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人族イーアス編

Chapter 114 男子トーク!

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「ちくしょぉーッ!?」
「ほいっ」
「ぎゃ!!」

 主武器の広厚剣テイルは鞘に納めたまま。今は予備武器となった戦斧の柄の部分をうまく使って、手加減しつつトゥーリー連邦のロッシ兵士を気絶させる。

 いや~この面子って……。ミズナさんもシュンテイさんも大勢の敵を無力化するスキルを持ってないので、コツコツと手加減しながら相手兵士を地道に気絶させていく。

 うーん、権謀術数に長けたヴァンさんや汎用性の高いマカロニ君の【糸】とか、スキル百貨店のチャイチャイさんなら大勢を一気に無力化できそうなんだけど……。ちょっと偏っちゃったかな?

 流石にミルフレイア聖王国とトゥーリー連邦の主戦場だけあって、敵の兵や騎士の数が凄く多い。手加減して戦っていたら、ひと月では終わらないかもしれない……。

 そんなことを考えながら、目の前にいるロッシ兵を片手で掴んで壁に放り投げた。それも、昨日から敵が僕たち三人を見ただけで「ぎゃー! 化け物が来たー」って叫ばれて、皆逃げて他のところに廻ってしまうので、効率が悪いったらありゃしない。

 もっとこう……なんというか「大きな魔物」とか出てこないかな……。消化不良になっちゃう……。

 ★

「ああん? 化け物がいる?」
「はい、我々では抑えられません……シェケラ様、なにとぞお力添えを!」

 トゥーリー連邦のミルフレイア聖王国侵攻軍、前衛基地の天幕の一つ。参謀長とみられる恰幅のよい男が、目の前で胡坐をかいている派手な格好の男に助力を願い出ている。

「ひとりは心当たりあるな……。あのアンク村で、魔人族の王子と羊人の野郎と一緒にいた人族の小僧だな……」

 大斧を持っていて、自由国オルオの騎士見習いっていえば、例の「粒選り」の一人のはず……。

「ってことは、あとの鬼人族と海人族も『粒選り』か……面倒臭せぇことになっちまったな……」

 このままそいつらが、この前線を抜けてしまったら『』に支障がでるやもしれん……。

「ちっ、しゃあねえ……『アレ・・』を使うか」

 ★

「イーアス君、自分ね『無心の極み』を体得したかも」
「え? 何ですか、その『無心の極み』って?」

 僕たちは代わり映えのないトゥーリー連邦の兵士をひたすらポカスカ殴って気絶させるのを繰り返すことに飽きてきたので、おしゃべりしながら戦闘を行っている。

「ちょっと見ててね?」

(ぼけーッ)『バシッ、ビシッ!』

「おおースゴイです! シュンテイさん、一見ぼーッとしてるようにしか見えないのに」
「そお? やっぱりスゴい? ぼーっとするのが好きだから、この技に目覚めたんだと思う。イーアス君もやってみる?」
「いやあ、僕がやると本当に『ぼーッ』として、トゥーリーの兵士に剣で刺されてしまいそうです」
「すごぉぉぃく楽だよ? ぼーッとしてるのにいつの間にかたくさんの兵士を気絶させられるから……」

 ……ちょっと、しつこいので話を逸らそう。

「そういえば弟さんが居るんでしたっけ?」
「うん、居るよ~ッ、今はビルドア帝国ロンメル高等技術学院の生徒なんだ。確かイーアス君やヴァン君と同い年だよ」
「へ~、やっぱりお兄さんと一緒で剣の達人なんですか?」
「う~ん、兄弟で比較とか自分でしたことないけど、よく父が小さい頃から弟ばかり誉めていたよー」
「そうですか……、兄としては心苦しいですね」
「いやー別に自分は昔からぼーッとしてるから弟の方が若頭に向いてるんだよ……ただ、本人は『拙者』とか『ござる』とか言っててちょっとどこに行こうとしてるか分からないけど」

「シュンテイさんとイーアスさん」
「「はい」」
「戦いに集中してください!」
「「はい~↓↓」」

 おしゃべりしてたら、ミズナさんに叱られた。でも、本当にずっと兵士たちを無力化する単純作業でシュンテイさんの様に『自動』でどうにかしてしまえる時が、僕にもいずれ訪れそうである。

 と、そんなことを考えていると、ちょっと不謹慎だが、やっと変化が訪れた。

「よお、また会ったな、小僧!」

 あれは……たしかアンク村でマナ教を騙っていた偽司祭。

「え? なになに? どうしたの? 知り合いのひと?」

 シュンテイさんも退屈から開放されて、ちょっと嬉しそうに僕に聞いてくる。

「はい、自由国オルオの僕の生まれ育った村であったマナ教を騙る偽司祭です」
「あ~ッ船の上で言ってた人? そうなんだ……これはワクワクしてきたッ!」

「……おい、お前ら、なに俺が出てきて嬉しそうにしてんだ?」
「え? いや……別に嬉しくなんてありませんよ……じゃなくて嬉しくなんてないぞッ!」
「……なーんか、怪しいなぁ、なんか企んでんな、お前ら?」
「なんでもない、早く話を先に進めて!」
「え? あっ……ああ、じゃあ気を取り直して……。ふははっ小僧! 前回の様にいくと思うなよ?」
「ああ、じゃあなんだ? 戦うのか? じゃあそこから降りて戦おう!」
「え……いや……って、なんでお前に指示されにゃあかんのだ!? お前たちの相手は『コレ』だ精々足掻くがいい」

 おお、悪者っぽい台詞。なんかいい……。あっミズナさんがちょっと僕らを睨んでる……。

 派手な服の男が投げたのは、片手に収まるくらいの小さな壺で地面に落ちて割れると『巨大な緑小鬼ゴブリン』になった……。

「え……」
「なんだお前ら? そのがっかりした顔は。巨大なんだぞ? 緑小鬼ゴブリンが!?」
「あ~~はい、頑張ります……」

 なんか、いまいち盛り上がりに欠ける。大体、巨大なのに小鬼ってどういうこと? いっそ大鬼オーガの巨大化なら、巨大鬼とかなら面白いのに……。

 巨大緑小鬼は咆哮を上げ、僕たちに手に持っている巨大な棍棒を振り下ろす。棍棒が地面に当たり爆発が起こる。

 うーん、やっぱりなあ。もうちょっと盛り上がる相手を出してくれないと……。僕らはさっと避けて、近くの建物の屋根に降りたち、巨大小鬼を見る。

「イーアス君……、君にあの巨大小鬼を譲ろう……」
「え? なに言ってるんですかシュンテイさん? 面倒臭くなって僕に投げてるでしょ?」
「いやいや自分も倒したい気持ちは非常にあるんだけど、持病の『ぼーっとしちゃう病』が……ゲホゲホッ」
「なんですか? 『ぼーっとしちゃう』病って、ただボケてるだけじゃないですか! あと咳は関係ないですよね?」
「そうじゃ……そうじゃないんだっ! イーアス君、これは不治の病で医者からも治療を見放されたんだ」
「ええ、そうでしょうね! だって、病気じゃないし、って言いますか、さっきそのぼーっとすることを『無心の極み』とか言って喜んでなかったでしたっけ?」
「え? そうだったっけ? マズイ!『』が……」

「シュンテイさん、イーアスさん」
「「はい」」
「いい加減にしてください!」
「「すみません~~↓↓」」

 またミズナさんに叱られた……。もうシュンテイさんのせいですよ⁉

「もういいです、私がやります!」

 ミズナさんがそう言うと手に持っている【渦槍ラウンド&ラウンド】を、逆手に持ち、投擲の姿勢を取る。

『【旗魚ソードフィッシュ】』──ミズナさんから投擲された槍は、周囲に水を渦巻きながら飛翔していき巨大緑小鬼ゴブリンの胸に突き刺さりそのまま貫通した。

『ズシンッ』──巨大緑小鬼は後ろに倒れて、色見石に変わった。

 貫通した槍は、小突きに紐でもついているかの様にミズナの手元に戻ってきた。よし次、行ってみよう。ってあれ? あの男がいない!?

 くそーッ逃げたな。 
 
 もっとなにかしてくれればいいのに……。
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