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人族イーアス編
Chapter 115 クルト君……それはちょっと
しおりを挟むクルト・ドラグーン──。種族中、最強の龍人族にして惑星最強と謳われるギル・ドラグーンの息子。
目の前でエルプスと名乗る男と激しい戦いを繰り広げているが、彼がどうして「英雄」に数えられていないのか甚だ疑問である。それほどまでの天才的な戦闘才能と高い能力
しかし、そんなクルト王子の巨大な「六尺棒」を真っ向から受けて、その大剣をもってエルプスは、クルト王子を苦しめる。
「【龍紋】、天賦の才を持つ龍人族に発現するというスキルか……」
エルプスは、苦々しくその名を口にする……。目の前の龍人族の王子は、桁違いのその才能をエルプスに見せつけてくる。
埒があかん……。エルプスは、少し距離を取った後、建物に突っ込みそのまま反対側の窓を突き破り、翼竜に飛び乗った。
恐ろしい程の瞬発力で一瞬で翼竜に追いつき、哀れな竜の頭部へ六尺棒がめり込む……。翼竜ごと地面に叩きつけられる前に脱出し、近くの地面に転がって着地する。蹲っているすぐそばの地面に影が映ったので、本能的に横に跳ぶ。
『ズドンッ』──先ほどまでいた場所に六尺棒が振り下ろされ煉瓦でできた舗装を叩き壊し陥没させる。
くそっ、しつこい……。今までの粒選りの連中は空中に上がったら追ってこなかったが、『コイツ』は違う。
背に羽を生やした王子は、真性の追跡者。狙った獲物を見る目はまさしく野生の肉食獣のそれ……。
「そんなに俺と戦いたいのか?」
「絶対、逃がさないぜっ、親父がくれた機会だから、しっかり成果を出さんとな」
「おまえ達、龍人族がなぜ人族の戦争に介入する? 天使の命令に背く気か?」
「良く言うぜ! 天使様達の教えを蔑ろにしておいて……。攻める理由? あるぜ、トゥーリー連邦の翼竜部隊が『グランドワイス所有の飛行船』に一方的に攻撃したからだ」
「なっ……嘘をつけ! あの船には他の種族しか乗っていなかったと聞いたぞ」
「へー、他の種族を攻撃したのは認めるんだ。ちなみに飛行船はアイツらに貸してあるんだよ」
「ちっ」
グランドワイス首都「ジー・シー」の城に森の散歩者が訪問した時に、魔人族の王子から授かっていた策を披露すると、エルプスの顔はますます真っ赤になってワナワナ震えている。
ヴァンってやつ相当性格悪いな……。よくこんな屁理屈を思いつく。
「……仕方がない。命の駆け引きも知らない『お坊ちゃん』には、このままこの世を退場してもらおうか……。」
エルプスはそう言うと、黒い玉を取り出し、それを自分の胸に突き刺した。口の傍から血を流しながら、ニタリとクルトを見る。
「あっ、がっ! ぐあああぁッ!?」
身体が仰け反り、地面に倒れるとビクンビクンと痙攣し体が跳ねる。
「おい、おまえら。早く州知事邸に行って、知事の目を覚まさせてこい!」
クルトはそう言い、三人をここから遠ざける……。これから何が起きるのか正直分からない。魔人族王子の推察によると、ロッシ州もカラク州も何者かに操られているに過ぎないという見解だった。まあ、十中八九、操っているのは目の前のコイツらだろうけどな。
二十年前にも起きた「黒い煙」事件の生き残り……。正体不明の『何か』を崇めるこの世界では極めて『異質』な連中。そして、こいつらは追い込まれ窮地になると最後にあるものに変身したと聞いている。
「フゥゥー」
『エルプスだったもの』がゆっくり起き上がり、体は横にしたまま、顔だけ斜めにし、こちらを見る。
黒い異形の魔物……。禿頭、ギョロっとした大きな白目、人の姿に近い裸だが男女どちらの特徴もなく痩せこけていて、外見上はすごく弱そうにみえる。が、中身は全然そんな可愛いものじゃない……。
『ヒュン、バキバキバキッ』──姿が消えたかと思ったら、真横に現れて拳で殴られ、クルトはそのまま建物の壁を数軒突き破り、いくつか先の通りに体が投げ出される。
「ぐはッ……」
【龍紋】を発動していなかったら、多分やられてた……。異形の黒い魔物は、建物の上から跳んで近くに着地した
「くそっ……」
その昔、この変異した異形の魔物を七雄達は討伐したらしいが、今の俺では全く歯が立たない……。手刀の形を作り、自分に目がけて黒い魔物がトドメを差そうとしている。
黒い魔物の手刀は俺に振り下ろされることなく、目の前に現れた魔人族の銀髪の女が受け止めていた。
「ガガガガガッ」と、そのまま超近接での激しい格闘戦を演じると、フェイントを入れた直後、廻し蹴りで黒い魔物を吹き飛ばした。
「おーおー、派手にやられちゃってるね……」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、魔人族の男と……灰色の小鬼が立っている。
「おまえがヴァンか?」
「そういうアンタはクルト王子だろ?」
互いに初めて顔を合わせるが、互いに見た目で素性をすぐに把握できた。
「あの女は誰だ?」
「あっちはロレウ、俺の世話役兼護衛係だ」
オルズベク皇国の三人の皇・王子にはぞれぞれ、凄腕の護衛がついていると聞いたことがある……。その話を聞いた時は、己の身も守れないで何が皇・王子だと鼻で笑ったものだが、実物を見ると、いかにその認識が浅はかだったかを理解した。理解したが……。
「ぐッ」
「おいおい無理すんなって、アイツはロレウが何とかするから」
「ダメだ……女に守られるなど我が種族にとって、恥以外の何者でもない」
ヴァンがやれやれという顔をして、説得するように話しかけてくる。
「あ~ッ古い! 古いよぉぉ~クルト王子。男とか女とか関係ないでしょ? ウチの所なんて「母親」が最強だもん」
「惚れた」
「は?」
「俺は強い女が好きだ!」
「はあ……」
「おまえの護衛であって、男女の中では無いんだな?」
「え? あー、まぁー、そうだけど……」
「俺はこの戦争が終わったらあの女を妻に娶る」
「はい~~ッ? ロレウを?」
「なんだ? なんか不都合でもあるのか?」
「え? あ、いや別に……」
いつものヴァンとは全く違った一面を見せているが、生憎、こういう噂話の|好きそうな連中は今、ここにはいない……。
(アノ、チョット良イデスカ?)
「うわ、びっくりした……おまえか? 俺の心の中にしゃべりかけてきたのは?」
ヴァンの傍に立っている灰色の小鬼がそうだと頷く。
(ヴァンサンハ、素直ニナレテナイダケデ、本当ハ『ロレウ』サンノ事、好キデス)
「いやいやいや、なぁぁぁぁんてことを言っちゃってくれてるのペンネ君。え? 『恥ズカシガラナクテモイイヨ』、ちょっと待て、俺は別に恥ずかしがってるわけじゃ……」
「おい、意気地なし!」
「あん? なんだこの正直野郎!」
「勝負だ!」
「何の?」
「あの女はきっと、自分より強い『男』を求めている……。俺があの女より強くなってやる」
「あー、なるほどそういうこと、なら、お好きにどうぞ!」
「おまえは『降りる』ということか?」
「いや、だってロレウに拳で勝てるわけないじゃん、俺が百体いても無理」
「俺は絶対あきらめん」
「はいは~い! 寝言は、自分の城に帰ってから言ってくださーい。それよりも……」
ロレウがあんなに苦戦するとは涅三部衆、思ったより侮れん……。そろそろ『動かす』か。
ロレウは、【|爆裂淑女《ダイナマイト・レディ】】で何度も黒い魔物に直撃を入れているが、ダメージが通らないのか、一向にピンピンしている。
今、気が付いたが、周囲の建物の上に大量のヴァン分身体が『準備』をしている。
(なるほど、そういうことですね……)
私は、カチッと【爆裂淑女】の切替装置を操作する。
【|稲妻公女《ライトニング・プリンセス】】──。
ザ・トイズ魔改造による雷属性のもう一つの付加機能。
黒い魔物が電撃より、一瞬の行動停止に陥ったところで、周囲のヴァン分身体達の一対による重複砲撃【聖槍ミッシガルの『卵』】
英雄スキルの「なりかけ」だが、当たると無事では済まされない。十発以上の『卵』が直撃すると、男は変身が解け、頭から地面に落下し、地面に落ちた時に「ゴキッ」と嫌な音がした。
「あちゃ~ッ……落ちた時に『事故』ということで……」
あれ? ペンネ君何してんだ? 見るとエルプスの腰に提げてあった鞄をゴソゴソしている。うーん、あまりいい趣味とは言えんな……。
するとペンネ君が、手鏡のようなものを取り出す。
(【識眼】デ見タ時ニコレガ表示サレテタヨー)
そうか、まあ何かの想力具だろう……。
まあ、今はそれは置いておこう。次にやるべきことがある……。
俺はすぐに切り替えて、知事邸に急行した。
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