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鬼人族シュンテイ編

Chapter 050 鬼人族の呆け者

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「各代表の皆さん準備はよろしいですね」

 鬼人族の住む地方〝ナラク〟のほぼ中央にある霊峰フガクの山頂の火口付近で、鬼人族のある男が集まったもの達に声を掛ける。

「それではこれより、不死鳥の羽を〝ドォナント領〟の地底湖に〝早い者勝ち〟で取りに行ってもらいます。規則ルールは派閥代表メンバーは三人まで……他派閥の妨害及び国営客船以外の乗り物の使用禁止」

 ルールの説明が終わると最後に二十年前の前回の不死鳥の羽獲得者の〝ジャーポの金剛ジン〟より開会の挨拶が始まる。

「あ~、そのなんだ……お前ら当然知ってるだろうが、これは俺ら誇り高い鬼人族のナラクに伝わる最も神聖な儀式だ……目が届かないからって、くれぐれも不正をしたり、みっともない真似なんてして鬼人族の恥をさらすなよ? あと、あんま無茶はするな! 以上、健闘を祈る!!」

 挨拶が終わり、司会役の鬼人族が開始合図を告げる。代表チームは全部で四つ、各派閥から選りすぐられた精鋭たちだ。

 ジャーポ代表のダイゼン……。ジャーポの若頭で、先ほどの二つ名持ち〝金剛〟ジンの息子にあたる。
 ナンワの代表はコオウ……。同じく若頭でかなりの武闘派という噂がある。
 トオサ代表若頭シマツ……。優男との噂を聞いたことがあるが、噂に違わず見たまんまだった。
 そしてレキオ代表、若頭シュンテイ……すなわち自分だ。

 派閥の大きさは、ジャーポが最大勢力でナンワ、トオサと続き、レキオが派閥として一番小さい。それというもののレキオだけ他派閥と違って、陸続きではない。

 他三派閥はナラクのほぼ中央に位置する霊峰「フガク」を三方から囲うように縄張りが広がっているが、レキオは西大陸三日月半島西の内海に浮かぶ、さほど大きくない島を縄張りとしている。あと他の三代表の若頭は、かねてより噂を聞き及んでおり皆、若いのに色々と既に逸話を残している。一方、自分シュンテイは、昔から優柔不断で自分で何も決められないことから他派閥の人達につけられたあだ名が〝呆け者〟。

 この争奪戦はいうなれば次期〝頭領〟の中でも他派閥が納得できるようなナラクの筆頭を選ぶための前哨戦。
 トオサ代表の若頭シマツがちらっとこちらに目をやり、にこりと微笑んでくれたが、どういう意図なのかは汲み取れなかった。他の二人は開会の儀が始まる前から互いを牽制し合っているが、この場に自分がいることが「見えない」かのように完全に空気のように扱っている。

 代表チームは司会の説明でもあったとおり、三人で一チーム。全部で十二人でレキオからはシュンテイの他、ブーテンとトルネという若頭補佐が二人ついている。ブーテンは一つ年下だが、昔から気が合う友達だ。

 もうひとりのトルネは赤髪の女性で最近まで父親の「頭付き」だったが、今回の任務で若頭補佐となってシュンテイの部下として配属された。

 霊峰フガクを隣国であるオルズベク皇国に向けて、急いで下山する。この鬼族の住まう地方ナラクは、各種族に対して国家を名乗っておらず、そこに縄張りとして領有を主張しているに留まっている。

 他種族に比べ閉鎖的で、あまりナラク以外の地方で鬼人族を見かけることはない。通常この地方に足を踏み入れる種族は極端に少ない。境界としてオルズベク皇国のみがこのナラクと接しており、友好でも敵対でもどっちでもない関係がずっと続いている。

 しかし、この不死鳥の羽争奪戦だけは話は別で事前に通過するであろう各国に話を通し、通行許可を得ている。ナラクは、その閉鎖的な種族性から近海で航行可能な漁船等は持っているが他国へ渡る定期航路を持っていない。

 なので、ルールに示された「国営客船以外の乗り物の使用禁止」からいうと必然的にオルズベク皇国を経由し山林国ケルウッドやその先にあるパルンニ共和国あるいは南に抜けて、商国パームの三経路のいずれかを使って、東大陸に渡らなければならない。

 最短経路はオルズベク皇国をそのまま横断、山林国ケルウッドの港町フォルタンから船に乗り、海上商港オーレンを経由し、ミルフレイア聖王国に行くのが距離的にも所要日数的にも一番、短く早いので恐らく全派閥チーム、普通に考えるとその経路を選ぶと考えられる。

 下山中にブーテンが喋り出した。

「シュンテイはどう思う? 他の派閥の人達って皆、恐ろしく強そうだったけど、俺たち大丈夫かな?」
「どうだろうね? 自信はこれっぽっちもないよ……」
「そうだよなぁ……こういう競争とか俺たちには性に合わないもんなぁ」

 ブーテンは元々は農家の家の出だが、生まれながらに他の鬼人より想力が高かったことから、これから頭候補のシュンテイの右腕になるよう期待され、家族ごと頭の屋敷の使用人として召し抱え、シュンテイのそばで育てられた。

「ブーテン、若に向かってなんていう口の利き方してるの?」

 そこにトルネが会話に割って入ってくる。どうやらブーテンの自分シュンテイへの口の利き方に不満があるようだ。

「大丈夫だよトルネさん、自分達、幼馴染なんだ」
「トルネとお呼びください。公の場でこのようなやり取りをされては下の者に示しがつかなくなります」
「この旅の間だけでも普通に話をさせてもらえないかな? その方が自分も気が楽だし」
「そういうお話でしたら……」

 トルネの対応は丁寧だがブーテンと違って堅苦しくて、義務的な印象を受ける。

 ちょっと疲れそうだなぁと思いつつ、霊峰フガクの裾野まで降り立ったレキオ代表一行は、そのままオルズベク皇国に向かう道を辿り始めた。

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