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快適な空の旅
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「あの、イギリスで明さんは何のお仕事をしているんですか?」
「日本の骨董品や美術品を売っているんだ」
「ヨーロッパで日本の美術品が人気があるって聞いたことがありますけど、本当なんですね」
「ああ、よく知っているね。日本人が西洋の建物やお城なんかに憧れを持つように、欧米人も日本の伝統的なものに興味を持っているんだ。日本人より詳しい人も多くてね。今では日本の骨董品や美術品を持つことがセレブのステイタスとさえ言われているんだよ。私は日本の厳選した骨董品や美術品をヨーロッパ各国の大富豪やお金持ちに売っているんだよ」
「それって、ものすごく目利きが必要じゃないですか?」
「そうだね。知識はもちろん大事だし、本物を見分ける目も必要だな。だが、今のところ贋作を買ったことは一度もないよ」
「すごいですね!!! 僕も、明さんのお仕事のお手伝いとかできますか?」
「ああ、将来的には真守に私の秘書をしてもらおうと思っているから、仕事を覚えてくれると助かるよ」
「はい! 僕、頑張ります!!」
「でも、真守はまだ15歳だから、もし私の仕事以外にもやりたいことができたら何でも言ってくれていいからな。強制じゃないんだ。私は真守には自分の好きな道に歩んでほしいと思っているよ」
「はい。ありがとうございます、明さん」
そういえば、父さんも同じことを言っていたっけ。
――私の会社を真守が継ぎたいと自分から思って、後継になるべく勉強をしてくれるならそれほど嬉しいことはないが、私の息子だからといって無条件に次期社長というわけにはいかないよ。私はね、本当にこの会社を愛しているんだ。だから、真守に無理やり押し付けるつもりもない。真守にはまだ無限の可能性があるのだから、この会社に縛られる必要はないよ。
そう言って、僕の将来の選択肢を広げてくれていたんだな。
海外の人ともコミュニケーションが取れるようにって、小さな頃から英語を習わせてくれていたけれど、まさか自分がイギリスに住むことになるなんて思ってもみなかった。
「あの…父さんの会社はどうなるんですか?」
「ああ、智春さんの会社はちゃんと引き継ぐ人がいるから大丈夫だよ。智春さんの右腕としてずっと支えてくれていたあの秘書の佐山くんが社長となってくれることになっているから心配しなくていいよ」
「佐山さんが……そうですか。それなら安心ですね」
父さんと母さんが亡くなった時、何もできないでいた僕の代わりに全ての手続きをしてくれたんだ。
佐山さんがいなかったら、僕はどこから手をつけていいのか、何もわからなくて途方にくれていたはずだ。
「佐山くんが私に一番に連絡を入れてくれたんだよ。そのおかげで君を迎えに来ることができたんだ。智春さんも彼がいたから会社のことに関しては心残りはないんじゃないかな」
「はい。そうだと思います。佐山さんと話している時の父さんは、本当に信頼しきっている表情をしてましたから」
「いつか、真守が智春さんの会社を受け継ぎたいと思うならそれは止めないよ。今はまだいろんな世界を知る時間だ。そのために今、日本から離れるのは真守の人生においても良い時間だと思うよ。実は、元々智春さんから相談されていたんだ」
「えっ、父さんが何をですか?」
「高校生になったら、真守を私の元で勉強させてやってほしいって。これからの社会を真守自身の力で切り開くためにいろんな経験をさせてやりたいんだって、そう言っていたんだよ。智春さんはいつでも真守のことを考えてくれていたんだ」
「父さんが、そんなことを……」
僕は持っていたクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
これを買ってくれた時の父さんの笑顔を思い出す。
「真守、幸せになろうな。智春さんと雪乃の分まで」
「はい。僕……精一杯生きて、幸せになります」
だから、見守っていてね。父さん、母さん。
「いいんですか、僕がこんなすごい席なんて……」
「大したことないから気にしないでいいよ。こっちの方がのんびり休めるだろう?」
空港でイギリスまでの直行便に乗り込んだはいいけれど、案内されたのはなんとファーストクラス。
僕の知っている席とは違って、とんでもなく広くて座り心地がいい。
その上、席がフラットになるからしっかりと足を伸ばして寝られるなんてなんて贅沢なんだろう。
家族旅行でも修学旅行でもいつもエコノミーだったから、あまりの違いに驚きしかない。
それなのに、
「本当はビジネスジェットできたかったんだが、なんせ急なことだったから飛行申請を出すよりチケットを取った方が早くてね。今度はビジネスジェットで旅行にでも行こう。この飛行機よりもずっと快適に過ごせるよ」
なんて言われてしまってさらに驚いてしまう。
いやいや、ここで十分快適なんですけど……。
っていうか、明さん……自家用機まで持ってるんだ……。
あまりにも現実離れしてて想像もつかない世界だな。
飛行機がイギリスに向けて旅立ち、安定飛行に入った頃、早速食事の時間がやってきた。
ビーフとかチキンとか聞かれるんだっけ?
そう思ってドキドキしていたけれど、僕の目の前に用意されたのはものすごいフルコース料理。
父さんと母さんの結婚記念日の時に連れて行ってもらったすごいレストランで見たような食事が次々と運ばれてくる。
最初は前菜から、スープやメイン、デザートまで。
それのどれもがびっくりするほど美味しい。
僕と明さんの座席の間には仕切られていて、個室のようになっているけれど、食事の時だけはその仕切りを開けてくれたおかげで楽しくおしゃべりをしながら食べることができた。
「このデザート、真守好きだろう? 私の分もあげるよ」
「え、でも……」
「いいんだ。私はそこまで甘いものが得意ではないからね」
そう言って、明さんは別にワインとチーズを頼んでいた。
すごい、かっこいい。
大人の男って感じだな。
食事が終わると、途端に眠くなってきた。
ここ数日、父さんたちとの突然の別れやいろんなゴタゴタであまりよく眠れていなかったからかな。
「シャワーは後で入ればいいよ。ゆっくりおやすみ」
明さんの優しい声に安心しながら、クマと一緒に眠りにつく。
僕はそのままあっという間に深い眠りに落ちていた。
「日本の骨董品や美術品を売っているんだ」
「ヨーロッパで日本の美術品が人気があるって聞いたことがありますけど、本当なんですね」
「ああ、よく知っているね。日本人が西洋の建物やお城なんかに憧れを持つように、欧米人も日本の伝統的なものに興味を持っているんだ。日本人より詳しい人も多くてね。今では日本の骨董品や美術品を持つことがセレブのステイタスとさえ言われているんだよ。私は日本の厳選した骨董品や美術品をヨーロッパ各国の大富豪やお金持ちに売っているんだよ」
「それって、ものすごく目利きが必要じゃないですか?」
「そうだね。知識はもちろん大事だし、本物を見分ける目も必要だな。だが、今のところ贋作を買ったことは一度もないよ」
「すごいですね!!! 僕も、明さんのお仕事のお手伝いとかできますか?」
「ああ、将来的には真守に私の秘書をしてもらおうと思っているから、仕事を覚えてくれると助かるよ」
「はい! 僕、頑張ります!!」
「でも、真守はまだ15歳だから、もし私の仕事以外にもやりたいことができたら何でも言ってくれていいからな。強制じゃないんだ。私は真守には自分の好きな道に歩んでほしいと思っているよ」
「はい。ありがとうございます、明さん」
そういえば、父さんも同じことを言っていたっけ。
――私の会社を真守が継ぎたいと自分から思って、後継になるべく勉強をしてくれるならそれほど嬉しいことはないが、私の息子だからといって無条件に次期社長というわけにはいかないよ。私はね、本当にこの会社を愛しているんだ。だから、真守に無理やり押し付けるつもりもない。真守にはまだ無限の可能性があるのだから、この会社に縛られる必要はないよ。
そう言って、僕の将来の選択肢を広げてくれていたんだな。
海外の人ともコミュニケーションが取れるようにって、小さな頃から英語を習わせてくれていたけれど、まさか自分がイギリスに住むことになるなんて思ってもみなかった。
「あの…父さんの会社はどうなるんですか?」
「ああ、智春さんの会社はちゃんと引き継ぐ人がいるから大丈夫だよ。智春さんの右腕としてずっと支えてくれていたあの秘書の佐山くんが社長となってくれることになっているから心配しなくていいよ」
「佐山さんが……そうですか。それなら安心ですね」
父さんと母さんが亡くなった時、何もできないでいた僕の代わりに全ての手続きをしてくれたんだ。
佐山さんがいなかったら、僕はどこから手をつけていいのか、何もわからなくて途方にくれていたはずだ。
「佐山くんが私に一番に連絡を入れてくれたんだよ。そのおかげで君を迎えに来ることができたんだ。智春さんも彼がいたから会社のことに関しては心残りはないんじゃないかな」
「はい。そうだと思います。佐山さんと話している時の父さんは、本当に信頼しきっている表情をしてましたから」
「いつか、真守が智春さんの会社を受け継ぎたいと思うならそれは止めないよ。今はまだいろんな世界を知る時間だ。そのために今、日本から離れるのは真守の人生においても良い時間だと思うよ。実は、元々智春さんから相談されていたんだ」
「えっ、父さんが何をですか?」
「高校生になったら、真守を私の元で勉強させてやってほしいって。これからの社会を真守自身の力で切り開くためにいろんな経験をさせてやりたいんだって、そう言っていたんだよ。智春さんはいつでも真守のことを考えてくれていたんだ」
「父さんが、そんなことを……」
僕は持っていたクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
これを買ってくれた時の父さんの笑顔を思い出す。
「真守、幸せになろうな。智春さんと雪乃の分まで」
「はい。僕……精一杯生きて、幸せになります」
だから、見守っていてね。父さん、母さん。
「いいんですか、僕がこんなすごい席なんて……」
「大したことないから気にしないでいいよ。こっちの方がのんびり休めるだろう?」
空港でイギリスまでの直行便に乗り込んだはいいけれど、案内されたのはなんとファーストクラス。
僕の知っている席とは違って、とんでもなく広くて座り心地がいい。
その上、席がフラットになるからしっかりと足を伸ばして寝られるなんてなんて贅沢なんだろう。
家族旅行でも修学旅行でもいつもエコノミーだったから、あまりの違いに驚きしかない。
それなのに、
「本当はビジネスジェットできたかったんだが、なんせ急なことだったから飛行申請を出すよりチケットを取った方が早くてね。今度はビジネスジェットで旅行にでも行こう。この飛行機よりもずっと快適に過ごせるよ」
なんて言われてしまってさらに驚いてしまう。
いやいや、ここで十分快適なんですけど……。
っていうか、明さん……自家用機まで持ってるんだ……。
あまりにも現実離れしてて想像もつかない世界だな。
飛行機がイギリスに向けて旅立ち、安定飛行に入った頃、早速食事の時間がやってきた。
ビーフとかチキンとか聞かれるんだっけ?
そう思ってドキドキしていたけれど、僕の目の前に用意されたのはものすごいフルコース料理。
父さんと母さんの結婚記念日の時に連れて行ってもらったすごいレストランで見たような食事が次々と運ばれてくる。
最初は前菜から、スープやメイン、デザートまで。
それのどれもがびっくりするほど美味しい。
僕と明さんの座席の間には仕切られていて、個室のようになっているけれど、食事の時だけはその仕切りを開けてくれたおかげで楽しくおしゃべりをしながら食べることができた。
「このデザート、真守好きだろう? 私の分もあげるよ」
「え、でも……」
「いいんだ。私はそこまで甘いものが得意ではないからね」
そう言って、明さんは別にワインとチーズを頼んでいた。
すごい、かっこいい。
大人の男って感じだな。
食事が終わると、途端に眠くなってきた。
ここ数日、父さんたちとの突然の別れやいろんなゴタゴタであまりよく眠れていなかったからかな。
「シャワーは後で入ればいいよ。ゆっくりおやすみ」
明さんの優しい声に安心しながら、クマと一緒に眠りにつく。
僕はそのままあっという間に深い眠りに落ちていた。
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