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試合の応援③
しおりを挟む「頑張って来てねお姉ちゃん。」
「……ほどほどに頑張ってきなさい。」
「絶対勝ってくるからな!!一狼、見ててくれよ?」
観客席で俺は背番号一番のユニフォームを着たお姉ちゃんに手を振る。
どうやらお姉ちゃんは友達とは一回離れて来たようで、お姉ちゃんと一緒に来ていたらしい友達は居なかった。お姉ちゃんのユニフォーム姿は、元の体が美女ということもあって、かなり似合っている。ユニフォームの白色が、お姉ちゃんの艶のある黒色の髪と噛み合っていて、前世ならファンクラブが作られそうな程可愛い。……ちょっとそんなじと目で見ないでよ華。一番可愛いのは華だから。仲直りのハグしよ?……よしよし華は可愛いな。
お姉ちゃんを見送った後、俺は観客席の上で華とハグをする。
遠くから俺と華を見たお姉ちゃんは、こちらを羨ましそうな目で見てくるのだが、何故だろう?もしかして、ハグでもして欲しかったのだろうか?でもお姉ちゃんは前科持ちだからな。ハグしただけで襲われたし。まぁ、試合に勝ったときはハグしてあげようかな…?華も居るし最悪守ってくれるでしょ。
華とのハグをしたり、その後もこしょこしょのやり合いでいちゃついていたりすると、チームのメンバー紹介が始まった。メンバー紹介の時で分かったが、お姉ちゃんはゴールキーパーということもありなかなかの知名度があるようだ。お姉ちゃんの名前が呼ばれた時、少しだけ会場が盛り上がった。お姉ちゃんが人気があると、お姉ちゃんの弟として嬉しさを感じるな。え?動画配信サイトを落としたのは誰か?う~ん身に覚えがないな。……たしか、あのシャットアウトさせた動画の再生回数が一兆を超えてからもうあの動画を見るのは封印したけど、今でも急上昇ランキング一位とってるんだっけ?あれをきっかけに、俺はもう曲を作るのを辞めることにしたよ。だって、出演依頼が来たり取材の許可のメールが何百件もアカウントに送られてきて、流石に参った。俺は基本目立つことはしたくないし、出来る限り華と一緒に居たいので、テレビに出るだけの忙しい日々なんて絶対ごめんだ。コメント欄は次のMVのお願いだったり、俺に対する熱いラブコールでまみれてたけど、基本外国語で日本語があまり無くて何を言ってるのかはよくわからなかった。英語はまだ分かるけど、アラブ系の文字とかで書かれても認識出来ない。てか、よく俺の日本語理解出来たな?……最初の方は少しだけコメントを返信してたんだけど、そのコメントが炎上しているのは流石に驚いた。炎上理由が、俺がコメントを返したから。…あの動画配信サイトはもう規模が怖くて最近覗いてない。
「ねぇねぇ一狼。この曲って一狼が歌ってた曲だよね?」
「多分そうだと思う。……著作権フリーで作った曲だけど、まさか試合で流れるとは思わなかったよ。」
「一狼は凄いんだからいいの。だって、私の彼氏だしね///」
可愛いことを言ってくれる華の頭を撫でながら軽く微笑むと、何やら窮屈感を感じた。あれ?何かこいつらよく見たら俺と近くね?向こうの席一帯とか人が全く居ないのに、どうしてこっちにだけこんなに人が……試合見てて気付かなかったけど、こいつら試合見てるのか?何やら、俺のことを見ている気がするのだが。カメラだって、方角俺に向いてるし……
一狼が気付いたように、観客の九割は全て一狼を見ている。
中には試合中の出場選手も暇があれば、チラリと彼の姿を目に焼き付けている。ベンチにいるメンバーも、チームの応援は棒読みで視線はずっと彼に向いていた。
県大会をかけた試合と、絶滅危惧種かよと言うほど出会わない男。しかも、とんでもないイケメン。どちらを取ると言われたら、ほぼほぼ後者だろう。県大会をかけた試合も十分に大事だが、彼を見れるこの時間の方が重要だ。県大会をかけた試合は来年やまた後にもチャンスは回ってくるかもしれないが、彼がもう見れるという保証は無いのだ。その為、彼女等は後世の自分の為に、彼のことを脳内でインプットするか、動画や画像で形あるものにしておく。彼にアピールをしようとする女性も居たが、そんな女性は彼にバレる前に周りの女性からの圧で実践する前に止めた。競技場の一部で殺意が一気に膨張した時は、サッカーの試合をしている出場者を一瞬恐怖に染め、二、三秒だが試合が止まった。この空間において、彼をここから帰させてしまうような原因を作るのは許されないのだ。本来なら隣に居る彼女も殺意の対象だが、彼女のお陰で嬉しそうな彼が見れているというのもあるので、一応対象からは免れている。……しかし、原因である彼はそれに気付くこともなく、華とイチャイチャを繰り返しながらサッカーコートを見続けていた。
「お姉ちゃんナイスブロック。今の入れられてたら危なかったね。」
「……そうね。」
先程からお姉ちゃんについての会話だからか、少し不機嫌気味の華。
そんなところも可愛いと思うが、とりあえず華のプレーなどについての話は止めて、日常的な会話に移ろうか。
「そういえば、華って学生の頃何のスポーツやってたの?お姉ちゃんがサッカーやってるから、もしかして運動部?」
「えーっと、確か陸上部だったはず。意外と華は走るのが早かったんだよ?後で競争でもしてみる?」
「陸上部だから華は、そんなにスタイルがいいんだね。」
「ふぇっ?ちょっ!!不意打ちは駄目だよ。」
「でも、しっかりご飯は食べて欲しいな。華はどんな姿でも可愛いし、美しいから。今日だってあんまり食べて無かったでしょ?」
「う、うん//」
やはり、許せん。
周囲の視線はイチャイチャを繰り返す漫画のような光景を見て、ついに堪忍袋の緒が切れた。何なんだこの女は。スタイルとか褒められたり、可愛いとか言われたり美しいと言われたり。これが所謂勝ち組という奴だろうが、流石に羨まし過ぎではないか?こんなイケメンを───あんな優しい男性を───一人の女性が殺意を華に向けると、他の女性達も次々と華に殺意を向ける。やはり、あの女性について思うところがあったらしい。負け組にイチャイチャを見せつけてるんじゃねぇぇぇ。かなりの殺意が彼女に向けられたと思った時、彼とイチャイチャを繰り返していた彼女は、そっと舌を出しながらこっちを見下すように軽く微笑んできた。絶対許さん───殺意を向けていなかった人も殺意を向け出したと思うと、華は一狼の膝に頭を見せつけるようにゆっくりと下ろした。そんな華を、一狼はまるで天使のような微笑みで優しく髪の毛を撫で──競技場内の殺意が更に強くなったのは言うまでもない。
■■■■■■
「お姉ちゃん勝てて良かったね。格好良かったよ。」
「そ、そうか?お、お姉ちゃん格好良かったか?」
「うん、格好良かったよ。特に、あのシュート止めた時とか凄く格好良かった。」
「そうかそうか。それじゃあ、勝ったお姉ちゃんに勝利のハグをしてくれない──」
「仕方ないなぁ~少しだけだよ?」
「おおおっ!!これは、これは来たのでは!!──」
興奮した様子で腕を広げるお姉ちゃん。
本当なら興奮している様子なので襲われそうでハグをするのが少し怖いが、試合に勝ったし、俺が華とハグをしているの羨ましそうにしてたし、最悪華が守ってくれるということを信じて俺も腕を広げる。
しかし、俺がハグをしたのはお姉ちゃんでは無かった。
「一狼の彼女は私なんだから、ハグをするのは私だけでいいよね?」
「…そうだね。」
「試合……試合ぃぃ……試合にせっかく勝ったのにいぃぃぃぃ。ハグ出来ると思ったのにぃぃぃ。」
ガクッと、その場に立ち崩れるお姉ちゃん。
個人的だけど、華の独占欲って俺の彼女兼妻になった時から恐ろしい程強くなってないか?前までも結構積極的だったけど、ここまで俺と他者の触れあいを封じてはいなかった気が……でも、こんなに可愛い華に求められるのは俺としては嬉しいし、気にする必要はないか。触れあいは無理そうだし、家に帰ったらお姉ちゃんにはお祝いのケーキでも作ってあげよう。
「あの……もしかして、桜の弟君ですか?」
華とハグをしていると、お姉ちゃんと同じユニフォームを着た顔がやけに紅い女性がやって来た。茶髪のポニーテールで、根本が黄色のゴムで可愛く結ばれている。類は友を呼ぶというのか、お姉ちゃんに似てとても美人さんだ。同じユニフォームを着てるし、お姉ちゃんと同じサッカーチームの人かな?……って、そんなに睨まないで。一番可愛くて美しいのは華だから。
「はい。お姉ちゃんの弟の一狼です。お姉さんは、お姉ちゃんの友達ですか?」
俺がお姉さんと言うと、その女性は何やら下半身を抑えてその場でくねくねとする。やはり身を持って感じるけど、女性の人って男に耐性が無いんだね。これで俺がハグとかしたらどうなるんだろうか?
「わ、わわわたしは桜の友達の、鈴見花恋ですすすすっ! 桜とは、い、い、いつも仲良くさせてもらってますすぅ! 」
告白をした時みたいに顔を真っ赤に染めて、噛み噛みの挨拶をする鈴見さんに、俺は軽く微笑む。別にそんなに緊張しなくてもいいのに。でもやっぱり、軽く挨拶するだけでこれとか反応面白いな。……って、え?いつの間にか鼻血出して倒れてるんだけど?あのまま俺と挨拶出来た嬉しさで、鼻血を出すほど興奮しちゃったとか?いやいやそんなことあるわけ……無いとは言いきれないのが怖い。とりあえず、寝かしつけるか。
真っ赤に染まったユニフォームを着た鈴見さんを一度もう一枚持ってきておいたレジャーシートに寝かせると、鈴見さんの出した鼻血をお姉ちゃんが大量に持ってきていたテイッシュを使って拭き取る。……ていうか、周りの人も倒れてはないけど、鼻血出しながら鼻抑えてるんだけど。鼻血の海に化すのだけは止めてね?
一狼のことを試合が終わっても帰らずに見ていた観客は、こうなった原因を理解していない一狼の巻き添えを喰らった。
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