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鬼人族シュンテイ編
Chapter 059 四英雄
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【神の箱庭】
うわぁ─、なんてこったい……。
女神アリアは、頭を抱えて発生してしまった神災を食い入るように見つめる。
短気で我儘な女神ペレが「神の箱庭」を去り際に惑星メラに投げつけた〝なにか〟が目の前の画面上で猛威をふるっている。
☆
自由国「オルオ」の地下迷宮……。
世界でもっとも冒険者にあふれるこの国では、黒い筐体により現れた地下迷宮を攻略せんと多くの冒険者が挑み続けるものの、絶えず発生する大量の魔物と稀に遭遇する死神と呼ばれ恐れられる〝黒い魔物〟の出現により、深く広大な構造な迷宮を八階層までしか攻略できていなかったが、約一週間前に魔物が突然変異し、脅威度が跳ね上がったことから冒険者たちは地下迷宮から撤退を余儀なくされた。
さらにこれまで迷宮からは外界へ一切、出てこなかった魔物達がなぜか突然、次々とダンジョンの外に出始めて当初パニックに陥った。だが現在は、自由国オルオの赤星アレン率いる国軍により迷宮入口まで、魔物の勢力を押し返すことに成功したが、それから膠着状態になったそうだ。
現在〝コードワールド〟が発動されているが、一週間前に勃発したトゥーリー連邦のミルフレイア聖王国の侵略により両国が戦争状態にあることから、他の東側諸国のグランドワイス、ドォナント領、プライアンクリフが海路を絶たれ、増援が望めない状況になっている。
そんな中、二日前にようやく西側諸国から派遣された正規兵や傭兵で編成された第二陣が到着したことにより、戦況を大きく塗り替え、本日は既に以前到達した階層の第八層まで巻き返していると報告が地上に上がってきている。
第二陣には、マルボロ国王弟の〝銀閃ジオ・アルマニ〟ナラクのジャーポの頭領〝金剛ジン〟──オルズベク皇国女王〝蛍火カルノア〟が加わり、人族の英雄と誉れ高い〝赤星アレン〟と併せて七英雄のうちの四人がそろったことになる。
また、ビルドア帝国のロンメル高等技術学院の初代学院長の歴史上の人物〝ザ・ナート〟と彼の弟子マイネと名乗る少女が現れ、七英雄に引けを取らないほどの活躍を見せている。
ザ・ナートからの要請で、当初連合軍の他の部隊に組み込まれていた魔人族の蛍火カルノアの三男ヴァン・オルズベクと彼の護衛ロレウ、獣人族で羊人のチャイチャイと名乗る商人、そして自由国オルオの見習いの騎士一名を地下迷宮の攻略中、遊撃隊として彼の指揮下に入れたいと四人の英雄に申し出があって、英雄たちはそれを承諾した。
最前線の九階層では広大な空洞の中で戦闘が行われ、銀閃ジオは【震脚】により強大な敵を胴ごと吹き飛ばし、金剛ジンの【雷霆】により群がる周辺の敵を雷で駆逐し、蛍火カルノアは青い小さな無数の光点を浮かび上がらせ、後方の増援として現れた大量の敵に飛ばし、着弾と同時に業火の火柱があちこちで上がる。
その後、地中からせり上がった来た十メートルはあろうかと思われる巨大石像〝階層主〟に対して、赤星アレンは飛び上がり大空洞の天井に着地、そこから巨大石像に向かってスキル【流星】を発動させる。
自身が光の隕石となり落下し、巨大石像を頭上から粉々に吹き飛ばす。
そんな英雄たちの戦闘を大空洞の一番後方で挟撃されないよう警戒義務を余所にヴァンやチャイチャイ達は目の当たりにしていた。一度、休憩も挟むと英雄たちは広大な空洞の奥にある十階層に続く階段を下り始めた。
大分、物資も乏しくなったことからザ・ナート率いる遊撃隊は物資補給係として、他の負傷者数名も一緒に連れて一度、地下迷宮入口まで、恩恵スキル【空間転移】で戻ってきた。
負傷者を医務テントに運び込み、物資補給のため、各自散らばって作業していると、ザ・ナートとマイネが急に顔をあげ、動きを止める。
「あかん、えらいこっちゃ……マナちゃん、操縦をナーステリアちゃんに代わって入口で待機しておいて」
ザ・ナートがマイネにそう言うと一人、空間転移で姿を消した。マイネはしばらく屹立して微動だにしなかったが、やがて人形のような変な動きをしながら地下迷宮の入口に歩いて行った。
しばらくすると、ザ・ナートが空間転移で銀閃ジオ、金剛ジン、蛍火カルノアの三人を連れて戻ってきた。見ると全員血だらけの満身創痍で、金剛ジンは意識を失っていて、他の二人も自分で身体を動かすのも難しそうなくらい疲れ傷ついている。
「すぐに医務テントに運んで」
ザ・ナートが回りのものに指示をする。
「回復薬は一応、持たせてたんだけど、それまでの階層攻略で残量が減っていたのと相手が悪くて、残薬はすぐ底が尽きたみたい……。『救世モード』でやってみたけど、それでも分が悪くてアレンが盾になってくれたからなんとか三人だけ連れて帰ってこれた……。ナーステ……じゃなかったマイネ、入口に〝結界〟を張って」
自由国オルオからザ・ナートの遊撃隊に編入された見習い騎士がザ・ナートの胸ぐらを掴み、大声で赤星アレンを見捨てたとザ・ナートを非難しているが、ヴァンとチャイチャイで若い見習い騎士をとめる。
見捨てたわけじゃない、やむを得なかった……。ましてや「ザ・ナート」のような次元を超えた存在ですら敵わない相手に対して、為す術は非常に限られているはずだ。
二人で何度も言い聞かせる。どうしようもない状況であったことを少しの間だが、ザ・ナートの下で戦った彼だってわかっているはずだ……。理解しているが言わずにはいられないのだろう。
ザ・ナートの弟子マイネが、入口に恩恵スキル【結界】を発動させた。
「さて、しばらくはこれで凌げるが、いずれ破られる……さて、どうしたものか?」
★
【神の箱庭】
ぐわぁぁ、あの女神なんっちゅう『エゲツナイ』ものを置いていきやがったんだぁぁぁぁ。
アレン君を失ったやないか⁉ どうしてくれるんだよ、トゥーリー連邦の方の抑えも効かなくなるし……。
あれ? なんでこんな同時に〝こと〟が起きたんだろ……本当に偶然?
そういえばここ数日バタバタで、鬼人族の子の方を見てないけど、あっちは大丈夫かな? まあマカロニ君とか海人族のミズナちゃんの守り神もいるし、大丈夫だと思うけど……。
うわぁ─、なんてこったい……。
女神アリアは、頭を抱えて発生してしまった神災を食い入るように見つめる。
短気で我儘な女神ペレが「神の箱庭」を去り際に惑星メラに投げつけた〝なにか〟が目の前の画面上で猛威をふるっている。
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自由国「オルオ」の地下迷宮……。
世界でもっとも冒険者にあふれるこの国では、黒い筐体により現れた地下迷宮を攻略せんと多くの冒険者が挑み続けるものの、絶えず発生する大量の魔物と稀に遭遇する死神と呼ばれ恐れられる〝黒い魔物〟の出現により、深く広大な構造な迷宮を八階層までしか攻略できていなかったが、約一週間前に魔物が突然変異し、脅威度が跳ね上がったことから冒険者たちは地下迷宮から撤退を余儀なくされた。
さらにこれまで迷宮からは外界へ一切、出てこなかった魔物達がなぜか突然、次々とダンジョンの外に出始めて当初パニックに陥った。だが現在は、自由国オルオの赤星アレン率いる国軍により迷宮入口まで、魔物の勢力を押し返すことに成功したが、それから膠着状態になったそうだ。
現在〝コードワールド〟が発動されているが、一週間前に勃発したトゥーリー連邦のミルフレイア聖王国の侵略により両国が戦争状態にあることから、他の東側諸国のグランドワイス、ドォナント領、プライアンクリフが海路を絶たれ、増援が望めない状況になっている。
そんな中、二日前にようやく西側諸国から派遣された正規兵や傭兵で編成された第二陣が到着したことにより、戦況を大きく塗り替え、本日は既に以前到達した階層の第八層まで巻き返していると報告が地上に上がってきている。
第二陣には、マルボロ国王弟の〝銀閃ジオ・アルマニ〟ナラクのジャーポの頭領〝金剛ジン〟──オルズベク皇国女王〝蛍火カルノア〟が加わり、人族の英雄と誉れ高い〝赤星アレン〟と併せて七英雄のうちの四人がそろったことになる。
また、ビルドア帝国のロンメル高等技術学院の初代学院長の歴史上の人物〝ザ・ナート〟と彼の弟子マイネと名乗る少女が現れ、七英雄に引けを取らないほどの活躍を見せている。
ザ・ナートからの要請で、当初連合軍の他の部隊に組み込まれていた魔人族の蛍火カルノアの三男ヴァン・オルズベクと彼の護衛ロレウ、獣人族で羊人のチャイチャイと名乗る商人、そして自由国オルオの見習いの騎士一名を地下迷宮の攻略中、遊撃隊として彼の指揮下に入れたいと四人の英雄に申し出があって、英雄たちはそれを承諾した。
最前線の九階層では広大な空洞の中で戦闘が行われ、銀閃ジオは【震脚】により強大な敵を胴ごと吹き飛ばし、金剛ジンの【雷霆】により群がる周辺の敵を雷で駆逐し、蛍火カルノアは青い小さな無数の光点を浮かび上がらせ、後方の増援として現れた大量の敵に飛ばし、着弾と同時に業火の火柱があちこちで上がる。
その後、地中からせり上がった来た十メートルはあろうかと思われる巨大石像〝階層主〟に対して、赤星アレンは飛び上がり大空洞の天井に着地、そこから巨大石像に向かってスキル【流星】を発動させる。
自身が光の隕石となり落下し、巨大石像を頭上から粉々に吹き飛ばす。
そんな英雄たちの戦闘を大空洞の一番後方で挟撃されないよう警戒義務を余所にヴァンやチャイチャイ達は目の当たりにしていた。一度、休憩も挟むと英雄たちは広大な空洞の奥にある十階層に続く階段を下り始めた。
大分、物資も乏しくなったことからザ・ナート率いる遊撃隊は物資補給係として、他の負傷者数名も一緒に連れて一度、地下迷宮入口まで、恩恵スキル【空間転移】で戻ってきた。
負傷者を医務テントに運び込み、物資補給のため、各自散らばって作業していると、ザ・ナートとマイネが急に顔をあげ、動きを止める。
「あかん、えらいこっちゃ……マナちゃん、操縦をナーステリアちゃんに代わって入口で待機しておいて」
ザ・ナートがマイネにそう言うと一人、空間転移で姿を消した。マイネはしばらく屹立して微動だにしなかったが、やがて人形のような変な動きをしながら地下迷宮の入口に歩いて行った。
しばらくすると、ザ・ナートが空間転移で銀閃ジオ、金剛ジン、蛍火カルノアの三人を連れて戻ってきた。見ると全員血だらけの満身創痍で、金剛ジンは意識を失っていて、他の二人も自分で身体を動かすのも難しそうなくらい疲れ傷ついている。
「すぐに医務テントに運んで」
ザ・ナートが回りのものに指示をする。
「回復薬は一応、持たせてたんだけど、それまでの階層攻略で残量が減っていたのと相手が悪くて、残薬はすぐ底が尽きたみたい……。『救世モード』でやってみたけど、それでも分が悪くてアレンが盾になってくれたからなんとか三人だけ連れて帰ってこれた……。ナーステ……じゃなかったマイネ、入口に〝結界〟を張って」
自由国オルオからザ・ナートの遊撃隊に編入された見習い騎士がザ・ナートの胸ぐらを掴み、大声で赤星アレンを見捨てたとザ・ナートを非難しているが、ヴァンとチャイチャイで若い見習い騎士をとめる。
見捨てたわけじゃない、やむを得なかった……。ましてや「ザ・ナート」のような次元を超えた存在ですら敵わない相手に対して、為す術は非常に限られているはずだ。
二人で何度も言い聞かせる。どうしようもない状況であったことを少しの間だが、ザ・ナートの下で戦った彼だってわかっているはずだ……。理解しているが言わずにはいられないのだろう。
ザ・ナートの弟子マイネが、入口に恩恵スキル【結界】を発動させた。
「さて、しばらくはこれで凌げるが、いずれ破られる……さて、どうしたものか?」
★
【神の箱庭】
ぐわぁぁ、あの女神なんっちゅう『エゲツナイ』ものを置いていきやがったんだぁぁぁぁ。
アレン君を失ったやないか⁉ どうしてくれるんだよ、トゥーリー連邦の方の抑えも効かなくなるし……。
あれ? なんでこんな同時に〝こと〟が起きたんだろ……本当に偶然?
そういえばここ数日バタバタで、鬼人族の子の方を見てないけど、あっちは大丈夫かな? まあマカロニ君とか海人族のミズナちゃんの守り神もいるし、大丈夫だと思うけど……。
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