ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第四章 (王城 過去編)

フレッド   43

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パールはあれからずっとシュウの胸に抱かれ、時折私の方に視線を向けては得意げな顔を見せる。
私のシュウをまるで自分だけのものだと言わんばかりの様子に悔しさが込み上げるが、パールとシュウはこのパーティーが終わったら離れ離れになってしまうのだから、今、引き離すのはあまりにも狭量すぎると思われるかもしれない。

シュウにそう思われたくなくて必死に我慢していると、とうとうパーティーが終わりの時を迎えてしまった。

あっという間に大広間には我々とアンドリュー王、トーマ王妃、そしてブルーノとヒューバート……あとはシュウの腕に抱かれているパール……それだけだ。

肖像画を披露したばかりですぐに帰らなくても……そんな思いもないわけではない。
だが、日が経つほどに帰りにくくなるものだ。

だからこそ、私はアンドリュー王にあらかじめ伝えておいたのだ。

披露パーティーが終わったら、私たちは元の時代に戻る……と。
そう伝えた時、

――トーマが寂しがるだろうな。シュウのことを息子というよりは親友のように思っていたようだったからな。
私にとってもそうだぞ。其方がここからいなくなるのは、親友を失うほどの痛みだ。
其方のようになんでも話ができる相手は私にはいなかったからな。トーマの惚気ももう話せぬな。

最後は冗談めかしてそう言っていたが、目は寂しいと物語っていたのが印象的だった。

アンドリュー王と共に過ごしたあの執務室。
最初は緊張に震えていたが、同じ時間を過ごすうちにあの時間が楽しいと思えた。
シュウがトーマ王妃の息子だとわかってからはグッと心が近づいた気がした。
考えてみれば、アンドリュー王にとってはシュウはトーマ王妃の純潔を奪った憎き相手が産み落とした子。
もし私なら、こんなにも無条件で受け入れることができただろうか?

だが、アンドリュー王はシュウがトーマ王妃の息子だとわかってすぐに、

――其方がトーマの息子というのなら、私にとっても大事な息子だ。

そう言い切った。

これほどの愛があるだろうか?
最愛の人に突然現れた息子を自分の息子だと言い切れる、私はあの時、アンドリュー王の偉大さを知ったのだ。

その日からアンドリュー王は私の人生の目標となった。
そんな偉大なるアンドリュー王に親友として認めてもらえるとは……この上ない幸せだな。

その幸せを胸に抱いて、私はシュウと共に元の時代へと帰るのだ。

シュウが未来のオランディアを変えるために、私を救うために精魂込めて必死に描いてくれた肖像画と、アンドリュー王とトーマ王妃が未来のオランディアに向けて尽力してくれたことで私たちが戻った未来は私の知っているそれとは大きく異なることだろう。

元に戻った瞬間、なんらかの騒動に巻き込まれる危険もないわけではないが、それは神のみぞ知るとでもいうべきか。

私たちは何も考えずただ時空を超えて戻るしかない。
どんな未来になっていようとも私とシュウの仲は揺るがないのだから……。

「もう帰ってしまうのだな」

アンドリュー王のその寂しげな声に私は一瞬苦しくなりながらも、今までの礼を伝え頭を下げると、ブルーノが我々に出立する前に服を着替えるようにと言ってくれた。

そうだ。
シュウも私も今はまだ本来の姿でない。

元の時代へと戻る時には嘘偽りのない姿でないといけないな。

ブルーノはそれをわかっていたかのように、我々がこの時代へとやってきた時の服を準備しておいてくれた。
シュウはその服を懐かしむように見つめ、これを着て帰ると言い切った。

私はシュウの意見を尊重し、元の服へと着替えた。

アンドリュー王が作ってくれたオランディア王族の紋章入りの服から、サヴァンスタック公爵の紋章入りの服へと袖を通した瞬間、身体中を何かが走るようなそんな感覚に、私は着々と元の時代へと帰る準備が整っている、そう感じたのだ。

つけていた赤髪の鬘を取り、久しぶりに自室以外で自分の髪色を目にすると一瞬驚きはしたが、元の時代で毎日感じていたような嫌悪感が一切なくなっていることに気付いた。
やはり毎日、同じ金色の髪を持ち堂々と過ごしているアンドリュー王を間近で見ていたからだろうか。
ここで数ヶ月過ごしたことで、私の美醜感覚ももうすでに変わっていたのだ。

これなら向こうに帰っても戸惑うことはないかもしれない。
そう思うと心が晴れやかになっていく、そんな気がした。


自分たちの本当の姿を取り戻して皆の前に戻ると、皆、久しぶりに我々の姿に一様に驚いていたが、一番驚いていたのは本当の姿を初めて見たヒューバートだったろう。

私とシュウに何度も視線をむけ、そしてアンドリュー王とトーマ王妃にも目を向けた。
私とアンドリュー王、そしてシュウとトーマ王妃がこの上なくそっくりなことに驚きが隠せないようだ。
見た目は本当にそっくりだからな、我々は。

だが、シュウとトーマ王妃はともかく、私は見た目だけでなく中身もアンドリュー王に近づけるようにしたいと思っている。
雲の上の存在である偉大なる王を人生の目標に掲げるのはあまりにも難しいことだろうが目標は高いほど頑張れると言うものだからな。

着替えも終わり、あとはもう帰るだけだがなんと言って話を切り出せばいいかわからない。
そっとトーマ王妃に目を向けると、トーマ王妃はすでに目にいっぱい涙を潤ませていた。
その姿を見るとどうにも別れを切り出すのが辛くなる。

どうするべきか……と思っていると、突然シュウが動いた。
そしてゆっくりとアンドリュー王の前に立つとにっこりと笑顔を浮かべて口を開いた。

アンドリュー王へお礼の言葉を述べ、一緒に公務へ向かったあの日のことを一生忘れないと語った。

あの日の公務はシュウに取って何か得難い体験をしたのだろう。
それはきっと元の時代に戻ってもきっと役に立ててくれることだろう。

アンドリュー王はシュウの言葉に、

「其方はいつまでも私の息子だ」

とシュウに取っては最高の言葉を返してくれた。

硬くつなぎ合った手にアンドリュー王とシュウの実の親子のような絆を感じた。

次にシュウはブルーノに向けて、

「おじいちゃんのこと、ずっとずっと大好き」

と満面の笑みでそう語った。

「シュウさま……私も大好きですよ」

ブルーノは心からの気持ちでシュウを深く受け止めてくれていた。
アンドリュー王がシュウを実の息子だと思っていたように、ブルーノもまたシュウを実の孫だと思っていてくれたに違いない。

ヒューバートへは謝罪の言葉からだったのがシュウらしいなと思った。
いつも我々のために尽力してくれていたヒューバートをシュウは兄のように思っていたようだ。
ヒューバートのことを頼り甲斐のあると言っていたのが少し妬けるが、まぁそれくらいは許してやるか。

『シュウさまをお守りできましたことは私の誇り』
そう言い切るヒューバートの目には涙もない。
ああ、こう言うところはさすがオランディア王国騎士団団長というべき姿だな。

そして、最後にシュウはトーマ王妃の前に立ち止まった。

息子であるシュウとの別れに涙を隠しきれないトーマ王妃は、何も発さずにただシュウを見つめている。

シュウがトーマ王妃へ自分がいかに幸せだったかを満面の笑みで伝えると、トーマ王妃もまた、

「柊……僕こそ幸せだったよ。柊が息子で……本当に良かった」

と心からの言葉が返ってきた。

シュウとトーマ王妃は今生の別れを惜しむようにどちらからともなくぎゅっと抱きしめあう姿に私もアンドリュー王も思わずもらい泣きしそうになる。

これが本当に心から慈しみ合う親子の別れか。
本当に清らかでここだけ神聖な空間のようだ。

このまま神の元に連れていかれるのではないかと心配にさえなってしまう。
私はシュウが神に連れ去られる前に声をかけた。

私の呼び声にシュウはゆっくりとトーマ王妃から離れ、トーマ王妃の胸に抱かれたパールに最後の言葉をかけ私の元へと戻ってきた。

シュウを私の元に取り戻せたことに安心しているとブルーノから声をかけられた。

その手に持っているのはギーゲル画伯からの贈り物。
これは私たちの大切な思い出だ。
それを忘れずにいてくれたブルーノにお礼を言い、受け取ろうとするとブルーノが私の手をぎゅっと引っ張った。
その弾みで私はブルーノに抱きしめられたのだが、ブルーノは

「フレデリックさま、どうかご無事で。シュウさまと末長くお幸せに」

と別れの言葉をかけてくれた。
その声は執事からの言葉ではなく、家族としての声だった。

私たちの行く末を心から心配してくれるブルーノに胸が震えた。
これほどまでに私を愛してくれるとは……。
涙をこぼしそうになるのを必死に堪えて私はブルーノにお礼の言葉を伝えた。

ヒューバートにも最後の言葉を伝えたい。
その思いでヒューバートに礼をいうと、ヒューバートはシュウの前では堪えていた涙を流しながら私に別れの言葉を言ってくれた。
ヒューバートの男泣きにもらい泣きしそうになりながら

「ヒューバート、其方のように優しく強い男なら唯一も絶対に守れるはずだ。陛下とトーマ王妃のことも頼んだぞ」

というと、騎士団長らしく

「はい。このヒューバート、全身全霊をかけてお守りいたします。どうぞご安心ください」

と言ってくれた。
ああ、こんなにも頼もしいヒューバートに任せておけば、このオランディアは平穏を保つことだろう。

そして、私は最後にゆっくりとアンドリュー王の前に跪き、

「陛下。私たちのためにご尽力いただいた恩は一生忘れません」

と頭を下げた。

突然現れ何の信用も無い私たちを信じてくれた。
それから今までの恩はもう数えきれないほどだ。
アンドリュー王はそんな私に、

「私のせいで子孫である其方を傷つけたこと、本当に申し訳なかった。新しい未来でどうかシュウと幸せにな」

と謝罪の言葉とシュウとの未来を願ってくれた。

あなたに傷付けられたことなど何もありません。
私はあなたと過ごせたこの時間を永遠に忘れません。

その思いを込めて、

「陛下のお言葉痛み入ります」

と告げ、アンドリュー王とかたく手を握り合った。
この力強い握手を私は決して忘れることはないだろう。

握り合った手を離し、私はシュウの手を引いて肖像画の台へと歩き始めた。

一歩ずつ、アンドリュー王たちとの距離が離れていく。
それでも私もシュウも振り返ることは決してせず、肖像画への階段を上った。

最上段まで上がって、私はシュウを横抱きに抱きかかえた。
アンドリュー王たちを見ると、皆、微動だにせず我々を見守っている。

シュウはそんな彼らに向かって、大きな声で

「お父さんっ! さようならーっ! みなさんもお元気でーっ!!」

と叫んだ。

その瞬間、私の耳につけている黒金剛石のピアスに熱を感じたと同時に私は肖像画に吸い込まれるようなそんな感覚に陥った。

ああっ!

と思った時にはもう私たちの身体は眩いほどの光に包まれていて、その光が自分の耳から放たれているものなのか、それとも肖像画から放たれているのか、もはや分からなくなっていた。
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