〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな

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16、2人の場所

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 「今日は君に、プレゼントがあるんだ」

 ジュラン様が国外追放となり、平穏な日々が訪れていたある日、ハンク様は私を2人が出会ったあの川辺に連れて来てくれた。

 「プレゼント……ですか?」

 首を傾げた私に、彼は跪き、小さな箱を開けた。
 中には、彼の瞳と同じ藍色の宝石の指輪が入っていた。

 「この場所で、君にこの指輪を渡したかったんだ」

 そう言って指輪を取り出すと、左の薬指にはめてくれた。

 「綺麗……」

 「君を必ず、幸せにする。どんな宝石よりも、綺麗な君の心を愛している」

 甘い言葉を囁かれ、嬉しくて言葉が出ない。
 そっと立ち上がり、彼は私を優しく抱きしめてくれた。

 彼が居なかったら、今の私はいない。
 彼の言葉が、私を救ってくれた。

 少し遠回りしてしまったけど、今は最高に幸せだ。

 「……私、子供は3人欲しいです」

 シンシアさんが、子供を連れて邸にたまに来てくれる。レイバンが住み込みの仕事を紹介し、働きながら子供を育てている。父親がジュラン様ということもあり、嫌がらせを受けることもあるようだけど、シンシアさんは負けずにやり返しているようだ。
 愛おしそうに我が子を見つめるシンシアを見ていると、私も子供が欲しいと何度も思っていた。

 「それは困ったな……」

 3人は多過ぎたのかと、彼の顔を見上げると真っ赤になっていた。

 「ハンク様?」

 見上げる私を更に抱きしめて、顔を隠すハンク様。

 「俺は、5人欲しい」

 「5人……ですか。頑張ります」

 抱きしめ合いながら、子供の話をしていたことが照れくさくなり、私の顔も真っ赤に染まる。

 「やっぱり、子供はもう少し後にしないか?」

 「どうしてですか?」

 「2人の時間が、なくなってしまう」

 顔が見えなくても、少し拗ねているのが分かる。まだ生まれていない子供のことを考えて、ヤキモチを妬いたようだ。

 「分かりました。ハンク様が拗ねるのは困りますから」
 
 「拗ねていない……」

 明らかに拗ねた声で言うハンク様が、なんだか愛おしくなった。

 「はいはい」

 時間が経つのも忘れて、私達はいつまでも抱き合っていた。また明日会えるのに、離れたくなかった。

 「このまま、離れたくないな」

 同じことを思ってくれていたことが、嬉し過ぎて胸が高鳴る。

 「私もです……」

 この日から、この場所は2人だけの秘密の場所になった。記念日の度に、ここに来ようと約束をした。

 「ハンク様、もう少しだけこうしていたいです」

 「もう少しだけ? 俺は、ずっとこうしていたい」

 ちょっとだけ負けず嫌いだということも、この日知った。




                                                   END
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