もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。

天海みつき

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乾いた日々

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 無味乾燥な日々には慣れているはずだった。もっと痛みに満ちた日々を知っていたはずだった。けれど、優しくて暖かな日々のせいで、思いのほか僕は弱くなっていたらしい。

 昼休み、僕はとある空き教室で昼食代わりの野菜ジュースを手に、壁を背にしてズルズルと崩れ落ちていた。

 夕暮れのあの日から、僕の世界は薄膜一枚かかったようだった。何をしても、何処か現実味がなくて。なのに、泣き叫ぶ「僕」の欠片は、生々しく僕の中で主張していた。一気に体重の落ちた僕を、家族が酷く心配している事を申し訳なく思いつつも、僕の体は何も受け付けなくなっていた。

 「……どんな子なのかな」

 「彼」にあんな顔をさせるなんて、羨ましい。どんなに振り払っても、どうしてもその想いだけは消えなくて、未練がましいと僕は項垂れた。

 それにしても、と僕はノロノロとスマホを取り出しため息をついた。偶には違う所で食べようぜ、と誘ってきた友人は、直前に教科担当に連行されたまま帰って来ない。課題何て、ちゃんと提出すればいいだけなのに、馬鹿な奴。やさぐれた頭で、凄まじい量の罵詈雑言を脳裏の友人にぶつけてストレスを発散する。その時、すぐ脇の窓から冷たい空気が入り込んできて、僕は体を震わせた。

 そう言えば、空気を入れ替えようと思って、少しだけ窓開けたんだっけ。

 ぼんやりしている内に、教室内は冷たい空気で満たされており、思った以上に体が冷えていたらしい。戻るか、とため息をついて腰を上げようとした瞬間。

 「好きです!付き合ってください!」

 窓の外から可愛らしい声が聞こえてきて、僕の体から力が抜けた。気付かぬうちに、外が告白会場と化していたらしい。人の恋路に首を突っ込んでいい事はない、とため息をついてもう一度立ち上がろうとしたのだが。

 「ありがとう」

 聞こえてきた別の声に、僕はもう一度硬直する羽目になった。

 ――間違いない。間違えるはずがない。悠真が、すぐ傍に居る。

 祐真の優しい声に勇気づけられたのだろうその子は、緊張した声音で、それでも一生懸命に祐真の良さを語っている。優しい、かっこいい、あの時の祐真君が、友達も祐真君いいよねって言ってて。

 聞きたくないにも関わらず聞こえてくるその内容に、祐真と過ごした僅かな日々が脳裏に浮かぶ。そして、優しいよね、かっこいいよね、と無意識に頷いていたのだが、徐々に表面的な事しか言わないじゃないかとか、ステータス目的じゃないかとか思えない内容にむかむかしてくる。

 ちがう、祐真はそんな人じゃない。完璧って言ってるけど、本当はうっかり屋なんだ。クールとか言ってるけど、子猫にそっけなくあしらわれて拗ねる子供みたいなやつだ。大好きな子がいなくて、寂しいって泣いちゃう一途なやつだ。友達が祐真について言ってたとか、そんなのどうでもいいじゃん。悠真は、祐真は。

 壊れたとばかり思っていた感情が、実は小さな箱に押し込められていただけだと気付いた。優しく相槌を打つ愛おしい声に、その小さな箱がギシギシと悲鳴をあげるのが分かる。

 ずっと望んでいた事。「彼」が「僕」を忘れ、誰か大事な人と幸せになる事。

 でも、現実に形となって現れた時、どうしても心が叫ぶのだ。寂しい、悲しい、どうして君は一緒に居ないの、君がいないと僕は。僕じゃダメなの、僕を選んで、


――僕に気付いて。置いて、行かないで。



 どうしようもなく膨れ上がる感情が箱を破って。

 「ありがとう。でも、ごめんね。好きな子が、大事な子がいるんだ」
 同時に、優しい声で悠真がそんな事を言うから。安堵と「大切な子」への嫉妬までもが混じり込んで。ぐちゃぐちゃになった感情が、涙となって形になり。小さく体を丸めて、声を殺して泣きじゃくる。

 「まったく。そんなに苦しそうに泣くなら、アレコレ考えすぎなければいいのに」

 からりと音を立てて窓が開き、やれやれと祐真は苦笑した。
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