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名前を知りたい
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いつの間にか眠っていたらしく、ハッと目を覚ますとエリザが心配そうな顔で俺を見ていた。
「エリザ?」
「大丈夫ですか?大分、うなされていたようでしたので、失礼かと思ったのですが、部屋に入ってしまいました」
そう言われて、ぼんやりと天井を見上げる。
(夢……?)
ふと、右手が温かいのに気付いて視線を送ると、エリザが俺の手を握り締めていた。
「あ、ごめんなさい。うなされながら、右手を差し出していたものですから……つい」
頬を染めて恥ずかしそうに手を離すエリザに、小さく笑って首を横に振る。
ゆっくり身体を起こして、ふと
「なぁ、エリザ。俺、誰かの名前を叫んで居なかったか?」
と訊ねると、不思議そうな顔をして
「名前ですか?」
と、逆に聞き返されてしまう。
「そう……だよな」
小さく笑うと、エリザはそっと俺の背中を優しく撫でて
「お兄様は、お疲れなんです。ゆっくり休んで下さい」
そう言われた。
「なぁ、エリザ」
「はい」
「俺達は同じ歳なんだから、多朗で良いよ」
ふと彼女にそう言うと、エリザは首を横に振って
「ダメです、お兄様は8月生まれ。私は3月生まれ。半年近く先に生まれていらしたら、お兄様はお兄様ですわ」
そう言われて苦笑いを返す。
「エリザはさ、イギリスから日本に連れて来られて嫌じゃなかったの?お母さんの再婚に反対はしなかったの?」
「どうなさったんですか?今日のお兄様は、変ですね」
と笑うと、彼女は小首を傾げて
「お母様の再婚には、反対などしませんわ。だって、お義父様の研究は本当に素晴らしいものですし、その研究に打ち込むお義父様に惹かれた気持ちは良く分かりますもの」
うふふっと微笑んだ。
「日本への事は……そうですね。不安が無かったか?と聞かれれば、正直、ありましたよ。でも、お義父様さからお兄様の話を聞いていましたので、全く知らない人の中に行くよりは良かったのかもしれません」
淡々と話すエリザの話を聞いて、そういうものなのか……と納得していた。
「お兄様も落ち着いたようなので、私は部屋に戻りますね」
ゆっくりと立ち上がり、勉強机の椅子を元に戻して部屋を後にした。
静かな部屋に、俺の深い溜め息だけが響く。
ベッドから降りて、暗い夜空を見上げて月を眺めていると、部屋のドアがノックされた。
ドアを開けると、エリザがトレイにマグカップを乗せて立っていて
「ホットミルクです。蜂蜜も入れましたので、安眠できると思いますよ」
微笑む彼女に笑顔を返し
「ありがとう、いただくよ」
と言って、ホットミルクが入ったマグカップを受け取った。
ドアを締めて、窓辺に戻ってふわりと香る甘い牛乳の香りに1口ホットミルクを口にした。
甘いミルクの味が口の中に広がり、穏やかな気持ちになっていく。
満月が夜空を照らす月明かりを見上げ、深い溜め息を吐いた。
俺はこの日以降、胸が痛む夢を見る事は無くなった。
「エリザ?」
「大丈夫ですか?大分、うなされていたようでしたので、失礼かと思ったのですが、部屋に入ってしまいました」
そう言われて、ぼんやりと天井を見上げる。
(夢……?)
ふと、右手が温かいのに気付いて視線を送ると、エリザが俺の手を握り締めていた。
「あ、ごめんなさい。うなされながら、右手を差し出していたものですから……つい」
頬を染めて恥ずかしそうに手を離すエリザに、小さく笑って首を横に振る。
ゆっくり身体を起こして、ふと
「なぁ、エリザ。俺、誰かの名前を叫んで居なかったか?」
と訊ねると、不思議そうな顔をして
「名前ですか?」
と、逆に聞き返されてしまう。
「そう……だよな」
小さく笑うと、エリザはそっと俺の背中を優しく撫でて
「お兄様は、お疲れなんです。ゆっくり休んで下さい」
そう言われた。
「なぁ、エリザ」
「はい」
「俺達は同じ歳なんだから、多朗で良いよ」
ふと彼女にそう言うと、エリザは首を横に振って
「ダメです、お兄様は8月生まれ。私は3月生まれ。半年近く先に生まれていらしたら、お兄様はお兄様ですわ」
そう言われて苦笑いを返す。
「エリザはさ、イギリスから日本に連れて来られて嫌じゃなかったの?お母さんの再婚に反対はしなかったの?」
「どうなさったんですか?今日のお兄様は、変ですね」
と笑うと、彼女は小首を傾げて
「お母様の再婚には、反対などしませんわ。だって、お義父様の研究は本当に素晴らしいものですし、その研究に打ち込むお義父様に惹かれた気持ちは良く分かりますもの」
うふふっと微笑んだ。
「日本への事は……そうですね。不安が無かったか?と聞かれれば、正直、ありましたよ。でも、お義父様さからお兄様の話を聞いていましたので、全く知らない人の中に行くよりは良かったのかもしれません」
淡々と話すエリザの話を聞いて、そういうものなのか……と納得していた。
「お兄様も落ち着いたようなので、私は部屋に戻りますね」
ゆっくりと立ち上がり、勉強机の椅子を元に戻して部屋を後にした。
静かな部屋に、俺の深い溜め息だけが響く。
ベッドから降りて、暗い夜空を見上げて月を眺めていると、部屋のドアがノックされた。
ドアを開けると、エリザがトレイにマグカップを乗せて立っていて
「ホットミルクです。蜂蜜も入れましたので、安眠できると思いますよ」
微笑む彼女に笑顔を返し
「ありがとう、いただくよ」
と言って、ホットミルクが入ったマグカップを受け取った。
ドアを締めて、窓辺に戻ってふわりと香る甘い牛乳の香りに1口ホットミルクを口にした。
甘いミルクの味が口の中に広がり、穏やかな気持ちになっていく。
満月が夜空を照らす月明かりを見上げ、深い溜め息を吐いた。
俺はこの日以降、胸が痛む夢を見る事は無くなった。
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