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優秀な彼
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<side真守>
『大丈夫? 少しは落ち着いた?』
「うん、ありがとう』
僕はアロンに手を引かれ、アロンの部屋に入った。
この部屋は元々住んでいたアロンの部屋から全て運び入れたアロンだけの部屋で、明さんとの部屋はまた別にある。
豪華な調度品に囲まれたこのお屋敷の中で異質とも言える空間だけど、でも何故か落ち着くんだ。
初めて入った時、すごく落ち着くって言ってから、時々二人でこの部屋に入っておしゃべりをするようになったんだ。
この部屋があったから、アロンと親友になれたのかもしれない。
そう思えるほど、この部屋では僕もアロンも素の自分を出せた。
『ラミロさまとのデートはどうだった?』
僕が襲われたのを知っていて、きっとそっちが気になって仕方ないだろうに、違う話題で安心させてくれるのもアロンの優しさだろう。
だから、僕は今日の出来事を話した。
セオドアさまと一緒に待ち合わせ場所に行って、ラミロさまを待っている間に一緒にサンドイッチを食べたこと。
半分こして食べたサンドイッチがものすごく美味しく感じたこと。
突然ラミロさまがやってきて、驚いて服を汚してしまい、お詫びにと買って貰ったこと。
『ああ、だから出かけた時と服が違ったんだ。でもよく似合ってるよ』
『本当? ありがとう』
初めて行ったコヴェントガーデンがとても楽しかったこと。
そこで見つけたオルゴール付きの懐中時計に心を奪われて今日の記念にと買って貰ったこと。
『わぁ、綺麗! マモルはいいものを見つける天才だね』
『明さんが教えてくれたからだよ。自分の直感を信じろって』
『アキラ、僕と出会った時にも同じことを言ってたよ』
『えっ?」
『ふふっ。僕を初めて見た時、この子は自分の大事な存在で一生添い遂げる相手だって、自分の直感を間違えたりはしないってそう言ってくれたんだ。僕もアキラを初めて見た時、かっこいい人だって初めて思ったんだ。そんなふうに思ったの、アキラが生まれて初めてだったし、それから後も一度もないよ。だから、直感ってすごいんだよ』
『アロン……僕も、セオドアさまを初めて見た時、かっこいいって思った。そんなこと、今まで誰にも思ったことなかったのに』
『ラミロさまはどうだった? 初めて見た時』
『ラミロさまは……なんだか、ちょっと怖かった。でも今日のラミロさまは優しかったよ』
『そっか。なら、もうマモルの中では気持ちは決まっているんじゃない?』
アロンにそう言われてドキッとした。
そうか……自分の直感を信じるなら、僕はもう最初からセオドアさまのことが好きだったんだ……。
『不審者からも助けてくれたんでしょう? マモルが帰ってきた時、どんなに怯えているかと心配していたけど、セオドアさまに抱かれているマモルが安心した表情していたからホッとしたんだよ』
『うん。すごく怖かったけど、セオドアさまが大丈夫って言ってくれたからすごく安心できたんだ』
『あのさ、それでその不審者に心当たりはある?』
あの時、ゾンビのメイクをしていたけれど、僕を見たあの人の目になんとなく覚えがあった。
でも誰なのかは全く思い出せない。
怖かったし、一瞬だったし。
『わからない……』
『そっか。なら、マモルは忘れたらいい。嫌な思い出を覚えておく必要なんてないよ』
『うん、ありがとう。アロン』
そんなアロンの優しさに僕の心はいつもの様子を思い出していった。
そんな時、アロンの部屋の扉が叩かれた。
『ちょっと待っててね』
そう言って、アロンが出ていくと部屋の外でジョージさんと何人かの声が聞こえる。
誰だろう?
『ああ、もちろんだよ! どうぞ入って!』
アロンの楽しげな声が聞こえる。
珍しいな、アロンがこの部屋に僕以外を招き入れるなんて。
『お、お邪魔します』
可愛らしい声に顔を向けると、そこには僕と同じ年頃のどう見ても日本人の男の子が立っていた。
<sideセオドア>
『旦那さま。お連れいたしました』
『ああ、中に入ってくれ』
扉が開かれ、入ってきたのは明るい茶色の髪がなんとも爽やかな長身の男性。
彼は日本人か?
『失礼致します』
物怖じしない様子でにこやかに入ってくる彼が何者なのかわからないが、不思議な力を感じる。
彼を敵に回してはいけない。
私の中でそんな感情を蠢いた。
『ラミロ王子殿下。セオドアさま。彼は成瀬優一。私の友人で、私の知る限り最も優秀な弁護士です。そして、優秀な調査員……いわばMI6のような仕事をしているといえばお分かりいただけるでしょうか』
『和倉さん、それは言い過ぎですよ』
そう謙遜しているが、アキラが社交辞令を言うような人間でないことはよく知っている。
彼がこのイギリスに来てからも調査を依頼していたのなら、相当優秀な人物というわけだ。
『言い過ぎなものか。君のおかげで真守から奴を遠ざけることができた。本当に感謝しているのだ』
『アキラ、ならば彼が奴の情報を?』
『はい。セオドアさま。その通りです。奴が不審な動きを見せ、どうやらイギリスに向かうようだと教えてくれたのは彼です』
『そうか、Mr.ナルセ。礼を言う』
『いえ、私も情報をもらって調査したに過ぎないのですよ。私に確かな情報をくれたのは彼です。彼のおかげで今回奴を捕えることができたと言っても過言ではありません』
『彼? それは誰だ? マモルのためにしてくれた人なら、その人にもお礼が言いたい』
『ふふっ。実はその彼も一緒に日本から来て貰っているのです。お呼びしてもよろしいですか?』
『ああ、頼む』
私の声にジョージがすぐにその彼を呼びにいった。
『失礼致します』
彼が扉を開け入ってきた瞬間、私の隣にいたラミロが信じられない表情を見せながら突然立ち上がった。
『大丈夫? 少しは落ち着いた?』
「うん、ありがとう』
僕はアロンに手を引かれ、アロンの部屋に入った。
この部屋は元々住んでいたアロンの部屋から全て運び入れたアロンだけの部屋で、明さんとの部屋はまた別にある。
豪華な調度品に囲まれたこのお屋敷の中で異質とも言える空間だけど、でも何故か落ち着くんだ。
初めて入った時、すごく落ち着くって言ってから、時々二人でこの部屋に入っておしゃべりをするようになったんだ。
この部屋があったから、アロンと親友になれたのかもしれない。
そう思えるほど、この部屋では僕もアロンも素の自分を出せた。
『ラミロさまとのデートはどうだった?』
僕が襲われたのを知っていて、きっとそっちが気になって仕方ないだろうに、違う話題で安心させてくれるのもアロンの優しさだろう。
だから、僕は今日の出来事を話した。
セオドアさまと一緒に待ち合わせ場所に行って、ラミロさまを待っている間に一緒にサンドイッチを食べたこと。
半分こして食べたサンドイッチがものすごく美味しく感じたこと。
突然ラミロさまがやってきて、驚いて服を汚してしまい、お詫びにと買って貰ったこと。
『ああ、だから出かけた時と服が違ったんだ。でもよく似合ってるよ』
『本当? ありがとう』
初めて行ったコヴェントガーデンがとても楽しかったこと。
そこで見つけたオルゴール付きの懐中時計に心を奪われて今日の記念にと買って貰ったこと。
『わぁ、綺麗! マモルはいいものを見つける天才だね』
『明さんが教えてくれたからだよ。自分の直感を信じろって』
『アキラ、僕と出会った時にも同じことを言ってたよ』
『えっ?」
『ふふっ。僕を初めて見た時、この子は自分の大事な存在で一生添い遂げる相手だって、自分の直感を間違えたりはしないってそう言ってくれたんだ。僕もアキラを初めて見た時、かっこいい人だって初めて思ったんだ。そんなふうに思ったの、アキラが生まれて初めてだったし、それから後も一度もないよ。だから、直感ってすごいんだよ』
『アロン……僕も、セオドアさまを初めて見た時、かっこいいって思った。そんなこと、今まで誰にも思ったことなかったのに』
『ラミロさまはどうだった? 初めて見た時』
『ラミロさまは……なんだか、ちょっと怖かった。でも今日のラミロさまは優しかったよ』
『そっか。なら、もうマモルの中では気持ちは決まっているんじゃない?』
アロンにそう言われてドキッとした。
そうか……自分の直感を信じるなら、僕はもう最初からセオドアさまのことが好きだったんだ……。
『不審者からも助けてくれたんでしょう? マモルが帰ってきた時、どんなに怯えているかと心配していたけど、セオドアさまに抱かれているマモルが安心した表情していたからホッとしたんだよ』
『うん。すごく怖かったけど、セオドアさまが大丈夫って言ってくれたからすごく安心できたんだ』
『あのさ、それでその不審者に心当たりはある?』
あの時、ゾンビのメイクをしていたけれど、僕を見たあの人の目になんとなく覚えがあった。
でも誰なのかは全く思い出せない。
怖かったし、一瞬だったし。
『わからない……』
『そっか。なら、マモルは忘れたらいい。嫌な思い出を覚えておく必要なんてないよ』
『うん、ありがとう。アロン』
そんなアロンの優しさに僕の心はいつもの様子を思い出していった。
そんな時、アロンの部屋の扉が叩かれた。
『ちょっと待っててね』
そう言って、アロンが出ていくと部屋の外でジョージさんと何人かの声が聞こえる。
誰だろう?
『ああ、もちろんだよ! どうぞ入って!』
アロンの楽しげな声が聞こえる。
珍しいな、アロンがこの部屋に僕以外を招き入れるなんて。
『お、お邪魔します』
可愛らしい声に顔を向けると、そこには僕と同じ年頃のどう見ても日本人の男の子が立っていた。
<sideセオドア>
『旦那さま。お連れいたしました』
『ああ、中に入ってくれ』
扉が開かれ、入ってきたのは明るい茶色の髪がなんとも爽やかな長身の男性。
彼は日本人か?
『失礼致します』
物怖じしない様子でにこやかに入ってくる彼が何者なのかわからないが、不思議な力を感じる。
彼を敵に回してはいけない。
私の中でそんな感情を蠢いた。
『ラミロ王子殿下。セオドアさま。彼は成瀬優一。私の友人で、私の知る限り最も優秀な弁護士です。そして、優秀な調査員……いわばMI6のような仕事をしているといえばお分かりいただけるでしょうか』
『和倉さん、それは言い過ぎですよ』
そう謙遜しているが、アキラが社交辞令を言うような人間でないことはよく知っている。
彼がこのイギリスに来てからも調査を依頼していたのなら、相当優秀な人物というわけだ。
『言い過ぎなものか。君のおかげで真守から奴を遠ざけることができた。本当に感謝しているのだ』
『アキラ、ならば彼が奴の情報を?』
『はい。セオドアさま。その通りです。奴が不審な動きを見せ、どうやらイギリスに向かうようだと教えてくれたのは彼です』
『そうか、Mr.ナルセ。礼を言う』
『いえ、私も情報をもらって調査したに過ぎないのですよ。私に確かな情報をくれたのは彼です。彼のおかげで今回奴を捕えることができたと言っても過言ではありません』
『彼? それは誰だ? マモルのためにしてくれた人なら、その人にもお礼が言いたい』
『ふふっ。実はその彼も一緒に日本から来て貰っているのです。お呼びしてもよろしいですか?』
『ああ、頼む』
私の声にジョージがすぐにその彼を呼びにいった。
『失礼致します』
彼が扉を開け入ってきた瞬間、私の隣にいたラミロが信じられない表情を見せながら突然立ち上がった。
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