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人族イーアス編
Chapter 107 時代の「選択」
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「それじゃ、今の作戦で皆、オーケーかな?」
三人は俺の作戦に手を挙げて了承の合図を返してくる。十階層に続く奥の通路の手前には、悪魔が奥へと続く通路を守るように立っている。下位悪魔が十体と、初めてお目にかかる悪魔が一体混じっていて、一番後方に控えている。
★
『──⁉』
中位悪魔は、いつの間にかフワフワと飛んでいる光る蝶々に気が付く。なんだこれは? さっきまでこんなもの飛んでいなかったはずだが……。下位悪魔たちを見ると、まわりの蝶々の存在など気にすらしていない。
おかしい……「不自然だ」……これは何かのスキル?
『ボンッ』──中位悪魔は、周囲の下位悪魔に注意を呼び掛けようと声を発しようとしたところに不意に背中を爆破される。
いつの間にか背中に、蝶が一匹止まっていたのか? この蝶は、敵の爆破スキル? しかし、この程度の爆発なら下位悪魔でも耐えられる。あちこちで更に爆発が続き、爆煙で周囲が見えなくなる……。
動けずに周囲を警戒していると、煙を突き抜けて何かがこちらに飛び出してくる。見ると人間だ……こんな下の階層まで降りて来れるなんて油断ができない……、中位悪魔は、本能的に後ろに退がり距離を取る。
『──!』中位悪魔は自分が右腕を失っていることに遅れて気がつく。
前にいる人間は、そこまで動きが速くない……コイツの攻撃は確実に避けたはずだ……。
正体のわからない危うさを感じ、中位悪魔は残った左手を前に出し、スキル【魔砲(デモンブラスト)】で前面の人間を吹き飛ばそうと照準を合わせる。
|いつからそこにいた!?
真横に他の人間が視界に急に入り込み、中位悪魔は顔面に向けて拳を振り抜かれ、受けた腕ごと吹き飛ばされ、後ろの壁に激突する。中位悪魔は、めり込んだ壁から抜け出すと爆煙は収まっており、手下の下位悪魔が全員『矢』のようなもので撃ち抜かれて斃されている。
人間は四匹……「いつの時代でも」我々悪魔に抗える人間など居るはずがない……ましてや中位悪魔に敵う者など……。中位悪魔は、体に力を入れると切断された右腕の先が生えた
「うえ! 気持ち悪っ!」
体を分身させている人間が全部、同じ顔で気持ち悪そうな顔をこちらに向けている。
こいつらの『言葉』が分かる……、これは地球の東にある小さな島国の言語だ。だが、そんなことは今はどうでもいい……。こいつらを『今』下に行かせるわけにはいかない。
『ゴキッ』──中位悪魔は、己の頭に生えている二本の角を折る。
「皆さん、気を付けてください……『変わります』」
チャイチャイさんが、俺たちにそう警告する。悪魔は、踏ん張るような姿勢を取ると、悪魔を中心に振動が発生し地響きが始まる。
『ガアァァァ!』──咆哮する……、それと同時に悪魔の身体中が罅割れ、背中が割れる。
ぬうっと、背中から悪魔の身体よりも、ずっと大きな異形のものが姿を現す。
先ほどと違って知性を感じない。恐らく知性を「代償」に力を跳ね上げた……⁉
「『最後』は、チャイチャイさん頼んでいい?」
「わかりました、やりましょう」
皆の英雄スキルは、巨大悪魔に取っておかないといけない、ここは『連携』と行こうか……。
最後の一撃だけを決めた俺たちは、即席の連携を開始する。
「【魔砲】」
なんの予備動作もなく、異形となった悪魔の四本になった後ろ二本の腕から発射する。
「【小世界】」
ヴァンに命中する瞬間に、傍からチャイチャイが、ヴァンの前に四角い箱を放り込み、悪魔の放った紫の光条を箱の中に吸い込んでいく。
「大量【分身】」
ポポポポポンッと、ヴァンの分身体が大量に溢れ出て、悪魔に突撃を開始する。悪魔が二度目のスキルを前二本の腕でもう一度撃とうとするが、真横からロレウに顔を殴られ、不発に終わる。
すぐに四本の拳で、ロレウを迎撃する構えをみせ、双方の間で数え切れないほどの爆風が発生する。ロレウの『爆裂淑女』を乗せた拳の火力に悪魔はそのどこまでも突き抜けた力を存分に振るい、対等に渡り合う。
遅れてイーアスが、悪魔に接敵し手に持つ『広厚剣』を振り下ろす。知性を失っている悪魔は、先ほどと違って「それ」を迎えうつ。
悪魔の左側の二本の腕が宙を舞い、肩口から血線が奔る。隙ができた、悪魔はロレウに思い切り殴り飛ばされ、飛ばされた方向にヴァンの分身体が悪魔の腕や足にしがみつき、その場に『縫い付ける』
「まわりまわるクルクルと──火群と雷公による輪舞の狂騒……【焔雷円月輪】」
そこにチャイチャイの『必殺』が突き抜け、炎と雷の輪は奥の壁に衝突し、そのままの形でどこまでも壁を掘進してその橙の光がやがて見えなくなる。
悪魔は、チャイチャイのスキルで真っ二つになり、二つに断たれた両側も燃え広がる炎雷で余すことなく焼き尽くしていく。
「チャイチャイさんのスキル、威力がおかしすぎっ⁉ ……それ、英雄スキルではないんでしょ?」
「ええ、これは私が元々使えるスキルの中でのとっておきの必殺スキルです」
いやー、本当に……遠距離特化型でこれほどの使い手って『蛍火カルノア』しか思いつかない……。
あの、圧倒的で彼我の力量差を嫌でも認識させられた『巨大な悪魔』にもこの七人なら通用するかもしれない……。
「やあ、お待たせー」
そこにマカロニ、ミズナとシュンテイが合流した。その手に持っているのは、なに? マカロニは両手で五つの杭を抱えている。
「あれ? その杭って〝安全圏生成陣〟じゃん……、なんでこんなところにあるんだ?」
ヴァンがそう言うと、この杭の使用方法と効果を説明してくれた。
体力がゼロになっても設置した場所に自動で万全の状態で戻ることができる。
……なにそれ? またとんでもないものが出てきた……。
「まあ、一応は設置しておくか……」
ヴァンは首を捻りながらも、さっそく手慣れた様子で、十階層に降りる手前に設置した。
「それじゃあ、そろそろ準備いいか?」
普段、ほとんどの状況で、おどけているヴァンが、珍しく真面目な顔で僕ら一人ひとりの目を順に見ながら声をかける。
「この下の十階層にはとんでもない化け物がいるが、俺たちなら何とかなるだろ?」
頼もしい参謀のことば。このメンバーで負けるなんてちょっと想像がつかない。
「よし、行くぞッ!」
ヴァンの号令で、最下層に続く道に足を踏み入れた。
三人は俺の作戦に手を挙げて了承の合図を返してくる。十階層に続く奥の通路の手前には、悪魔が奥へと続く通路を守るように立っている。下位悪魔が十体と、初めてお目にかかる悪魔が一体混じっていて、一番後方に控えている。
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『──⁉』
中位悪魔は、いつの間にかフワフワと飛んでいる光る蝶々に気が付く。なんだこれは? さっきまでこんなもの飛んでいなかったはずだが……。下位悪魔たちを見ると、まわりの蝶々の存在など気にすらしていない。
おかしい……「不自然だ」……これは何かのスキル?
『ボンッ』──中位悪魔は、周囲の下位悪魔に注意を呼び掛けようと声を発しようとしたところに不意に背中を爆破される。
いつの間にか背中に、蝶が一匹止まっていたのか? この蝶は、敵の爆破スキル? しかし、この程度の爆発なら下位悪魔でも耐えられる。あちこちで更に爆発が続き、爆煙で周囲が見えなくなる……。
動けずに周囲を警戒していると、煙を突き抜けて何かがこちらに飛び出してくる。見ると人間だ……こんな下の階層まで降りて来れるなんて油断ができない……、中位悪魔は、本能的に後ろに退がり距離を取る。
『──!』中位悪魔は自分が右腕を失っていることに遅れて気がつく。
前にいる人間は、そこまで動きが速くない……コイツの攻撃は確実に避けたはずだ……。
正体のわからない危うさを感じ、中位悪魔は残った左手を前に出し、スキル【魔砲(デモンブラスト)】で前面の人間を吹き飛ばそうと照準を合わせる。
|いつからそこにいた!?
真横に他の人間が視界に急に入り込み、中位悪魔は顔面に向けて拳を振り抜かれ、受けた腕ごと吹き飛ばされ、後ろの壁に激突する。中位悪魔は、めり込んだ壁から抜け出すと爆煙は収まっており、手下の下位悪魔が全員『矢』のようなもので撃ち抜かれて斃されている。
人間は四匹……「いつの時代でも」我々悪魔に抗える人間など居るはずがない……ましてや中位悪魔に敵う者など……。中位悪魔は、体に力を入れると切断された右腕の先が生えた
「うえ! 気持ち悪っ!」
体を分身させている人間が全部、同じ顔で気持ち悪そうな顔をこちらに向けている。
こいつらの『言葉』が分かる……、これは地球の東にある小さな島国の言語だ。だが、そんなことは今はどうでもいい……。こいつらを『今』下に行かせるわけにはいかない。
『ゴキッ』──中位悪魔は、己の頭に生えている二本の角を折る。
「皆さん、気を付けてください……『変わります』」
チャイチャイさんが、俺たちにそう警告する。悪魔は、踏ん張るような姿勢を取ると、悪魔を中心に振動が発生し地響きが始まる。
『ガアァァァ!』──咆哮する……、それと同時に悪魔の身体中が罅割れ、背中が割れる。
ぬうっと、背中から悪魔の身体よりも、ずっと大きな異形のものが姿を現す。
先ほどと違って知性を感じない。恐らく知性を「代償」に力を跳ね上げた……⁉
「『最後』は、チャイチャイさん頼んでいい?」
「わかりました、やりましょう」
皆の英雄スキルは、巨大悪魔に取っておかないといけない、ここは『連携』と行こうか……。
最後の一撃だけを決めた俺たちは、即席の連携を開始する。
「【魔砲】」
なんの予備動作もなく、異形となった悪魔の四本になった後ろ二本の腕から発射する。
「【小世界】」
ヴァンに命中する瞬間に、傍からチャイチャイが、ヴァンの前に四角い箱を放り込み、悪魔の放った紫の光条を箱の中に吸い込んでいく。
「大量【分身】」
ポポポポポンッと、ヴァンの分身体が大量に溢れ出て、悪魔に突撃を開始する。悪魔が二度目のスキルを前二本の腕でもう一度撃とうとするが、真横からロレウに顔を殴られ、不発に終わる。
すぐに四本の拳で、ロレウを迎撃する構えをみせ、双方の間で数え切れないほどの爆風が発生する。ロレウの『爆裂淑女』を乗せた拳の火力に悪魔はそのどこまでも突き抜けた力を存分に振るい、対等に渡り合う。
遅れてイーアスが、悪魔に接敵し手に持つ『広厚剣』を振り下ろす。知性を失っている悪魔は、先ほどと違って「それ」を迎えうつ。
悪魔の左側の二本の腕が宙を舞い、肩口から血線が奔る。隙ができた、悪魔はロレウに思い切り殴り飛ばされ、飛ばされた方向にヴァンの分身体が悪魔の腕や足にしがみつき、その場に『縫い付ける』
「まわりまわるクルクルと──火群と雷公による輪舞の狂騒……【焔雷円月輪】」
そこにチャイチャイの『必殺』が突き抜け、炎と雷の輪は奥の壁に衝突し、そのままの形でどこまでも壁を掘進してその橙の光がやがて見えなくなる。
悪魔は、チャイチャイのスキルで真っ二つになり、二つに断たれた両側も燃え広がる炎雷で余すことなく焼き尽くしていく。
「チャイチャイさんのスキル、威力がおかしすぎっ⁉ ……それ、英雄スキルではないんでしょ?」
「ええ、これは私が元々使えるスキルの中でのとっておきの必殺スキルです」
いやー、本当に……遠距離特化型でこれほどの使い手って『蛍火カルノア』しか思いつかない……。
あの、圧倒的で彼我の力量差を嫌でも認識させられた『巨大な悪魔』にもこの七人なら通用するかもしれない……。
「やあ、お待たせー」
そこにマカロニ、ミズナとシュンテイが合流した。その手に持っているのは、なに? マカロニは両手で五つの杭を抱えている。
「あれ? その杭って〝安全圏生成陣〟じゃん……、なんでこんなところにあるんだ?」
ヴァンがそう言うと、この杭の使用方法と効果を説明してくれた。
体力がゼロになっても設置した場所に自動で万全の状態で戻ることができる。
……なにそれ? またとんでもないものが出てきた……。
「まあ、一応は設置しておくか……」
ヴァンは首を捻りながらも、さっそく手慣れた様子で、十階層に降りる手前に設置した。
「それじゃあ、そろそろ準備いいか?」
普段、ほとんどの状況で、おどけているヴァンが、珍しく真面目な顔で僕ら一人ひとりの目を順に見ながら声をかける。
「この下の十階層にはとんでもない化け物がいるが、俺たちなら何とかなるだろ?」
頼もしい参謀のことば。このメンバーで負けるなんてちょっと想像がつかない。
「よし、行くぞッ!」
ヴァンの号令で、最下層に続く道に足を踏み入れた。
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