45 / 46
他の愛と形は違えど
「愛してる」に「好き」しか返せない
しおりを挟む「……」
ルリは自室のベッドに腰を掛けて、電子書籍になっている恋愛物にひとしきり目を通していた。
そして、それが無駄な行為だと分かり、読むのをやめた。
分からないのだ。
恋をするという感覚が。
他者に恋愛感情という感情を抱く感覚が理解できないから、どの恋愛物もただの作り話としてしか理解できなかった。
――何故こんな行動をするんだろう――
――どうしてそうなるんだろう――
恋愛要素のない話には感情移入ができた。
でも恋愛要素が含まれている箇所は話には、感情移入ができず、理解ができなかった。
嘗て、人間だった時、友人たちが所謂恋バナというもので盛り上がっていた時があったが、ルリはそれが良く分からなかった。
どうして盛り上がるのか、どうしてそうなるのかも何も分からなかった。
恋バナの盛り上がりは一時だった理由が今も良く分からない。
――恋をするってどんな気持ちなんだろう?――
ルリは、自分の下腹部にそっと手を置いた。
――誰かと性行為をしたいと思うのはどうしてなんだろう?――
恋やセックスの話で盛り上がる場面を何度か目にしてきた。
でも、ルリはそれに何も思えなかった。
ルリはふぅと息を吐いてベッドに横になる。
誰かに傍にいて欲しいと思うことはある。
誰かと語らいたいという時もある。
誰かと遊びたいということもある。
けれども、誰かとキスをしたいとか、セックスをしたいとかそういう感情は全くわかないのだ。
ルリはきゅっと唇を噛んだ。
愛しているという言葉が、酷く苦しかった。
――家族愛では、駄目なの?――
――親愛でも、駄目なの?――
――それほど、恋愛の愛が大事なの?――
――恋人との、夫婦との愛は他とは違うの?――
ルリはどうすればいいのか分からなかった。
「――ルリちゃん」
優しい声に振り向けば、優しい微笑みを浮かべているグリースが居た。
「グリース……」
ルリはいつもとは異なり、元気のない声で名前を呼んでしまった。
――ああ、これだと、駄目なのに――
しかし、グリースはそんな事を気にしていないように近づいてきて、ルリの隣に座る。
「ルリちゃん、苦しい?」
見透かすような言葉に、ルリは返事ができなかった。
「だよねー苦しいよね、愛なんて人それぞれなのに、一方的に押し付けられるなんてさ」
「……」
グリースはルリの事を拒否するようなことは言わず、寧ろルリの心を肯定するような言葉を口にしたことにルリは驚いた。
「ルリちゃん」
グリースはにこりと笑う。
「ルリちゃんは、ルリちゃんのままでいいんだよ」
「私の、まま、で?」
戸惑うように言えば、グリースは頷いた。
「そう、ルリちゃんはそのままでいい。ヴァイスの馬鹿の奥方様にされたとか、アルジェントに愛されてるとか、俺が好いてるとかそういうのどうでもいいんだよ。ルリちゃんが俺達をどう思っているか、それがあの二人の望む形じゃなくてもいいんだ。というかそこまで強制してきたら俺がかっさらうわ。よくよく考えたら政略結婚なんざ古いんだよ」
最初は穏やかにそして最後らへんはヴァイスとアルジェントに対して文句をつけるような言い方に変わっていた。
「だからねルリちゃん、苦しかったら我慢はしないで。俺は君の味方でいたいから」
「グリース……」
グリースの言葉がルリには嬉しかった。
「――とかいいつつ、あんまり役にたってなくて俺なさけなーい。本気で人間(あっち)の国の政府関係者とかルリちゃん狙ってる連中脅すか潰すかしたほうがいいかなぁ? 甘やかしすぎた気がする」
「だ、大丈夫! そ、そんな物騒なことしなくても!」
がっくりとうなだれて言うグリースの言葉にルリは思わず否定をする。
「んールリちゃんが言うならそうするよ」
慌てて言うルリの表情を見て、グリースは苦笑して返した。
その様子にルリはほっとした。
「まぁ、という訳だから、あの二人がルリちゃんの事を振り回すようなら俺のことすぐ読んでね、いつでも駆けつけるから」
「……うん、ありがとう、グリース」
「いえいえ」
グリースはそう言って立ち上がった。
グリースが居なくなった部屋で一人。
ルリは考えていた。
グリースの言った事ではっきりと理解した。
自分は他人の「愛している」に「好き」しか返せないのだと。
同じような感情を返すことができないのだと。
――終わりでも構わない、はっきりさせよう――
でも、一人でそれを告げるのは怖かった。
だって、何もかもが滅茶苦茶になった際自分はどうにもできないから。
「グリース、いる?」
恐る恐るグリースの名前を呼ぶ。
「どうしたルリちゃん?」
「……うん、前々から思っていた事を、はっきりさせたいの、二人に」
「そっか……うん、分かったよ。傍にいるから、何かあったら助けるから」
「ありがとう、それといつも頼ってばかりでごめんなさい」
「いいのいいの! 俺が好きでやってることだからね!」
グリースの言葉に、ルリは救われた気がした。
「じゃあ、あの二人、呼ぶよ」
「……うん」
恐怖心がない訳ではない、でもはっきりさせたいのだ。
自分は誰かに親愛――好きになることはあっても「愛する」ことはないのだと。
言わなければならない。
だって、気づいてしまったから。
「ルリ様、お呼びでしょうか? わざわざ、グリースなどを介さなくても私はいつでも貴方様の傍に参ります」
「ルリどうした、改まって」
グリースがヴァイスとアルジェントを連れてきてくれたのを見て。
ベッドに座っていたルリは、うつむいていた顔を上げて二人を見る。
「二人に言わなければならない事があるの」
ルリは沈痛な表情で二人を見つめる。
酷い罪悪感が胸にこみあげる。
自分は薄情な人間なのかもしれない。
こんなに大切にしてもらったのに、何もできない。
何もできないのに、大切にされている。
愛してくれているのに、同じものは返せない。
返すことができない。
選ばれた時、言ったけどもその時はちゃんと自覚できていなかった。
自覚していればこんなことにならなかったのかもしれない。
そんな感情がぐるぐると心の中で渦巻いた。
そしてでた言葉は。
「ヴァイス、アルジェント、ごめんなさい」
謝罪の言葉だった――
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる