17 / 17
番外編 結婚式
しおりを挟む「姉さん、綺麗だ……」
レイバンは、目をキラキラと輝かせながらこちらを見ている。
「……姉上と呼びなさい。でも、ありがとう」
真っ白なドレスに身を包み、鏡の前に立ちながら自分の姿を見る。
「うう……っ……ぅぅっ」
お父様は、控え室に入って来てからずっと泣いている。
「お父様、そんなに泣かないでください」
一度目の結婚式の時も、ずっと泣いていたのを思い出す。
そう……これは、二度目の結婚式。
正直、不安じゃないと言えば嘘になる。
一度目の結婚式で、全てが変わってしまったのだから。
「ローレン、おめでとう!」
「キャロル! 来てくれたのね! お腹、少し大きくなったみたい」
キャロルは妊娠して、5ヶ月になる。
「そうなの! お腹が大きくなる度に、ダグラス様ったらオモチャを沢山買ってきてしまうから困っているの」
ため息をつきながらも、すごく幸せそうで安心した。
「ふふっ。まだ生まれていないのに、すでに親バカなのね」
「ロード侯爵も絶対に親バカになると思いますよ? ローレン様を溺愛していらっしゃいますからね」
ベロニカはドレスの形を直しながら、からかうように言った。私達のことを毎日見ているのだから、そう言われても仕方がない。
ハンク様は、ジュラン様とは違う。
容姿ではなく、私自身を見てくれる。
不安は、いつの間にか消え去っていた。
「お時間です。皆様、お席にお戻りください」
皆、会場の席に戻って行き、ベロニカだけが残る。
「ローレン様、準備はよろしいですか?」
ベロニカと共に、会場へと歩き出す。
入口では、お父様が泣くのを我慢しながら待っていてくれた。
……お父様、顔が面白いことになっています。
お父様と一緒に、赤いカーペットの上を歩きながら、ハンク様に少しずつ近付いて行く。
彼のそばまで来ると、お父様は小さな声で、
「ローレンを頼む」
そう言って、私から離れた。
ハンク様は、
「任せてください」
爽やかな笑みを浮かべて、そう言ってくれた。
彼と2人で並ぶと、嬉しさが込み上げてきた。
この日が来た喜びと、大好きな人の隣に立っている喜び、そして彼とのこれからの人生へのワクワク感。
そっと彼の顔を見ると、愛おしそうに見つめ返してくれる。
「2人の結婚を、祝福いたします!」
大司祭の言葉に、会場中が歓喜に包まれる。
大歓声の中、私達は結婚をした。
2人で過ごす、初めての夜。
緊張しながら、部屋の中に入る。
「やっと捕まえた」
そう言って、ハンク様は後ろから抱きしめてきた。抱きしめる彼の手が、少しだけ震えている。
その手に触れると、
「愛している……」
声が掠れてしまうくらい、感情のこもった愛の告白。どれほど思ってくれているのか、すごくすごく伝わってくる。
涙が溢れそうになりながら、そっと振り返って彼の顔を見つめる。
「私も……愛しています」
伝えたいことは沢山あるのに、これ以上言葉が出てこない。
彼は私の右目に、キスをした。
「君に触れていいのは俺だけだ」
次は、左目にキスをした。
「俺の全てをかけて、君を愛し守り続ける」
そして、唇にキスをした。
もう何も考えられないくらいに幸せで、これ以上ないくらい心臓の鼓動が激しく脈打っている。
甘い甘いキスに酔いしれながら、初夜を過ごした。
───そして、1年の月日が流れた。
「まさか、こんなに早いとは……。いや、嬉しいんだ。嬉しいんだが、早すぎる……」
雲ひとつない青空の下、庭園を2人で散歩していたのだが、 ハンク様は頭を抱えながら喜んでいる。
「ずいぶん、器用ですね」
からかうように笑うと、彼は拗ねた顔でこちらを見た。
「複雑な心境なのだから、仕方がないだろう?」
彼がどうして複雑な心境なのかというと、私のお腹に新しい命が宿ったからだ。
「5人欲しいと仰っていたではありませんか」
「それは、そうなのだが……」
口をとがらせている彼を見ると、大きな子供のように思えて来た。
陛下からも信頼されている近衛騎士団長だとは、とても思えない。こんな姿を見せてくれるのは、私だけなのだと思うと嬉しくなった。
「この子が生まれてくるまでは、まだ時間があります。2人きりの時間を、大切にしましょう」
「そうだな」
彼はそっと私を抱きしめ……
「姉さん! 子供が出来たと言うのは本当!?」
ようとした時、レイバンが私達の前にいきなり現れた。後ろから執事が追いかけて来ているのが見える。
「レイバン様~! お待ちくださ~い!」
息を切らしながら、レイバンを呼ぶ執事。
執事の案内を振り切り、いつも勝手に邸の中を探し回る。
「……レイバン、親しき仲にも礼儀ありと、前にも言ったはずよ」
「子供が出来たと聞いて、あまりにも嬉しくて! 姉さんと団長の子供……絶対に可愛い!!」
「レイバン……お前、空気を読め! そして帰れ! ローレンとの2人の時間は、一分一秒が貴重なんだ! 子供が生まれたら、会わせてやる! それまで、この邸に来ることを禁じる!!」
ハンク様の目が笑っていない。これは、本気だ……
「そんな~! 団長、嘘ですよね!?」
「本気だ!!」
こんなことを言っていたけど、結局レイバンは毎日のように邸に来た。キャロルも、ダグラス様と一緒に赤ちゃんを連れて遊びに来てくれて、シンシアさんも子育てについて色々教えてくれた。
お父様なんて、来る度に大量のオモチャや子供服を持ってきた。
2人きりの時間は、あまりなかったのは言うまでもない。
だけど、それはそれで幸せだった。
大好きな人達に囲まれて、私達は幸せだ。
END
780
お気に入りに追加
4,220
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(52件)
あなたにおすすめの小説

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。

2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……


永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白くて一気に読んでいるところです。
誤字報告は求めていらっしゃらなければ失礼ですが、第13話の
「新しい彼女のヘイリーさんとお幸せに」の「ヘイリー」は
おそらく「ハイリー」ではないかと。
ありがとうございます、修正します。
楽しく読ませて頂きました☺
ハンクとローレンのその後も知りたいです☺
感想ありがとうございます♪
2人のその後はめちゃくちゃ甘々になりそうですね笑
番外編、考えてみます(*´ `*)
完結おめでとうございます
5人!ママ友で5人子供が居る人が居ますが何時までも20代の見た目のママさんなので同じく何時までも若々しく綺麗なママさんになりそう
そして子供達とパパでママの取り合いが勃発してそう(´艸`)
ありがとうございます♪
そんなお友達がいるのですね(*´艸`)
取り合いは、勃発しますね笑