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人族イーアス編

Chapter 137 俺が笑ったら気持ち悪い?

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(あと三〇〇〇秒とちょっと)

 マジか……。
 頭の中でザ・ナートが残り時間を伝えてきたが、ヴァン達は城の中に突入した途端、大量の魔物に囲まれたが、分身体を最大限に展開して左右と後方に壁を作り、なんとか前に進んでいる。もちろん時間を掛ければすべてを殲滅することも可能だろうが、時間の制約がある以上、強行し体を押し込んでいくしかない……。

 時折、イーアスやロレウの大技なスキルを発動し、周囲を一掃してもすぐに沸いて囲まれてしまう。それにしても、城の中によくこんなに魔物を詰め込んだものだ……。

「ふう」

 目の前に迫ってきた魔物を戦杖で叩き潰し、肺にため込んでいた息を吐く。一応、方法はある……。イーアスの持つ【時空跳躍タイムスペース】──。あれを使えばイーアスだけ先に進めはするが……。この先の状況が読めない以上、三人で固まって行動した方がいい。

 三階まで上がったところで魔物に変化が起きた。上の階は当然だが、下の階が騒がしくると同時に下の階から魔物が上がってくる量が減ってきた……。おそらく四人がそれぞれの敵を倒し城に到達したのだ……。先ほどまでは、上にも下にも気を廻さないといけなかったが今は違う。

「一気に行くぞ」

 『戯蝶』──ザ・ナートから授かった想力具……。偵察が主目的の装具だが今は違う目的で使用する。全力で想力を込めて大量の戯蝶を生み出し、前方の魔物を片っ端から爆撃していく。

 素早く四階に上がるとすぐに捕まるが、ロレウの高等スキル【稲魂いなだま】が周囲の魔物を高威力の雷撃で消し炭にしていく。

「【紅炎プロミネンス】」──その背後から湧き上がってくる魔物の群れにイーアスの三日月状の炎が縦断し、劫火で焼き尽くす。しかし、すぐに囲まれてしまう。これは埒が明かない。ザ・ナート様から「残り一〇〇〇秒」を切ったとの連絡が先ほど入った……。

 くそっ、このままでは……。

『スパパパパッ』──ヴァンが焦って、状況の打開策をスキル【高速思考】で練っていると突然、横の壁が切り刻まれて、内側に砕け石粉が舞い濛々と煙が上がる。

 慌てて身構えていると。

「あっ、いたいた!」

 外壁を壊して通路に侵入してきたのは、とてもよく知っている小人族の斥候だった。

「何してるの~中の魔物を相手して? 外から登れば・・・・・・いいのにぃ」
「……」
「外に上まで繋げた【糸】があるから使って登って~。ここは僕が何とかするから」

 なんとも至れり尽くせり。たまにこの惑星最高の頭脳の持ち主はこの目の前の小人族なんではないかと思ってしまうことがある……。

 まあ、コイツマカロニの場合は「」──あのトルケルと通じる本能型だけど……。なにものにも束縛されない自由なもの。それは思考にも当てはまることが今わかった。

「あとねー。さっき戦った『人』が使ってたスキル覚えたんだー」

 マカロニはそう言うと「【六角網糸ハニカムチョップ】」という初めて見るスキルで魔物を細切れにしていく。

「他にも倒さなくていいならこういうのもできるよ~ッ【定置網ククリネット】」

 粘着性の糸らしきものが前方の通路にびっしりと張り巡らされ魔物が、面白いようにそれに引っかかってもがいている。ちょうど俺の背後に迫ってきていた周りよりだいぶ強そうな魔物も絡め取られジタバタしている。

「マカロニ、二度も悪いな」
「いいよ~。ヴァンは他の人より戦闘は苦手だからねー。頭は使ってね」

 うん、知っている……。こいつは決して悪気があって言ってるわけでは無いことを……知っているが……くっ、くやしい。きっとあのテラフの兄ちゃんも同じ思いをしてたんだろうな……。ちょっと同情する。

「ヴァン様」
「悪い……俺らしくもない……。よしッ、じゃあとっとと行くぞ!」

 自分の両頬を思い切り引っ叩き気合いを入れた俺は心配そうに見ているロレウとイーアスに外からの経路ルートで行くことを伝えた。

 マカロニの【糸】に掴まりどんどん上へと、よじ登っていく。だいたい七・八階くらいまで登った辺りで最上階から見下ろしている魔物がいることに気付いた。

 やばッ、バレちゃった!

「【時空跳躍タイムスペース】」──ほぼ同時に最上階の問題に気づいたイーアスがスキルで先に『跳んで』しまった。

 ヤバい、急がないと……。焦る気持ちを抑えて、可能な限り急いで最上階まで登り切った。

 ──イーアスは? 見ると、少し先の広いところで大量の魔物に囲まれながらも奮戦しているイーアスを発見した。

 しかし、コイツイーアスとんでもなく強くなったな。素質はもちろんあった……でも七星の中では一番〝標〟の覚醒が遅れたのもまた事実……。なのに……。

「【流星メテオストライク】」──空中に跳び上がったイーアスは『赤い流星』となり、魔物達を爆発で吹き飛ばした。コイツ……いつの間にアレンさんの代名詞ともいえる必殺技を自分のモノにしたんだ……。

 イーアスは俺達に気が付くと「こっちだよー早く」と手を振ってきた。……ヴァンは対異神戦のトドメはロレウに任せるつもりだったが気が変わった……。

「イーアス」
「え? なに?」
「──なんでもない、気を抜くなよ?」
「えー気なんて抜いてないよー」

 俺のちょっかいに異議を申し立てているこの人族の新たな英雄を見て、俺はフッと相好を崩した。

「あっ、ヴァンが意味なく笑った。気持ち悪い!」
「誰が気持ち悪いだアホっ! 俺の微笑みは万人の女性が眩暈を起こし倒れるんだぞ?」
「え? 悪魔のスキル?」
「違うわ! オ・レ・の! 魔性の魅力だよ。なんだ悪魔のスキルって……俺をあんな全裸野郎たちと一緒にすんじゃねえ」

「……だと言っていますが、ロレウさん良いの? 王子、万人の女性をたぶらかすそうですよ?」
「──大丈夫です。ヴァン様は頭の出来はすこぶる良いのですが、色事は緑小鬼ゴブリンにも劣りますので……」
「ロレウから見て俺ってそんな評価……」

 イーアスと互いに罵り合いながらも、この仲間達と冒険ができる時間がなんとも甘美なものだと俺は感じた……。

 冗談を言い合うのもそろそろやめにして、周りを見回すと、ここは最上階というより屋上庭園? 屋根はなく、上を見ると宙が拡がっている。

 先を見ると花園がまるで迷路のように配置されていて、道を順に辿っていかないといけないように一見、見える。
 だが……。

 こんなもん、飛び越えればいい……。さっきマカロニに教えて貰った思考の束縛を解く。

「上から行くぞ? そりゃ!」

 俺は頭の倍以上もある高く隔てている花園の壁を軽々と飛び越えた……。ちょうど飛び越え上冠アーチに達した時に黒い大きな棘に襲われた。

『ドスッ、ギュゥゥゥン』──黒い大きな棘はヴァンを庇ったロレウが盾になり、深々と腹に突き刺さったロレウはそのまま吹き飛ばされ城の屋上から落ちていく……。

 一瞬、ロレウと目が合った。俺が無事であることを心から安堵した顔をしていた……。

「ヴァン⁉」

 イーアスの大きな声で自分が呆けてることに気付いた……。

「早く行って!」

 イーアスは花園の壁を壊して現れた黒い煙の化け物と対峙しながら俺を叱る。

「悪い……」

 俺はそれだけを言い残して、城の屋上からロレウを追って飛び降りた……。
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