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番外編
二人の未来のために……
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フレッドと柊がいなくなった後のアンドリューたちの様子をさらっとですが書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<sideアンドリュー>
フレデリックとシュウが本来いるべき場所へと帰って行ってから、城内は誰が見ても明らかに喪失感が漂っていた。
二人がいなくなって元の城内に戻っただけなのに……それほどまでにあの二人の存在は大きかったのだろう。
ふと庭に目をやると、誰もいない東屋に心が締め付けられる思いがする。
あの東屋でトーマがシュウとお茶をしていた姿は、ここで働く者皆の心を癒していたのだ。
だからだろうか……シュウがいなくなって以来、誰も中庭に行きたがらなくなっていた。
私自身もそうだ。
執務室に行けばフレデリックがいて、お互いの伴侶の話をしたり、相談したり……そんな朝の会話を楽しんでから仕事を始めるのが最近の日課になってしまっていたのに。
誰も入ってこない執務室はやけに広々として静寂な雰囲気を醸し出していた。
トーマは表面上、笑顔を絶やさないようにしているが、シュウと離れてしまったのはやはり寂しいのだろう。
時折、はぁーっとため息を吐いている。
二人は領地に無事に帰れただろうか。
新しい世界に期待に胸を膨らませているだろうか。
もしかしたら、もう我々のことなど忘れてはしないか……。
いや、私たちの絆は消えたりはしないだろう?
4人で作った揃いの指輪に目をやり、そう問いかける。
ああ、やはり遺されたものの方が、立ち直るまでに時間を要するのだ。
なんせそこかしこに二人がいた形跡が残っているのだから。
はぁーーっ。
トーマにも聞かせられないほどの大きなため息を吐いたところで、執務室の扉が叩かれた。
絶対に違うと分かっていながら、ほんの少しフレデリックかもしれないと思ってしまう。
「アンドリューさま。少し休憩にいたしましょう」
「ブルーノか……ああ、ありがとう」
「またフレデリックさまのことをお考えに?」
「なかなかすぐには……な」
「そうでございますね。私もあの画室の前を通るたびに、シュウさまと過ごした時間を思い出してしまいますから」
ブルーノにしてみれば、孫を失ったのと同じか。
それほどまでにシュウを可愛がってくれていたからな。
「ですが、アンドリューさま。いつまでも寂しがってばかりではいられませんよ。予言書をお書きになるのでしょう?」
ブルーノの言葉に思わず立ち上がってしまう。
「ああ、そうだった! 二人の未来がより良いものになるように精一杯してあげないとな。間違ってもフレデリックがもう二度と虐げられることのないようにしなければ!」
「僭越ながら、私もお手伝いいたします」
「ブルーノが?」
「はい。フレデリックさまのことはアンドリューさまにお任せいたしますが、私はシュウさまがあちらでより快適にお過ごしになられるように言葉を残しておきたいと思うのです」
「シュウのために?」
「はい。ですから、予言書に何を書き記すかをぜひトーマさまと、それからヒューバート殿と一緒にお考えになられてはいかがでしょうか?」
「そうか……そうだな。トーマとヒューバートなら、二人のためにいい言葉を考えてくれそうだ。よし、ならば早速今日の仕事の後にここに集まるようにヒューバートには声をかけていてくれ。私はトーマに話をしておこう」
「ふふっ。少しはお元気になられたようで安心いたしました」
「ブルーノ……」
「フレデリックさまもシュウさまも、新しい世界をお待ちですぞ。私たちが塞ぎ込んでいる場合ではございません」
「――っ、ああ。そうだな」
二人がいなくなったことを嘆くより、二人がより笑顔になれるように頑張るだけだ。
「フレデリックさんと柊に残す予言書を僕も考えていいの?」
トーマに早速話をすると、驚いていたものの表情はとても嬉しそうに見えた。
「ああ、シュウのことなら私よりトーマの方がよくわかるだろう。シュウが快適に過ごしていけるように頑張って考えてくれ」
「うん! 任せておいて! ねぇ、柊のことだけど……どこまで本当のことを書くの?」
「もちろん、トーマの子どもだと書くつもりだ。その方がより丁重に扱ってもらえるだろう?」
「でも……僕、男なのに……」
「ふふっ。大丈夫だ。神の力によって授かった子だと書いておくよ。そして、その子が未来のオランディア王家の男子の夫となる運命であり、それを妨げてはならない。もし、それを妨げることがあればその瞬間、神の力によってオランディアは滅亡する。そして、その神の力を授かった子を伴侶とできるものは私にそっくりなもの……生まれ変わりだと記すつもりだ。だから、心配しなくていい」
「アンディーっ!! それいいっ!! それだったら、フレデリックさんがシュウの相手だってすぐにわかるよ!!」
「ふふっ。だろう? だから、フレデリックとシュウが夫夫となることに関しては心配しなくていいぞ。トーマはシュウのために整えておいた方がいいことを考えてくれ」
「うーん、例えば?」
「そうだな。この城からフレデリックの領地に帰るまでに必要な二人の宿を用意しておくとか、その宿に必要なものを書いておくとかかな」
「ああ、それいいっ!! シュウはお風呂が好きだから、お風呂は絶対に作ってもらうことにしよう!」
「ふふっ。それはいいな」
久しぶりにいきいきとしたトーマの表情に私の心も明るくなる。
「パールのことも書いておかないとね。これからシュウたちのいる時代まで長生きできるようにしっかりとお世話してもらえるようにしておかないと!」
「ああ、それは大事だな。よし、そこはしっかり書いておこう」
トーマと二人であれやこれやと考えている間に、ヒューバートとブルーノも参加して、どんどん意見を出していく。
国王である私が皆の意見を取りまとめながら必死にメモを取っていく。
だが、こんな時間を過ごすのも楽しいと思えるのは、フレデリックとシュウのおかげだろうか。
これから数ヶ月にも渡り、あれこれと意見を交わし続け、ようやく完成した予言書は驚くほど分厚く重いものになったが、これくらいたっぷりと書かれていた方が後世の王たちにも信憑性があるというものだ。
結局のところ、シュウを誰よりも大切にし、フレデリックとの仲を決して邪魔してはいけないということが延々と書かれているだけなのだが……。
まぁいい。
これで二人が新しい世界で幸せになれるのなら……。
私たちはいつでもフレデリックとシュウの幸せを願っている。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<sideアンドリュー>
フレデリックとシュウが本来いるべき場所へと帰って行ってから、城内は誰が見ても明らかに喪失感が漂っていた。
二人がいなくなって元の城内に戻っただけなのに……それほどまでにあの二人の存在は大きかったのだろう。
ふと庭に目をやると、誰もいない東屋に心が締め付けられる思いがする。
あの東屋でトーマがシュウとお茶をしていた姿は、ここで働く者皆の心を癒していたのだ。
だからだろうか……シュウがいなくなって以来、誰も中庭に行きたがらなくなっていた。
私自身もそうだ。
執務室に行けばフレデリックがいて、お互いの伴侶の話をしたり、相談したり……そんな朝の会話を楽しんでから仕事を始めるのが最近の日課になってしまっていたのに。
誰も入ってこない執務室はやけに広々として静寂な雰囲気を醸し出していた。
トーマは表面上、笑顔を絶やさないようにしているが、シュウと離れてしまったのはやはり寂しいのだろう。
時折、はぁーっとため息を吐いている。
二人は領地に無事に帰れただろうか。
新しい世界に期待に胸を膨らませているだろうか。
もしかしたら、もう我々のことなど忘れてはしないか……。
いや、私たちの絆は消えたりはしないだろう?
4人で作った揃いの指輪に目をやり、そう問いかける。
ああ、やはり遺されたものの方が、立ち直るまでに時間を要するのだ。
なんせそこかしこに二人がいた形跡が残っているのだから。
はぁーーっ。
トーマにも聞かせられないほどの大きなため息を吐いたところで、執務室の扉が叩かれた。
絶対に違うと分かっていながら、ほんの少しフレデリックかもしれないと思ってしまう。
「アンドリューさま。少し休憩にいたしましょう」
「ブルーノか……ああ、ありがとう」
「またフレデリックさまのことをお考えに?」
「なかなかすぐには……な」
「そうでございますね。私もあの画室の前を通るたびに、シュウさまと過ごした時間を思い出してしまいますから」
ブルーノにしてみれば、孫を失ったのと同じか。
それほどまでにシュウを可愛がってくれていたからな。
「ですが、アンドリューさま。いつまでも寂しがってばかりではいられませんよ。予言書をお書きになるのでしょう?」
ブルーノの言葉に思わず立ち上がってしまう。
「ああ、そうだった! 二人の未来がより良いものになるように精一杯してあげないとな。間違ってもフレデリックがもう二度と虐げられることのないようにしなければ!」
「僭越ながら、私もお手伝いいたします」
「ブルーノが?」
「はい。フレデリックさまのことはアンドリューさまにお任せいたしますが、私はシュウさまがあちらでより快適にお過ごしになられるように言葉を残しておきたいと思うのです」
「シュウのために?」
「はい。ですから、予言書に何を書き記すかをぜひトーマさまと、それからヒューバート殿と一緒にお考えになられてはいかがでしょうか?」
「そうか……そうだな。トーマとヒューバートなら、二人のためにいい言葉を考えてくれそうだ。よし、ならば早速今日の仕事の後にここに集まるようにヒューバートには声をかけていてくれ。私はトーマに話をしておこう」
「ふふっ。少しはお元気になられたようで安心いたしました」
「ブルーノ……」
「フレデリックさまもシュウさまも、新しい世界をお待ちですぞ。私たちが塞ぎ込んでいる場合ではございません」
「――っ、ああ。そうだな」
二人がいなくなったことを嘆くより、二人がより笑顔になれるように頑張るだけだ。
「フレデリックさんと柊に残す予言書を僕も考えていいの?」
トーマに早速話をすると、驚いていたものの表情はとても嬉しそうに見えた。
「ああ、シュウのことなら私よりトーマの方がよくわかるだろう。シュウが快適に過ごしていけるように頑張って考えてくれ」
「うん! 任せておいて! ねぇ、柊のことだけど……どこまで本当のことを書くの?」
「もちろん、トーマの子どもだと書くつもりだ。その方がより丁重に扱ってもらえるだろう?」
「でも……僕、男なのに……」
「ふふっ。大丈夫だ。神の力によって授かった子だと書いておくよ。そして、その子が未来のオランディア王家の男子の夫となる運命であり、それを妨げてはならない。もし、それを妨げることがあればその瞬間、神の力によってオランディアは滅亡する。そして、その神の力を授かった子を伴侶とできるものは私にそっくりなもの……生まれ変わりだと記すつもりだ。だから、心配しなくていい」
「アンディーっ!! それいいっ!! それだったら、フレデリックさんがシュウの相手だってすぐにわかるよ!!」
「ふふっ。だろう? だから、フレデリックとシュウが夫夫となることに関しては心配しなくていいぞ。トーマはシュウのために整えておいた方がいいことを考えてくれ」
「うーん、例えば?」
「そうだな。この城からフレデリックの領地に帰るまでに必要な二人の宿を用意しておくとか、その宿に必要なものを書いておくとかかな」
「ああ、それいいっ!! シュウはお風呂が好きだから、お風呂は絶対に作ってもらうことにしよう!」
「ふふっ。それはいいな」
久しぶりにいきいきとしたトーマの表情に私の心も明るくなる。
「パールのことも書いておかないとね。これからシュウたちのいる時代まで長生きできるようにしっかりとお世話してもらえるようにしておかないと!」
「ああ、それは大事だな。よし、そこはしっかり書いておこう」
トーマと二人であれやこれやと考えている間に、ヒューバートとブルーノも参加して、どんどん意見を出していく。
国王である私が皆の意見を取りまとめながら必死にメモを取っていく。
だが、こんな時間を過ごすのも楽しいと思えるのは、フレデリックとシュウのおかげだろうか。
これから数ヶ月にも渡り、あれこれと意見を交わし続け、ようやく完成した予言書は驚くほど分厚く重いものになったが、これくらいたっぷりと書かれていた方が後世の王たちにも信憑性があるというものだ。
結局のところ、シュウを誰よりも大切にし、フレデリックとの仲を決して邪魔してはいけないということが延々と書かれているだけなのだが……。
まぁいい。
これで二人が新しい世界で幸せになれるのなら……。
私たちはいつでもフレデリックとシュウの幸せを願っている。
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