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37、王の思い
しおりを挟む王都に入っても、あまり状況は変わらなかった。市場に並べられている食料は少なく、売られているのは道具ばかりだった。
「見えて来た」
王城が見えて来て、気持ちを引き締める。
他国に来るのは初めてで、すごく緊張している。ましてや、ガルコス王国は敵国だ。何が起こるか分からない。
あまり大勢で訪ねていくのも失礼かと思い、デイジーとパーカー様には王都の宿屋で待っていてもらうことにした。
国境で話した警備兵の知らせが届いていて、すんなり王城へ入ることができ、陛下にお会いすることが出来た。けれど、とても歓迎されているとは思えない。
「まさか、フィルエッタ王国の王子と王女がこのガルコスに来るとはな。ロレインの手紙を届けに来たそうだが、本当は何を企んでいる?」
笑顔で歓迎されるとは思っていなかったけれど、初めて孫に会えたというのに、ディアム様の顔を見ようともしない。
ガルコス王の言う通り、手紙を届けに来たのは口実だけれど……
「陛下、お会いしてくださり感謝いたします。企んでいるとは、人聞きの悪い。私は、陛下にご挨拶する為にまいりました」
嫌味を言うガルコス王に、笑顔を絶やさずに挨拶をするお兄様。
「今更、この国を出て行ったロレインからの手紙を持って来たと言われてもな。この国を偵察する為に来たのか? すでに攻め込む気なのだろう? 魂胆は、分かっている」
後ろ向きな考え方。
国の現状が、そうさせているのだろうか。長年続くフィルエッタとの争いで、我が国を信用出来なくなっているのかもしれない。
「そのようなつもりはありません。ロレイン様からのお手紙を、お読みになっていただければ分かります」
誠心誠意、心を込めて話せば分かってもらえると思っていたけれど、その考えは甘かった。
「そんなもの、信じられるか! この者達を、客室に軟禁せよ! 魂胆が分かるまでは、外に一歩も出すな!」
私とお兄様とディアム様とマリーは、護衛達とは別の部屋に軟禁されてしまった。護衛には、手を出さずに大人しく従うようにと命じてある。戦争に来たわけではないのだから、むやみに手を出すわけにはいかない。
意外だったのは、お祖父様にようやくお会い出来たのに、ディアム様が一言も口を開かなかったことだ。いつもはあんなにおしゃべりなのに、この国に入ってから様子がおかしいディアム様が気になっていた。
ディアム様はきっと、飢えに苦しむこの国の国民を見て、心を痛めているのだろう。
そっとディアムの手を握り、寄り添う。
「大丈夫です。国民が笑顔になれる日は、そう遠くありません」
ディアム様はずっと私の側にいてくれて、私の味方でいてくれた。私も、彼の力になりたい。
「ありがとう、レイチェル。こんなのは、俺らしくないな。
そこに誰かいるのだろう? 俺はディアム・モートン、母の名はロレインだ。祖父と話がしたい!」
ディアム様はドアに近付き、見張りの兵に話しかけたけれど、返事は返って来ない。ドアノブに手をかけてみると、鍵もかかっていなかった。
「これは、どういうことだ?」
軟禁したはずの私達に、見張りもつけないどころか鍵もかかっていない。
今思えば、陛下の様子は挑発しているようにも思えた。
「この状況、おかしいです。私達を、試しているような……違う、陛下はもしかしたら……」
「レイチェル?」
「お兄様は、ここにいてください! 私とディアム様で、もう一度陛下にお会いしてきます!」
ディアム様と一緒に、先程陛下にお会いした謁見の間に向かう。その間、見張りどころか兵が一人もいなかった。それはきっと、わざとだろう。
そして、謁見の間に着くと……
「私を殺しに来たのか?」
私達の方を見ることなく、陛下はそう言った。
「いいえ、陛下の予想はハズレです。一つ、お聞きしたいことがあります。王太子殿下は、どちらにおられるのですか?」
これは、私の予想でしかない。
陛下は一度も、ディアム様の顔を見ようとはしなかった。ディアム様は、ロレイン様にそっくりだ。そしてロレイン様は、この国の王太子殿下であるベンジャミン様と双子。ディアム様の顔を見なかったのではなく、見られなかったのではと考えた。
「レイチェル王女か……ずいぶんと、鋭いのだな。気付いているのだろう? ベンジャミンは、もうこの世にはいないということを」
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