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人族イーアス編
Chapter 106 「頑固」と「天衣無縫」
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「ねえねえ、この先に魔物がいーっぱい、いるけどまっすぐ進む? まわり道もできるよ~」
先頭を歩くマカロニが振り返り、皆に声をかけてくる。この地下迷宮に入って思ったことだが、優秀な斥候がいるだけでこんなにも変わるなんて……。
完全ではない手元の地図を見ただけで、この地下迷宮のあらかたの特徴を読み取り、未踏部分を「つなげて」しまったうえ、罠にはかからず奇襲なんて受けるわけもなく至極、順調に進んでいく。
前回も腕利きの斥候が同行していたが、マカロニほど『異常』ではなかった。多分だけど最高の斥候なのではないだろうか……。迂回路を選択して、進みながら珍しくマカロニが少し立ち止まり、うーんと顎に手をやり、少し考え込む仕草を見せた。道に迷った?
ヴァンにどうかしたのか聞かれると「ここ怪しいね」と手に持っている地図の空白だった部分を手書きで書き足したところを指差す。皆で、マカロニの地図をのぞき込むと、マカロニが手書きの通路の何も書かれていない部分に指をなぞっていく。
「ここ多分『何か』あるね~、寄ってみる?」
うーん、どうなんだろう……、なるべく早くあの巨大な悪魔を倒さないといけないが、もし隠し部屋か何かがあるなら『何か』が眠っているかもしれない……。
仮にもしそれが、攻略に重要なものなら寄るに越したことがないが、今時点では、無駄骨になるリスクも当然あり、時間の無駄につながってしまう……。
少し顎を引き、考え事をしてるかのような表情を見せていたが、すぐにポンと手を打ち、この七人の頭脳が皆に提案する。
「いいぜっ、マカロニ、一旦二手に分かれて、俺たちは九階層の階層主のいた部屋に多分いる悪魔を倒しておくから、マカロニ入れて、三人で気になるところ見てこいよ」
「オッケー、じゃあ、ミズナさんとシュンテイ、一緒に来てくれる?」
「ええ、分かりました」
「うん、いいよ」
いやー、大丈夫かな? なんか船の上で意見あってなかったけど、あのふたり……強いて言うなら意見が違えた時に冷静な大人を連れて行った方がいいと思う……僕もそうだけどシュンテイさんも意見が分かれた時に、あたふたしてあの二人の間に入れないかも……。
「じゃあ、みてくるねー」
マカロニ、ミズナ、シュンテイの三人が、先の分岐路を僕らの進行方向ではない方向に曲がっていく。
こちらの班はマカロニが、少し抜けることになるが、その間はヴァンの装具品『戯蝶』で、先や後方に広く展開して、警戒にあたる。
分岐路を折れて、皆先に歩き始めるが、僕だ気になりもう一度、三人を振り返る。
大丈夫かなー? シュンテイさん、健闘を祈ります。
★
いやー、どうしよう……なんか気まずい……。
自分は、船の上での出来事が再現された場合、どうやって止めればいいか……さっきからそのことばかりが気になって地下迷宮探索に集中できていない……。
そんなことを考えていると、マカロニが急に立ち止まる。どうかしたのかな?
「ミズナさん、ここに穴開けてくれる?」
「はい、わかりました。危ないのでちょっと下がってください」
マカロニが、そばの何もない壁を指差してミズナに頼むと、ミズナも何事もなくそれに応える。
あれ? なんか普通に会話してる……。
ミズナが手に持っている魔改造された短槍『渦槍』で突きを繰り出し渦状の水流が迷宮の壁に風穴を通す。マカロニが、すぐに中の様子を確認し、振り返りニッコリと笑う「じゃあ行こう」と、隠された通路を進んでいく。
しばらく進んだ真正面が突き当たりで、そこに扉がある。マカロニが近づいていって、いきなり扉の把手に手を掛ける。え? 罠がないか調べたりしないのかな? と考えていたら、ミズナも同じことを思ったらしく、マカロニに質問すると「罠が仕掛けられているかどうかは見てなんとなくわかる」だそうだ……。
さすが、マカロニ『できる』斥候は何から何まで違う……。
自分はそう納得したが、ミズナは違う反応を示した。それでも危ないから、念のため調べた方がいいのでは? とマカロニに伝える。
「ううん、大丈夫だよー、やっても無駄さー」
マカロニは思ったことを普通に答える。 あれ? これってもしかして……。
「いいえ! 危ないことは見過ごせません、次からはちゃんと調べて扉を触ってください」
「なんでー? 大丈夫なんだよー? ミズナさん頭固いねー、テラフみたいだよー」
「なぜ、大丈夫だと言い切れるのですか? 『見てわかる』っていい加減過ぎです」
「あーあー! そんなことより早く中見ないかい? 気になるなぁー、中……どうなってるのかなー?」
「シュンテイさん」
「……はい」
「『そんなことより』とはどういうことでしょうか? 私はマカロニさんの身を案じて申し上げているのです」
「はい、すみません……」
年下の娘に叱られちゃった……ちなみに彼女の言い分はもっともなんだ……『普通』なら……。
「頑固少女」と「天衣無縫」……、はっきり言っちゃうと自分には荷が重すぎる。
「それなら、こうしましょう! 次から私が先に触ります」
「なんでー? ミズナさん【探知】使えるのー?」
「いいえ、使えませんが、私は仲間が傷つくかもしれない可能性を見過ごせません……ですから私が先に触れます」
「えー、そんなのダメだよー、僕もミズナさんに怪我なんてさせられないよー? 大事な仲間だからね~、それにトルケルに申し訳ないしね」
「そっそれは、今は関係ないと思います!」
マカロニがそう言うと、ミズナは少し頬を染め、これまでと違ってちょっと年相応の女の子の反応を覗かせる。
「わかったよー、ミズナさんが傷つくのは見てられないから、無駄だけど次から調べるねー」
「ありがとう、マカロニくん」
あれ? 二人で勝手に話がまとまった……自分っていったい……。
「おーい、シュンテイー、なにぼーっとしているのー? はやくおいでー」
「シュンテイさん、ぼーっとしてたら危ないですよ? 私たちの傍から離れないでください」
「……ふう……はーい、待ってー、二人ともー」
あれだね、この二人は思ったことを話すが、決して相手をどうこうしてやろうと思って口にしているわけではない……なんか心配するだけ無駄かも……。
先頭を歩くマカロニが振り返り、皆に声をかけてくる。この地下迷宮に入って思ったことだが、優秀な斥候がいるだけでこんなにも変わるなんて……。
完全ではない手元の地図を見ただけで、この地下迷宮のあらかたの特徴を読み取り、未踏部分を「つなげて」しまったうえ、罠にはかからず奇襲なんて受けるわけもなく至極、順調に進んでいく。
前回も腕利きの斥候が同行していたが、マカロニほど『異常』ではなかった。多分だけど最高の斥候なのではないだろうか……。迂回路を選択して、進みながら珍しくマカロニが少し立ち止まり、うーんと顎に手をやり、少し考え込む仕草を見せた。道に迷った?
ヴァンにどうかしたのか聞かれると「ここ怪しいね」と手に持っている地図の空白だった部分を手書きで書き足したところを指差す。皆で、マカロニの地図をのぞき込むと、マカロニが手書きの通路の何も書かれていない部分に指をなぞっていく。
「ここ多分『何か』あるね~、寄ってみる?」
うーん、どうなんだろう……、なるべく早くあの巨大な悪魔を倒さないといけないが、もし隠し部屋か何かがあるなら『何か』が眠っているかもしれない……。
仮にもしそれが、攻略に重要なものなら寄るに越したことがないが、今時点では、無駄骨になるリスクも当然あり、時間の無駄につながってしまう……。
少し顎を引き、考え事をしてるかのような表情を見せていたが、すぐにポンと手を打ち、この七人の頭脳が皆に提案する。
「いいぜっ、マカロニ、一旦二手に分かれて、俺たちは九階層の階層主のいた部屋に多分いる悪魔を倒しておくから、マカロニ入れて、三人で気になるところ見てこいよ」
「オッケー、じゃあ、ミズナさんとシュンテイ、一緒に来てくれる?」
「ええ、分かりました」
「うん、いいよ」
いやー、大丈夫かな? なんか船の上で意見あってなかったけど、あのふたり……強いて言うなら意見が違えた時に冷静な大人を連れて行った方がいいと思う……僕もそうだけどシュンテイさんも意見が分かれた時に、あたふたしてあの二人の間に入れないかも……。
「じゃあ、みてくるねー」
マカロニ、ミズナ、シュンテイの三人が、先の分岐路を僕らの進行方向ではない方向に曲がっていく。
こちらの班はマカロニが、少し抜けることになるが、その間はヴァンの装具品『戯蝶』で、先や後方に広く展開して、警戒にあたる。
分岐路を折れて、皆先に歩き始めるが、僕だ気になりもう一度、三人を振り返る。
大丈夫かなー? シュンテイさん、健闘を祈ります。
★
いやー、どうしよう……なんか気まずい……。
自分は、船の上での出来事が再現された場合、どうやって止めればいいか……さっきからそのことばかりが気になって地下迷宮探索に集中できていない……。
そんなことを考えていると、マカロニが急に立ち止まる。どうかしたのかな?
「ミズナさん、ここに穴開けてくれる?」
「はい、わかりました。危ないのでちょっと下がってください」
マカロニが、そばの何もない壁を指差してミズナに頼むと、ミズナも何事もなくそれに応える。
あれ? なんか普通に会話してる……。
ミズナが手に持っている魔改造された短槍『渦槍』で突きを繰り出し渦状の水流が迷宮の壁に風穴を通す。マカロニが、すぐに中の様子を確認し、振り返りニッコリと笑う「じゃあ行こう」と、隠された通路を進んでいく。
しばらく進んだ真正面が突き当たりで、そこに扉がある。マカロニが近づいていって、いきなり扉の把手に手を掛ける。え? 罠がないか調べたりしないのかな? と考えていたら、ミズナも同じことを思ったらしく、マカロニに質問すると「罠が仕掛けられているかどうかは見てなんとなくわかる」だそうだ……。
さすが、マカロニ『できる』斥候は何から何まで違う……。
自分はそう納得したが、ミズナは違う反応を示した。それでも危ないから、念のため調べた方がいいのでは? とマカロニに伝える。
「ううん、大丈夫だよー、やっても無駄さー」
マカロニは思ったことを普通に答える。 あれ? これってもしかして……。
「いいえ! 危ないことは見過ごせません、次からはちゃんと調べて扉を触ってください」
「なんでー? 大丈夫なんだよー? ミズナさん頭固いねー、テラフみたいだよー」
「なぜ、大丈夫だと言い切れるのですか? 『見てわかる』っていい加減過ぎです」
「あーあー! そんなことより早く中見ないかい? 気になるなぁー、中……どうなってるのかなー?」
「シュンテイさん」
「……はい」
「『そんなことより』とはどういうことでしょうか? 私はマカロニさんの身を案じて申し上げているのです」
「はい、すみません……」
年下の娘に叱られちゃった……ちなみに彼女の言い分はもっともなんだ……『普通』なら……。
「頑固少女」と「天衣無縫」……、はっきり言っちゃうと自分には荷が重すぎる。
「それなら、こうしましょう! 次から私が先に触ります」
「なんでー? ミズナさん【探知】使えるのー?」
「いいえ、使えませんが、私は仲間が傷つくかもしれない可能性を見過ごせません……ですから私が先に触れます」
「えー、そんなのダメだよー、僕もミズナさんに怪我なんてさせられないよー? 大事な仲間だからね~、それにトルケルに申し訳ないしね」
「そっそれは、今は関係ないと思います!」
マカロニがそう言うと、ミズナは少し頬を染め、これまでと違ってちょっと年相応の女の子の反応を覗かせる。
「わかったよー、ミズナさんが傷つくのは見てられないから、無駄だけど次から調べるねー」
「ありがとう、マカロニくん」
あれ? 二人で勝手に話がまとまった……自分っていったい……。
「おーい、シュンテイー、なにぼーっとしているのー? はやくおいでー」
「シュンテイさん、ぼーっとしてたら危ないですよ? 私たちの傍から離れないでください」
「……ふう……はーい、待ってー、二人ともー」
あれだね、この二人は思ったことを話すが、決して相手をどうこうしてやろうと思って口にしているわけではない……なんか心配するだけ無駄かも……。
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