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第二章:エドガルド、自分、そして──

「面倒くさがり」だから~変化~

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 頼まれた事を拒否すると面倒な事が起きる。
 友達はまず、私が嫌がるような頼み事はしないから別にいい。
 でも、他は?
 先生は嫌がるとか思わず、頼んでくる。
 否定をすると評価を下げたり、嫌がらせをする先生だっている。

 先輩だってそう、同じ。
 私の事をよく知らない他人は、私に頼み事をする。
 私は、面倒だから断れない。
 断って更に面倒なことになるのが嫌だから。

 それで、疲れる。
 それで、他者との関わりが好きじゃなくなる。

 社会に出て、よりそれにストレスを感じたけれども断りづらくなっていった。
 私の内面を完全に知る人なんていない。

 この世界で、ダンテとして生きる様になってからだってそうだ。
 父も母もフィレンツォも、私のそれを知らない。

 生まれ変わったなら、リセットすればいいのに、私は出来なかった。

 断るのは面倒だ。
 断った結果、面倒なことになるのが、嫌だから。

 面倒なことは――嫌だから。




「……頼られると断りづらいじゃないですか」
 無難に私が答えると、エドガルドは不機嫌そうな顔になって私の頬を指でぐりぐりと押す。
「嘘をつくな」

――いや、あながち嘘でもないんだけどなぁ……――

 とは思いはするも、エドガルドは納得していないようだった。
「……お前は、私の傍で私の世話などをしている時や、勉強をしている時は、常に真剣なのが分かった。だが、頼まれごとに関しては他の者達はあまり気づいていないようだが、何処か嫌そうな顔をしているように私には見えた」

――げ――

 エドガルドの言葉に、私はどう返したらいいのか悩む。
 神様は一向に何も言ってはくれないし。

――困った――

「他の者はそんなお前に頼り過ぎている、父上もだ。次期国王だからという理由にしてはあまりにも頼りすぎのように私には見える」
「……」
「……何か、あったのか? 私には……いえないのか?」
 不安げな声に、私の良心が痛む。
 でも本当の事を言えないから、私は少し嘘を混ぜて言うことにした。

「――何度も同じ夢を見るんです」

「夢?」
「……頼られる夢です、色んな人に。嫌な事も頼まれる事も……でもそれを断ると……」

「皆私を罵倒するんです、私を否定するんです」

 少しだけ嘘だが、事実だ。
 幾度も私はこの夢を見た。
 頼まれたことを断っただけで、罵倒される。
 人格を否定されるくらいなら、面倒でも、頼まれたことをやった方がいい。

 自分が傷つかない方がいい。

 傷つくことが「面倒」だ。

――面倒なことは嫌いだ――

「……ダンテ、誰かがお前にそんなことをしたのか……」
「……分かりません」

――これは、嘘だ――

 断った事があるから夢を見るのだ。
 もう誰だったかなど覚えていないけど、自分の事を否定されたのははっきりと覚えている。
 もう、どうでもいい事だ。


――断るのは、面倒くさい――
――断った方が仕事はしなくていいが、断ると後が面倒だ――
――それに今の私はどうせ王にならないと不味いのだ、ならば予行練習とでも思えばいい――


「――ダンテ、お前は断る事を覚えた方がいい」
 エドガルドの、何処か悲しげな言葉が聞こえた。
「フィレンツォはお前に何度か進言したが聞き入れなかったと言った。ダンテお前は――」

「断る程度で、相手が自分を憎むとでも思っているのか?」
「……」

――思っている――
――私の事をよく知らぬ者達の頼み事を断れば、相手は自分を嫌うのだから――

 上辺だけの私しか、殆どの人は知らないのだから。

――そう言えば、フィレンツォと母は私には頼み事は基本しないよな――

 何か、自分という存在をちゃんと見ているのがほとんどいないを自覚して、美鶴の時と変わらないなと自嘲の笑みが零れる。


 私は別に変わっていない。
 変わる事はないだろう。
 いや、今更変わることなど、できるものか。


――ああ、つくづく私はどうしようもない面倒くさがりだなぁ――


「……何が原因でそうなったのか、お前は私に言ってはくれないだろう」

――うん、言わない――

 エドガルドの言葉を心の中で肯定する。
「けれども、私はお前がいいように使われる事で己を削る事に耐えられん」
 声が震えている。
「父上も父上だ、お前が無理していることを見極められない。お前の執事も執事だ、何故それを直そうとしない。お前が都合のいい傀儡でいればよいとでも思っているのか?!」
 彼の怒りのこもった声、久々聴いたなと他人事のように思う。
「ダンテ、お前は私に自分を大事にして欲しいと言うのに、お前はどうして自分を大事にできないのだ?」
「……」

――大事にしているから、面倒事を起こしたくないんですよ、余計な労力を使うから――

 手首を強く握られる。
「……まだ、私には何も語ってはくれないのだろうな」

――もしかして、不味ったかな?――

 そうは思えど、神様は助言も何もくれない。
 何も言わず黙り込んでいる。

――ああ、こんな時に何で黙ってるんですか?!――

 それでも、黙して語らずを貫いている。
 私としては明らかに不味い感じがするのに、神様は現在無反応。

――どういう事?――

「そうか、ならば良かろう。お前が断れないというのなら」

「私が代わりに断ってやる」

「え゛」
 エドガルドの言葉に、私は思考が停止した。




「ダンテ殿下、新規の魔術道具の――」
「ちょっと見せてみろ。なんだ、お前達はこの程度の事を『次期国王』であるダンテに頼もうとしていたのか? これ位できなくて何が王宮魔術師だ!! 出直せ!!」

「ダンテ殿下、新薬についてなのですが――」
「ちょっと待て、見せろ……おい、こんな分かりやすく書かれた調合書面が分からないだと? 貴様何のために勉強をしてきた!! 後で薬師達全員を集めろ、話がある」

「ダンテ、話が――」
「父上、それは今ダンテに頼らなければならないような事情ですか?」


 エドガルドが私への頼み事の多くを、私が口を出す前に断っているのだ。
 私が口を出そうにも、何だろうガルガルモードというべき感じで……うん、そのうまく口が出せません、はい。

――ドウシテコウナッタ?――

 そう思えども、誰も答えてくれない。




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