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62. 後ろめたかった本当のこと
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帰宅後、リビングの扉を開くとすぐに妹の紗世と目が合った。
「おかえりー」
「ただいま、これ土産」
「うわっ!これ美味しいやつじゃん。やった。食べていい?食べるね。てか兄ちゃん、葉大と旅行行ってたんでしょ?仲良すぎか。いいな、紗世も早く大学生になって友達と旅行行きたーい。イケメンとも仲良くなりたーい!葉くんみたいな顔の人いないかなー。ちっちゃい頃から葉くん見てたからまじ理想ばっか上がってくの辛すぎ…」
バリバリと包装を破りながら矢継ぎ早に話し、あっという間に土産の菓子を口に運ぶ。
「お前こないだ行ってなかったっけ?」
「あれ日帰りだもん。二、三日友達とずーっと遊ぶってのがやってみたいの!兄ちゃん最近めっちゃ遊び行ってるしマジ羨ましい」
さすがに毎週葉大の家に泊まってるとなると怪しいので適当に大学の友達と飲みにいったり泊まって遊んだりするだとか言ってごまかしている。
嘘でもないが本当のことを言っていないのがなんとなく気まずくて口を尖らせた紗世から視線を逸らす。
「再来年から大学なんだしもうちょい我慢だな。あんま変に遊び回んなよ。…てか母さんは?」
「毎週夜通し遊んでる兄ちゃんに言われたくなーい。ママは買い物中。もうちょっとで帰ってくるんじゃない?なんで?」
「いや……」
別に、と出かけた言葉をぐっと飲みこむ。妙に空いた間のせいで唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
「……今度、恋人、連れてこようかと思って」
紗世が食べていた菓子の一部がぽろっとテーブルの上にこぼれた。まん丸に見開かれた目がじっと俺を見ている。
「え、ええ!?兄ちゃん彼女連れてくんの!?」
「…まあ」
「なんで急に!?聞いても全然話したがらなかったじゃん!」
「向こうの親にあったから、うちも紹介できたらと思って」
「結婚すんの!?」
見開かれていた目がますます大きくなる。目が飛び出してしまいそうだ。
「しねぇよ。ただの紹介」
「え、だって紹介って結婚とかの時にするもんじゃん!」
「それだけじゃないだろ」
「でも今までそんなのしなかったじゃん!」
「いやあんなん一瞬だったし」
「やっぱりそういうことじゃん!」
「いやどういうことだよ」
やいのやいのと言い合っているうちに玄関の扉が開く音がした。その音に気づいた紗世は即座に立ち上がり玄関へと駆け出す。
「ママ!おかえりー!兄ちゃんが彼女連れてくるって!家に!」
「あっ、馬鹿」
「え、彼女?マジ?」
途中まで追いかけたが、彼女というワードが出たあたりで速度を失った。頼むから余計なことを言うな。
わあわあと喋り声が聞こえる玄関のほうへ重い足を進める。こちらを向いた母さんの顔はさっきの紗世の顔とそっくりだった。
「久。あんた…本気?いいの?」
「本気。近いうち連れてきたいんだけど…その前にさ、言っときたいこともあって。悪いんだけど紗世外してもらってもいい?」
「えー紗世も気になる」
「…紗世」
母さんが言い聞かせるように名前を呼ぶと悔しそうに「はあい」と呟いて自分の部屋へと戻っていった。
しばらくすると紗世の部屋からノリノリな歌声が聞こえてきて少し安心した。
リビングに戻り、テーブルをはさんで向かい合わせに座る。なんて切り出せばいいか少し悩んで、それから固く結んでいた口をゆっくりと開く。
「……家族に紹介したい人がいてさ」
「うん」
「付き合ってる人なんだけど」
「うん」
短い返事だけれど、その響きは柔らかい。ドクドクと血液がすごい勢いで体中をめぐっている。母さんの顔は見れなかった。その代わりに木製のテーブルの木目を見つめる。葉大にも紗世にも紹介するだなんて言ったのにいざ伝えようとすると、なにかよくわからない罪悪感に似たものに襲われる。口が渇く。
それでも、伝えなければならない。俺が葉大の家族に受け入れられたことが嬉しかったように、きっと俺の家族に認めてもらえたら葉大も嬉しいだろう。それに、俺も俺の恋人が葉大だと言いたい。
「その人、男で、…俺、昔から好きになるのが、恋愛対象が、同性で…だから、紗世が言った結婚とかそういうのはできなくて…でも俺本当に好きで。…向こうもちゃんと俺のこと好いてくれてて、向こうの親にはこないだ会った。だから俺たちが付き合ってるって知ってる。俺のこと歓迎してくれて嬉しかったから、だから俺も俺の家族にちゃんと紹介して認めてもらえたらって、思って…連れてきたいと思って……ます」
「気づいてたよ」
その言葉に思わず顔をあげる。自分がだんだんと早口になってしまったこともどうでもよくなった。
「久が好きなのは女の子じゃないんだなーって気づいてた」
「…なん、で」
今まで気づかれるような話をしたことがあっただろうか、家族に付き合っている相手がいると伝えたのは葉大が初めてだ。
「中学の時、毎日電話していた子がいたじゃない。あの時、ちょっと話してるのを聞いちゃってね。それに、遊びに行ったって話もすごく楽しそうにしてくれたでしょ?あんた、昔からわかりやすいんだから」
少し眉尻を下げて優しい笑みを浮かべるその顔にじわりと目の奥が熱くなる。ティッシュを俺のほうへと寄せてくれた。
「大丈夫よほら。反対されると思った?はじめは驚いたけど、久が幸せならそれでいいから。あんたの人生なんだから、好きにしていーの!犯罪以外ね」
「ん」
「あんたのペースでいいから好きな時に連れてきな」
「ん、ありがとう。…父さんは?父さんも知ってんの?」
「どうかしら。まぁ気づいてないかな。だからまた話さなきゃね」
また俯いた俺に「味方だから」と母さんは言ってくれた。その言葉だけでかなり救われてまた少し涙がぽたぽたとこぼれた。
「ねえ、ところで相手って…当てていい?」
先ほどの真摯で柔らかな笑みとは既に打って変わって、ニコニコと楽しそうに頬杖をついている。「当てていい?」ということはもう確信があるということだ。ここで本当に当てられたら俺は自分がどれだけわかりやすい人間なのかと間違いなくショックを受ける。正直もう結構受けてる。
「無理」
「葉大でしょ」
正解を言い当ててます、とでも言うような顔に開いた口が塞がらない。正解だ。
「………………どうして…」
「どうしてって…。葉大との旅行から帰ってきた日にこんな話されたらそりゃわかるわよ。ただでさえ
わかりやすいんだから」
まあ、言われてみればそれはそうだ。
「おかえりー」
「ただいま、これ土産」
「うわっ!これ美味しいやつじゃん。やった。食べていい?食べるね。てか兄ちゃん、葉大と旅行行ってたんでしょ?仲良すぎか。いいな、紗世も早く大学生になって友達と旅行行きたーい。イケメンとも仲良くなりたーい!葉くんみたいな顔の人いないかなー。ちっちゃい頃から葉くん見てたからまじ理想ばっか上がってくの辛すぎ…」
バリバリと包装を破りながら矢継ぎ早に話し、あっという間に土産の菓子を口に運ぶ。
「お前こないだ行ってなかったっけ?」
「あれ日帰りだもん。二、三日友達とずーっと遊ぶってのがやってみたいの!兄ちゃん最近めっちゃ遊び行ってるしマジ羨ましい」
さすがに毎週葉大の家に泊まってるとなると怪しいので適当に大学の友達と飲みにいったり泊まって遊んだりするだとか言ってごまかしている。
嘘でもないが本当のことを言っていないのがなんとなく気まずくて口を尖らせた紗世から視線を逸らす。
「再来年から大学なんだしもうちょい我慢だな。あんま変に遊び回んなよ。…てか母さんは?」
「毎週夜通し遊んでる兄ちゃんに言われたくなーい。ママは買い物中。もうちょっとで帰ってくるんじゃない?なんで?」
「いや……」
別に、と出かけた言葉をぐっと飲みこむ。妙に空いた間のせいで唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
「……今度、恋人、連れてこようかと思って」
紗世が食べていた菓子の一部がぽろっとテーブルの上にこぼれた。まん丸に見開かれた目がじっと俺を見ている。
「え、ええ!?兄ちゃん彼女連れてくんの!?」
「…まあ」
「なんで急に!?聞いても全然話したがらなかったじゃん!」
「向こうの親にあったから、うちも紹介できたらと思って」
「結婚すんの!?」
見開かれていた目がますます大きくなる。目が飛び出してしまいそうだ。
「しねぇよ。ただの紹介」
「え、だって紹介って結婚とかの時にするもんじゃん!」
「それだけじゃないだろ」
「でも今までそんなのしなかったじゃん!」
「いやあんなん一瞬だったし」
「やっぱりそういうことじゃん!」
「いやどういうことだよ」
やいのやいのと言い合っているうちに玄関の扉が開く音がした。その音に気づいた紗世は即座に立ち上がり玄関へと駆け出す。
「ママ!おかえりー!兄ちゃんが彼女連れてくるって!家に!」
「あっ、馬鹿」
「え、彼女?マジ?」
途中まで追いかけたが、彼女というワードが出たあたりで速度を失った。頼むから余計なことを言うな。
わあわあと喋り声が聞こえる玄関のほうへ重い足を進める。こちらを向いた母さんの顔はさっきの紗世の顔とそっくりだった。
「久。あんた…本気?いいの?」
「本気。近いうち連れてきたいんだけど…その前にさ、言っときたいこともあって。悪いんだけど紗世外してもらってもいい?」
「えー紗世も気になる」
「…紗世」
母さんが言い聞かせるように名前を呼ぶと悔しそうに「はあい」と呟いて自分の部屋へと戻っていった。
しばらくすると紗世の部屋からノリノリな歌声が聞こえてきて少し安心した。
リビングに戻り、テーブルをはさんで向かい合わせに座る。なんて切り出せばいいか少し悩んで、それから固く結んでいた口をゆっくりと開く。
「……家族に紹介したい人がいてさ」
「うん」
「付き合ってる人なんだけど」
「うん」
短い返事だけれど、その響きは柔らかい。ドクドクと血液がすごい勢いで体中をめぐっている。母さんの顔は見れなかった。その代わりに木製のテーブルの木目を見つめる。葉大にも紗世にも紹介するだなんて言ったのにいざ伝えようとすると、なにかよくわからない罪悪感に似たものに襲われる。口が渇く。
それでも、伝えなければならない。俺が葉大の家族に受け入れられたことが嬉しかったように、きっと俺の家族に認めてもらえたら葉大も嬉しいだろう。それに、俺も俺の恋人が葉大だと言いたい。
「その人、男で、…俺、昔から好きになるのが、恋愛対象が、同性で…だから、紗世が言った結婚とかそういうのはできなくて…でも俺本当に好きで。…向こうもちゃんと俺のこと好いてくれてて、向こうの親にはこないだ会った。だから俺たちが付き合ってるって知ってる。俺のこと歓迎してくれて嬉しかったから、だから俺も俺の家族にちゃんと紹介して認めてもらえたらって、思って…連れてきたいと思って……ます」
「気づいてたよ」
その言葉に思わず顔をあげる。自分がだんだんと早口になってしまったこともどうでもよくなった。
「久が好きなのは女の子じゃないんだなーって気づいてた」
「…なん、で」
今まで気づかれるような話をしたことがあっただろうか、家族に付き合っている相手がいると伝えたのは葉大が初めてだ。
「中学の時、毎日電話していた子がいたじゃない。あの時、ちょっと話してるのを聞いちゃってね。それに、遊びに行ったって話もすごく楽しそうにしてくれたでしょ?あんた、昔からわかりやすいんだから」
少し眉尻を下げて優しい笑みを浮かべるその顔にじわりと目の奥が熱くなる。ティッシュを俺のほうへと寄せてくれた。
「大丈夫よほら。反対されると思った?はじめは驚いたけど、久が幸せならそれでいいから。あんたの人生なんだから、好きにしていーの!犯罪以外ね」
「ん」
「あんたのペースでいいから好きな時に連れてきな」
「ん、ありがとう。…父さんは?父さんも知ってんの?」
「どうかしら。まぁ気づいてないかな。だからまた話さなきゃね」
また俯いた俺に「味方だから」と母さんは言ってくれた。その言葉だけでかなり救われてまた少し涙がぽたぽたとこぼれた。
「ねえ、ところで相手って…当てていい?」
先ほどの真摯で柔らかな笑みとは既に打って変わって、ニコニコと楽しそうに頬杖をついている。「当てていい?」ということはもう確信があるということだ。ここで本当に当てられたら俺は自分がどれだけわかりやすい人間なのかと間違いなくショックを受ける。正直もう結構受けてる。
「無理」
「葉大でしょ」
正解を言い当ててます、とでも言うような顔に開いた口が塞がらない。正解だ。
「………………どうして…」
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まあ、言われてみればそれはそうだ。
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