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鬼人族シュンテイ編

Chapter 060 連戦

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 ──グランドワイス。
 龍人族が治める東大陸の北東に位置する世界一広大な面積を誇る国家。龍人族自体、種族の中で最も強く、世界最強と云われる『炎龍ギル・ドラグーン』が代表を務めている。グランドワイスのやや南東に広がる大平原に謎の船が弓聖ミトの情報通り

 だが実物を自分の目で確認して、ひとつ疑問ができた。事前の情報では謎の船の周りに大量の魔物がいると聞いていたが、見た限りでは船自体、さほど大きくなく、せいぜい全長三十メートルといったところだ。周囲に魔物がいない以上、船の中にいるかと思ったが、あの船の中にそこまで魔物が詰め込まれてるとは思えない。

 その疑問は、船にある程度近づいた時点で解消した。船を中心に半径百メートル内に大きな円陣が地面上に描かれていく。円陣内に黒色の発光とともに、魔物が大量に地面から浮上してくる。

 ゴブリン系各種バラエティセットで、緑小鬼ゴブリンが一番多く次に中鬼ホブゴブリン、数は少ないがやはり存在感のある大鬼オーガの三種類で数は全部で百匹くらいはいる。

 しかし、こちらは鬼人族の精鋭である各派閥の代表九人とすでに七英雄に近い実力なのでは? と疑いたくなるような小人族と戦闘センスだけで言えば、世界でも指折りに入ると思われる海人族。そして魔物なのに意思疎通ができ、小人族の相棒で高い戦闘力を誇る灰色小鬼がついている。

 ゴブリン、ホブゴブリンは容易く仕留められるが、大鬼オーガは体力、耐久が高く倒すのに少し手間取るものの苦戦する程ではない。一行と魔物がほぼ同数くらいまでなった時点で円陣が再度発動し、魔物の増援が地面から浮上する。

 次は、蟻系魔物各種で兵隊蟻ソルジャーアント隊長蟻キャプテンアント近衛蟻ガードアント女王蟻クイーンアント、数は先ほどのゴブリンセットよりさらに多く、三百匹はいる。

 先ほどのゴブリン達より格段に強いうえに数も多い。だが、それでも苦戦はしない。ペンネがスキル【重力】を円環状に発動させ、自分達の周囲を囲む蟻の更に外周にいる蟻たちの動きを封じてくれた。その間に内側にいる蟻どもを駆逐していく。

 奥にいる女王蟻クイーンアントは近衛蟻四匹に守られていて、マカロニがそこに突撃していく。近衛蟻は他の蟻と比べ段違いに動きが速いが、マカロニは遥かにそれを凌駕する。近衛蟻が一体ずつ減っていき、女王蟻自らマカロニと対峙するものの、その相手は小人族が生んだ化け物……さほど時間もかからないうちに決着がつき、女王蟻の頭部が胴体と切り離され、空中を舞った。

 あとはまた同じようにほぼ同数となった時点でまた、円陣がこれで三度みたびとなる発動がおきる。

「本番だね~」、「気をつけろ……」

 マカロニとトルケルがそれぞれ周りに注意を促す。

 四本腕の大きな石像四体と十六体の石像が浮き上がってきた。四本腕の大きな石像の手にはそれぞれ四本の斧槍が握られており、十六体の石像は両手に鉄棒状の武器を構えている。

「大きいのは、それぞれ僕とトルケル、ペンネ君、シュンテイでやって、残りは他の人に任せていいかな~?」

 マカロニの提案に皆、賛同し、それぞれの相手となる大きな石像と相対する。近くにくるとデカい……。

 ──っ、うわっ!!はやっっ!!

 近づいた途端、四本の斧槍が恐ろしい速さで繰り出されてくる。鋭く伸びてきた斧槍を勁力系【闘気:読絲】で躱していく。攻撃範囲が広く懐が深く直接は刀で斬れない……。どうしよう?

 試しに勁力系スキル【闘気:纏塊】で斧槍を吹き飛ばそうとしたが、石像の分際でこちらの刀の威力を削ぐため、器用に往なしてきた。

 周囲を見ると、マカロニは完全に大きな石像を圧倒している。ペンネは自分と一緒で四本の速くて巧みでかつリーチの長い斧槍に対して攻めあぐねている。トルケルは、自分と同じ先読み系のスキルを持っているのか、相手の動きを完全に把握しており、四本の斧槍の攻撃をすべて弾きながら懐に入りつつある。

 あれを使ってみるか……。

『数多ノ刀槍矛戟ニ於テ 我 犀利ニ秀デル物也【黑刀】』

 覚醒時に天使より授かった英雄スキルを発動すると、手にした刀が黒く滲み変色した。大きな石像の持つ斧槍が、何の手ごたえもなく黒い刃に触れた瞬間、

 後を追うように繰り出された残りの斧槍も同じように斬り・・石像に駆け寄り切り刻む。自分の相手が片付き、再度周囲の状況を確認する。マカロニがすでに自分の持ち分だった大石像を倒し、少し劣勢気味のナラクの代表たちのところに加勢に回っている。

 自分シュンテイは隣で戦っているペンネの方に近づき【黒刀】で大石像の斧槍を一本切断した途端、ペンネが素早く懐に入り込み、大石像を仕留めにかかった。

 もう大丈夫だろう……。トルケルの方は、もう自力でトドメを刺そうとしている。考えてみると、スキル無しでよくあそこまで力と技を練り上げたものだ……驚嘆に値する。

 すべての石像を葬ると円陣は消えて四度目の発動は起きなかった。少し浮いている船にマカロニやペンネは先に飛び乗り、マカロニがスキル【糸】で作ったハシゴで船の甲板に登れた。

 甲板のほぼ中央の台座に置かれている黒い玉を弓聖ミトから預かっていた白い玉に置き換える。それが合図だったのか船の底の部分から、機械のような音が聞こえると、船が更に少し浮き上がる。

「ねえねえ! シュンテイ? これ操縦してみていーい??」

 船尾部の操舵輪のところにマカロニがあがって、目を輝かせて、自分に声を掛けてきた。

「シュンテイお前が運転しろ……マカロニに操舵させたら多分ロクなことにならない……」

 自分の近くにいたトルケルがボソッと呟く。

 うん、自分もそんな気がする。あわててマカロニを制止し、自分がこの『空飛ぶ船』を操縦することになった。

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