〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな

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4、私を想ってくれる人達

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 「ローレン、元気だった? 顔に傷痕が残ってしまったと、ジュラン様から聞いたわ。あんなに美しかったのに、可哀想……」

 重苦しい空気の中、1番に話しかけてきたのは、伯爵令嬢のマリアン。可哀想だなんて、全く思っていないのは分かっている。マリアンとは、そんなに仲は良くない……というより、一方的に嫌われている。
 
 「マリアンも元気だった? 傷痕は、気にしていないから、大丈夫よ」

 「気にしていないなんて、嘘でしょう!? 容姿しか取り柄がなかったあなたには、何もなくなってしまったのよ!?」

 大袈裟に驚いたふりをし、皆に聞こえるような大きな声で侮辱してくる。
 周りから、クスクスと笑い声が聞こえる。皆、そう思っているということだろう。

 「マリアン! そんな言い方はないんじゃない!?」

 いつも大人しいキャロルが、私の為に怒鳴り声をあげた。

 「そう? ローレンは、ジュラン様にも見放されているじゃない。それはそうよね、ジュラン様はローレンの容姿にしか興味がなかったのに、その容姿がそれじゃあね……」

 キャロルは、私を庇ってくれた。それだけで、十分だ。

 ジュラン様のことを分かっていなかったのは、私だけだったのだと思い知らされた。
 それに、顔に傷痕が残っただけで、こんなにも周りの態度が変わってしまった。皆、ジュラン様と同じだったということだろう。

 「私が居ると空気が悪くなるから、今日は帰るね。キャロル、結婚おめでとう」

 キャロルに別れを告げ、逃げるように馬車に乗り込んだ。
 
 「ローレン様、もうお帰りになるのですか? 何か、あったのですか?」

 馬車で待っていたベロニカが、心配そうな顔でこちらを見る。

 「何もないわ。久しぶりだから、少し疲れてしまったの」

 心配させたくなくて、笑顔を作る。
 
 「私の前では、無理して笑わないでください。気付かないと思いました? 何年、ローレン様にお仕えして来たと思っているのですか?」

 ベロニカは、私が幼い頃からずっと世話をしてくれていたメイドだ。どんな時も、私の味方でいてくれる。
 
 「……あなたには、隠し事は出来ないわね。でもね、本当に大丈夫なの。確かに、この顔のせいで嫌な思いはしたけれど、それと同時にスッキリしたのよ」

 容姿しか見ていなかった人達、上辺で付き合っていた人達、私のことをよく思っていなかった人達がいっせいに私を拒絶した。
 ほんの少し顔に傷痕が残っただけで、去っていった人達に興味なんてない。
 そう思わせてくれたのは、ロード侯爵だ。あの日、ロード侯爵に会わなかったら、私は自分の殻に閉じこもっていたかもしれない。

 「スッキリ……ですか。お強くなられたのですね」
 
 ベロニカには、全てを話してある。

 「そうね……強くなるしかなかったからかな」

 あの時は本当に悲しかったけど、これでよかったのだと思えた。私の顔に傷痕が残らなかったら、彼の本性を知らないまま、結婚生活を送っていたかもしれない。そう考えると、ゾッとした。
 
 邸に戻ると、お客様がいらしているのか、見慣れない馬車が止まっていた。
 ベロニカは、玄関のドアを開けようとしてやめた。

 「どうしたの?」

 ベロニカは振り返り、『しーっ』と口元に人差し指を立てた。

 「旦那様が、お客様と喧嘩をしているようです」

 小声でそう言うと、ドアに耳を寄せた。
 
 「ベロニカ!? 盗み聞きはよくないわ!」

 ベロニカと場所を代わり、玄関を開けようとした時、

 「ローレンのことは、お前には関係ないだろう!? もう二度と来るな!!」
 
 私の名前が出て、動きを止めた。
 なんとなく……なんとなくだけど、ジュラン様と話しているのはロード侯爵ではないかと思った。
 
 「出て行け!!」

 考えている間に、玄関が開いた。
 ドアにぶつかりそうになり、慌てて離れると、ジュラン様に押されて出て来たロード侯爵と目が合った。

 「ローレン……」

 ロード侯爵の目を見つめたまま、動けなくなった。

 「ローレン! お前は中に入れ!」

 私が居ることに気づいたジュラン様が、私の手を引っ張った。

 「乱暴にするな!」

 私の手首を掴むジュラン様の腕を、ロード侯爵が掴んだ。ジュラン様は私の手首を離し、
 
 「俺の妻だ!」

 そう言って、ロード侯爵の手を振り払った。

 「ローレン、部屋に戻れ!」

 このままここに居ては、ロード侯爵にご迷惑がかかる。ジュラン様の言う通り、大人しく部屋に戻ることにした。
 
 廊下を歩きながら、はあ……と、大きなため息をつく。私が部屋へ戻ろうと歩き出した時の、ロード侯爵の悲しそうな顔が頭から離れなかった。
 話しの内容から、ロード侯爵は私のことを心配して来てくださったのに、私は何も言うことが出来なかった。
 私はまだ、ジュラン様の妻だ。私と関わったら、悪い噂を立てられるかもしれない。ロード侯爵は、私に関わらない方がいい。

 「あら、お早いお帰りですね。お茶会は、楽しかったですか?」

 考え事をしていたからか、シンシアさんが目の前に来るまで全く気付かなかった。

 「……ええ、楽しかったわ」

 当然のように、本邸に居座る愛人。なんだか、笑えてくる。

 「本当に? ジュラン様は、奥様の悪口を言いまくっているようだから、辛い目にあいませんでした?」
  
 シンシアさんは、何が言いたいのだろう? 彼女の目的が分からない。真意が分からず、彼女の顔を見る。

 「奥様を見てると、イライラします。
 なんの苦労もしないで育って来たんでしょう? 綺麗な顔に、綺麗な服、綺麗で豪華なお邸で何不自由なく生きて来たくせに、男に裏切られたくらいでこの世の終わりみたいな顔をして……あんたなんか、不幸になればいい」 

 これが、シンシアさんの本性ということね。
 
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