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距離が縮まる
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「あの、昇さん……サラダも、食べてみてください。昇さん?」
「――っ!!」
あまりにも直純くんが可愛すぎて、ぼーっとしていたら直純くんの声かけに気づかなくて、テーブルの下から足を蹴られてしまった。
もちろん蹴ってきたのは、伯父さん。
そこまで強い衝撃ではなかったけれど、突然のことに身体をびくつかせてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。なんでもないよ」
「そう、ですか?」
「直純くんのサラダ、食べさせてもらうね。このドレッシングは先にかけたほうがいい?」
「あっ、えっと……」
「せっかく作ってくれたから、まずはそのまま食べてみようかな」
「はい」
俺の言葉にホッとしたような表情を見せてくれる。
直純くんは自分の意見を言うのがなかなか慣れなさそうだ。
それはきっと、母親からの抑圧的な生活をさせられていたからだろう。
くそっ。こんな良い子にトラウマを植えつけやがって!
母親に対して怒りしか出てこない。
もう、そんな奴の記憶を全て排除させて、これから俺が直純くんのトラウマを全部無くして見せる!
そう心に誓いながら、直純くんの作ってくれたサラダに口をつけた。
ただ千切っただけ、乗せただけの簡単なサラダ。
それでも愛情はたっぷり入っている気がした。
「ん! この大きさ、食べやすくていいね」
「よかった……」
俺が口に入れる間、ずっと緊張しているように見えた。
本当に正真正銘初めての料理なんだ。
それを俺が食べられたことが何よりも嬉しい。
「直純くんが作ってくれたドレッシングもかけてみようかな」
「はい。僕、いっぱい混ぜ混ぜしたんで多分できてると思います」
「くっ!」
少し得意げな表情だけでなく、混ぜ混ぜ……その言い方が可愛すぎる!
やっぱり俺の天使だな。
さっとサラダにかけて、トマトとチーズ、そしてレタスを一緒に口に運ぶと今まで食べたことのないくらい極上の味が口に広がった。
「んんっ!! これ、すっごく美味しいよ!!」
「――っ、本当ですか!!」
「ああ、直純くんも食べてごらん」
そのまま勢いのままに、ドレッシングがかかったレタスとチーズを一緒に直純くんの口に運ぶと、小さな口を目一杯大きく開いていた。
ああ、直純くんには大きすぎたかと思ったけれど、ここで引っ込めるわけにもいかず、そのままでいると直純くんはそれをパクリと口に入れた。
小さな口をリスのように膨らませて、もっ、もっ、っと口を動かしているのが実に可愛い。
「んっ、おい、ひぃ……っ」
こくんと飲み込んでから、笑顔でそう言ってくれた直純くんの唇の端にドレッシングが光っていることに気づいた。
これは伝えるべきか?
そっと伯父さんに目を向けると、俺に見せつけるように
「絢斗、唇にソースがついてる」
と言い、拭った指を自分の唇に運んでいく。
「――っ!!!」
確かに父さんも母さんにやってるけど、良いのか?
でも直純くんは何も知らないはず。
これを普通だと思わせれば良いんだ。
「直純くん、ここ、ドレッシングがついてる」
そう言いながら、直純くんの小さな唇に触れ指で拭い取ってやる。
「あ、ありがとうございます」
そんな声を聞きながら、俺はそれを口に運んだ。
ああ、さっきのドレッシングより数百倍も甘く、そして美味しく感じる。
父さんも伯父さんも、それに宗一郎さんも伊織さんも、これを味わいたくてやっているんだと、その時初めて気づいた。
この権利は誰にも奪わせない!
俺はそう心に誓った。
<side磯山卓>
直純くんの可愛さに惚けてしまう気持ちは私にもよくわかる。
だが、それで彼の言葉を聞き逃してしまうのはいただけない。
気づかせようと足を叩いたが、そこまで身体をびくつかせるとは思わなかった。
昇はまだまだ修行が足りないな。
「ふふっ。卓さん、あんまりいじめちゃダメだよ」
絢斗がこっそりと言ってくる。
「でも直純くんを不安にさせたのはよくない」
「ふふっ。本当にパパになってる」
絢斗は笑いながらも、ちょっと嫉妬してくれているのか、
「食べさせて」
と言ってくれる。
ああ、もう本当に私の絢斗は幾つになっても可愛すぎる。
そういえば、伊織くんも悠真くんの可愛らしさを前に時々惚けてしまって反応が遅いんだと志良堂が溢していたことがある。
やっぱりまだまだ鍛錬が足りないのか。
伊織くんでそうなのだから、昇にはもっと厳しく教育してやったほうが良いかもしれないな。
なんとか食事を終え、午後のひとときを過ごす。
「昇、せっかくの機会だから直純くんに語学を披露してみてはどうだ?」
「披露、ってどうやるんですか?」
「これを読み聞かせしてやるといい」
そう言って、私はドイツ語で書かれた童話集を昇に渡した。
昔、昇がドイツから帰ってきた時に、ドイツ語を忘れないようにしたいと言って、うちや自分の家にドイツ語の本を置いていた。
いつか読み返すかもしれないと大切に本棚にしまっていたんだ。
「懐かしいな……」
昇はポツリと嬉しそうに呟いた。
「直純くん、聞いてみる?」
「はい。すっごく楽しそうです」
「じゃあ、日本ではあまり有名じゃないやつにしようかな」
そう言って、昇が本を開くと直純くんは昇のそばにあまり隙間なく座った。
二人の距離感が近くなったのがありありと感じられる。
昇もそれが嬉しそうだ。
「ふふっ。良い感じだね」
絢斗の嬉しそうな声を聞きながら、私たちは少し離れた場所で幼いカップルの姿を見つめていた。
「――っ!!」
あまりにも直純くんが可愛すぎて、ぼーっとしていたら直純くんの声かけに気づかなくて、テーブルの下から足を蹴られてしまった。
もちろん蹴ってきたのは、伯父さん。
そこまで強い衝撃ではなかったけれど、突然のことに身体をびくつかせてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。なんでもないよ」
「そう、ですか?」
「直純くんのサラダ、食べさせてもらうね。このドレッシングは先にかけたほうがいい?」
「あっ、えっと……」
「せっかく作ってくれたから、まずはそのまま食べてみようかな」
「はい」
俺の言葉にホッとしたような表情を見せてくれる。
直純くんは自分の意見を言うのがなかなか慣れなさそうだ。
それはきっと、母親からの抑圧的な生活をさせられていたからだろう。
くそっ。こんな良い子にトラウマを植えつけやがって!
母親に対して怒りしか出てこない。
もう、そんな奴の記憶を全て排除させて、これから俺が直純くんのトラウマを全部無くして見せる!
そう心に誓いながら、直純くんの作ってくれたサラダに口をつけた。
ただ千切っただけ、乗せただけの簡単なサラダ。
それでも愛情はたっぷり入っている気がした。
「ん! この大きさ、食べやすくていいね」
「よかった……」
俺が口に入れる間、ずっと緊張しているように見えた。
本当に正真正銘初めての料理なんだ。
それを俺が食べられたことが何よりも嬉しい。
「直純くんが作ってくれたドレッシングもかけてみようかな」
「はい。僕、いっぱい混ぜ混ぜしたんで多分できてると思います」
「くっ!」
少し得意げな表情だけでなく、混ぜ混ぜ……その言い方が可愛すぎる!
やっぱり俺の天使だな。
さっとサラダにかけて、トマトとチーズ、そしてレタスを一緒に口に運ぶと今まで食べたことのないくらい極上の味が口に広がった。
「んんっ!! これ、すっごく美味しいよ!!」
「――っ、本当ですか!!」
「ああ、直純くんも食べてごらん」
そのまま勢いのままに、ドレッシングがかかったレタスとチーズを一緒に直純くんの口に運ぶと、小さな口を目一杯大きく開いていた。
ああ、直純くんには大きすぎたかと思ったけれど、ここで引っ込めるわけにもいかず、そのままでいると直純くんはそれをパクリと口に入れた。
小さな口をリスのように膨らませて、もっ、もっ、っと口を動かしているのが実に可愛い。
「んっ、おい、ひぃ……っ」
こくんと飲み込んでから、笑顔でそう言ってくれた直純くんの唇の端にドレッシングが光っていることに気づいた。
これは伝えるべきか?
そっと伯父さんに目を向けると、俺に見せつけるように
「絢斗、唇にソースがついてる」
と言い、拭った指を自分の唇に運んでいく。
「――っ!!!」
確かに父さんも母さんにやってるけど、良いのか?
でも直純くんは何も知らないはず。
これを普通だと思わせれば良いんだ。
「直純くん、ここ、ドレッシングがついてる」
そう言いながら、直純くんの小さな唇に触れ指で拭い取ってやる。
「あ、ありがとうございます」
そんな声を聞きながら、俺はそれを口に運んだ。
ああ、さっきのドレッシングより数百倍も甘く、そして美味しく感じる。
父さんも伯父さんも、それに宗一郎さんも伊織さんも、これを味わいたくてやっているんだと、その時初めて気づいた。
この権利は誰にも奪わせない!
俺はそう心に誓った。
<side磯山卓>
直純くんの可愛さに惚けてしまう気持ちは私にもよくわかる。
だが、それで彼の言葉を聞き逃してしまうのはいただけない。
気づかせようと足を叩いたが、そこまで身体をびくつかせるとは思わなかった。
昇はまだまだ修行が足りないな。
「ふふっ。卓さん、あんまりいじめちゃダメだよ」
絢斗がこっそりと言ってくる。
「でも直純くんを不安にさせたのはよくない」
「ふふっ。本当にパパになってる」
絢斗は笑いながらも、ちょっと嫉妬してくれているのか、
「食べさせて」
と言ってくれる。
ああ、もう本当に私の絢斗は幾つになっても可愛すぎる。
そういえば、伊織くんも悠真くんの可愛らしさを前に時々惚けてしまって反応が遅いんだと志良堂が溢していたことがある。
やっぱりまだまだ鍛錬が足りないのか。
伊織くんでそうなのだから、昇にはもっと厳しく教育してやったほうが良いかもしれないな。
なんとか食事を終え、午後のひとときを過ごす。
「昇、せっかくの機会だから直純くんに語学を披露してみてはどうだ?」
「披露、ってどうやるんですか?」
「これを読み聞かせしてやるといい」
そう言って、私はドイツ語で書かれた童話集を昇に渡した。
昔、昇がドイツから帰ってきた時に、ドイツ語を忘れないようにしたいと言って、うちや自分の家にドイツ語の本を置いていた。
いつか読み返すかもしれないと大切に本棚にしまっていたんだ。
「懐かしいな……」
昇はポツリと嬉しそうに呟いた。
「直純くん、聞いてみる?」
「はい。すっごく楽しそうです」
「じゃあ、日本ではあまり有名じゃないやつにしようかな」
そう言って、昇が本を開くと直純くんは昇のそばにあまり隙間なく座った。
二人の距離感が近くなったのがありありと感じられる。
昇もそれが嬉しそうだ。
「ふふっ。良い感じだね」
絢斗の嬉しそうな声を聞きながら、私たちは少し離れた場所で幼いカップルの姿を見つめていた。
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