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試合の応援④
しおりを挟む「ねぇねぇ。私達約束したよね。男の子が居たら、二人で協力して虜にしようって?なのに、どうして嘘ついたの?ていうか、あんなイケメンが桜の弟だと思わなかったし。ずるい。ずるい。ずるい。」
「──まぁ、落ち着け落ち着け。そんなこと言っても、一狼は私の弟だからな。それに、一狼は男の子じゃなくて私にとっては未来の婿だから。男の子じゃない一狼を花恋に教える必要はない。」
「屁理屈と意味不明なこと交えて言ったって大罪じゃあぁぁぁ──」
花恋に競技場から離れた場所にある女子トイレに呼び出された桜。
鼻血を出しながら倒れた後、数分で立ち上がった花恋は桜を女子トイレに呼び出していた。
呼び出された桜の頬には大きな紅葉が何枚も咲いており、何度もビンタされたことが分かる。彼女は大きな紅葉が出来た場所を必死に抑えていて、今も痛みを耐えようと踏ん張っている。
「そんな怒るなって──」
「怒るに決まってるでしょ!!?何よあの物語とかでしか出てこないような男性は。優しくてイケメンで笑顔が可愛くて美しいって、もう完璧でしょ?そんな男性が弟に居ることを今まで隠してたんだから、これくらいは当然。」
「……一狼はこんな私を見たら、可哀想だと思って優しく抱き締めてくれると思うか?」
「もっとやって欲しいようだね。」
痛い痛いとヒリヒリする頬を触りながら嘆いていた桜だが、どうやらまだ余裕があるらしい。すかさずそんな親友を見て、花恋はもう一撃頬にビンタを加える。二人は幼稚園からの幼なじみで、中学校を除けば、幼稚園、小学校、高校が同じ二人だ。十年以上の長い付き合いである。そんな二人は、幼稚園の頃からサッカーをやる仲で、幼稚園の頃から仲が良かった。そんな二人は、小学校高学年になって異性という者を求めるようになった。……といっても、桜は愛しい一狼が居るので主に花恋だが。桜は花恋に頼まれ、男を見つけたら報告、連絡、相談をしようという協定を結んだ。これは今も続いている協定で、男を見つけたらすぐ報告を相手にするという物だった。……しかし、桜は一狼が居ることを隠していた。協定を結んでいるのに裏切られたとは、親友であれ半殺しにしなければいけないだろう。理由も小学生が言い訳に考えたような屁理屈まがいの物だ。容赦など無しだ。
「冗談だから。落ち着いて。ていうか、それ以上私の頬叩いたら一狼に言い付けるぞ?」
「ちょっ!?それは卑怯じゃ……もし、一狼様に嫌われたりでもしたら──」
「……言っとくけど、一狼は様付けとか嫌うからな。」
「えっ?そうなの?メモしなきゃ。メモメモ。」
ポッケからメモを取り出したと思ったら、桜の言ったことを重要そうにメモする花恋。遠くから見たら、トイレの中で必死にメモをしているので、何やってんだこいつと異端な物を見る目で見られるだろう。ちなみに、桜もその内の一人だ。実際に、メモを取り出した花恋から少し離れた場所からジト目で見ている。しかし、彼女はメモを取るのに必死なのか気付いていない。
「それで、他に何かある?一狼ちゃんが嫌いなことって?」
「今度はちゃん付けとか、もはや嫌われに行ってるのか?何が一狼ちゃんだ。一狼がもっと小さい時も言ってないぞそんなこと。一狼のプライドが傷つけられて余計嫌われるぞ。」
「えーっと……じゃあ、一狼君?」
「……そんなもんでいいんじゃないか?まぁ、私は一狼って呼んでるけどな。イケメンの弟が居るなんて、幸せだなぁ~」
「潰す潰す潰す潰す潰す───」
「お、おい、怒るなって。一狼が好きなことを教えてやるから。」
「是非お願いします。義お姉さま♪」
「勝手に義をつけるなあああああ──」
一狼を守るかのように、義をつけて自分のことを呼びやがった花恋に、桜はぷすっとした態度で、腕を組んで何一つ話すことのないように自身の口をチャックした。一狼の相手の結婚枠は最高であと二つ。いくら親友であれ、その枠の一つが奪われるような行為をしてはいけないと、義お姉さまと呼ばれた時瞬時に本能が反応した。一狼の好きなことや嫌いなこと。それを知っているのは、家族である私だけの特権だ。親友であろうと、愛しい一狼に好かれるような要素は与えない。敵に塩を与えるような真似は絶対にしないのだ。
トイレの中で桜の次の発言をピタリとも動かないで待つ花恋に、ぷすっとした態度で何も話そうとしない桜。トイレの中でこいつらは何しているんだという視線を向けて、トイレに来た女性達は過ぎ去っていく。しかも入り口付近でそんなことをしている為、トイレに入りずらい。迷惑な奴等である。そんな二人に、ある一人の女性が割り込んできた。
「ちょっと貴方達邪魔なんだけど?入り口付近で、意味不明なことしないで頂戴?」
「あ?こっちは今までの人生において一番大切なことを聞こうとしているんだけど?邪魔するなカス。入ってくるな。」
「ちょっ!!止めろって。」
「何!?悪いのは貴方達なんだから、さっさと退いてちょうだ……はい。分かりました。勝手に割り込んですみませんでした。」
「……次やったら◯す。」
「怖っ!!」
割り込んできて女性の首もとにシャーペンを向ける花恋。表情は軽く笑っているが、目が笑っていない。目に光りが無く、薄く濁っているようで何時殺られても無理無い。そんな花恋を見て怖じ気付いた女性は、花恋に謝るとトイレをしに来たはずだったのに、そのまま走って帰って行ってしまった。普段男性との接点が無い花恋において、一狼の好きなことと言うのは数十万払ってでも欲しい程の大切な情報である。気性が激しくなるのは当たり前だが、声を掛けた女性は貧乏くじを引かされたような物である。通り過ぎる女性の中で、二人に掛けようとしていた女性は複数居たのだがスルーをした。声を掛けてしまった女性が悪いとも言えるが、流石に可哀想だろう。……そんな花恋を見て、桜は少し恐怖から距離を開けている。
「なぁなぁ?一狼の好きなこと言わないって言ったら、どうする?」
「え?半殺しにする♪」
「えっ!?……はい。是非説明させて頂きます。えーっと、一狼の好きなことはですね………」
桜は自分の死を悟ったのか、半ば諦めた様子で少しずつ話しだした。親の華や妹のかおりからすれば半殺しにされてでも黙り続けろよと思うが、女性に対する花恋の様子を見て、桜は瞬時に花恋に従うことを決めた。桜が話し始めている間、またしても罠に掛かった一人の女性が二人に声を掛け……ご退場となった。押されたらそのまま押し切られてしまう自分が少し嫌に感じていた桜だが、その光景を見て自分の判断を内心物凄く褒めた。
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