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妖狐あらわる
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龍様の笑い声を後にして、あやめは妖狐の姿となって雪明の屋敷から飛び出した。
向かう先は在御門家。
『願わくば、私が調伏される前に雪明が在御門家に到着しますように…』
日が沈み、逢魔が時となった頃、雪明は自邸に戻った。
『あれ?』
と思う。
あやめの気配が無い、代わりに巨大な力の気配がある。
もしや、と思って、あやめがいる部屋に向かうと、
光輝く巨大な龍がとぐろを巻いて部屋の中央に鎮座していた。
「りゅ、龍様…」
『おかえり雪明、あやめはね、在御門家に向かったよ』
雪明の表情が険しくなる。
「そうですかっ」
龍様を前にしてぶっきらぼうに呟く。
『雪明は行くのだろう?』
キリッと少し歯を食いしばる。
「あんの馬鹿狐っ!」
龍様を睨みつける目は雪明らしくない。
『約束したんだ、雪明、あやめの決意はあなたの式神でいる事…』
龍様の姿が消えていく。
「分かりましたよっ!」
雪明は言葉荒げに叫ぶと、直ぐに馬屋に向かった。
牛車では間に合わないだろうと、愛馬の手綱をとって、跨った。
ところ変わって、在御門家では―
空に妖狐の姿在りと、大騒ぎになっていた。
星が瞬き始めた夜空にフワリと浮かんでいる。
一番最初に動いたのは、光忠だった。
いつ結界が破られても攻撃できるように印を結んで霊力を練っている。
ついで、忠保の弟の忠國が矢をつがえ弓を引いて構えた。
忠保は三人の子供達を部屋の奥へ避難させる。
「大丈夫、もし結界が破られたとしても妖狐は調伏してみせるからね」
子供達に言い聞かせた後、自らは陰陽の術をかけた剣を引き抜いて、光忠の隣に並んだ。
気合は十分、皆が一斉に妖狐の姿となったあやめを見つめた。
あやめの方は、上空で在御門家の皆が動く様子を見つめていた。
恐らく、今の自分ならこの結界を破ることができるだろうと確信していた。
妖狐の姿になる度に霊力が少しずつ戻ってくるのを感じる。
それと比例して自分の人の心も少しずつ無くなっていっているのだろう、とも。
あやめはくるりとその場で回り、三本の尻尾を振った。
すると、すぐ下の空間に小さな穴ができた。
地上では、結界のその歪みを目指して、皆が狙いを定めていた。
さらにあやめは尻尾を振った。
どんどんと穴は大きくなっていく。
意を決して、素早く穴に潜りこみ、光忠の最初の一撃をかわした。
霊力がかすったせいか、背の毛が少しチリチリと焦げている。
屋敷では、光忠が次の一手の霊力を練っている。
地上に近づくと、忠國の矢が飛んできた。
霊力を乗せた矢なので、かわすのに必死になった。
あやめは、ザッと、風を切るように、簀子縁に降り立った。
忠保達とは数メートルしか離れていない。
『雪明…間に合わないかも…』
泣きたいくらいの気持ちになった。
「妖狐、諦めろ!」
皆が一斉に攻撃しようとした矢先、何かが目の前に現れて、光忠も、忠國も忠保も寸での所で攻撃をとどまった。
「みぼしひめ!」
忠保が叫ぶと、箕姫は、妖狐の前で手を広げていた。
「ダメです!」
「みい、どきなさい」
光忠が怖い形相で叫び、忠保が慌てて箕姫を抱える。
「ダメです、ダメです! お母様です!」
叫びながら、忠保の腕の中で暴れまくった。
あやめは、その様子をじっと見つめていた。
すると、その時、庭を走って来る人があった。
「待ってください~」
と、叫びながら近づいてくる。
皆がその場で緊張を解かずにいる中で、その人物は、またもや叫んだ。
「その妖狐はあやめなんです~」
雪明は息を上げながら、慌てて皆の前にたどり着いた。
「はあ、はあ、だから、この妖狐は、私の式神で、あやめなんです」
突然の人物の登場と発言に驚きつつも、それぞれが武器を下ろした。
「ゆ、雪明、うちに攻撃?」
光忠が雪明を睨みつける。
「違います、違います」
息を整えながら、雪明は弁解する。
すると、それまで静かにしていた妖狐が話し始めた。
『私の名はあやめ、雪明の式神です』
妖狐の額に雪明の印が浮かび上がった。
在御門家の皆が驚愕する中、あやめは雪明に目くばせをする。
雪明はすうーっと息を吐き出すと、霊言を唱えた。
妖狐の体が一瞬輝くと、次の瞬間には女の姿に変わっていった。
開口一番、
「あ、やめ…」
と発したのは忠保だった。
向かう先は在御門家。
『願わくば、私が調伏される前に雪明が在御門家に到着しますように…』
日が沈み、逢魔が時となった頃、雪明は自邸に戻った。
『あれ?』
と思う。
あやめの気配が無い、代わりに巨大な力の気配がある。
もしや、と思って、あやめがいる部屋に向かうと、
光輝く巨大な龍がとぐろを巻いて部屋の中央に鎮座していた。
「りゅ、龍様…」
『おかえり雪明、あやめはね、在御門家に向かったよ』
雪明の表情が険しくなる。
「そうですかっ」
龍様を前にしてぶっきらぼうに呟く。
『雪明は行くのだろう?』
キリッと少し歯を食いしばる。
「あんの馬鹿狐っ!」
龍様を睨みつける目は雪明らしくない。
『約束したんだ、雪明、あやめの決意はあなたの式神でいる事…』
龍様の姿が消えていく。
「分かりましたよっ!」
雪明は言葉荒げに叫ぶと、直ぐに馬屋に向かった。
牛車では間に合わないだろうと、愛馬の手綱をとって、跨った。
ところ変わって、在御門家では―
空に妖狐の姿在りと、大騒ぎになっていた。
星が瞬き始めた夜空にフワリと浮かんでいる。
一番最初に動いたのは、光忠だった。
いつ結界が破られても攻撃できるように印を結んで霊力を練っている。
ついで、忠保の弟の忠國が矢をつがえ弓を引いて構えた。
忠保は三人の子供達を部屋の奥へ避難させる。
「大丈夫、もし結界が破られたとしても妖狐は調伏してみせるからね」
子供達に言い聞かせた後、自らは陰陽の術をかけた剣を引き抜いて、光忠の隣に並んだ。
気合は十分、皆が一斉に妖狐の姿となったあやめを見つめた。
あやめの方は、上空で在御門家の皆が動く様子を見つめていた。
恐らく、今の自分ならこの結界を破ることができるだろうと確信していた。
妖狐の姿になる度に霊力が少しずつ戻ってくるのを感じる。
それと比例して自分の人の心も少しずつ無くなっていっているのだろう、とも。
あやめはくるりとその場で回り、三本の尻尾を振った。
すると、すぐ下の空間に小さな穴ができた。
地上では、結界のその歪みを目指して、皆が狙いを定めていた。
さらにあやめは尻尾を振った。
どんどんと穴は大きくなっていく。
意を決して、素早く穴に潜りこみ、光忠の最初の一撃をかわした。
霊力がかすったせいか、背の毛が少しチリチリと焦げている。
屋敷では、光忠が次の一手の霊力を練っている。
地上に近づくと、忠國の矢が飛んできた。
霊力を乗せた矢なので、かわすのに必死になった。
あやめは、ザッと、風を切るように、簀子縁に降り立った。
忠保達とは数メートルしか離れていない。
『雪明…間に合わないかも…』
泣きたいくらいの気持ちになった。
「妖狐、諦めろ!」
皆が一斉に攻撃しようとした矢先、何かが目の前に現れて、光忠も、忠國も忠保も寸での所で攻撃をとどまった。
「みぼしひめ!」
忠保が叫ぶと、箕姫は、妖狐の前で手を広げていた。
「ダメです!」
「みい、どきなさい」
光忠が怖い形相で叫び、忠保が慌てて箕姫を抱える。
「ダメです、ダメです! お母様です!」
叫びながら、忠保の腕の中で暴れまくった。
あやめは、その様子をじっと見つめていた。
すると、その時、庭を走って来る人があった。
「待ってください~」
と、叫びながら近づいてくる。
皆がその場で緊張を解かずにいる中で、その人物は、またもや叫んだ。
「その妖狐はあやめなんです~」
雪明は息を上げながら、慌てて皆の前にたどり着いた。
「はあ、はあ、だから、この妖狐は、私の式神で、あやめなんです」
突然の人物の登場と発言に驚きつつも、それぞれが武器を下ろした。
「ゆ、雪明、うちに攻撃?」
光忠が雪明を睨みつける。
「違います、違います」
息を整えながら、雪明は弁解する。
すると、それまで静かにしていた妖狐が話し始めた。
『私の名はあやめ、雪明の式神です』
妖狐の額に雪明の印が浮かび上がった。
在御門家の皆が驚愕する中、あやめは雪明に目くばせをする。
雪明はすうーっと息を吐き出すと、霊言を唱えた。
妖狐の体が一瞬輝くと、次の瞬間には女の姿に変わっていった。
開口一番、
「あ、やめ…」
と発したのは忠保だった。
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