ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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小指を絡めて……

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<side磯山卓>

真剣に直純くん用のカフェオレを作っている時から、いや、挨拶をして手を握っている時から、気に掛かる部分はあった。

もしかしたら……。

そんな思いが頭をよぎったが、まさかという思いもあった。

弟の毅は学生時代に三歳年下の二葉さんという運命の相手と出会い、猛アタックで桜守の鉄壁を破り、二葉さんの大学を卒業と同時に結婚にまで漕ぎ着け、一人息子である昇が18になった今でも出会った頃と変わらぬ愛を貫いている。いや、それどころか、年々愛情表現は深くなっているだろう。
私が絢斗を一生のパートナーにすると決め、初めて報告した時は流石に少し驚いてはいたが、年が離れていたからか考え方が実に現代的で愛の形に性別は関係ないときっぱり言ってくれて心から祝福してくれた。

相手の二葉さんも嫌悪感を抱く事なく、絢斗と仲良くしてくれて、今ではちょくちょくお茶をしに行ったりしている。
もちろん、私も毅も同伴なのは当然だが、それは二人の仲が心配ということではなく、単に可愛い二人でいると声をかけられるのが多いから護衛のためというのが理由だ。

そんな話はともかく、そんな考えの両親に育てられたおかげで、昇も私たちが男同士の夫夫であっても全く気にする様子はなかった。

それどころか、私たちの友人夫夫たちとも仲良くしているのだから、親戚だから気にしないということではなく、同性だとか異性だとかいうことを気にしていないのだろう。
好きなもの同士でいられるのがそれが幸せだと教え続けてきた成果かもしれない、と毅は笑っていたが、毅のそんな考えに私は救われたものだ。

そんな昇だったから、相手の性別も拘らないかとは思っていたが、すぐ近くに両親がいるのだから、きっと異性を好きになるだろうと思っていたのだ。

だが、直純くんへの態度を見ると、どうもそんな気がする。

直純くんが昇を拒絶するなら、今回はともかく昇を預かるのはやめた方がいいかと思っていたが直純くんの昇への反応を見ると、これはもしかしたらいい出会いなのかもしれない。
そんな気がした。


<side絢斗>

「あれ? 直純くん、もしかして……ちょっと眠い?」

少し眠そうな目になっているのに気づいて、声をかけると少し恥ずかしそうにしながら、

「あっ、あの……ちょっと、緊張して眠れなくて……でも、大丈夫です」

と返してきた。

「俺が泊まりにくるから緊張したのかな? ごめんね」

「そんなことないですっ」

そんな二人のやり取りを可愛いと思ってしまう。
昇くんの気持ちは多分間違いない。

直純くんも……少し昇くんを意識してるかな。

でもあまり一度にいろんな気持ちを詰めすぎると、キャパオーバーになりそうな気がする。

「まだ昼食まで時間があるし、少し部屋で休んできたら?」

「でも……」

「昼食作りは直純くんと昇くんに手伝ってもらおうと思っているから、その前に休んでおいた方がいいよ」

「僕が、お手伝い?」

「うん、お願いしてもいいかな?」

私の言葉にぱあっと顔を明るくしながら、

「はい、わかりました。じゃあ、部屋で少し休ませてもらいます」

と言って立ち上がったから、

「昇くん、直純くんを部屋に連れて行ってあげて」

と声をかけた。

「昇くんの部屋の隣、私の趣味部屋だったところが直純くんの部屋だから」

「ああ、あそこですか。じゃあ、直純くん行こうか」

「えっ、はい……」

直純くんは緊張しながらもスッと立ち上がり、昇くんの差し出した手を取ってリビングを出ていく。

その様子を私と卓さんは静かに見つめた。

二人がリビングから完全に出て行ったのを確認して、

「絢斗、気づいたのか?」

と問いかけられる。

「ふふっ。多分そうかな……って感じかな」

「そうか。やっぱりな。私もそう思ったよ。まさか、昇が……と思ったが」

「どうして? いいんじゃない? 直純くんも好意は持ってそうだったよ」

「そうなのか?」

「うん、昇くんがコーヒーを淹れてるのみてた時の直純くん、すごく嬉しそうだったし。それに嫌だったら手を差し出されても握らないでしょ? 少なくとも私は相手に少しでも不安があれば、手は握らないかな」

「まぁ、さっきのは確かに躊躇う感じもなかったな。だが、直純くんはまだ14歳だぞ」

「ふふっ。卓さん、もうすっかり父親になってる」

そういうと、卓さんは少し恥ずかしそうに笑った。

「相手が昇くんの方が安心じゃない?」

「それは……確かにそうだな」

昇くんの父親である毅さんは、いつだって昇くんに自分の最愛の人を守る行動を身をもって教えていた。
というか、その姿を見せていたというのが正しいかも。

うちに来たときも卓さんが私にいつだって優しく愛情を込めて接してくれるのをみているからか、普通だったら反抗期の時期の中学生の時でさえ、昇くんはお母さんの二葉さんに荒い口調で呼びかけたり反抗することもなかった。

いつだって私や二葉さんに対して優しく接してくれていたから、将来昇くんのお嫁さんになる人は幸せだろうなとずっと思っていた。

だから、そんな昇くんが初めて好意を抱いたのが、直純くんというのがすごく嬉しいし安心したんだ。

「心配しなくても、昇くんは直純くんに無理なことはしないよ。直純くんが成長するまでちゃんと待っててあげられる子だと思うな。それまでは見守ってあげるだけでいいんじゃない? 直純くんの好意がまだ恋愛かはわからないけど、少なくとも一緒にいるのは苦痛じゃないみたいだし、まずはお兄ちゃん的存在としてそばに居させてあげたら?」

「うーん、そうだな。直純くんが嫌がってないなら私も問題はない。この後、昇を預かることになってもうまくやっていけそうな気はするな」

「でしょう? 私は昇くんと直純くんを一緒に預かることは大賛成だよ。年が近い話し相手がいるっていうのは、直純くんにとってもいいことだし」

そういうと卓さんは納得したように何度も頷いていた。

ふふっ。
まさか、こんなところで出会いがあるなんて……。
でも、昇くんと直純くんならお似合いかな。

<side昇>

絢斗さんに部屋に連れていくように言われて、手を伸ばすと躊躇いもなく直純くんが手を握ってくれた。

その時の感動っていったら言葉にもできない。

それを必死に隠して冷静を装いながら、直純くんを部屋に連れていく。

扉の前までかと思ったら、

「どうぞ」

と中に入れてくれる。

直純くんの俺に対するガードが弱まった気がして嬉しくなる。

「お邪魔します」

そう言って中に入ると、直純くんは笑っていた。

絢斗さんの趣味部屋の感じはまだ残っていたけれど、あちこちに直純くんの雰囲気が感じられる。
きっと伯父さんや絢斗さんが揃えているんだろう。
でも14歳の子の部屋にしてはやっぱり少しだけ殺風景な気がして、

「直純くんはぬいぐるみとか好き?」

と尋ねてみた。

「ぬいぐるみ……持ったことなくて……でも、可愛いだろうなとは思います」

「そうか。なら、次に来るとき持ってくるよ」

「えっ?」

「実は、その……あっ、クレーンゲームが得意でいらないけどいっぱい取っちゃうんだよ。だから、直純くんがもらってくれると嬉しいんだよ」

わざわざ買うなんて言ったら受け取ってもらえなさそうな気がして、つい理由をつけて言ってしまった。

でも、直純くんはすぐに俺の言葉を信じて

「僕でよかったら……欲しいです」

と笑顔を見せてくれた。

「どんなのがいい? なんでもあるから好きなのを言ってくれていいよ」

「えっ、あの……えっと……クマさんがいいです」

「オッケー。じゃあ、次に来る時ね。約束」

そう言って小指を差し出すと、直純くんは少し震えながらも俺の指に絡めてくれた。
ああ、本当に可愛いな。

「指切りげんまん、嘘ついたら、直純くんのいうことなんでも聞く! 指切った!」

指を離したくないと思いながらも、離さないわけにはいかないから早口でそう言い切ってから指を離すと、直純くんは驚いていたけど、

「ふふっ。昇さんって、楽しい人ですね」

と初めて声を出して笑ってくれた。

「直純くんは寝た?」

「はい。ベッドに横になってすぐに眠そうにしてました」

「そう、よかった」

ホッとしたように笑顔を見せてくれる絢斗さん。
彼は伯父さんに初めて紹介してもらった時から、ちっとも変わらず綺麗なままだ。
もう50を過ぎている、しかも男性なのに時折見せる笑顔にドキッとさせられる時がある。

でも……指切りをして、可愛い笑い声を聞かせてくれた直純くんは、絢斗さんに思うのとは全く違うドキドキがあった。

これが父さんたちが言っていた、心から愛する人に対する感情というものなんだろうか……。

このままだと自分を抑えられなくなりそうで、ゆっくり休んでと声をかけた。
直純くんがベッドに横たわったのを確認してから、そっと部屋を出てきたんだ。

まだ小指に直純くんの絡めた指の感触が残ってる。

気づけばその余韻に浸ってしまって、

「どうかしたのか?」

と伯父さんに声をかけられてしまった。

「な、なんでもないよ」

「それならいいが……昇。ちょっとこっちにおいで」

「は、はい」

伯父さんの真剣な声色に緊張しつつ、ソファーに腰を下ろすとおじさんは俺の目をしっかりとみたまま口を開いた。

「お前の気持ちに関しては私たちが口を挟むことじゃない。ただ、直純くんの気持ちを無視して進めてはいけないよ。自分の気持ちに忠実になるよりも、今は彼の固くなった心をゆっくりと溶かしてあげることを考えなさい」

「伯父さん……」

きっと、直純くんへの俺の気持ちに気づいたんだろう。
言い換えれば、伯父さんたちに気づかれるくらい俺の気持ちがわかりやすかったということだ。

「ふふっ。卓さんは心配なんだよ。もうすっかり直純くんの父親気分だから」

そう言って笑顔を見せてくれる絢斗さんの存在が、この緊張感を和らげてくれる。

でも、直純くんのお父さんか……。
伯父さんが直純くんの父親だと考えれば、俺がこの家で直純くんに対する接し方はわかりやすいかもしれない。
伯父さんが絢斗さんにするように直純くんファーストでやればいい。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よっていうし、伯父さんと絢斗さんが味方についてくれれば、直純くんも俺にもっと甘えてくれるようになるかもしれないな。

「わかりました。絶対に直純くんを怖がらせたり、傷つけたり、気持ちを押し付けたりしないと約束します」

俺のはっきりとした言葉に、伯父さんも絢斗さんもホッとしたように笑っていた。

それから二時間ほど経って、直純くんが起きてきた。

「おは、ようございます……」

「――っ! おはよう」

少しまだ寝ぼけた様子が可愛くてたまらない。

すかさず迎えに行き、手を引いてソファーまで連れて行きすぐ隣に腰を下ろす。
まだ寝ぼけているからか、素直に隣にいてくれるのが嬉しい。

ぽやぽやとした直純くんは、年齢よりももっと幼く見える。

「直純くん、これ飲んで」

絢斗さんがグラスに半分ほど入ったレモン水を渡すと、両手でそれを受け取り飲み干していく。

なるほど。
寝起きはレモン水か。
これは覚えとかないとな。

頭の中にバッチリと記憶しながら、その可愛いグラスの持ち方と飲んでいる可愛い表情を目に焼き付けた。

すっかり目が覚めた様子の直純くんに、

「じゃあ、お手伝いお願いしようか」

と伯父さんが言うと、

「わぁ!」

と嬉しそうな声をあげる。
手伝いがそんなにも楽しみだなんて…‥可愛いと思いつつも、今までの生活がどうだったのかを考えて心が痛くなる。


「お昼はオムライスとサラダにしよう。直純くんは絢斗とサラダを作ってもらおうかな」

「はい! 頑張ります!」

やる気十分な直純くんが可愛い。

「昇はオムライス作れるか? 巻くタイプでも上から乗せるのでもどっちでもいいぞ」

「はい。家でも作ってますから」

「そうか、じゃあ直純くんのとお前のと二つ作ってもらおうか」

「わかりました」

俺に直純くんの分を任せてくれる伯父さんの気持ちが嬉しい。
ここは失敗できないな。

プロ級の腕を持つ伯父さんの隣での料理はかなり緊張するが、直純くんに食べてもらえるんだ。
頑張らないとな。

直純くんは絢斗さんと人数分のサラダを作るために、レタスをちぎっている。
そんな真剣な様子に緊張がほぐれていく。

さっとチキンライスを作り、ボウルにとっておく。
なんとなく直純くんは巻くタイプが好きかもと思い、そっちにすることにした。

卵を割りほぐして、フライパンに流し込み、軽くかき混ぜてボウルにとっておいたチキンライスを乗せて包んでいく。

おおっ、うまく巻けた!

「ふふっ。今の表情見たら鈍感な毅でもお前の想い人に気付きそうだな」

隣でオムライスを作っている伯父さんが小声で揶揄ってくる。

「そんなわかりやすいですか?」

「ああ、かなりな。でもいいんじゃないか。私も絢斗に出会ってからは同じだよ。あ、ほら焦げるぞ」

伯父さんの言葉にあわてて皿に移す。
よかった。綺麗にできた。

手早く二人分仕上げて、テーブルに並べる。

「サラダ、できたよー」

絢斗さんの声に視線を向けると、得意げな表情で直純くんが俺にサラダを見せてくれる。
ちぎったり、乗せただけの簡単なサラダだけどそれがとてつもなく美味しそうに見えた。
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