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自分の狭量さに呆れる

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<sideセオドア>

『お待たせしてすみません』

そう言いながら出てきたマモルの姿に、私は息を呑んだ。
いや、私だけでなく隣にいるラミロも、そして店員たちもマモルに釘付けになっていた。

あまりにも美しく着こなすその姿に昇天しそうになるが、マモルは私が黙ると不安になる。
それを一瞬で思い出し、マモルのもとに駆けつけながら

『いや、気にしないでいい。その服もよく似合っているな』

と声をかけると顔を綻ばせた。

よし!
マモルへの対応はバッチリだったな。

私は心の中で喜びながらも、表情は努めて冷静を保った。

『あの、これお借りしたジャケットです。ありがとうございます』

『ああ、役に立ってよかった。では、仕上がるまで座って待っていよう』

さりげなくマモルの肩を抱きながら、ラミロのいるソファーに案内したが、マモルは私が肩を抱いても特に嫌がるそぶりは見せなかった。
少しずつ私に心を許してくれているのかもしれない。
そう思うだけで浮かれてしまう自分がいた。

ラミロはもうすっかりマモルのことを吹っ切れたようで、私がマモルの肩を抱いていても気にする様子もない。
それどころかマモルの反応の方が気になるようで、嫌がっていないと知ると嬉しそうに顔を綻ばせた。
本当にラミロはいい友人だ。

『さぁ、待っている間紅茶でも飲むといい』

『はい。ありがとうございます』

店員が運んできたミルクティーを美味しそうに口に運ぶマモルの仕草の美しさに見惚れてしまう。
好意を持つとその人の全てが愛おしく見えるものだということも初めて知ったな。

『わぁ、美味しいですね。僕はうちの執事のジョージの淹れてくれる紅茶が今まで一番だと思ってましたけど、ここの紅茶は香りが良くて美味しいです』

『――っ、お褒めにいただき光栄です』

マモルに褒められて店員も嬉しそうに顔を真っ赤にしている。
マモルには本当に人を魅了する力があるようだな。

『マモルは昔から紅茶が好きなのか? それともこちらにきてから飲むようになったのか?』

『母が紅茶好きだったので、日本にいる時からよく飲んでいたと思いますが、日本ではアイスティーをいただく方が多かったかもしれないですね』

『アイスティー?』

マモルの口から出た聞きなれない言葉にラミロは目を丸くしていた。

それもそのはず。
ラミロの国では紅茶を冷たくして飲むなんてことは考えられない。
もちろん、我がイギリスでもまだまだ紅茶は温かいのが当たり前という認識だが、観光客を相手にするような飲食店では少しずつアイスティーの取り扱いもあると聞く。
私自身はアメリカや日本に行った際に飲んだことがあるが、夏の暑い日に冷たい紅茶を飲むというのは素晴らしい発明だと思っている。

それでも紅茶と聞けばすぐに温かいミルクティーを想像してしまうのだが。

ラミロに冷たく冷やした紅茶をストレート、もしくはレモンやミルクを淹れて飲むのだと教えてやると驚いていたものの、好奇心旺盛なラミロは一度飲んでみたいと言い出した。

『うちでは冷たい紅茶をいつでも飲めるように作ってくれているので、我が家にお越しになれば召し上がっていただけますよ』

『本当か? それならぜひアキラにお願いするとしよう』

『ふふっ。そんなに気になってくださったんですね。今日帰ったら僕の方からもお話ししておきますよ』

『おおっ! マモル、ありがとう』

ラミロが興奮しきりにお礼をいうと、マモルは花が綻ぶような可愛らしい笑みを浮かべて、くすくすと笑う。
ラミロを見て怯えた様子を見せたマモルの姿はどこにもない。
ああ、マモルもラミロの感情の変化を察知したのだな。

しばらく会話と紅茶を楽しんでいると、

『お直しができあがりました』

と声がかかった。

『ああ、ありがとう。マモル、さっきの試着室で着替えておいで』

『はい。すぐに着替えてきますね』

そう言って、急いで試着室へかけて行った。
その小動物のような可愛らしい動きに思わず笑みが溢れる。

『ラミロ、今マモルが穿いていたハーフパンツも会計に入れているから』

『ああ、一枚や二枚増えたところで問題ないよ。君、これで支払いを頼む』

『はい。少々お待ちくださいませ』

世界でも選ばれし王族のみが持てるというカードを差し出す。
このカードなら、自家用ジェットだろうが、豪華客船だろうが一括で買い物ができるというのだから本当にすごいものだ。
まぁ、私の持っているカードもたいして変わりはしないが。

世界中のありとあらゆるものを自分のものにできるほどの資産を持つ我々が、マモルというたった一人の青年の反応一つ一つにドキドキさせられているのだから本当に不思議なものだ。

『お待たせしました』

試着室から出てきたマモルは先ほどのハーフパンツとはまた違う可愛さを見せてくれる。

『ああ、裾もぴったりだな』

『はい。よかったです。あ、あの……これ……』

さっきまで穿いていたハーフパンツと、ここまで着てきた服を手にしてどうしたらいいか困っている様子を見せた。

私は急いで駆け寄り、

『こっちのハーフパンツも購入したからマモルのものだよ。着てきた服はクリーニングに出してアキラの家に届けさせておこう』

とマモルから服を受け取った。

『えっ、いいんですか?』

『ああ、マモルに似合うと思って選んだんだ。着てくれた方が嬉しいし、アキラが選んだ服もよく似合っていたから大切にしたいんだ』

『ありがとうございます』

マモルはお礼を言ってくれるが、正直にいうとアキラが選んだ服を着て喜んでいるマモルを見ることに少し嫉妬していたんだ。
アクシデントだったとはいえ、私の見立てた服を着てくれるマモルを見るのは実に嬉しいんだ。
本当に自分の狭量さに呆れるが、それも仕方がないだろう。
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