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嬉しい成長

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<side卓>

直くんが選んだのは可愛いペンギンのぬいぐるみ。あの子なら直くんのいい友達になるだろう。それにあの子を見るたびに今日のことを思い出してくれるだろうな。

「ねぇ、卓さん」

「どうかした?」

「直くんが選んだあのペンギンさん。家族がいるみたいよ」

絢斗に声をかけられて見てみると、確かにあのペンギンの両親と思しきペンギンが立っているのがわかる。

「家族は揃ってなきゃ! そう思わない?」

「ああ、そうだな。あのクマも可愛いパートナーがいるからな」

私は、会計を済ませた昇が直くんと楽しそうに話をしている隙に、あの二体のペンギンを購入し、我が家に配送する手続きを済ませておいた。

明日には届くそうだからきっと喜ぶだろう。

みんなで水族館を出ると、晴れていた空が少し薄暗くなっている。天候が変わりやすい地域だからそれも見越していたが、直くんのあの服では少し寒かったかもしれない。絢斗と同じ羽織りものを着せておけばよかったかと少し心配になってそっと直くんに視線を向けると、昇がさっと上着を脱いで直くんにかけているのが見える。

「昇くん、ちゃんと直くんを見れてるね」

絢斗の感心した声に私も微笑ましく思っていると、

「ありがとうございます。ふふっ、昇さんの匂いがしますね。嬉しいです」

という嬉しそうな直くんの声が耳に入ってきた。

ああ、これはやばいだろうな……。

そう私が心配した通り、昇はその言葉に立ち止まってしまった。
何も返せずにいたら、また直くんがショックを受けてしまうだろうかと心配したが、直くんは嬉しそうな表情を昇に向けた。

「昇さん、反応しちゃいましたか?」

「だって、直くんが可愛いことを言うから」

「嬉しいです」

直くんは満面の笑みで昇の腕に絡みつくと、幸せそうに笑い合っていた。

「直くんたち、一晩ですっかり心が通じ合ったみたいだね。昇くんが直くんの可愛さにすぐに反応できないって伝えられたおかげで、昇くんが立ち止まっちゃっても不安にならなくなったみたいだし、二人で泊まらせてよかったんじゃない?」

「そうだな」

「卓さん、ちょっと寂しそう」

「そんなことないよ。子どもの成長は嬉しいものだ」

そう言いつつも、ほんの少しだけ複雑な気持ちになっていた私だったが、二人の……特に直くんの幸せそうな表情を見たら、これでいいんだと思う気持ちでいっぱいになっていた。

せっかく遠出したことだし、帰りながら観光地を巡ってみようかとも思ったが、昨日、今日とかなり動いた分、直くんは疲れているだろう。このまま寄り道せずに帰ったほうがいいかもしれないと判断して車を走らせると、思っていた通りミラー越しに直くんがうつらうつらしているのが見える。腕に抱いたペンギンのおかげで倒れずにはいるようだが、このままだと危ないな。

「昇、直くんを楽な体勢にしてあげなさい」

「あ、うん。わかった」

高速を通っているからシートベルトは外してやれないが、昇にもたれさせて寝かせることはできるだろう。

ペンギンを抱っこしながら昇の腕に寄り掛からせると、直くんは深い眠りに落ちて行ったように見えた。

「少し疲れたようだな」

「直くん、はしゃいでいたからね。それだけこの旅行が楽しかったってことだよ。ね、昇くん」

「うん。直くん、昨日はすごく楽しかったって何度も言ってたし、今日の水族館もすごく楽しそうだった。ねぇ、また今度みんなでどこかに行きたいな。いろいろ体験させてやりたいんだ」

「そうだな。だが、お前は受験生だってことを忘れるなよ」

「大丈夫。普段勉強はしているし、直くんや伯父さんたちと出かけたほうが気分転換になって余計に勉強が捗るから!」

自信満々な昇を見ていると、やはり守るべき存在がいるのはいいものだと思う。
もし、直くんと出会っていなくても夢に向かってこれまで通り頑張っていただろうが、昇のモチベーションは大きく変わっていただろう。

直くんにとっても昇にとっても本当に最高のタイミングで出会ったのかもしれないな。

直くんはそれから一度も目覚めることなく、自宅まで到着した。
昇は優しく直くんを抱きかかえて先に部屋に入って行った。

「絢斗。家に帰ったら、賢将さんに報告がてら例の件の進捗状況を聞いてみるから少し書斎に籠るよ」

「うん。わかった。無理しないでね」

「大丈夫だよ。夕飯は何が食べたいか考えておいてくれ」

絢斗の唇にキスを落とし、荷物を運んでから私は一人で書斎に向かった。
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