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9話 我だけずるいだろ~さやか編~
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私は化粧を直し終わり、手鏡をパチンっと閉じた。ほとんど暗闇での化粧直しなど、出来ることはさほどない。ファンデーションをはたき直し、スマホのライトで照らした自分の眉毛を描き足すくらいだった。
その間に項垂れていた竜介が復活したのか、さやかの方をぐるりと向いて言葉を発する。
「きっ……貴様も何か話せ! 我ばかりズルいではないか!」
彼女に指を指し、苦し紛れに言い訳にもならぬ言い訳を早々と口にした。
「「無茶ぶりだろ」」
私とさやかの声が被る。2人して竜介に冷ややかな目を向けるのは当然だ。
しばしの沈黙の後、彼女はふぅ、と息を吐くと、
「まっいいわ、まだ動かないなら退屈しのぎにアタシの話も聞いてもらおうかしら」
と髪を手でなびかせる仕草をした後、語りだした。
「アタシの家はね、両親の仲は良好で、特に不自由なく生活してたのよ。だから性別のことは隠してたわ。大人になるまで耐え抜けばいいと思ってたからね……」
青白い光を放つ彼女は私と竜介を交互に見ながら話す。その声は淡々としたものだった。私達は黙って耳を傾けている。
「でも、なんか突然高校の時にその我慢が爆発しちゃってね。もう自分を偽ることに耐えられなくなったのかしら。両親に打ち明けちゃったのよ。心は女ですーってね」
そんな予定はなかったのに、とさやかは苦笑する。
「両親はアタシを責めたりはしなかった。代わりに自分達を責め始めたのよ。『自分達の育て方が間違っていたんじゃないか』とか話し出してね。挙句の果てにはお互いのせいだと言い合うようになって、夜中まで喧嘩する日もあったわ。アタシがこれからどうなりたいかなんて聞きもせず、ね。あぁ、アタシのせいで家がめちゃくちゃだって思ったわ。一人っ子だったし」
親が自分のせいで喧嘩する……それでさやかはどれだけ自分を責めたのだろう。どれだけ胸を痛めたのだろう。
そしてこれからどうしていったらいいのか、自分でも分からないのにそんな話が出来る状態じゃなかったのだ。体と心の性別が違うだけで、こんなにも辛い思いをしなければならないのか。
「アタシは家の空気にも耐えられなくなって、高校を卒業したその日に家を飛び出したわ。
『女の子になりたいです。ごめんなさい』って置手紙を置いてね。新宿二丁目に、複雑だったけど足を踏み入れたの。キラキラした世界だった……性別も何も関係なく皆楽しそうで」
高校卒業同時に、ということは18歳だ。成人ではないし本当に息の詰まる思いだったのだろう。だが二丁目の話に差し掛かり、彼女の瞳も、心なしかキラキラしているように見えた。
「居酒屋でバイトを始めて、そこの伝手でボロアパートを借りることが出来たの。その居酒屋の店長もオネエで、隠しもしてなかったことに驚いたけど、よく相談に乗ってもらった恩人よ。堂々としてていいんだって初めてそこで思えたかもしれないわね」
何となくほっとする。居場所が出来たんだ……と感じたからだ。
相変わらずさやかは淡々と語っているように見えるけど、節々から嬉しさが伝わってくる。
「必死で手術代を稼いで、色々手術をしたわ。ホルモン注射もその頃から入れだして、あたしは”女”になることが出来た。それからは二丁目のオカマバーで働き出した。居酒屋にはちょくちょく顔出してたけどね」
でも……とさやかが続ける。
「化粧をいくら頑張っても、どんなに自分に似合う髪型を研究しても、本当の美人には敵わないのよね。お客様で来られる美人にも、お店にいた子にもすごく嫉妬しちゃったわ。アタシは所詮、お笑いキャラになるしかなかったのよ……」
彼女はくるり、と正面を向いて、自分を抱きしめるようにして、肩を震わせ出す。
思い出しているのだろう。当時のことを……
私は王子を竜介の膝にそっと乗せると、席をさやかの後ろにまわって、彼女を優しく抱きしめた。
彼女は泣くのを堪えているのか、声が出ないようだった。
私達は彼女が落ち着くのを黙って待つことにする。
その間に項垂れていた竜介が復活したのか、さやかの方をぐるりと向いて言葉を発する。
「きっ……貴様も何か話せ! 我ばかりズルいではないか!」
彼女に指を指し、苦し紛れに言い訳にもならぬ言い訳を早々と口にした。
「「無茶ぶりだろ」」
私とさやかの声が被る。2人して竜介に冷ややかな目を向けるのは当然だ。
しばしの沈黙の後、彼女はふぅ、と息を吐くと、
「まっいいわ、まだ動かないなら退屈しのぎにアタシの話も聞いてもらおうかしら」
と髪を手でなびかせる仕草をした後、語りだした。
「アタシの家はね、両親の仲は良好で、特に不自由なく生活してたのよ。だから性別のことは隠してたわ。大人になるまで耐え抜けばいいと思ってたからね……」
青白い光を放つ彼女は私と竜介を交互に見ながら話す。その声は淡々としたものだった。私達は黙って耳を傾けている。
「でも、なんか突然高校の時にその我慢が爆発しちゃってね。もう自分を偽ることに耐えられなくなったのかしら。両親に打ち明けちゃったのよ。心は女ですーってね」
そんな予定はなかったのに、とさやかは苦笑する。
「両親はアタシを責めたりはしなかった。代わりに自分達を責め始めたのよ。『自分達の育て方が間違っていたんじゃないか』とか話し出してね。挙句の果てにはお互いのせいだと言い合うようになって、夜中まで喧嘩する日もあったわ。アタシがこれからどうなりたいかなんて聞きもせず、ね。あぁ、アタシのせいで家がめちゃくちゃだって思ったわ。一人っ子だったし」
親が自分のせいで喧嘩する……それでさやかはどれだけ自分を責めたのだろう。どれだけ胸を痛めたのだろう。
そしてこれからどうしていったらいいのか、自分でも分からないのにそんな話が出来る状態じゃなかったのだ。体と心の性別が違うだけで、こんなにも辛い思いをしなければならないのか。
「アタシは家の空気にも耐えられなくなって、高校を卒業したその日に家を飛び出したわ。
『女の子になりたいです。ごめんなさい』って置手紙を置いてね。新宿二丁目に、複雑だったけど足を踏み入れたの。キラキラした世界だった……性別も何も関係なく皆楽しそうで」
高校卒業同時に、ということは18歳だ。成人ではないし本当に息の詰まる思いだったのだろう。だが二丁目の話に差し掛かり、彼女の瞳も、心なしかキラキラしているように見えた。
「居酒屋でバイトを始めて、そこの伝手でボロアパートを借りることが出来たの。その居酒屋の店長もオネエで、隠しもしてなかったことに驚いたけど、よく相談に乗ってもらった恩人よ。堂々としてていいんだって初めてそこで思えたかもしれないわね」
何となくほっとする。居場所が出来たんだ……と感じたからだ。
相変わらずさやかは淡々と語っているように見えるけど、節々から嬉しさが伝わってくる。
「必死で手術代を稼いで、色々手術をしたわ。ホルモン注射もその頃から入れだして、あたしは”女”になることが出来た。それからは二丁目のオカマバーで働き出した。居酒屋にはちょくちょく顔出してたけどね」
でも……とさやかが続ける。
「化粧をいくら頑張っても、どんなに自分に似合う髪型を研究しても、本当の美人には敵わないのよね。お客様で来られる美人にも、お店にいた子にもすごく嫉妬しちゃったわ。アタシは所詮、お笑いキャラになるしかなかったのよ……」
彼女はくるり、と正面を向いて、自分を抱きしめるようにして、肩を震わせ出す。
思い出しているのだろう。当時のことを……
私は王子を竜介の膝にそっと乗せると、席をさやかの後ろにまわって、彼女を優しく抱きしめた。
彼女は泣くのを堪えているのか、声が出ないようだった。
私達は彼女が落ち着くのを黙って待つことにする。
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