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<side卓>

直くんと絢斗用の少し甘めのカレーと、私と昇用の辛口カレーをそれぞれ皿に盛り付け、サクッと揚がったエビフライをご飯の上にのせて出すと直くんの目が輝くのがわかった。すっかり揚げ物にも慣れてくれてよかった。

天沢くんの店と旅館で食べた海老の天ぷらとはまた食感も違うから喜んでくれることだろう。

「いただきまーす!」

嬉しそうな声をあげて、絢斗と直くんが一口食べるとその表情だけで嬉しくなる。

「パパ、このカレーすっごく美味しいです」

「そうか、よかった」

「卓さんのカレーは市販のルウを使わずにスパイスを調合して作っているから最高に美味しいよね」

「スパイス? 調合?」

絢斗から出てきた聞き慣れない言葉に直くんがキョトンとしている。その横で昇が説明をしてあげていた。

「えっ、じゃあこのカレーはパパしか作れないってことですか?」

「まぁそういうことかな。直くんと絢斗の口に合うようにスパイスの量を調整しているからね」

「わぁー、すごいです。僕、このカレーとっても好きです」

「直くん、俺も直くんの口に合うようなカレーを作れるようになるから楽しみにしてて」

「はい! 昇さんのカレー、楽しみにしてます!」

昇の負けず嫌いなところが出たか。直くんからとっても好きだなんて言葉がでてきたらそうなっても仕方がないか。直くんの好みを知っている昇なら私のカレーを上回る日も近いかもしれないな。

食事を終えてしばらくリビングで寛いでいると、絢斗のスマホが鳴っている事に気づいて声をかけた。

絢斗は画面表示を見て

「皐月だ!」

と一言告げ、話をしてくると言って自室に入って行った。それからしばらくして戻ってきた絢斗は申し訳なさそうに口を開いた。

「明日急遽教授会が入ったらしくて、午後から大学に行かないといけないみたい。どうしよう?」

「そうか、私は明日午後から裁判所に行く用事があったが、日程を変更できるか確認してみよう」

まだ直くんを一人で家に居させることは避けたいと思っていたが、

「パパ、あやちゃん。僕、一人でお留守番できますよ。心配しないでください」

と直くんが言ってくれる。その気持ちは嬉しいが、やっぱり心配になってしまう。

「あ、そうだ! お父さんに来てもらおうか」

「えっ? おじいちゃん、ですか?」

「うん。いつでも呼んでくれって言ってたし、お願いしたら都合をつけてもらえると思う。お父さんが無理なら、その時は直くんに一人でお留守番を頑張ってもらおうかな。どう?」

「はい! 僕、それがいいです」

直くんの気持ちも尊重しつつ、そんな提案をする絢斗に感心した。賢将さんなら絶対に断りはしないだろう。

「じゃあ、お父さんに電話してみるね」

絢斗は声をかけるとまだ自室に戻って行った。

<side賢将>

友人たちの協力のおかげで、私の可愛い孫を苦しめたあの猥褻医師を逮捕できたものの、直くんのトラウマが消えたわけではない。被害者の心の傷はそれだけ根深いのだ。幼い頃の記憶でもそれは変わることはないだろう。
私たちにできることはできるだけ思い出させないこと、そして思い出してしまった時にすぐに安心させてあげること。それに尽きる。

昇がすぐに直くんから聞き出せたのは大きかっただろう。
夢現の状態で聞き出せたからこそ、直くんの心を抉ることなく真実だけを知ることができた。
直くん自身も、今まで自分一人の胸に留めていたものを曝け出せて、心にゆとりができたように見えた。

それは絢斗たちが送ってくれたここ数日の動画でわかる。あの日と比べると表情が格段に明るい。そして、子どもらしい表情も見えていた。直くんの心が少し治ったおかげだろう。

これからも家族のたくさんの愛でもっと直くんを癒していかなければな。

それにしても、私の孫はなんて可愛いんだろう。絢斗と一緒にいるところなんか本当の親子のようだ。

美しい着物とドレスに身を包んだ絢斗と直くんの姿に目を細めていると、スマホが突然鳴り始めた。
画面表示に絢斗の名前が見えて、動画の再生をやめ電話をとった。

ー絢斗、どうかしたか?

ーお父さん、今大丈夫?

ーああ。お前が送ってくれた動画を見ていたところだ。本当に可愛いな、私の孫は。

ーお父さん、すっかり直くんにメロメロだね。

ーいい子が私の孫になってくれたよ。

ーありがとう、お父さんが頑張ってくれたから例の件、解決したんだってね。

ーああ、卓くんから聞いたか。一番頑張ってくれたのは凌也くんだよ、彼の愛しい子にも少し関係があったみたいで率先して動いてくれた。

ーそうだったんだ。その話も今度詳しく聞きたいところだけど、実はお父さんにお願いがあって連絡したんだ。

ーどうした?

ー実は明日急遽教授会が入って午後から出かけるんだけど、卓さんも午後から出ないといけないみたいで……

ーああ、なるほど。そういうことか、私がそっちにいけばいいか? それとも直くんをうちに呼ぼうか?

ーすぐにわかってくれて助かるよ。どっちでもいいの?

ーああ、私は構わないよ。直くんに聞いて好きな方にしてくれたらいい。

ーわかった。じゃあ、話をしてすぐに連絡するね。

絢斗は嬉しそうな声をあげるとすぐに電話を切った。

明日は可愛い孫と過ごせるのか、いい一日になりそうだ。
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