僕が君に殺されるまで

フィボナッチ恐怖症

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18話 先客

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 生存者数がついに1500万人ほどになった。すでに今残っているのは元々から考えれば、500人中の1人ということになるのか。すでにすごい数値だが、まだまだだ。
とりあえず、これから先どう戦うかを考えないといけない。今のままだとまず勝てなくなる。
でも、まずはこの左足をどうにかしないとなんともならない。

「比奈。神経って繋げられる?」

 隣で休んでいる比奈に問いかける。

「繋げられないことはないけど、流石にもう少し隠れられる場所じゃないと、隙だらけだと思うよ」

 それもそうだ。
さっきまで戦っていて、氷漬けに一帯がなっていて、今の場所は目立って仕方ない。
比奈に支えてもらいながら、近くにあった家に窓を少しだけ割って、中に入った。

「左足の代わりになるものを何か探そう」

 比奈が言う。
勝手に家を漁らせてもらおう。どうせ持ち主はこの世にいないのだから。

 ぼくは、近くの壁に寄りかかりながら良さげなものを探した。棚には分厚く埃が溜まっていた。たったの6日間で、こんなに埃は溜まるらしい。
いや、まだ6日間しか経ってないのに、の方が正確かもしれない。
今までの人生史上最も濃い6日間になっているだろう。まぁ、今までの人生が薄すぎただけかもしれないが。

 さて、頭を使うよりも早く左足を治そう。せっかく機械的な、無生物的な足になり、人との差をつけられるのだから、これからのことを想定したものにしよう。
ぼくの能力において、特にスピードがいるかと言われると、あるに越したことはないが、10秒のアドバンテージだけでも十分だ。
ナイフだけだとこれから先、決定打に欠けるのは明白だ。

 棚を一通り見たが、ピンとくるものがなかった。武器になりそうなものが1番あるのは、意外と台所だと思った。
包丁。違う。フライパン。違う。
とりあえず手当たり次第に漁っていくうちに一ついいものを見つけた。

 灯油だ。基本倉庫とかに保管するものだとは思うのだが、ちょうどいい。
左足は鉄パイプ的な何かに、灯油を入れたものにしよう。

 鉄パイプ的な何かを探さないといけないな......
そうだ。机の足なら、強度もあって、長さもバッチリだ。
机をひっくり返して、机の足をガタガタ押したり引いたりしてみると、意外と簡単に外れた。鉄パイプの片方を塞いでから、

「比奈。見つけたよ」

 そう言って近くで探してくれていた比奈を呼び止める。

「まず、床に足を延ばして座って」

指示通りにぼくは動く。

「それじゃあ、繋げるよ」

 そう言って比奈は、ぼくの無くなった左足の位置に、灯油入りの鉄パイプを置いて、そして、その辺りに手をかざす。
すると、一瞬左足に激痛が走った。

「いたっ」

 声を漏らしてしまった。比奈はくすりと笑いながら、

「はいできた」

 と言った。

 本当に動くものなのだろうか。

ガチャン

 そんな音が鳴って、ぼくは立つことができた。
こんな力、終わる前のこの世界でどれだけ求められ続きてきたことか。
そんな能力を付与できる、マスターというのはどんなやつなのだろうか。
ぼくは、最初にこの惨状が始まったときのマスターの言葉をふと思い出した。

『この星で選抜を開始する』

 たしかこんなことを言ってた気がする。この星で、つまり、他の星があるということを意味するはずだ。
そうなると、地球で唯一の生き残りになったとしても生き残れるとは限らないのか......?

 ただ、その推理であれば、人外ともいえるこの能力を与えたマスターが存在することには合点がいく。
限りなく分からない要素が次々とぼくに降りかかってくる。

「ねぇ。どうかした?」

 ふっと我にかえる。

「いや、少し考え事を」

「どう? ちゃんと動く? 左足」

 ぴょんぴょんと跳んでみる。着地時にどんどんと大きな音が鳴ってしまうのは仕方ないとして、全く問題ない。

「うん。大丈夫。ありがとう。でも、一旦階段でも試してくる」

 そう言って、ぼくは階段を登ってみる。手すり無しでも、階段を登ることができる。
左足が自分のものじゃないみたいだ。リハビリ終了後はこんな感覚なんだろうか。2階に上がると、部屋が2個あった。何か、良いものがないか探してみよう。

 奥の方の部屋を先に見てみると、その部屋は子供部屋だった。
ひどく散乱した部屋は片付けられることなく、放置されていたらしく、ここにも埃が積もっている。ぼくは一つの物に目をつけた。
おもちゃのプラスチック製ボールだ。よく、ボールプールにたくさん入っているやつである。

 そのボールを少しだけ持って、手前にあるもう一つの部屋を見に行くことにした。
ドアを開けると、その床から、天井まで真っ赤だった。そろりと中に入って見てみると、ベッドが並んでいた。左から子供、親、親の順だろう。寝ている時に、12時を回ったのだろう。親二人はどちらがどちらか判別は不可能なレベルになっていた。
カピカピに乾いた血がこびりつく床を歩き、服をもらっていこうと思った時に一つ不思議なことがあると気づいた。
床に全く埃が積もっていないことだ。他の場所はそこそこ積もっていたのにもかかわらず。

 誰かいるのだろうか。いると仮定して探してみようか。
潜んでいるやつは、おそらく、埃が嫌いなのだろう。しかし、血がある場所を綺麗にするということは、血は嫌いではないということか?
意味不明だが、変な奴である可能性が全く捨てられる感じではない。ただ、布団の方ではないことはわかる。布団は埃が舞うからだ。

 それなら、寝室の洗濯物を干しているスペースの方か?
そう思って、布団がある方と逆側に向かう。
すると、ある地点で何かにぶつかった。

「何だ?」

 もう一回そこを通ろうとすると、すっと通ることができた。

「いるなら出てこい」

 強めに呼んでみる。何の反応もないので、さらに奥の方に向かって行こうとしたその時、
突然、何かに勢いよく弾き飛ばされた。
ぼくの体がいとも容易く宙を舞い、天井近くまで飛ばされたあたりで、天井にぶつかるより先に壁にぶつかった。

「呼んだか?」
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