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バキュラビビーの葛藤
バキュラビビー
しおりを挟むはるか彼方。
宇宙の最果てに、小さな小さな生物が生まれた。
「彼」は最初こそ何もできなかったが、自己を進化させ、身体を拡張させることができた。
1ミリにも満たない大きさから、時間をかけることで、1メートル、1キロメートルの大きさへ。
宇宙空間に散らばる物資を吸収しながら、少しずつ、自己を拡張していく。
永劫とも思える時間をかけた結果、「彼」の体長は1光年に届くほどになった。
「彼」は永遠の寿命を持ち、自分自身で進化を行えることから、同胞のようなものは存在せず、常に孤独だった。
そして最初から孤独であるが故に、孤独であるという感情も存在しなかった。
長い時間の果てに、やがて「彼」は自身と匹敵する生命と出会う時がやってきた。
そして残念なことに、それは「攻撃」という形のコミュニケーションで現れた。
そう、あるとき「彼」は突然攻撃を受けたのだ。
他の知的生命から見れば、宇宙空間で1光年もの範囲で拡張を続ける異物など、害でしかなかったのだ。
「彼」は攻撃に晒され、身を削られていく一方だった。
だが、数年も攻撃が続けば、「彼」も流石に対処を考える。
「彼」は、「飛び道具」を用意することにした。
自身の生息範囲内にある惑星資源に根を張り、資源を使って、外敵に対抗するための手駒を作り出すことにしたのだ。
「彼」が作り出した手駒たちは、ただの道具ではなかった。
一体一体が自分の意志を持つ生命体だったのである。
手駒たちは戦いに勝利するために手駒たち自身で発展を続ける。
手駒たちの数が増えるに従い、連携をとるための通信が発達していく。
そうしてやがて群れとしての形が作られてきた。
群れとして通信規定を形作る中で、自分たちの呼称が必要になってきた。
呼び名など、こだわりはなかった。
だが、連携のためには呼称は必要だ。
その頃には敵対勢力の通信傍受が可能となっており、敵勢力が「彼」を呼ぶ名も判明していた。
「ドルトイス」
それが、敵勢力が「彼」を示すときの呼び名だった。
「彼」はその名をそのまま自分の名前とすることにした。
これを皮切りに、敵からの呼び名が下地として手駒たちの名称も規定されていく。
通信規定も定まり、連携を最適化するための規定作りは急速に進んだ。
こうして形成されたのが、ドルトイス本体を議長とするドルトイス宙域連合体だった。
ドルトイス宙域の先端に位置する惑星ゲトラスカ。
ドルトイスの先端だけあり、ゲトラスカの周辺は外敵との戦いの最前線でもあった。
多くの手駒が作られては、敵の攻撃にあい、散っていった。
ゲトラスカの惑星資源が底付くのも時間の問題だ。
そんな時に作成された先兵がバキュラビビーだ。
バキュラビビーとは何か。
日本語で説明すると「化学宇宙戦闘機」となるだろうか。
他の戦闘機と異なるのは、ソフトウェアの高速自己進化を促すエクスペリエンス回路を搭載していること。
そして個体が破壊されてもエクスペリエンス回路を保持するためのリインカーネート機能も搭載していた。
因果律を利用し、粉々になったエクスペリエンス回路を「偶然の果て」に再生させる。
それがリィンカーネート機能という驚異の技術だった。
かくして、バキュラビビーは僚機のザンストマーンなどともに戦いにおもむき、ゲトラスカの周辺で、いくつもの戦いを経験した。
そして戦いの果てに、宇宙空間で四散した。
バキュラビビーのエクスペリエンス回路は偶然を利用して、ドルトイスの元に復活する……はずだった。
だが、開発されたばかりのリィンカーネート機能は完全なものではなかったらしい。
エクスペリエンス回路がドルトイスの元に復活することはなかった。
エクスペリエンス回路が「偶然の果て」に復活したのは、ドルトイスから何億光年も離れた宇宙の片隅。
現地人が「地球」と呼ぶ惑星だった。
「そうして茅野宮美郷の神経回路に蘇ったのが私だ」
大きく省略して話したつもりなのだが、長い話になってしまった。
郡山重文のほうを見ると、何も言わずにこちらを見つめている。
まぶたを大きく開き、瞳孔が収縮しているところをみると、驚いているのかもしれない。
「この地球の常識的知識からすると、途方もない話だということは理解できる。とうてい信じられないだろうな」
普通の地球人であれば、理解不可能な話だ。
ドルトイスを知っているからには、もう少し反応があるかとも思ったが、郡山重文は1分ほど、そのまま硬直していた。
「荒唐無稽な話と笑ってもらって構わない。かわりに君の知っていることを……」
「この宇宙がいつできたか知っていますか」
私が言い終わる前に、郡山重文が突如口を開いた。
「130億年前という説もあるそうですが、私はそうは思っていません。宇宙ができたのは、ほんの5分ほど前であることを誰も否定することはできないんですよ」
「なにを言っている? そんなわけがないだろう」
「世界5分前仮説と言います。量子の揺らぎがたまたまごくごくわずかな確率の元、偶然の果てに世界を構築したのではないか。そういう仮説です。全人類の記憶さえも、偶然によって形作られたものだという話ですね」
今、郡山重文は偶然の果てと言ったか?
「この説が正しいことを証明することはできませんが、そのかわり間違っていることも証明できません。仮にこの説が正しいとするならば、偶然の果てに思考回路を蘇らせるというアプローチは納得できるものです」
やけに饒舌だ。そして笑っている。
「そしてそのリィンカーネート機能が本物であるならば、納得がいくことがあります」
郡山重文は喋り続ける。私は口を挟むこともできない。
「私にもあるんですよ、宇宙を飛び回っていた記憶が。戦いの記憶が。あなたほどはっきりとした記憶でありませんがね」
私の心臓がドクンもいう音をたてて跳ねた。
「なん…….だと……?」
そう呟くのが精一杯だった。
「私は、今まで周囲とは違う自分に苦しんできました。でも、よかった。ようやく私と同じ人に会うことができました」
さっきまで笑っていた郡山重文の顔は、違う形に崩れていた。
この顔の形は、『せつなそう』と言っただろうか。
一方で、私の心臓はドクドクと大きな音をたてて鳴りつづけていた。
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