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14、二人の為に

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 「残念ですが、私はあなたを知りません。ですから、あなたを救わなければならない理由は見当たらないようです」

 初めて会った、この世界の父親。
 一度でも、会いに来ていたら結末は変わっていたかもしれない……なんて、日記を読む限り許せる範囲を超えていたから、変わらなかっただろうけど。
 私は、罪人の身内になってしまう。それでも、アイシャを苦しめて来た両親や兄を許してしまったら、アイシャに申し訳が立たない。

 「お前……何を言って……」

 「あなたの道具は、池に落ちた時に粉々に壊れてしまいました。あの日から、私は別のです」

 私に冷めた目で見られて、キース侯爵は私が本気なのだと感じ取ったようだ。愕然としたまま、身動き一つしない。
 文字通り、私はあの日から別の人間になった。
 アイシャの記憶が全く戻らないのは、思い出したくないからだと思う。きっとこの先も、記憶が戻ることはない気がする。

 「ああ、そうだ。キース侯爵、この書類にサインをお願いします」

 真っ青な顔をしているキース侯爵に、陛下は一枚の書類を渡した。

 「これは……?」

 「アイシャは、ドリクセル侯爵夫妻の養子になるという書類です。サインしていただけますよね?」

 顔は笑っているのに、脅しているように見える。
 もしかして、陛下は私がほかの貴族の養子になることをずっと考えてくれていたのかな。

 キース侯爵は、素直に書類にサインをした。
 キース侯爵家は、もう終わりだ。私のことを愛してはいなくても、キース侯爵家の血を引く私を残したいと思ったのだろう。
 

 一週間後、罪人達の刑が確定した。
 長年民を苦しめ、悪行の限りを尽くして来たマクギース公爵、陛下の命を狙い毒殺しようとした王妃様、そしてマクギース公爵の臣下達には極刑が言い渡された。臣下達の中に、アイシャの父親であるキース侯爵も含まれていた。罪人の家族は全ての財産を失い、国を追放された。


 「ようやく、国を取り戻すことが出来た。全ては、アイシャのおかげだ」

 刑が執行され、国に平穏が訪れた。
 前世の記憶が戻った時、贅沢出来るお飾りの側妃になれて幸せだと思った。まさか、陛下と一緒にいることを幸せだと思う日が来るなんて、思ってもみなかった。

 「そうですよ。私に感謝してください!」

 褒められたことが照れくさくて、冗談交じりにドヤ顔をしてみせる。
 この王宮で色々なことがあったけど、私は前世より確実に幸せだ。

 「アルが好きになった理由が、分かる気がします。書状にアイシャ様のことが、たくさん書かれていたのですが、直接お会いして納得しました」

 ジオルド様は、陛下と同じように目を細めて優しく笑う。陛下が歳を重ねたら、ジオルド様のようになるのだろうなと思った。それにしても、どんなことが書かれていたのか気になる。

 「悪口を書いていたら、もう料理を作ってあげませんからね!」
 
 「悪口なんか書くわけがないだろう!?」

 慌てて否定するところが怪しい。
 陛下をジトーっとした目で睨みつけていると、ジオルド様が笑い出した。

 「そんなに褒めるところがあるのかと、感心するほど褒めていましたよ。肝心な用件は、たった三行で終わっているのに、あとはアイシャ様のことばかりでしたからね」

 そんな書状を送ったのかと、急に恥ずかしくなった。

 「叔父上! からかうのはおやめ下さい! 叔父上に、大切な話があるのです!」

 陛下は大切な話があるからと、ジオルド様と私を執務室へと呼び出していた。
 その大切な話とは……

 「叔父上に、譲位しようと思います」

 ジオルド様に、王位を譲るという話だった。

 「何を仰っているのですか!? 私は、アル……陛下を支える為に王宮に戻ったのです! 譲位など、なりません! お考えなおしください!」

 ジオルド様は、陛下の申し出を断固として拒否した。でも、陛下の考えが変わることはなかった。

 「最初から、叔父上が王位に就くべきだったのです。私はマクギース公爵に利用され、操り人形になっていただけでした。王に相応しいのは、叔父上です! それに私の妻が、後宮では窮屈そうなのです。アイシャには、自由な暮らしをさせてやりたい。国のことよりも妻のことばかり考えてしまう王では、国が滅んでしまいます。だから、引き受けてください」

 陛下のお気持ちを、初めて知った。
 私の為に……とは思ったけど、陛下の顔はワクワクしているように見える。つまり、二人の為の決断なのだと感じた。

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