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進展する二人。

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「カイル~今日は辺境の村に最近住み着いたドラゴンを討伐して来たよ~。」
「よく頑張ったな~」
「うん。エレナいい子。抱き締めて。」
「言われなくても、するつもりだったよ。」

 夕日が沈もうとする中、さらさらと艶のある金髪を揺らしながら、家の中に居る僕に向かって抱き付いてくるエレナ。エレナは、僕の孤児院からの幼馴染みで、Sランク冒険者をやっている。Sランクと言えば、低階級の貴族と渡り合えるほどの権力を持っていて、軍隊一つと同レベルの実力を持っている。そんなSランク冒険者のエレナだが、俺にSランク冒険者ということがバレていないと思っているらしい。試しに、ドラゴンってどれくらいの実力者があれば倒せるのと聞くと、彼女は一番ランクの低いGランク以外なら倒せると嘘をつく。恐らく、心配性な俺だから危険なSランクをやっていたら止められると思っているのだろう。
 まぁ、初めて知った時は驚いた。
 だから、俺は彼女にバレないようついていっている。
 バレないようにするために、対象を倒したら直ぐ家に帰らなければいけないが……
 そんなことを知らない、疲れた~と言って今日も甘えて来るエレナの頭を軽く撫でてやる。

「嬉しい~♪」
「俺もエレナと一緒に居れて嬉しいぞ~」
「もっとっ!!もっとっ!!もっと撫でてぇ~」
「仕方ないなぁ~♪」

 エレナがもっともっと撫でて欲しいというので、先程よりも撫でる回数を増やす。撫でれば撫でるだけトロントとした目になるので、見ていて飽きない。
 撫で回しながらエレナの表情を見ること少し、これ以上撫でてしまうと折角作った料理が冷めてしまうので、ご飯を食べて貰うことにした。

「うわっ!!美味しい。何これ?」
「それは、オークの肉を使ったハンバーグだ。オークは油が多くてジューシーだから、肉汁が溢れ出てくるだろう?」
「うん!肉汁が噛めば出てきて美味しい~」
「ほら、エレナなの好きなポテトサラダだぞ。あ~ん。」
「ん♪」

 大きく口を開けながら、どんどんとハンバーグを食べていくエレナの口に、丁度いいくらいに冷えたポテトサラダを冷蔵庫から取り出し、入れてあげる。ポテトサラダは、孤児院の頃から俺が良く作っていた物で、エレナの昔からの大好物。……にしても、小さな顔でハムスターのように頬を膨らませながら食べるエレナなは、いつも可愛いが特に可愛い。

「はい。あ~ん♪」
「ん♪俺が作ったから分かっていたが、やっぱ旨いな。」
「美味しいのは、エレナがあ~んしたからじゃないの?」
「そんな当たり前のこと言う必要無いだろ?ほら、あ~ん。」
「もうっ!また、からかっ…ン!」
「やっぱりエレナは可愛いなぁ~。」

 頬を薄いピンク色に染めて、嬉しそうにハンバーグやポテトサラダと白米を食べるエレナの後ろに回り、エレナの可愛い小顔に似合うさらさとした金髪を優しく右手で撫でる。そのまま撫でていると、エレナは冒険者で引き締まった体を拍に合わせるかのように左右に傾けて、何かのリズムを取っているかのような動きを取り出した。……ここは、あえてエレナには言わない。もっと子供のような姿のエレナを見てたいし、言ったら止めるだろうからな。

 エレナの動きを見たりしながらご飯を食べていると、気付けば目の前の食べ物は無くなっていて、お風呂の時間となった。
 お風呂は、俺がエレナの為に初めて作った物で、この家以外には存在しない。
 エレナも最初は風呂の良さが分からなかったのだが、何度か入れていると直ぐに風呂の良さに気付いたようで、何泊かしなければいけないクエストとかはここ最近やっているのを見たことがない。

「それじゃあ、エレナ先に入ってきて。」
「うん。……カイルなら覗きに来てもいいよ。」
「え…遠慮しとくよ。」

 さっきの仕返しとばかりに、小悪魔的な顔をしながら俺をからかってくるエレナの誘いを、俺は何とか精神を統一して浮かび上がる衝動を防ぐと、気晴らし程度に明日の準備をすることにする。

「ふんふんふん~♪」
「エレナ鼻歌大きいな。結構風呂場から離れてる気がするけど。まぁ、見た目大人なのに子供のようで可愛いしいいや。」
「ふっ!?」

 俺の声が聞こえたのか、風呂場から先程からずっと聞こえていた鼻歌が、急に聞こえなくなった。代わりに、ブクブクという音が聞こえてきて、恥ずかしさのあまり風呂にでも潜ろうとしているのが分かる。
 ……可愛い過ぎじゃね。

 一通り俺とエレナの明日の準備を終わらせると、気付けばエレナは風呂から出てきていた。風呂から出てきたエレナは、風呂のせいか全身赤っぽくなっており、いつもより色気が出ててまた衝動を抑えるのに苦労した。顔が少しだけ他の部分より赤いのは、俺の気のせいだろう。

「それじゃあ、俺入ってくるね。」
「じゃあ、エレナも入…」
「……あのなぁ。エレナ。子供っぽいところあるけど、自分にどれだけの色気があるか分かってるか?エレナが風呂に入ってきたら、衝動を抑えなくなってエレナのこと俺が襲っちゃうかも知れないんだぞ?子供の頃男に襲われかけたエレナにとって、それは嫌だろ?」
「カイルなら、逆に嬉し…」

 不穏な言葉が聞こえた気がするが、俺は脳内でシャットアウトし、理性が残る内に急いで風呂場に逃げ込む。
 いつもなら、風呂場に入ろうと鍵を掛けた扉を無理矢理開けようとしたり、脱いだばかりの下着で何かをしようとしてくるが、今日は何もなかった。

 今日は特につかれたな。
 シャンプーやリンス石鹸を使って体を洗いながらそんなことを思うと、俺は風呂に入った。
 
 風呂に入った俺は、さっきエレナの言っていたことについてつい考えてしまう。
 エレナの言ったことが本当なら俺は……エレナを襲ってもいいのか?
 そんな考えが浮かび上がると共に、エレナが昔男に襲われて男にトラウマを覚えたことを思い出す。
 エレナが八歳くらいの頃。
 俺とエレナが孤児院でお使いを頼まれた時、そのお使いの帰りの途中で、俺とエレナはガタイのいい盗賊のような、洗濯をしてないというしかないくらい汚い服を着た髭の濃い奴に、路地裏に連れていかれた。

 路地裏に連れてかれてそいつにされたことは、エレナの服が破られたこと。俺は服を破こうとするこいつに対抗しようとしたが、ガタイのいいこいつに勝てる訳もなく俺は吹き飛ばされ、エレナの服がビリビリと破られ、エレナは糸一つすら纏わない生まれた時と同じ姿にさせられた。

「ひっぐ…ひっぐ…」
「俺、子供とヤるのが夢だったんだ。気持ちよくさせてくれよ。」
「止めろ!!」

 エレナを泣かしたこいつをボコボコにしてやりたい。
 食事すら出来ない体にしてやりたい。
 どうにかして潰してやりたい。
 という憎しみが俺の体をどうにかさせたのか、俺は世界で二回もチャンピョンを獲った日本人プロレスラーの榊原真さかきばら・まことという、この世界とは違う世界にいる人間の記憶が頭に入った。

 そこからは、早かった。
 俺を吹き飛ばした、本来なら勝つことの出来ないであろう、エレナを泣かせた張本人に俺は気が付けば殴りかかっており、今度はその男を一撃で気絶させ、憎しみのあまり死一歩手前まで殴りかかった。

 こいつが動けなくなったことを確認し、急いでエレナを見てみると、エレナの体はブルブルと震えており、生きているのか生きていないのか分からないくらい、生のこもっていない顔をしていた。
 そんなエレナを見て、女の子であるエレナが服を着てないのは不味いと、とりあえず俺はパンツとシャツを除き全て脱ぎ、エレナにそれを着せることにした。
 とりあえず服を無理矢理にでも着させると、ブルブルと震えその場から動けないエレナをおんぶし、俺は孤児院へとエレナを連れて帰ることにした。帰る途中、歩いている人から変な目で見られたが、そんなの関係なしに俺は孤児院へと全力で走った。あいつから離れたので、震えは多少マシになっかと思ったが、逆に男が沢山居る道に出たのが原因かエレナの震えがもっと激しくなっているのが背中を通して分かり、安心など出来ないままどれだけ早く帰れるかを考えた。

 あの事件があった後、エレナは男性恐怖性になった。
 幼馴染みである俺すら避け、他のエレナより大きい孤児や小さい孤児と一緒に居るだけで、その場に座り込んで震えてしまうという、男性が近くにいると動けない体になってしまった。
 そんな彼女の男性恐怖性を取り除こうと俺は努力した。
 最初の頃は、会うことすら拒否られ、話掛けても無視された。
 だけど、この日本人という違う世界を生きた人間の記憶を元に、折り紙などの小物から生活に必要な風呂のような物、後アイスクリームなどのデザートや子供が喜ぶような物を作ったり食べさせることで、少しずつ男性に対する恐怖が薄れていき、今ではほぼその恐怖が取り除かれ、俺と一緒に生活することすら出来るようになった。

 そんなエレナの男性恐怖性。
 完璧に治ったのだろうか?
 ここで俺が欲望のままに襲ってしまったら、あのトラウマを思いだして、また男性恐怖性を発症させてしまうのではないか……

 考えること数十分。
 とりあえず、エレナにトラウマを思い出された時の代償がでかすぎるということで、俺はエレナに何を言われようと襲わないことにすることにした。
 
 火照った体をタオルで拭き、用意した着替えに着替えると、風呂場を出る。
 すると、そこには顔を林檎のように真っ赤にさせたエレナが服を着ていない状態で、扉を開けた先に立っていた。

「エ、エレナその姿───」
「私、カイルに捨てられるかもって恐かったの!!だって、全然エレナは、カイルに恩返し出来てないし、今までずっと襲われる覚悟をして生活してたのに襲ってこなかったから、エレナ何て魅力の無い女で可愛いとかは優しさで言ってい…」
「それ以上何も言うな!!」

 ビクリと俺の言葉で一瞬震えたエレナに近づき、エレナを抱き締めて自分の唇をエレナの唇にそっとつける。甘いような甘酸っぱいような不思議な感じ。目の前で抱き締めているエレナは、何が起こったか分からないような感じで俺のことを真っ直ぐに見ていた。

「なぁ、エレナ。」
「な、何カイル?」
「俺は、エレナのことが好きだ。 エレナは隠しているようだが、俺はエレナがSランク冒険者だって知っている。エレナのことだから、あの事件のように襲われそうになった時に、返り討ちに出来るように実力をつけたんだろ?俺にバレないようなところで、俺に助けて貰うという迷惑を掛けないように必死に努力したんだろ。エレナは人に見つからないようなところで努力をすることが出来るし、何より俺はエレナといて楽しい。俺の作った料理を本当に美味しそうに食べてくれるし、俺のしてくれる家事一つ一つに感謝をしてくれる。それが、俺にとっての生き甲斐だ。それに、エレナは襲いたくなる程可愛いし、何より子供っぽいような危なっかしいお前を、子供の頃捨てられた俺が、親と同じように捨てられると思うか?親に捨てられたもの同士、俺は大切な人を捨てるということは絶対にしない。恩返し、まだ出来てないんだろ?なら、一生を懸けて俺に恩返しをしてくれよ?」
「うぅ…カイルぅ……」

 エレナは、俺の胸に頭を寄せて泣いた。
 そんなエレナを、俺はそっと抱き締める。
 やれやれ。
 またあの事件のように泣いているじゃないか。
 もしかして、男性恐怖症をまた発症させてしまったか?今だって、俺に抱き締められて体がブルブルとふるえているし。
 ……まぁ、顔は前と違って死んだよう顔じゃなくて、赤く、恥ずかしそうで嬉しそうな顔をしているが。
 こうなったら……う~ん。そうだな。
 また男性恐怖性を治せるように、一生を懸けて付き添ってやるよ。

 今だに震えるエレナに、俺はまたキスをした。
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