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間章 過去
閑話 ラーの過去 前編
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五千年ほど前。
殆どの悪魔は異界に住んでいた。俗に魔界なんて呼ばれていたりする場所だった。」
魔界は言ってしまえば、血で血を洗うような世界だった。戦闘は続く、続く。強きものは強く、弱きものは弱く。弱肉強食で、弱い者は何も持つことができない世界だった。勿論、殆どの秩序はなく、力がある者が願いを叶えられる世界だった。無論、それが悪魔である僕にとっても、心地よい場所であり、このままの時間が続けばいいと本気で思っていた。
悪魔というのは、子どもを産んだりという概念があまりない。普通は自然発生していく。年を重ねるにつれ、どんどん力を増していく。
普通は家族というものなんてない。母も父も、姉も兄も、弟も妹も、いない。
だが、僕には一人の姉がいた。
物心がついたころからだろうか。僕の一番古い記憶では、いじめらていたところからスタートする。僕は同年代の悪魔よりもずっと弱かった。身体中を殴れれ、蹴られ、ストレスの発散に使われていた。彼らもおhかに行けば、自分より強いやつらからいじめられる。
だが、そこで一人の悪魔が現れた。
燃えるような赤い髪に、宝石のような碧い目。
彼女はあっという間に、いじめっこたちを撃退した。
そうして、その美しい目で僕をのぞき込んだ。
「大丈夫か?」
まるで男のようなしゃべり方だと思った。
僕はなんとか、立ち上がり、「大丈夫」と返した。
「そうか。ならいい」
彼女は僕のことをじっと見つめた。
「な、何だよ」
「お前、弱いんだな」
ずばっと気にしていたことを言われて、僕は気分を害された。
「お前には関係ないだろ!」
僕は思わず、どなってしまった。
「弱いのに、生きていけるのか?」
「……」
確かに弱い奴らはすぐに淘汰されていく運命だ。
「私といっしょにこないか?」
彼女は凛々しい顔つきで言った。
「何故だか、わからんが、そう思えてくるのだ」
僕は気付いたら、頷いていた。
にこっと笑った姉の顔は未だに忘れていない。
ずっと一緒にいた。文字通り、二人一人のような生活を送っていた。
僕には戦闘のセンスは無かった。皆無といってもよかった。武術も駄目。魔術も駄目。唯一できることは、作戦の指揮などぐらいだった。自分でもいうのもなんだが、頭は回るほうだった、と思う。だが、個の力が優先される世界において、それはただの無能でしかなかった。
だが、姉は魔界の中でも一二を争う猛者だった。強力な【特殊技能】などを持ち、華麗に敵を倒していった。僕が他の輩から襲われていたら、姉が飛んできて助けてくれた。薙ぎかかる恐怖などなかった。
だからだろうか。
世界はそこで完結していたに近かったのである。
心地よい世界だっただろう。福音が鳴り響いていただろう。
いつしか、姉は強さによって全てが決まり、血で血を洗う世界はもう終わりにしたいと言った。
それは無茶苦茶な夢想だった。あり得ない夢想だった。
――だがしかし、永い年月の末、姉は世界を平和にしようとしたのである。
▼
「姉さん、今日の予定だけど……」
気づけば、僕は姉さんの秘書官となっていた。僕と姉が生まれてから、おおよそ数百年たっていたころだろう。
その頃、僕たちはある一つの建国を宣言していた。
【魔界帝国】。
最初は民主制国家。つまり、国民がメインとなって政治を行う方式をとろうとしていた。だが、それでは逆に不満が起きた。
それは悪魔の習性、故であった。
悪魔は殺戮、虐殺を好む生物である。勿論、同族だろうと容赦はしない、冷酷無比の怪物だった。それ故、考えるよりも殴った方が早いという脳筋体質ばかりなのである。
つまりは上から弾圧していかないと、国として回らないのであった。
「それでは何も変わらないではないか!」
いつの日か。姉に言われた。
上から弾圧していく今の形式では、そもそもの意味がないということだ。
姉が望んでいるのは争いのない世界だ。
だが、それには完全な統治が必要なのだ。
僕は姉に無理を言って、このままの政治を進めた。
姉が数千の年月を生きる時には、魔王――魔界帝王――と呼ばれていた。
何やら人の国でも、魔族の長が『魔王』などと呼ばれているらしいが、それとは格が違う。魔族は悪魔の劣化種族であるから、仕方ないだろう。
文字通り、魔界を治める長であり、前代未聞の悪魔の統一国家を創ったのだった。
暴力、殺戮、虐殺……そのような言葉しかなかった悪魔たちは、最初は「国などいらん!」といって、突っかかってきたものだが、すぐに返り討ちにされた。
特に最古参の悪魔たちは抵抗が激しかった。
だが、姉は糸も簡単に潰していった。意思の強さからだろうか。
そうして、世界は一つになっていたのである。
国のブレインとしては、僕と僕の部下がメインとなって、国の基盤を創っていた。姉はどちらかといったら、用心棒のような感覚だった。だが、強い悪魔に従うという感性を持っている悪魔は、姉が元首でなくては、納得しなかった。
姉も実のところ、脳筋だった。
戦闘をやりたいがために、闘技場の設立を推した。姉の唯一の政策はそれだろう。
しかし、それは適度な戦闘をもたらし、戦闘好きの悪魔から、絶賛され、より支持されるようになっていたのだから、すごい。
そんな姉のいつもの口癖はこれだった。
「平和な世界が来るといいな!」
だが、そんな世界はこなかった。
殆どの悪魔は異界に住んでいた。俗に魔界なんて呼ばれていたりする場所だった。」
魔界は言ってしまえば、血で血を洗うような世界だった。戦闘は続く、続く。強きものは強く、弱きものは弱く。弱肉強食で、弱い者は何も持つことができない世界だった。勿論、殆どの秩序はなく、力がある者が願いを叶えられる世界だった。無論、それが悪魔である僕にとっても、心地よい場所であり、このままの時間が続けばいいと本気で思っていた。
悪魔というのは、子どもを産んだりという概念があまりない。普通は自然発生していく。年を重ねるにつれ、どんどん力を増していく。
普通は家族というものなんてない。母も父も、姉も兄も、弟も妹も、いない。
だが、僕には一人の姉がいた。
物心がついたころからだろうか。僕の一番古い記憶では、いじめらていたところからスタートする。僕は同年代の悪魔よりもずっと弱かった。身体中を殴れれ、蹴られ、ストレスの発散に使われていた。彼らもおhかに行けば、自分より強いやつらからいじめられる。
だが、そこで一人の悪魔が現れた。
燃えるような赤い髪に、宝石のような碧い目。
彼女はあっという間に、いじめっこたちを撃退した。
そうして、その美しい目で僕をのぞき込んだ。
「大丈夫か?」
まるで男のようなしゃべり方だと思った。
僕はなんとか、立ち上がり、「大丈夫」と返した。
「そうか。ならいい」
彼女は僕のことをじっと見つめた。
「な、何だよ」
「お前、弱いんだな」
ずばっと気にしていたことを言われて、僕は気分を害された。
「お前には関係ないだろ!」
僕は思わず、どなってしまった。
「弱いのに、生きていけるのか?」
「……」
確かに弱い奴らはすぐに淘汰されていく運命だ。
「私といっしょにこないか?」
彼女は凛々しい顔つきで言った。
「何故だか、わからんが、そう思えてくるのだ」
僕は気付いたら、頷いていた。
にこっと笑った姉の顔は未だに忘れていない。
ずっと一緒にいた。文字通り、二人一人のような生活を送っていた。
僕には戦闘のセンスは無かった。皆無といってもよかった。武術も駄目。魔術も駄目。唯一できることは、作戦の指揮などぐらいだった。自分でもいうのもなんだが、頭は回るほうだった、と思う。だが、個の力が優先される世界において、それはただの無能でしかなかった。
だが、姉は魔界の中でも一二を争う猛者だった。強力な【特殊技能】などを持ち、華麗に敵を倒していった。僕が他の輩から襲われていたら、姉が飛んできて助けてくれた。薙ぎかかる恐怖などなかった。
だからだろうか。
世界はそこで完結していたに近かったのである。
心地よい世界だっただろう。福音が鳴り響いていただろう。
いつしか、姉は強さによって全てが決まり、血で血を洗う世界はもう終わりにしたいと言った。
それは無茶苦茶な夢想だった。あり得ない夢想だった。
――だがしかし、永い年月の末、姉は世界を平和にしようとしたのである。
▼
「姉さん、今日の予定だけど……」
気づけば、僕は姉さんの秘書官となっていた。僕と姉が生まれてから、おおよそ数百年たっていたころだろう。
その頃、僕たちはある一つの建国を宣言していた。
【魔界帝国】。
最初は民主制国家。つまり、国民がメインとなって政治を行う方式をとろうとしていた。だが、それでは逆に不満が起きた。
それは悪魔の習性、故であった。
悪魔は殺戮、虐殺を好む生物である。勿論、同族だろうと容赦はしない、冷酷無比の怪物だった。それ故、考えるよりも殴った方が早いという脳筋体質ばかりなのである。
つまりは上から弾圧していかないと、国として回らないのであった。
「それでは何も変わらないではないか!」
いつの日か。姉に言われた。
上から弾圧していく今の形式では、そもそもの意味がないということだ。
姉が望んでいるのは争いのない世界だ。
だが、それには完全な統治が必要なのだ。
僕は姉に無理を言って、このままの政治を進めた。
姉が数千の年月を生きる時には、魔王――魔界帝王――と呼ばれていた。
何やら人の国でも、魔族の長が『魔王』などと呼ばれているらしいが、それとは格が違う。魔族は悪魔の劣化種族であるから、仕方ないだろう。
文字通り、魔界を治める長であり、前代未聞の悪魔の統一国家を創ったのだった。
暴力、殺戮、虐殺……そのような言葉しかなかった悪魔たちは、最初は「国などいらん!」といって、突っかかってきたものだが、すぐに返り討ちにされた。
特に最古参の悪魔たちは抵抗が激しかった。
だが、姉は糸も簡単に潰していった。意思の強さからだろうか。
そうして、世界は一つになっていたのである。
国のブレインとしては、僕と僕の部下がメインとなって、国の基盤を創っていた。姉はどちらかといったら、用心棒のような感覚だった。だが、強い悪魔に従うという感性を持っている悪魔は、姉が元首でなくては、納得しなかった。
姉も実のところ、脳筋だった。
戦闘をやりたいがために、闘技場の設立を推した。姉の唯一の政策はそれだろう。
しかし、それは適度な戦闘をもたらし、戦闘好きの悪魔から、絶賛され、より支持されるようになっていたのだから、すごい。
そんな姉のいつもの口癖はこれだった。
「平和な世界が来るといいな!」
だが、そんな世界はこなかった。
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