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しおりを挟むざわざわと賑やかなざわめきがホールを満たしている。
今日は王立学園の卒業記念式典で今から始まるのは式典後の卒業パーティーと言う名の舞踏会だ。
婚約者のいる貴族は二人の仲を深めたり、いないものはこの場が最後の婚約者探しとなる。
卒業までに婚約者が決まらなければだいたいは一生独りか後妻の道を進むことになる。
それ故高位貴族の令嬢はこの時期ほぼ全員が婚約者がいた。
公爵・侯爵・伯爵など高位貴族ほど恋愛感情よりも家の発展を目的とした繋がり、政略結婚を念頭に置いたものが多いので早くから決まるのだ。
一方学園に通う子爵・男爵令嬢や平民は比較的自由恋愛ができる。
婚約者のいない令息・令嬢にアプローチしたり裕福な平民に声をかけたりしてこの場で繋ぎを作ることが多い。
今後社交界に出た時に婚約者がいません、となると何処かしら瑕疵があるのではと思われてしまう。
もちろんはじめから結婚よりも王宮侍女なり文官なりを目指す令嬢もいる。その場合は卒業後王立学院の方に進む。
卒業パーティーには出席するし舞踏会も出るが彼女らの服装はシンプルな若草色のドレスと決まっている。
若草色はこの国フランセス王国のカラーだ。国に仕えますという意思表示なのだった。
この卒業の喜びとこれからへの期待や不安を含んだざわめきの中、伯爵令嬢ヴィオレット・ラングレーは小さなため息をついていた。
彼女の婚約者ラウル・ファリエール伯爵令息の姿が見えないからだ。
頬にかかった薄紫の髪を耳にかけ直し、ホールを見苦しくない程度に見渡した。彼女の髪と同じ菫色の瞳には目当ての人間は映らなかった。
舞踏会である以上パートナーが必要だ。パートナーは婚約者もしくは親族。ヴィオレットのパートナーは婚約者のラウルのはずだ。
だがそのラウルが卒業式の後見当たらなかった。まあ半ば覚悟はしていた。ずっと疎遠だったから。父か兄に頼むこともできたが踊らないという選択肢もある。
若草色のドレスの進学組には踊らないものも多い。彼女らの隣にこの碧いドレスで並ぶのは悪目立ちしそうだなと思った。
ラウルとは家同士が決めた婚約者でヴィオレットは家のためだと納得して婚約した。
当時10歳になったばかりでこの国の婚約時期としてはやや早い。14歳の王立学園入学直前に婚約を決めることが多いのだ。
だがもちろん10歳前後で決まることもないわけではない。分家筋や事業で付き合いのある家。それに先代からの約束の場合などだ。
ヴィオレットの場合は両家の先代伯爵同士が親友だった。
子供が生まれたら婚約させようと話をしていたが共に生まれたのが息子だったので孫の代にその約束が実行されたのだ。
また今の第一王子リュカと年回りのあう公爵令嬢・侯爵令嬢があまりいなかったため同じ年のヴィオレットが王妃候補となる可能性があった。
そのため早めに婚約を結んだのだった。『伯爵家が王妃になることは歴史上数えるほどしかない。だが可能性がゼロでない以上手は打っておいた方がいい』というのが先方の話だった。
そんなわけで祖父の口約束から家同士の結びつきを、事業の提携を、という名目でヴィオレットはラウルと婚約した。
子供の頃は二人で仲良く遊んでいた。お茶会も釣りもピクニックも楽しかった。
しかし学園に入ってから急に疎遠になったのだ。
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