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他の愛と形は違えど
君の「好き」を認める~本当の意味で幸せな家族として~
しおりを挟む「何を謝るのだルリ?」
「どうして私に謝罪をなさるのです、ルリ様」
「だから――」
「グリース、私、ちゃんと言える……から」
グリースが口を挟もうとしたが、ルリがそれを止めた。
グリースはルリの意図を悟ったのか口を閉ざす。
「二人は私の事愛してくれているのは、嬉しいのでもでも――」
「私は貴方達の愛に『好き』までしか返せない、抱けないの。家族みたいな感情迄しか抱けない。それ以上の感情を抱くことができないの」
ルリは血反吐を吐くように言葉を口にしていた。
「……二人は私に愛して欲しいなら、もう止めて欲しい。だからこの関係が嫌なら終わりにして欲しい……ごめんなさい、本当にごめんなさい……!!」
ルリは顔を覆って泣き始めた。
グリースはすっとルリの傍によって彼女の背中をさすりはじめる。
そしてじっと二人を見据える。
動揺しているアルジェントと、静かにたたずんでいるヴァイスに声なき声で伝える。
『お前達の番だ』
『答えによっては俺がルリちゃんを連れていく』
と。
少しして先に動いたのは、ヴァイスだった。
ヴァイスは泣くルリの手を掴み包むように握った。
「ルリ、謝罪せねばならぬのは私の方だ。私達のように他者を愛せぬお前に、それを強要し苦しめ続けたのだから。お前に愛されぬのは確かに少しばかり寂しいが、お前は私達の事を家族のようと、言ってくれた。私にはそれで十分だ。だからどうかこれからも傍にいて欲しい」
ヴァイスはルリの目元の涙をぬぐった。
「どうか、頼む」
そう言ってルリの手の甲に口づけをして、ヴァイスはルリに頭を垂れた。
「本当に、それで、いいの?」
「勿論だ、ルリ。私はお前と離れるなど考えられぬ。傍にいてくれるだけでよいのだ」
子供のように泣くルリにヴァイスは優しく声をかけてほほ笑んでいた。
――さて、ヴァイスの方はなんとかなった――
グリースはちらりとアルジェントを見て睨みつける。
『おい、後はテメェ次第だぞ!!』
そう伝えると、狼狽えていたアルジェントはぎっとグリースを睨みつけた。
『黙れ!! 貴様に言われるまでもない!!』
向こうはそう返してきた。
「真祖様、宜しいでしょうか」
「うむ、許す」
アルジェントは主であるヴァイスに伺いを立ててから、ヴァイスがルリから離れると、ルリの前に膝をついた。
「ルリ様、どうかお許しを。貴方の愛を欲しいと述べた私の事を」
「でも、それはアルジェントは悪くない……」
「いえ、貴方様はそれで罪悪感を抱いてしまった『自分は愛せないのにのに、どうして』と」
アルジェントはルリの顔を見上げて続ける。
「貴方様に愛を求めるのは止めます、貴方様は私のような存在を家族のようだと言ってくださりました、私の様な存在に。私もそれでもう十分なのです。ですから――」
「どうか、御傍に。これからも貴方様を守らせてください。貴方様の世話をさせてください」
「本当に……?」
ルリは困惑していた。
違う返答を予想していたのだろう。
「あーあ、馬鹿やらかした連中から俺が保護する計画は無しか。ま、いいかこれからも俺はここに来るし」
グリースは残念そうに肩をすくめていうとアルジェントは睨みつけてきた。
「貴様は来るな、帰れ!」
「いーやーでーすー!!」
グリースはべーっとアルジェントに舌を出した。
「貴様殺す!!」
立ち上がったアルジェントが部屋を出たグリースを追跡し始めた。
「やれるもんならやってみろーい!!」
グリースは愉快そうに言った。
ルリは予想外の言葉の連続に、呆然としながら逃亡劇と追跡劇をはじめる二人を見送った。
「……やれやれグリースもわざわざアルジェントの事を煽らぬでもよかろうに」
ヴァイスはため息をついた。
「ルリ、お前には悪いが立場は私の妻のままでいてもらう事になる。でなければお前の身が危うくなる」
「……いいの?」
「勿論だ、家族愛――家族として私達と過ごしてくれると嬉しい」
「……うん」
ルリは心の中につっかえてたものが落ちた気がして安心した様に笑う。
「あー話終わった?」
若干焦げているアルジェントを小脇に抱えたグリースが部屋に戻ってきた。
「グリース、私の臣下を、ルリの家族を焦がすな」
「だってコイツ俺の事凍らせようとしたんだもん、俺悪くありませーん!!」
「いつか凍らせて粉々にしてやる……!!」
その様子を見てルリはくすっと笑ってしまった。
「グリース、お願いだからアルジェントの事焦がさないでね? アルジェントもグリースにそんな事しようとしないで。二人とも私の大事な『家族』なんだから」
「……承知いたしました」
「了解ーアルジェントがしないかぎりしないから」
「貴様が私を馬鹿にしなければ……!!」
「誰も馬鹿にしてねーよ」
グリースとアルジェントの小突き合いをルリは見てふふっと笑った。
ヴァイスは、ルリの嘘偽りのない笑顔に、心から安堵の笑みを口元に浮かべてルリの髪を撫でた。
可哀想などという感情は間違いだった。
これがこの娘なのだと理解するべきだったのだと。
己の判断を反省しながら、優しく髪を撫でた。
「――そろそろ、姿を見せよ。ヴィオレ」
「?!」
その名前にルリは戸惑った表情を浮かべて、そして慌てふためき始めた。
「案ぜよ」
ヴァイスはルリの肩をそっと抱いた。
ヴィオレが姿を現し、ゆっくりとルリの傍により屈み、膝をついて手を取った。
「ルリ様、私は薄々気づいておりました。ルリ様は本当は『愛する事』ができないのではと」
その言葉にルリの目が大きく見開かれる。
「トラウマではなく、生まれつきによるもの。でもきっと真祖様を愛してくださるだろうと思ってました――ですけども、それが間違いだったのです」
「ヴィオレ……」
「ルリ様の好きという感情を認めるべきだった、それだけで私共はよかったのです」
ヴィオレの言葉に、ルリは一瞬だけ驚愕の表情を浮かべて、そして安心した様に再び笑った。
「どうか、今後もルリ様のお世話をさせていただけないでしょうか?」
「いい、の?」
「はい、ルリ様はお嫌ですか?」
ヴィオレの言葉にルリは首を振った。
「ううん、嫌じゃないよ」
その言葉にヴィオレは微笑みルリを抱きしめた。
「どうか、これからも一緒に居させてください、ルリ様。私の可愛い妹の様な御方」
ルリはヴィオレのその言葉に幸せそうな笑みを浮かべた。
「――それはそれとして」
ヴィオレはルリを抱きしめ終わると立ち上がり、主人であるヴァイスと、同僚ともいえるアルジェント、そしてグリースを睨みつける。
「何故、私に一切相談しなかったのですか?」
「いや、相談できるわけねぇだろ。アルジェントが主人の奥方惚れたとか色々あったし」
グリースが何でもないように言ってのける。
「だと、しても――」
「私一人が部外者だなんてあんまりですわー!!」
ヴィオレの言葉に、ヴァイスは額を抑え、アルジェントは呆然とし、ルリは困り果て、グリースはそれらを見て呆れて笑った。
ルリが本心を打ち明けたその日から、環境が変わった。
ある種の家族のようにもなったし、結束も強まった。
その為か、グリースは今まで以上に積極的に情報を収集し、ルリのことを連れ戻そうとする人間の国の政府連中の裏を暴露してヴァイスに伝え、ヴァイスが直々に「処分」した。
そして、薬も完成しルリは定期的に実家に戻り、家族や友人たちと過ごすことができるようになった。
『何故だ!! 何故こうなったのだ!!』
夢の中で何十回と現れ喚くそれにグリースは何でもないように言う。
「簡単さ、俺達はアンタのお人形ではないってこと。まぁ子どもに関してはいつかできるかもしれないから気長に待てばいいさ。まぁできないかもしれないがそれはそれだ。俺はそれでも構わない。すべてあの子の望むままに」
『なぜそう楽観的なのだ』
「大切な存在なら、幸せになってほしいから。それだけだろう、大切な存在を無碍にしたり、自分の都合の良いように扱うのがおかしいんだよ」
『……そうか、そうだな。そうであったな、本来はそれが正しかったな、我が子よ』
「うげ、俺はアンタの子じゃねぇよ」
『ふふ、私の子だとも、グリース。白と黒の狭間の子よ』
消えた存在に、グリースはため息をついた。
「マジかよ……」
人間の国はまだまだまともじゃない為、ルリを一人で遊ばせに行けない。
けれども、大切な「家族」と一緒に友人と遊べるだけでルリは楽しそう――いや楽しいのだろう。
ヴァイスの国――この城にもまだルリへ良い感情を持たぬ連中はいるが、いずれいなくなるだろう。
グリースはなんとなくだが、そんな予感はあった。
「グリース?」
「ん、どうしたんだい、ルリちゃん?」
ルリの部屋で、ルリはゲームのパッケージを見せた。
新作のアクションゲームだ。
「やって欲しいの!」
「いいよー。どれどれ……ってこれかなり難易度高い奴じゃん」
「無理そう?」
「いやいや、俺なら――」
扉が開け放たれ、アルジェントが入ってくる。
ちゃんと扉を閉めて。
「ルリ様、グリース等の手を借りずとも私がやります!」
「えっとでも、この後会議……」
「そんなの知りません」
「ならば私がやろうか?」
ヴァイスがぬっと姿を現した。
「やめとけ」
「止めてください」
「何故だ」
グリースとアルジェントはそろってヴァイスを止める。
「お前が嫁さんの為にゲームやってるの見られたら威厳ねーだろ」
「ヴィオレが以前それを見て卒倒したのをお忘れですか」
「ぐむ……」
「第一、お前ゲームの腕前普通だし」
「……仕方あるまい」
グリースの止めの言葉でヴァイスは引き下がった。
「あの……どっちがやってくれるの?」
「俺が」
「私が」
「……くじ引きで決めて?」
ルリはそう言った。
そうじゃないと取っ組み合いが外で始まるからだ。
「よっしゃ今日は俺がやるー!!」
「じゃあ、明日はアルジェントがお願いね」
「ぐっ……はい、畏まりました、ルリ様」
ルリはグリースにコントローラーを渡した。
「ルリ様、お菓子を持ってまいりました」
丁度良いタイミングでヴィオレがお菓子を持ってくる。
「ありがとうヴィオレ! このお菓子と炭酸、好きなんだ!」
「いいえ」
ヴィオレは微笑み、トレーの上の菓子をルリの近くのテーブルにのせる。
「ルリちゃん始まるよー」
「うん!」
ルリは今の時間が夢のように思えた。
最初は心細くて、苦しかったのに、今はそれがなくて幸せだった。
自分を受け入れてもらえて嬉しかったのだ。
大好きな「家族」達と暮らしながら、ルリはいつも思う。
こういうのが、幸せ、なんだね。
と。
Happy End
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