかわれるのも面倒だと思った雪之丞は適当に流すことにした。

「俺はお前のことは裏の裏まで知ってるからな。そう簡単に騙せると思ったら大間違いだぞ」

「裏の裏って表じゃん、馬鹿。……まあ、そうかもしれないけれど、ジョーにもわかってないことはあると思うわよ」

「そうかあ?」

「そうよ。……はい、もうこの話は終わり! ていうか、シェイク五個とか飲めるわけないじゃん!」

 口ではそう言いつつも笑ってストローを咥える夏希を見ながら、雪之丞は少し冷めてしまったハンバーガーを頬張った。

「ねえ、洛央高校との練習試合って五月十六日よね? わたしも見に行くわ、笑いに」

「てめえ。部活動に勤しむいたいけな少年を笑いにくるとは、どういう了見だよ」

「ウソウソ、応援しに行くって。ここまで付き合ってあげたんだから、頑張りなさいよ!」

 夏希は読み込んだ本を片手に、白い歯を見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...