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トゥエルビ
しおりを挟む午後2 時には、バーガスの乗ったジェットはフランス上空にあった。
快晴の空を飛ぶジェット。
真下には、フランスの田園が広がっている。
バーガスは、機内の客席エリアのイスに座って、窓の外を見ていた。
そこへ機内サービス係がワインを持ってくる。
バーガスはワイングラスを受け取る。
ワイングラスを片手に外を見るバーガスはしばしのゆっくりした一時を楽しむ。
バーガスは物思いに耽っている。
「今回の任務、僕は、もう年齢も年齢だから、引き受けたくはなかった。
53だぜ。 しかし、カンと経験が必要な任務だと頼まれちゃ仕方ない。
そんなこんなさ・・。
またファウンデーション(財団)の仕事に引き込まれたのさ。
つまり諜報活動さ。
ファウンデーションを引退したはずの僕だったけどね。
だけど引退後、僕が設立したアベマリア世界機関の所蔵データにもなるしね。
行ってみようかと思ったんだ」
バーガスはポケットからいつもの愛用のボイスレコーダを取り出した。
それを機内テーブルに置いた。
バーガスはフー、と一息つくと独白を始める。
「任務の内容、・・・それは、いつものことさ。
こんな話をしたって、誰も信じちゃくれない。
そしていつだって。
ファウンデーションは始めから僕に事の全容を教えはしないんだ。
今回はまずイタリアの田舎町の、ある教会に行けっていう指令だった。
そこにある聖母マリアの前で、今日の午後4 :50に祈りを捧げるように・・・。
そういう話さ。多分、今までの経験からいくと、・・・。
その聖母マリアには何か秘密があるな。
今回、かなりデンジェラスな仕事みたいだ。
今日は、久々にジェラルミンケースに入れてきたんだ。
デストロイヤーレイザー・ジェネレーターをね。
これは、かなり重いが役に立つ。
このレイザー・システムの基盤になっているのはね。
韓国にある企業のテクノロジーだ。
アジアの技術は、いつの時代もやばいぜ。
しかしさ。
もうやめちまったはずのファウンデーションの仕事を又やるハメになるとはな。
因果な商売だ。
このファウンデーションのミッション、そして取得THINGSはさ。
恋人にも、妻にも、愛人にも、親にも、友にも、兄弟にも知らせてはならない。
僕らは秘密裏のうちに、世界を滅亡から何度も救ってきた。
ファウンデーションの分析室はKYOTO にある。
そこではエチオピア出身のサラ・ビートーベンが働いている。
彼女とは、ちょっとのあいだ恋仲だったこともあるYO。
彼女はね、・・・出身地の影響かな、・・・。
旧約聖書に登場する財宝に詳しいんだ。
彼女はこう言うのさ。
そうした財宝は現代でも理解不可能でね。
今も分析できずにいる高度なテクノロジーが入っていることがあるらしい。
ファウンデーションはね、・・・。
悪の手にこうしたテクノロジーが渡らないようにしてるのさ。
ここでいう悪ってのは人類の文明を破壊に導こうとする間違った指導者たちさ。
ファウンデーションは孤軍奮闘しては取得THINGSを保管する。
そのうえで、それらの研究をも続けている」
バーガスは赤ワインのグラスを片手に、ボイスレコーダのボタンを操作した。
レコーダを操作して、いくつか公になるとまずい部分を編集削除したのだ。
バーガスは、そしてまたレコーディングを続ける。
「この辺で、私のことを少し話そうか。プライベートなことも少しね。
ママンはパリ生まれ。いい年頃のころにオキナワでパパに出会った。
パパは赤い鼻をヒクヒクさせてたってさ。
パパはね。
チャイニーズ酒家がオーナーだった船に乗って台湾から沖縄へ一家で移った。
そして、そこで育ったんだ。
そんなもんだから、僕はフランス語と日本語が理解できるんだ。
パパが世話になっていたのがチャイニーズ酒家だったからさ。
パパは、そこで華人の船の航路を覚えていたんだ。
それで僕は、その航路の舟にいろいろな方法で乗り込んだ。
てなわけで、僕は学生時代に多くの世界の町を巡ったYO。
うーん、そう。
ワイキキ、ロンドン、シアトル、タコマ、バンクーバー・・・。
ロサンゼルス、サンタバーバラ、サンディエゴ、ティファナ、メリダ・・・。
ポートランド、サンフランシスコ、ヨセミテ、ボストン、ニューヨーク・・・。
ナイアガラフォールズ、ニューオリンズ、マイアミ、・・・。
オーランド、キーウエスト・・・。
ウィスラー、ブリュッセル、アムステルダム、インターラーケン、・・・。
ウィンダミア・・・。
バーミンガム、ルートン、コルトナ、ローマ、フローレンス・・・。
フランクフルト、カッセル、プラハ、サイパン、台北・・・。
上海、ソウル、クアラルンプール、ペナン、バンコック・・・。
アユタヤ、テグ、釜山、トキオ、オーサカ・・・。
フクオカ、アテネ、イラクリオン、カイロ、アブシンベル・・・。
華人酒家のネットワークって、すげーYO。
英語はファウンデーションのスクールで身につけた。
趣味でイタリア語も少しだけ勉強した。プロバンスには別荘がある。
夏の昼寝には最高さ。フランスの田舎をユーロ・カーで走るのが楽しいね。
時々、ポリスマンからスピード違反のチケットをもらっちゃうけど」
いつのまにかトスカーナ田園のホライゾンがジェットの周囲に広がった。
イタリア中央部の黄色いランドスケープだ。
大地のやさしさにいだかれた。
ジェットは乾いた土のサボテン畑の側に造られた滑走路に下りていった。
コルトナ(イタリアの地方)付近の田舎町・午後4 時30分。
バーガスは紙袋を抱え、アパルトマン通りにしばし佇んでいた・・・。
彼は左右を見回した。
バーガスは目を鋭くさせてつぶやく。
「通りを進み、小さなマリア像が置いてあるカドを左折する。
そのストラダのドンづまりに、目的の教会がある」
バーガスはストラダを進んだ。その先には教会があるのだ。
教会の前までくると、バーガスは入り口のステップに腰を下ろした。
彼は脇に抱えていた紙袋を開けた。
バーガスの目が一瞬輝いた。彼は紙袋を開けながらつぶやいた。
「目的地はそこさ・・・だが、ちょっと今はハラごしらえさせてくれ。
さっきコーナーSHOPで買ったサラミにフレンチブレッドで、ランチにしたい。
これにはミルクが合うんだ。僕は基本はベジタリアンだけどね。そうそう。
ベジ・ジュースも飲んで、ビタミン補給も忘れずに、ってのがモットーだ。
ムニャムニャ」
バーガスはサラミをかじりながら、ボイスレコーダに喋っている。
「やっぱり僕はサラミが大好きだYO。イタリアンサラミは最高だね。
そうさ。僕はイタリアのものは、好きだね。
フィアット、アルファロメオ、ランボルギーニ、・・・。
イタリアの車は洒落てる。
そう、イタリアの靴もいくつか持ってるよ。
僕は人より大足だからなかなかサイズがないけどネ。
イタリアの靴はそれを履く者を色っぽくするネ。どんなスーツにも似合う。
女の子にモテモテさ。
まえにさジャポネーゼ・ガールにプラダの靴なんかプレゼントしちゃったらさ。
そのあと体中にキスされちゃったよ。イタリアの魔力だね」
小さな教会の礼拝堂。今日の目的地。午後4 時50分・・・・・・・・・・。
澄んだ空気が礼拝堂を充たしている。
バーガスは木のドアをギイッと開けて入ってきた。
奥に聖母マリア像がある。
その前で、バーガスはひざまずくのだ。
バーガスは祈りを捧げた。
「天の父なる神よ。あなたの名をあがめます。あなたの国が来ますよう。
日々の食べ物を与えてくださり感謝です。僕の罪をゆるしてください。
僕も、僕に罪を犯す者をゆるします。
僕を試みにあわせず悪から救い出してください。
栄光は、あなたのものです。アーメン」
バーガスの前に年の頃19歳くらいのレディが現れた。
そのレディはしゃべりはじめた。
「ジュンナよ。私の名前はジュンナ。
フルネームでは、ジュンナ・ミリアム・アガウトリジック」
バーガスはきょとんとするが、答える。
「ジュンナか、みずみずしい名だ・・・。僕はバーガス・チャンだ」
バーガスは、にやりと笑うが心の中で想いを巡らせた。
「こんな僕だって、ハイスクールにも行ったし、カレッジにも行った。
ハイスクールでもカレッジでもあまり勉強したことは身につかなかったけどさ。」
バーガスは再び、心の中の想いが時間を割くのを感じた。
「僕としたことが・・・、いまごろになってヤキがまわってきたのか?
ジュンナは僕にアピールする何かを持っている。」
ジュンナのクログロとした目がバーガスを見つめている。
バーガスの心の想いが、彼自身を意識の彼方に連れて行く。
「われわれの意識ってヤツは、おかしなもんさ。
そういえば、今日の朝さ。
アパルトマンを出る時、シャワーを浴びて、バスルームでヒゲを手入れした。
その間にオートランドリー・マシンに洗濯物をつっこんで、服を洗った。
バスルームを出ると、ランドリーは終了してた・・・。
マシンに繋がっているMETAL の給水蛇口には、たくさんの水滴がついていた。
その現象はフツーに起きていることさ。
だが、五十年間も、その現象に気をとめなかったんだ。
それが、今朝は妙に美しくて、そのみずみずしさに目を奪われたんだぜ。
みずみずしさに目を奪われたってことがさ。
ジュンナとの出会いと重なるカンジなんだ。
僕も、何かいままでと違うことが分かる年齢になったのかな。
ここにきて、僕も、だれかと落ち着きたくなったのかな。
・・・そうおもった。
だれかと落ち着くって言ってもさ。
僕のように経歴が特殊な男は一般的な女とは合わない。
ジュンナ・ミリアム・アガウトリジック、この女は一般的ではない。
そんな気がした。
そもそも19という年齢で、この任務に関与している、ということ・・・。
それ自体がフツウではないのだ。
彼女は、天才か、どこかで大きく道を反れたか、・・・そのどっちかなのだ。
こんな僕でも、聖母マリアの慈悲にふれたくて、ときには教会のミサに行く。
よい妻は神が与える、と教会に来ていた誰かから聞いたことがある。
それを信じることにした」
そのとき目の前のマリア像が突然持ち上がった。
機械式の上げ扉になっていたのだ。
バーガスは驚いた。
「あひっ!」
ジュンナはすまして言った。
「いまさらおどろかないでよ。
こんな仕掛けは今までの任務でいくつも見てるでしょ」
扉の向こうは下り階段通路になっている。
30メートル先あたりに部屋があるようだ。
ジュンナは私の手を取って言った。
「さあ、いきましょ」
秘密の部屋(午後5 時)・・・・・。
奥の部屋はなかなか快適だ。ケトルからは湯気がでている。
ジュンナは、ジャスミン・ティーバッグをカップに入れた。
ケトルを取りそこに湯を注ぐ。
ジュンナは闊達な女性だ。
「すわって」
テーブルにつくバーガスの方がずっとおとなしく見える。
バーガスは部屋を見回しながら言ってみた。
「キャロット・スティックが食べたいな」
ジュンナは答えた。
「いまはないわ。まあ、お茶でも」
バーガスはお茶をしずかに飲んだ。そしてジュンナに話した。
「僕は今は仕事では第一線を退いた身だ。
あとの人生は気ままに過ごそうと思っていた。
しかし、なかなかそうさせてはくれない。僕はね・・・・・。
35歳から52歳まで、ファウンデーションに所属していた。
ジュンナ、つまり、君もファウンデーションからの密使だろ?
ファウンデーションの名は、所属する者同士でも口にしてはいけない。
そうだよね。
だから、ここでは、『K ファウンデーション』と仮名で呼ぼう」
ジュンナは思い出したような顔で立ち上がって言った。
「ちょっとシャワーを浴びてくるわ。今日は汗ばむわね・・・」
そそくさとジュンナがシャワールームに入る。
バーガスは服のポケットから、またボイスレコーダを出す。
そしてボタンを押した。
バーガスは録音する。
「また、なんだかデンジェラスな香りがするよ。
『K ファウンデーション』の出してくる任務はいつだってそうさ。
『K ファウンデーション』は、フランス・パリに本部が置かれている。
グローバル・グループだ。
アメリカ、カナダ、日本、イタリア、香港、シンガポールにも支部がある。
実に多くの業務を行っている所だ。
一般では見向きもされないような案件の採択も多い。
それだから行使することは滅多にないとしても、ある種の軍事力も持っている。
現在の軍事部門のリーダーはエフセイ・フノンエストだったかな。
僕は彼とはあまり気が合わない。若い頃、彼のチームにいたこともある。
僕は20代のころカナダエアフォースに所属していたためいくつかの技能がある。
それが『K ファウンデーション』にスカウトされた理由だ。
そこでの任務は多忙を極めていた。だが、なんとかすべての任務を全うした。
まあ、ときどき物忘れもあったけどね。
でも忘れるほどの事ってホントはたいした事じゃないのさ。
今朝、トイレにすわり、考えていた。
僕はトイレにすわって考え事をするクセがある。
トイレのドアは、いつも開放している。独り者だからそれでもゆるされる。
とにかく、ふとそこで思った。僕のこれまでの人生はラッキーの連続だったと。
そう、僕の人生はラッキーだ。それはきっとママンのおかげだ。
ママンは何事も肯定的に捉えた。
だから、僕はママンの中に、ホーリー・マザー・メアリーを見ることができた。
これまでの任務の中では多くの試練もあったが、乗り越えられた。
考えてみればそのとき必要なものは与えられていた。
今回の任務も乗り越えられるにちがいない」
ジュンナはまだシャワーを浴びているようだ・・・・・・・。
バーガスは録音を続けた。
「相棒もいるが、プライベートで会うことは多くはない。
互いに一定の距離をもっているが、信頼関係はつよい。
その彼は、もともとジャマイカの出身で、現在はアメリカ永住権を持っている。
名はマイケル・マルーン。ヒップホップが大好きなやつさ。
いつも元気で気がいい。」
ジャマイカはカリブの気候だからかなりあつい。
だが、陽気な土地柄だ。
僕のようにムードに左右されやすい本質をもっている者には丁度いいところだ。
何度かストリートファイトに巻き込まれそうになったがうまく切り抜けられた。
それは、マリア様のご加護だったとおもう。
ジャマイカの海岸通りを車でとばす休日はすばらしかった。
まだ話してなかったが、僕は少年時代にスイスにもいたことがある。
親の仕事の関係だ。僕が過ごした町は、ずいぶんと山奥にあった。
冬は雪で閉ざされることも多かった。
少年時代の体験の記憶が成長後にも、かなり影響したりするもんだがね・・・。
そういうわけで、私の中には、どこか山育ちの気質が残っている。
ジャマイカの海岸での休日を体験するようになってからもね。
ジャマイカで私の中に海で生きる人々の楽しさが分かる気持ちが芽生えた。
それは20歳ごろだった。そのころCMASでスクーバのライセンスも取ったYO。
出生の関係から、僕は半分フレンチガイだった。
蓮はアジアにおける生命の植物であり、宇宙樹だという。
アジアからきたドクター・ワイトビレジが言ってた。
マイケルは敬虔なカトリックの一面もある。
いつもマリア様の名を呼びお祈りしている。
彼は聖母マリアを愛し、女性たちをこよなく愛す。
そして女性に最高のリスペクトを持ってもいる。
彼と話すときに、女性へ愛の話がでないことはない。
で、マイケルってのは、気だてもいいが、彼の料理がすてきさ。
へんてこだけどね。
たのしい男さ。あるときね。
ジャパニーズ・ジェノベーゼなんていって、パスタ料理をつくってくれた。
それには、パスタにキッコーマン、ツナ、ネギ、青ジル・・・。
マツタケ、カツオブシ、ケチャップ・・、なんて材料を入れてたな。
でも、こいつがなかなかイケルンダ。
マイケルはカレッジで日本カルチャーを学んでいた。
日本の食材にくわしいのさ。
・・・そうだな、ワサビみたいなもんなんだ、日本のカルチャーってのはさ。
パパは沖縄育ちだけどどちらかっていうとアメリカカルチャーに詳しかった。
それは、彼が若いころにアメリカ軍駐屯地に出入りしてたからさ。
コックさんが作る瓶詰めの甘ピクルスやアメリカンビーフステーキを見ていた。
で、作り方を覚えたんだってさ。
パパはいまでも、甘いピクルスの瓶詰めを作って、僕におくってくるよ。」
バーガスが独り喋りに夢中になっていると、・・・。
ジュンナはいつしかシャワーを終えていた。
ジュンナは不思議そうな表情でバーガスに声をかけた。
「どうしたの、バーガス、・・・ひとりでしゃべりつづけて・・」
バーガスはあわてて答えた。
「ジュンナ、君があまりにうつくしいから、あたまがいっちゃってたのさ」
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