【完結】触れたら最後

イツキカズラ

文字の大きさ
61 / 87

61. 思い出

しおりを挟む
 何事もなくあっという間に地元に着き、俺は葉大の家の玄関で葉大父と対峙していた。

「おお、久君!久しぶりだな。最後に会った時こんな小っちゃかったけどでっかくなったなー。俺のこと覚えてる?」

 ああ、優しそうだ。助かった。
 葉大の父さんの手の位置からして思っていたより会ったのは久しぶりらしい。

「お久しぶりです。その、…覚えてます。」
「お父さん。立ち話もなんだし、あがってもらいましょうよ」
「ああっ、そうだな」

 「どうぞどうぞ」と慣れた家の中を通される。いつもと同じ部屋、同じ椅子なのにバクバクと跳ねる心臓の音がおさえられなかった。だが、そんな俺の緊張とは裏腹に穏やかな時間が流れていく。


 はじめはガチガチに緊張して変なことも言った気がするが、ごく自然に流れていく空気が心地よくて少しずつ力が抜けていった。隣で嬉しそうにしている葉大に俺まで嬉しくなってこの光景はずっと忘れないのだろうと思った。

「ほら見て~。ふたりが帰ってくる前にお父さんと見てたの。久くんも結構写ってるのよ」
「ふたり揃ってるのがたしかこの辺だったか」

 そう言って見せられたのは、広げられたページいっぱいに写真が入っているアルバムだった。パラパラめくられた先には、甚平を着てカメラに向かってピースをしている幼い俺たちの写真があった。園児の時のだ。この日のことは断片的にぼんやりと覚えている。同じ園の子どもたちと集まって線香花火をしたんだったか。

 次のページにはお遊戯会で王様の冠をかぶる子供たちが5人ほど写っていた。右から2番目が葉大で写真の左端に魔法使いの俺が写り込んでいる。

 めくるたび微かに記憶が蘇ったり見たことのない写真に笑みがこぼれたり、たまにはこうしてわいわいと思い出を振り返るのも悪くない。

 最後のページは中学修学旅行の晩飯の時に撮られたであろう俺とのツーショットで締めくくられていた。後半になるにつれ俺の出現率が異様に高かった気がするし、半ば自分のアルバムを見ていた気分だ。

「高校以降のは?」
「あー…あんまある気しないけど、叔母さんちにあるかも」
「ねえ、こっち向いてみてちょうだい。…あ!いい!ちょっとそのまま!そのままにしていて!」

 その声にアルバムへと落としていた視線をあげると、ハッとした顔をして葉大母がスマホのカメラを構えた。

「あっ、俺もわかったぞ。ほら葉、ピースしてみなさい」
「なに?」

 そう言いつつピースする葉大に釣られて俺もピースをすると「久くんはそのまま」と言われてしまった。そっと手をもとの位置に戻す。パシャリとシャッター音がするとふたりは顔を見合わせてうんうんと頷くと、得意げにスマホをアルバムの横に並べる。

「ほら見て!場所は違うけど再現写真みたいじゃない~?」
「まさにじゃないか?」

 表情や置いてあるものに違いはあるものの、位置や角度はほとんど同じで思わず「おお」と呟くと葉大の声とかぶって、横からふっと息の抜けるような笑い声が聞こえた。

「これ印刷して隣に並べとこう」
「他にもできそうなの探して今度やろうぜ」
「いいわね、楽しそう!…そうだ。私もふたりと写真が撮りたいんだけどいいかしら」

 「もちろん」と頷くと葉大とよく似た笑みを浮かべながらそわそわと俺たちの横へと並んだ。

「俺が撮ろうか」
「何言ってるの!あなたも入るの!ほら、せっかくなんだから」

 撮った写真は葉大に共有してもらった。写真の中の俺は緊張であまりうまく笑えていなかったけど、そんなこと気にならないくらいにはこの写真が好きだと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...