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13、これが父親?

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 陛下は、前国王様の弟であるジオルド様を呼び戻そうと動いていた。そして、貴族の半数を味方につけることが出来たのだが、半数はマクギース公爵についたままだった。マクギース公爵についている貴族は、公爵家や侯爵家が多く、ジオルド様を呼び戻せるほどの力を得ることが出来ずにいた。
 それを、私が可能にしたらしい。あのパーティーの時、貴族達は私の作った飴をたいそう気に入ったそうだ。そして私と陛下の仲がいいところを見た貴族達は、王妃様やその父親のマクギース公爵に国を牛耳られていることにも嫌気がさしていたこともあり、陛下と側妃である私につきたいと申し出て来た。やっとジオルド様を呼び戻すことが出来ると思った矢先に、陛下は毒を盛られた。
 すでにジオルド様には、書状を出しているようだ。そろそろ、王宮に着く頃だろう。

 「私が呑気に眠っている間に、君は王妃が犯人である証拠まで掴んでくれた。君には、感謝してもしきれない」

 呑気に眠っていたようには、見えなかった。私に心配をかけないように、気を使ってくれてるのが分かる。

 「私は私のしたいようにしただけです。やりたいようにやりなさいと、陛下が仰ってくれましたから」

 陛下に笑顔を向けると、彼も笑顔で返してくれる。いつの間にか、臣下達は寝室から姿を消していた。

 「アイシャの手料理が食べたい」

 甘えたように、上目遣いでそう言う陛下を見ていると、やっぱり子供のように見えて来る。
 さすがに、臣下達の前で甘えることは出来なかったようだ。

 「意識を取り戻したばかりなので、胃が驚いてしまいますよ?」

 そう言われても納得出来ないようで、陛下は悲しそうな瞳で見つめてきた。子犬みたいで、断れない……

 「仕方がありませんね、少し待っていてください」

 王宮の調理場を使うのは初めてだったけど、使用人達は快く迎え入れてくれた。
 今回は、胃に優しい茶碗蒸しを作ることにした。
 出汁は魚介類から取り、蒸している間に卵のサンドイッチを作る。サンドイッチは、自分の分だ。

 最近は出される食事の量が増え、食べたいものを言えば料理長が作ってくれたから、自分で料理をすることがなくなっていた。
 久しぶりに作った料理は、懐かしい味がした。


 翌日、王妃様が捕らえられたことを知り、マクギース公爵が物凄い剣幕で王宮に乗り込んで来た。その隣には、キース侯爵……私の、父親の姿もあった。
 
 「娘は無実です! すぐに牢から出してください!」

 もちろん、出すわけがない。
 なんでも自分の思い通りになると思っているところが、王妃様にそっくりだ。

 「マクギース公爵、王妃は私を殺そうとしたのですよ? あなたは、大罪人の身内になりました。刑が確定するまでは、ご自分の邸で謹慎していてください」

 陛下の為に執務室にお茶を持って来ていた私は、ちょうどその場に居た。
 まるで映画を観ているようだ。

 「陛下!? 私を怒らせるつもりなのですか!?」

 私のことをちらりと見たけど、私には触れようとしない。自分の側近の娘だからか、味方だと思っているようだ。父親の方は、私を全く見ようとはしないけど。

 「あなたはもう終わりだということが、理解出来ないのですか?」

 マクギース公爵が入って来た時に開け放たれていた執務室の入口の方から、どこか陛下に似た男性がそう言いながら入って来た。
 
 「お前は!?」

 執務室に入って来たのは、ジオルド様だった。
 ジオルド様は、陛下の座っているイスの隣に立ち、マクギース公爵を睨みつけた。

 「あなたに辺境に追いやられてから、この日が来るのを待ち望んでいました。私の大切な家族を苦しめたことは、絶対に許せません。覚悟してください」

 「キース侯爵! そこに居るのはお前の娘だろう!? 何とかさせろ!」

 声を荒らげながら、キース侯爵に命令するが……
 
 「アイシャ! さすが私の子だ! 陛下に寵愛されていると聞いている。マクギース公爵がしたことを、全て話す! だから、私には罪を問わないよう陛下に頼んでくれ! まさか、父親の私を見捨てはしないだろう?」

 呆気なく、マクギース公爵を裏切った。

  「貴様!? 自分だけ助かるつもりか!?」
 
 「あなたがしたことに、私を巻き込まないでもらいたい!」

 醜い争い。
 マクギース公爵は勝てないと判断し、キース侯爵は陛下と私につくことにしたようだ。
 アイシャなら、ここで情をかけたかもしれない。だけど私には、幸か不幸か、アイシャの記憶がない。アイシャを苦しめていた家族に、救いの手なんか差し伸べるつもりはさらさらない。

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