キバー・プンダー コンフェッションズ

yoshimax

文字の大きさ
17 / 26

15

しおりを挟む

6人は、船で港から出航した。
大海原が、行く先に広がり、偉大な海を見て6人は歓喜した。
一行の船は、一隻の帆船である・・・・・。
船は進む・・・・・・・・・・。
甲板にKUROSAWA、なおこ、ヒョットコ、比我、ヘルムート、天狗( バーガス)。
なおこは楽しんでいた。
「風が気持ちいいわ」
風になびく、なおこの髪が美しい・・・。
KUROSAWAも相槌を打つ。
「うむ、そうだな。しかし、天狗さん・・。
あんたがこんな船の操縦法を知っていたとは意外。機械につよいね、君」
天狗(バーガス)は、グッジョブのサインを親指でするのだった。
比我も言う。
「いや助かったでござるよ。万華鏡の中に示される場所は船でなければ無理」
ヘルムートは言う。
「港を出て、この大海原に出たが、どこに向かえばいいのじゃ?」
比我は答える。
「それは、香港じゃ!」
ヘルムートはびっくりする。
「えーっ、まじで? では、いまは、香港に向かっておるのじゃナ」
比我は答えた。
「そうじゃ、さきほど天狗船長に行き先を支持した。
香港ワンチャイの港から入る」
天狗(実はバーガスだが・・)は、うなずき、そして甲板を離れた。
ヘルムートは天狗についてゆく・・。
比我は、にたりとして、・・・心に思った。
「くっくっくっく。ばかどもメー。私しかあの地図を解読できんのだ。
じつは、まったく逆を教えたのさ。ぎゃはは。地図は、私の頭に焼きついた。
こいつらを香港におろして、わたしは、とんズラサー。
別の舟をやとって本当の宝のありかへGO! ・・・ダヨ」
船の操舵室に、天狗(バーガス)が入って来た。
ヘルムートの爺さんも、中に入って来た。
(操舵室には、この2人のみだ・・。)
天狗は、おもいっきり、舵をまわした・・。
ヘルムートは言った。
「我々は、香港に到着後、広州へと向かう」
天狗は聞き返す。
「えっ、なんで?」
ヘルムートは言うのだった。
「君の修行のためだよ」
天狗は言った。
「だって、そりゃおかしいよ。これって、宝探しだろ?」
ヘルムートは言う。
「私の長年のカンだがな、これは、単なる宝探しでなはい」
天狗は驚く。
「ええっ?」
ヘルムートは宙を見て言った。
「この海のように、予想もつかぬ旅になる」
天狗、再び、おもいっきり舵をまわした。
ヘルムートは言った。
「ふふふ。君は、舟を進ませる技は天才的だな。
ノアの箱舟に乗ったつもりでいよう」
(突然)なおこのヒメイがひびいた。(それは、2人の後方から聴こえた。)
なおこの叫び声は、何か、尋常ならざるものだ。
「きゃああああああああああああ!!!!!」
ふりむく、ヘルムートと天狗だった。
そして操舵室を駆け出る2人だった・・。
甲板は騒然としていた。
KUROSAWA、ヒョットコ、比我が、宙を見ているのだった・・。
KUROSAWAは叫ぶ。
「くそおおおおっ!!!」
海原は快晴だったが、対照的に甲板では争いが起こっていた。
船は走り続けている・・・・・・・・・・。
KUROSAWAは、じたばたと空にむかって刀を振り回していた・・・・・。
空には、あの、土蜘蛛が・・!
ネバネバした蜘蛛糸でなおこをガンジガラメにして、つれさろうとしている!
土蜘蛛は、巨大な蛾にかかえられて飛行しているのだった・・。
異常な光景だ。
なおこは恐ろしさに叫ぶのだった。
「ぎゃーーーーー!」
KUROSAWAは土蜘蛛に向かって叫んだ。
「ゆるさんぞ! 土蜘蛛メ!」
土蜘蛛は余裕でそれをあしらうように言った。
「ほざけ~~ ぎゃはははは」
なおこの手には、あの宝の地図の万華鏡が!
土蜘蛛は言う。
「このおんなは、いただいてゆく! わはは、ぎやぁーーーははははひひひ!
この女は、我々のつくろうとしているデモンズ1 万年帝国のなかまにする。
そういうつもりだ。
南の大陸でな!!」
土蜘蛛は、口から火の玉を舟の甲板に向かって、どかどかと吐いた。
土蜘蛛は笑って言った。
「あ・ば・よ!」
舟は、もえあがった。
土蜘蛛は、巨大蛾にかかえられて、さってゆくのだった。
その時、突如、KUROSAWAの身体が光った・・。
ぎょっとする比我ドロンであった。
ヘルムートはハッとして言った。
「宇宙からやってきたハイパー文明を持つクリシュナ一族の特徴だ!
KUROSAWAよ、そなたは一体なんなのだ?」
KUROSAWAは言った。
「私はサムライの一族の末裔の家に育てられた。しかし、本当の記憶はない」
ヘルムートはKUROSAWAに言う。
「そうか。そなたの出自は宇宙人じゃ。地球の人間ではない。その光。
そなたの一族の『成長』の姿なのだ、時期が来ると起こる」
KUROSAWAは不思議な顔をして言った。
「宇宙人・・・とは?」
ヘルムートは言う。
「西洋の探求では、夜空に見える星星もそれぞれに大地を持っている、という。
その大地から、なんらかの船に乗って、ここへやってきた人々のことだ」
KUROSAWAは、一瞬微笑した。
「フフッ」
KUROSAWAは,ふと思い出した。それはチベットに行ったときに、
パワーを集中させるメソッドを謎の男から学んだときの事だ。
KUROSAWAは力を振り絞るのだった・・・。すると・・・。
彼の顔から、土蜘蛛に向かってきらめくレーザービームが放たれた。
金色とエメラルドグリーンのパワーオーラ!
パワーオーラはいくつも、つぎつぎに放たれた。
そして・・パワーオーラは、巨大蛾を駆逐した・・・・。
巨大蛾の支えを失った土蜘蛛は、自分の羽を出した。
(だが、その羽は先の戦でダメージを受けていたので飛行バランスは悪い。)
KUROSAWAは、再びパワーオーラを放出すべく、気合を入れた。
しかしヘルムートは彼に忠告した。
「おい、KUROSAWA、それ以上はなつと、あんたが危険だ!」
KUROSAWAの体が、金色とエメラルドグリーンの粒子に変わってきていた・・。
ヘルムートは大声で言った。
「肉体をうしなうぞ!」
KUROSAWAは言った。
「構うものか!ここでなおこを失うならば人生など今後あってもしかたない」
KUROSAWAがつぎつぎに放つパワーオーラが、飛ぶ土蜘蛛を攻撃した。
パワーオーラは、土蜘蛛の2本の足をもぎ取った。
その様子を見ている天狗(バーガス)とヘルムート。
しかし、ついにKUROSAWAは肉体を失い、究極のエナジーとなるのだった・・。
その体は全てキラキラした金とエメラルド色の粒子に変化し、ほとばしった。
KUROSAWAは、宇宙のエナジーにブレンドインしたのだ。善なる魂として・・。
しかし、土蜘蛛はなおこと万華鏡を抱えて、ゆらゆらと飛び去った・・・。
船は致命的な火災となっていた。






そこから少し離れた海原には、国籍不明のエキゾチックな船があった・・・・。
その船の甲板にアラビア風のターバンを巻いた男がいた。
彼は双眼鏡で海を見ていた。
彼の船は中型ながらも豪華な白い船だ。
1人の執事が、その男にココナッツジュースを持ってきた。
執事は彼に声をかけた。
「バルダット王子、もうあきらめましょう」
しかし、その男バルダットは、双眼鏡で海原を見回し続けた。
執事は言った。
「王子が、お探しになっている冒険などというものはどこにもありませんから。
あれは、漫画のような絵空事です」
バルダットはジュースを手に取り、言った。
「いや、ある。
わたしのたいくつな日常を満足させてくれるまだ見ぬ世界がどこかにあるのだ。
それを探すために、わたしは、この最新鋭の舟を建造させた。
そして、アラビアを離れ、この東の海までわざわざやってきたのだ」
怪訝そうな目で、執事はバルダットを見た。
執事は心の中で思った。
「王子も、このビョーキがなければナイスガイなのだが。
王子は冒険の願望に取り付かれているのだ。
ものごころついてから、ずっと治らぬビョーキぢゃ」
双眼鏡を覗き続けるバルダットだった・・・。
バルダットは何かに気づいて、言った。
「ん? あそこに何か見えるぞ。あそこの海上で煙が上がっている」
執事は、見もせずに言った。
「ばかばかしいことですよ。だだの蜃気楼ですよ。
もうアラビアにもどりましょ」
バルダットは、満面の笑みで言った。
「おもしろそうだ。サーカスだ。パーティだ。酒をもってきてくれ」
執事はバルダットを制して言った。
「おとなになってくださいよ」
バルダットは楽しくなり、昔の詩を引用した。
「ルバイヤートによれば、こういう歌がある。
・・・『恋する者と酒飲みは地獄に行くと言う。
根も葉もない戯言(ざれごと)にしかすぎぬ。
恋する者や酒飲みが地獄に落ちたら、天国は人影もなく、さびれよう!』」
執事はあきれて言った。
「あなたの病気ですね、また出ましたね・・・」
バルダットはしかし、高らかに声をあげた。
「冒険、冒険」
執事は、なげかわしい、といったそぶりで言う。
「何を言っているんです? 
われわれが、なぜ今この船に2人だけしか居ないのか、もうお忘れですか?」
バルダットは少し顔を曇らせて、それに答えた。
「そうだな・・・、あの島は、おそろしい島であったナ・・・・・」
執事も思い出すように言った。
「ええ」
バルダットは空を見上げて言う・・。
「われわれは、永遠の命の島を探しつつ、あの島に立ち寄った。そうだったな。
船への補給も必要だったしナ。
すると、島におりたち、すぐに美女たちが出迎えた。
ウタゲと遊びの2ヶ月であったな、それからは・・・。
しかし、われわれは気付いた。1人1 人がだんだん減ってゆくことに。
美女の部屋に入ると、それっきり出てこなくなる船員たち・・・・・。
わたしは、それほど『すばらしき』部屋なのか、と思っていた・・・・・。
しかし、その部屋の中で、・・・!
美女に化けていたハーピーが本性を現し船員の男たちをついばんでいたは!
命からがら逃げられたのは、われわれ2人だった、というわけだ。
おぼえているとも!」
バルダットは目を閉じた。
執事は、そのうえで言った。
「では、もうアラビアへと帰りましょう、バルダット王子」
バルダットは、カッと目を開き言った。
「これで最後だ。これは神が私に引き合わせたこと。あの煙の場所まで行く」
バルダットは、船を大きく旋回させるのだった・・。
バーガスたちのもはや木片のクズとなって、殆ど沈んでしまった船へと・・。
バルダットの船は、煙の出ていた場所まで来た。
船のかけらの木片にやっとのことで乗っている天狗面のバーガスたちがいた。
ヘルムートは大声で言った。
「おーい、助けてくれ。船が燃えてしまったんぢゃ!」
ヘルムートの救助要請を聞き、バルダットは船から海面に縄ハシゴを落とした。
そしてバルダット船内にて・・・・・・・。
バルダットの執事は4人をテーブルへ招いた。
(ヘルムート、天狗面のバーガス、比我、ヒョットコ)
そして、彼はチャイティーを振舞うのだった。
バルダットはみなに言った。
「なにか面白いことがあるんだろう?」
比我ドロンは、チャイティーを飲みながら言った。
「香港へ向かっている。」
ヒョットコが言う。
「ある財宝の在り処が香港らしいのだ」
バーガスが言う。
「土蜘蛛が、なおこと財宝の地図を奪っていった・・。
やつらに取られるより先に、我々が見つけなくては!」
バルダットが言う。
「まったく、まったく、おもしろい。わたしも同行したい。
この船で香港へと向かうぞ」
執事はふかくため息をつくのだった・・・。
ヘルムートが言う。
「しかし、我々の今の力では勝利はないかもしれん。
私と、その天狗の男は、香港で船をおりたら、2人で広州へ向かう。
そこにPANDA KOICHIROという仙人がいる。そこで修行をさせてもらう」
ヒョットコは言う。
「では、わたしはさぐりを入れるために先に比我ドロン殿と、土蜘蛛を追う」
比我ドロンはポーカーフェイスを決め込んでいる・・・。
比我は、しかし、心では企んでいた。
「はっはっ、香港でヘルムートと天狗とはお別れか。
ヒョットコは途中で煙に巻いて、わたしだけ、香港を去ろう・・・。
バルダットはどうするか」
比我はポーカーフェイスで、自分の心情を悟られまいとしているのだった・・。
比我は言った。
「正直なところ合理的な戦力比較で言うなら、土蜘蛛に我々は勝てないだろう。
しかし、あの怪物は知恵はたいしたことはない。
土蜘蛛には、地図から宝の在処を割り出すことは出来ないだろう。
宝は、香港にある、ある高い山の頂上にあると推測できる・・・」
そこまで話した比我は心ではほくそ笑みながらポーカーフェイスを装っていた。
比我は心の中で思った。
「香港の高い山にあるなんて、うそさ。ぎゃは。
本当は琉球(沖縄)の慶良間諸島にあるのさ!」
比我は、そしてポーカーフェイスでしゃべりを続けた。
「たしかに、しかしヘルムートさんの言うとおり・・・。
土蜘蛛との最終決戦に挑む前に、できる者は修行をすべきかもしれない」
バルダット王子は、これらを話を聞くと、わくわくしてくるのだった。
バルダットは言った。
「私もあなたたちと行動をともにしよう。
この船が香港ベイエリアに到達したあとも!」
執事が口をはさんだ。
「バルダット王子様、お忘れですか? 
我々は、全ての船員を、あの人食い女の島で失ってしまったのですよ。
土蜘蛛だの何だのというような東アジアの怪物に関わるのは御免です、私は」
バルダットはしばし考え、言った。
「そうだな、故郷へ戻るとするかな・・。
香港をあとにしたら、ゆっくりと故郷の港までは体を休める船旅としよう」
執事はホッと息をついた。
香港・・・、そこは、エメラルドグリーンの湾を持つ、美しい港町であっ
た・・・・・。
バルダットの船は香港湾内へと入ってきた。
ハーバーへ到着すると船から碇が下ろされた。
船から降りてくる、ヘルムート、天狗バーガス、比我ドロン、ヒョットコ。
そこは、香港の港町ワンチャイ・・・・・・・・・・・・。
4人は、ワンチャイのヤムチャで、しばし息をついた。
シューマイとジャスミン茶・・・・・。よい食事だった。
ヘルムートは、しばし歓談の後、言った。
「では、そろそろ、ゆくぞ」
香港の空はスカイブルーだった。
PANDA KOICHIRO の住む秘境・・・・・。
そこは、ジャングルよろしくな森林地帯だった。竹やぶもかなり深いところだ。
ヘルムートとバーガス(天狗面をつけている)は森をかき分けて進むのだった。
バーガスは天狗の面を投げ捨てて言った。
「あつい!かぶってられない!」
ヘルムートは言った。
「前に来たときは、飛行機だったから、ひとっ飛びだったが、今回はつらい」
そのころ、バルダットの船は、香港を去ろうとしていた・・・。
バルダットは、エメラルド色の湾にそびえる香港のビル影を見ながら言った。
「さらば、冒険の日々よ。さらば香港・・・」
そのころ香港・中文図書館・・・・・・・。
比我ドロンと、ヒョットコは、広大な館内ホールを歩いていた。
比我ドロンはヒョットコに言った。
「ヒョットコさん、江戸に関する本を全てさがしだしてくれ」
ヒョットコは言った。
「なぜに??」
比我は答えた。
「日本・江戸の徳川の埋蔵金を示す万華鏡がわれわれの目的。
しからば、江戸についての知識を入れねば」
ヒョットコは承知した。
「なーるほど!」
比我は提案した。
「2人、別々に探した方がよい。短時間で、広く探せる」
比我とヒョットコは二手に分かれた。
比我ドロンは、ヒョットコと分かれると、コソコソと図書館を出た。
1人になった比我ドロンは、香港のストリートをニタニタしながら歩いていた。
比我は勝ち誇った気分で言った。
「きゃつら、あほうもいいとこだぜ! かんたんに信じやがって。 
あの怪物は、正真正銘のバカだし。
ひとりでは、あの万華鏡の地図の解読は無理!無理!
宝の地図は、私の頭の中にインプットされている。
さあ、港に行って船をかり、船長をやとうか」
比我が、そう言っていた矢先であった。彼は両腕を何者かに摑まれた。
足が地面を離れた!
比我は建築物以上の高さまで引っ張り上げられた。
比我はさけんだ。
「あれええ」
比我がうしろをたしかめると、なんと、・・!
あの怪物、土蜘蛛が比我をつかまえて、とんでいる!
土蜘蛛は言う。
「オマエが宝の地図を解読できるというのは、ほんとうだな? 
では、道案内してもらうぞ」
比我は気絶した。
「あひっ」
さて、ヘルムートとバーガスは、ようやく森を抜けた。
森を出たところは、桃畑になっていた。
大きな桃がたくさんなっていた。
ヘルムートとバーガスは、桃をとって食べた。
桃は2人の渇きを満たした。
バーガスは言った。
「とうとう、うわさに聞く桃源郷まで来てしまったな・・。
なんという旅だろう!」
ヘルムートは、すこし先を指差して言った。
「ほら! 見なさい。 あそこに見えるが、五重の塔。 
中国版パゴダだ。あそこに、ある。 
PANDA KOICHIRO の修行場が!」
バーガスは言う。
「まだ、ずっとここで、桃を食べていたいよ・・」
女の声がする・・・。
「桃ならパゴダのそばにも沢山なってますyo」
声の主が現れ、しゃべりを続けた。
「わたしは、イェスルー・パーク。 PANDA KOICHIROの妻でした」
ヘルムートは聞いた。
「・・・でした? すると、PANDA KOICHIRO先生は・・・?」
イェスルーは言った。
「PANDA KOICHIROは、去年、99歳で天寿を全うしました。
今は天国にいることでしょう。
・・・・私はPANDA KOICHIROと、18の時、結婚しました。
結婚したとき、PANDA KOICHIROは、90歳でした。まだまだ元気でしたyo」
ヘルムートは言った。
「そうか、たしかに先生は並のおとこではなかった。アジアの、ますらお
じゃ」
イェスルーは言った。
「おほほ。いまは、わたしが、PANDA KOICHIRO の修行場を続けています。
わたしは、ことしで、28になります。再婚しようかと考え中です」
バーガスは言った。
「あなたのような聡明な方なら、それもすぐに可能でしょう」
イェスルーは笑った。
「おほほ。すてきな殿方ね、あなたは。 
さあ、今からパゴダにある修行場へまいりましょう」
ヒョットコはそのころ、香港をさまよっていた。
ヒョットコはつぶやいていた。
「比我ドロン殿は迷子になってしまったのか・・」
しばしの期間イェスルー・パークはバーガスとヘルムートに修行を与えていた。
それは、少林寺カンフーによく似た動き、戦いのアクションだった。
バーガスとヘルムートは、他の30名の修行者たちとともに、かけ声でアク
ションした。
「ハー! ハー! ハー!」 (みなのかけ声は、パゴダにこだました。)
しばらく経ったころ、バルダットの船はあたたかい海上にあっ
た・・・・・・・・・・。
バルダットの船がインド周辺の海を通っている時だった・・。
バルダットは甲板のプールサイドで昼寝をしていた。
バルダットは、白昼夢を見ているのか・・・、そう思った。
バルダットの視界にインドの訪れたこともない街の景色が広がったのだ・・・。
今、キリストの使徒トマス( 「疑い深いトマス」とも呼ばれる)がきた。
 商人アバネスと共に。
そのインドの街に入って来たのだ。(マドラスと呼ばれた町か・・・?)
アバネスはグンダファル王に謁見し連れて来たトマスが大工であると報告した。
(バルダットは、その夢の中では、グンダファルの役を体感していた。)
トマスの事を聞き、グンダファル王は喜び自分の元へ来るように言った。
そしてグンダファル王は、トマスが来ると、彼に言った。
「そなたは、どういう大工の技を持っているのか?」
トマスは答えた。
「建物を建てる技を持っている」
王はトマスに言った。
「木材については、何が分かるか? そして石については何が分かるか?」
トマスは答えた。
「ヨーク材などです。そしてボートやオールやマストを作れます。
そして石材では、寺院や裁判所などの建物を作れます」
王はトマスに聞いた。
「そなたは、私のために宮殿を作れるか?」
トマスは言った。
「はい。私は、それを建てることも出来、内装を施す技も持っています。
私は、大工の仕事をするために来たのです」
そして、グンダファル王は聖トマスを連れて街の門から出た。
そして、彼に話すのだった。
それは、裁判所の建築方法や、その基礎工事についての内容だった。
最後にグンダファル王が宮殿の建築を望む場所に着いた。彼はそこで言った。
「ここだ。ここに宮殿を造りたいのだ」
聖トマスは言った。
「たしかに、この場所は、宮殿建築には適している」
その場所には樹が多く、水も多くあった。
王は言った。
「構築を開始せよ」
聖トマスは言った。
「この季節には、構築を開始することはできません」
王は言った。
「では、汝は、いつ始められるのか?」
聖トマスは答えた。
「私は12月に始めて、4 月に完成させます」
しかし、王は驚いて言った。
「建物は夏に建てられるのであるぞ。
君は、冬の真っ只中に宮殿を建築するというのか?」
聖トマスは言うのだった。
「そうです。そうでなければいけません。それ以外は不可能です」
王は言った。
「では、そなたのよいようにせよ。建築の計画を立てて、私に見せよ。
工事はどのように行われるのか知りたい。わたしは、長く留守にするから。
しばらくの間、この土地をはなれ、そしてまた、こちらへ戻ってくる予定だ」
トマスは、葦のペンを使って、土地を測定し、描いた。
宮殿の入り口は、日の出る方向へ向けて作るように。
光がそこから差し込むためにである。
トマスは次々に描く。
よい風が入るように西に向けられた窓。
パン工房は、南側に。水道は、北側に。
王は、これらの計画を見て、トマスに言った。
「たしかに、あなたは職人だ。すばらしい」
王は、トマスに巨額の資金を渡し、旅に出た。
グンダファル王は遠出中も、トマスにお金や支給品を送付した。
さらに食料を建築従事者全てに送付していた。
さて、それらの支給を受けた聖トマスは、街を巡り歩いた。
周辺の村々も巡り歩き、貧しい人々や苦しんでいる人々に施し、分配していた。
トマスは、言うのだった。
「貧しい人々が活力を得ることが大切だ。今はその時である。
この施しによって、王は自らが報いを受けることが分かっているのです」
こうしたことがあった後だった。
グンダファル王は、トマスに1人の大使を送って、次のような書簡を渡した。
「どこまで、宮殿が出来ているかを知らせてくれ。
また、そなたに何を送るべきか、そなたが必要なものを教えてくれ。」
聖トマスは、返信した。
「宮殿はほぼ完成しています。あとは、屋根をつける作業が残っています」
王は、それを聞くと、金や銀を送り、書簡に次のように書いた。
「宮殿にそれで屋根をつけてくれるように頼む」
トマスは神に感謝した。
「全ての上に居られる神よ、感謝します。
私があなたの御手の中に永遠に生きていることに。
あなたは、私が多くの人々の世話をするために私をここへ遣わしたのですね」
トマスは貧しい人々に神の教えを説くこと、そして施すことをやめなかった。
トマスはその人々に言った。
「これは神があなたがたに与えたもの。神は全てのひとに食べ物を与えます。
神は孤児を養う神であり、未亡人のために給仕する神である。
そして全ての苦しむ者のために安心と休息を与えるのです」
さて王が街に戻った。
そして・・・・・。
ジュダスとも呼ばれるトマスが王のために建てている宮殿の事を友人に聞いた。
友人たちは、グンダファル王に言った。
「トマスは、宮殿も建てていませんし、他の王との約束事も果たしていません。
トマスは、様々な町や国を巡り彼の持ち物全てを貧しい人々に与えたのです。
そして、神キリストについて語り病気を癒し人々から悪魔を追い出していた。
他にも、素晴らしいことを行いましたよ。
我々は、トマスは 魔法使いだと思っていますよ。
そしてね。
彼の同情心、彼が行った癒し、そして簡素な生き方、優しさ、信仰心はすごい。
彼が正義の男で彼が説くキリストさんの弟子であることを証言しているね。
彼は継続的に断食をし、祈りを捧げ、パンと塩と水しか摂らないのだよ。
そして、冬でも、着物を1 枚しか 着ていないよ。」
王は、このことを聞くと、手で自分の顔を擦って、頭を左右に振った。
王はそれから、トマスを紹介した商人に遣いをやりトマスを呼び問いただした。
「なんじは、わたしに、宮殿を建ててくれたか?」
聖トマスは答えた。
「はい」
王は言った。
「それでは、いつ、我々はそれを見に行けるか?」
トマスは答えた。
「今は見ることはできません。
しかし、あなたがこの世を離れたときに、見ることができます」
すると王の怒りは度を超えてしまい商人もトマス・ジュダスも牢に入れられた。
イエス・キリストの使徒、聖トマス・ジュダスは喜び勇んで牢屋へと向かった。
彼は、ともに牢屋に入ることになった商人に言った。
「私がいつも祈りを捧げている神だけを信じなさい。
そうすれば、あなたは、この世界のしがらみから自由になれるのです。
そして、来たるべき世界が、あなたに命を与えます。」
王は、2 人を死刑をしようと考えていた。
2 人を生きたまま皮を剥ぎ火で燃やしてしまうという刑にしてやろうと決めた。
しかし、その日の夜、王の弟ガドが病に倒れた。
王の弟ガドは、王が宮殿のことで騙されたことに悩み、落ち込んでいたのだ。
ガドは、王に言った。
「お兄さん、私の家と子供を頼みます。
私は、お兄さんの宮殿のことで起きた詐欺事件に悩んでいました。
しかし私はもうすぐ死にます。
兄さんが、あのトマスに復讐してくださらないなら私の魂は死後も休めない」
王は、弟ガドに言った。
「わたしは、夜中、あの2 人をどのように殺してやろうかと考えていた。
トマス・ジュダスも、あれを連れてきた商人も2 人ともに皮を剥ぎ燃やす」
ガドは言った。
「それ以上にひどい方法があったら、それをやってください。
私の家と子供を頼みますね」
そのように、兄弟は語り合っていたとき、弟ガドの魂は肉体を離れて行った。
王はガドのことで痛み悲しんだ。王はガドを非常に愛していたからだ。
王は、ガドが王室ゆかりの素晴らしい墓地に埋葬されるように命じた。
王の弟ガドの魂を天使たちが連れて行った。
天使たちは天国でのガドの住まいをいくつか見せた。
天使はガドに聞いた。
「さて、あなたは、どの住まいに住みたいか?」
天使たちが、ガドにトマスが建てた王の天上宮殿近くを見せていたときだった。
ガドは天使にうったえた。
「この宮殿の一番下の階でもよいので、この宮殿に住ませてくれないだろうか。
天使たちよ」
天使はガドに返答した。
「あなたはここに住めません」
ガドは言った。
「なぜ?」
天使は答えた。
「ここは使徒トマスが、あなたの兄であるグンダファルのために建てた宮殿」
ガドは天使に言った。
「では、お願いです。わたしを兄のもとへ今一度つれていってください。
兄から、この宮殿を買うことが出来るかもしれない。
兄はここがどんな様子かを知りませんし、私に売ってくれるでしょう」
それで、天使はガドの魂を、地上の兄の元へ行かせた。
そのときガドの体は死に化粧を施されようとしていた。
が、魂が肉体に戻り、目覚め、周囲にいた化粧師たちに言うのだった。
「兄、グンダファル王を呼んできてくれ。兄に1つ申し立てをしたい」
化粧師たちは、王の元へ飛んでいき、言った。
「弟さんが蘇った」
王はたくさんの従者をつれて、弟のベッドのある部屋へ走った。
王は驚き、喋ることも出来なかった。
弟ガドは言った。
「兄様、グンダファル王よ、
兄様は私が頼んだら、王国の半分でも人に渡すことも厭わないのでしょう。
それで、私は、兄さんに1つお願いがあるのです。
あなたのものを私に売って欲しいのです。」
王は言った。
「願いを聞こう。何を、そなたに売ればいいのじゃ?」
ガドは聞いた。
「ほんとうに願いをきいてくれると誓ってください」
王は誓った。
「そなたが欲しいというなら、なんでもやろう」
ガドは言った。
「兄さんが天国に持っている宮殿を売ってくれますか?」
王は言った。
「いつ、私が天に宮殿を持ったというのだ?」
ガドは言った。
「あなたが罰を与えようとしているトマスが天にあなたの宮殿を建てていた。
私は死んで、天国でそれを見て、今一度、頼んで地上に戻ってきたのです」
王は、このことについて考え、理解した。永遠の宝は天国にある、と。
王は弟ガドに言った。
「その宮殿はあなたに売ることはできない。
私は、そこへ死後に住めるように祈りたい。
しかし、ガドよ。
そなたが、そのような宮殿に住みたいのなら、あの聖トマスに頼もう。
それ以上の宮殿を、そなたに造ってもらうとしよう。」
王は、聖トマスと商人を刑務所から出して言った。
「聖トマスよ、たのむから、わたしを許してくれ。
わたしがそなたにしたことについて、許してください。」
弟ガドも、聖トマスのまえに跪き、言った。
「私も、神、キリストを伝道する人生をこれから歩みたいと思います。」
使徒トマスは、歓喜に満ちて言った。
「イエス・キリスト、わたしの主よ。
あなたは、真理を、この2 人に見せました。
真理の神は、あなた以外にはいません。」
グンダファル王と弟ガドは、聖トマスのフォロワーとなるのだった。
夢の中でバルダットは、グンダファルを自分として体感していた。
聖トマス役は、ヘルムート永井の顔になっていた。 
夢とは不思議なものである・・。
やがて夢の景色が、まっしろな光に包まれた。
夢でバルダットを包んだまぶしい光がだんだん青に変わった。
現世の空と漂う雲が見えてきた・・。
バルダットは、ハッと目を覚ました。
甲板には、まぶしすぎるインド近海の太陽光が降っていた。
バルダットは執事を呼んだ。
「執事よ」
執事は冷たいカクテル『ピニャコラーダ』を持ってきた。
バルダットは決意して言うのだった。
「やはり、戻る。マラッカ海峡を通り抜けて、香港へ戻るぞ!」
執事は驚愕した。
「エエエエエエエ!」
執事は目をまるくして言うのだった。
「この船舶は、もうかなりの航海をおこなってきました。
これから、母港へ戻らねば、使えなくなるでしょう。
この種の大型船舶は、1年航海したら、必ず補修を加えなければいけません。
つまり厚い板で出来ている二層の外廓の外側に。
さらに厚板を船の全面の周囲に釘づけします。
つまり三重の外廓にするのですよ。
隙間が出来たところには物を詰めて、船体を再度ぬりなおします。
こういう修理をしなければ、使い物にならなくなるんです。
母港にもどりましょう」
バルダットは言った。
「不思議な夢を見たのだ。
合理的な思考では理解できない、そういう夢だ。
しかし、人助けがしたくなったのだ。
人生はかわったことをやってみることに意義があるのではないかって気がした。
香港へもどる」
執事は再度忠告した。
「バルダット王子、あらゆることに適切な準備は必要です。
これをおこたってはいけません。とくにメカニカルな乗り物には。
チューニングが必要なんです。でなければ、力が発揮できず、つまり。
いそがばまわれ、という状態になるのです。
チューニングをしなければ、この船はたえられません」
バルダットは答えた。
「そうか。わかった。忠告をありがとう。
では、タイ国の港に入り、船のチューニングせよ。
チューニングが済むまで、カオサン・ストリートと、アユタヤを見よう」
 
 バルダットは、タイ国のカオサンやアユタヤを見てまわっていた。
 そしてアユタヤの寺の池のほとりに居るとき、人魚と出会った。
バルダットは聞いた。
「なんじは、人魚か・・・? あの伝説に聞く、半人半魚の・・・。
本当にいたのか・・・」
人魚は言った。
「人魚は、やわらかいこころの人間にだけあらわれるのです。
人間に夢を見せることもできます。わたしがあなたに夢を見せました。
夢があなたの心を変えると知っていたから」
バルダットは聞いていた。人魚は話し続けた。
「人魚の文明は、実はあなた方人間の文明よりも前に存在していました。
はっきりいうと、人間に文明をもたらしたのが、人魚です。
人魚はもともとは地球外からやってきた海洋生物なのです。
現在も世界各地に残る海洋遺跡は、人魚族が建設した都市の名残りです。
アユタヤも文明発祥地の1つと言われていますが人魚族が関わっています。
人魚と人間の混血もかなりいます。
現在の世界にも、人魚の血を知らずに受け継いでいる人間がいるのです。
古代インドやアユタヤにもかなりの宇宙から来た人魚族と人間の混血がいた。
なかには、特殊能力を持っていたために崇拝の対象になった者もいました。
もう少しはお分かりでしょう?」
 バルダットは言った。
「そうか、ヒョットコに聞いた、あの話か。
 エメラルドグリーンの粒子となるまで戦ったKUROSAWAという男・・・」
 人魚は言った。
「KUROSAWAは、宇宙のエナジーに変化しました。
 そう、わたしも様子は海から見ていました。
 わたしの名は、アガペー・アガウトリジック。
 アガウトリジック一族は、宇宙人であり、人魚族の血を引いています。
 人間よりも、森羅万象に敏感なのです。だからわかる。
 いま、宇宙の危機が起きている。
 だから、KUROSAWAの力が目覚めた」
           **********
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...