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第二章 (恋人編)

               神に愛された俺の勝ち組人生<後編>※

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俺が今まで誘って断ったやつなど1人もいない、その事実が俺を無敵にさせていた。

「ねぇ、黒い瞳の可愛い子ちゃん。そんな相手辞めて、俺と遊びに行かない? こんなやっすい庶民の店じゃなくてもっと美味しいものご馳走してあげるよ。ほら、行こうよ」

「えっ? あの……」

うわっ。声も可愛い。
大丈夫、俺がこんな金髪から君を守ってやるよ。

その子の手を掴もうと手を伸ばした瞬間、どこから出てきたのかわからない手に俺の腕を掴まれ、引きちぎられるかと思うような力で後ろ手に締め上げられた。

「イタタッ! イタイ! イタイ!
な、なにするんだよ、声かけただけだろ!」

この俺にこんな対応するなんて、なんなんだ、一体。
俺が掴まれている間、掴んでいる男も金髪の男も微動だにしない。
ただ、あの可愛い子だけが俺を心配するように見てくれている。

何も言葉を発しない男たちにムカついて、

「おいっ! 離せよ! そもそもこんな金髪ヤローが美人連れてるのが悪いんだよ。分不相応だろ。お前、自分の顔を鏡で見てみろよ」

と叫んだ。

すると、椅子に座っていたあの金髪が立ち上がって俺の方に振り返った。

「金髪ヤローとは私のことかな?
君は……ああ、ワーグナー子爵の次男か。なるほど。父上に今のことも含めて丁重に挨拶しなければいけないな」

「ひぃ……っ。あっ、あなたは……さ、サヴァンスタック公爵、さま……」

なっ、なんでこんな庶民の店に?
嘘だろ、俺、さっきなんて言った?
さっき発した言葉が頭の中に甦る。

金髪ヤロー
分不相応
鏡を見ろ

一言思い出すたびに血の気が引いていくのがわかった。

さすがにヤバい……。

「ほぅ。私のことを知っているようで何より。ああ、ついでに教えておこうか。君が不躾に声をかけた彼は、私の伴侶だ。まぁ、分不相応・・・・で申し訳ないが……な」

「ええっ?」

伴侶? 
嘘だろ……。
政略でこんな美人を?
じゃあ、俺は公爵さまの伴侶に手を出した不届き者ってことかよ……。

「いえ……っ、あの、こ……公爵さま……」

眼光鋭い公爵さまの威圧感にガタガタと身体が震え、もう足に力も入らない。
もはやどうやって立っているのかもわからないほどだ。

公爵さまの伴侶さまに手を出そうとして、これから俺はどうなるんだろう……。

「ねぇ、フレッド。もういいよ」

あの子が俺に助け舟を出してくれた。
あの子が何かを言った途端、公爵さまは俺への睨みをやめ席へ戻って行った。

そうか……。きっと、あの子は俺に惚れたんだ。
だから公爵さまに責められている俺が可哀想に思えたんだ。
なんて優しい人なんだろう。

嬉しくて涙が出そうになり、俯いていると

「旦那さま、どうされますか?」

と俺の手を締め上げている奴が公爵さまに問いかける。

「シュウがもういいと言っているから、今回だけは手を離しておけ。おい、お前! 次があると思うな。さっさと私たちの目の前から去れ!」

あれだけ怒っていたのになんのお咎めも罰もなく無罪放免だなんて、可愛いあの子が俺のために何か口添えをしてくれたんだろう。
顔がいいって、やっぱり得だ。

ようやく腕を離された俺は、公爵さまに謝罪の言葉を述べ、席へと戻った。

その後、ダーウィンにいろいろ話しかけられたけれど、それから家にどうやって帰ったのかも覚えていない。
覚えているのは、あの美人が俺を助けてくれたという事だけ。

俺は自室のベッドに横たわり、あの子との運命的な出逢いを思い出していた。

きっとあの子も俺に一目惚れしたんだ。
俺を見る目が輝いてたもんな。
可哀想だよな、あの子。
政略でも酷すぎる。
あの子にはもっと相応しい相手がいるはずだ。

うん、例えば俺とか。そうだ、俺だ。
俺もあの子も好きあってるのに、公爵さまが邪魔なんだよな。
あーあ、どうやったら公爵さまからあの子を奪い取れるかな。

考えながら知らぬ間にウトウトと眠りかけていたが、

バァーーン!

扉を叩きつけるような大きな音で飛び起きると、目の前に怒り狂った父がいた。

今まで見たこともない般若のような形相で

「さっさと来い!!」

と叫ぶと、胸ぐらを掴まれそのまま父の部屋へと連れて行かれ、思いっきり突き飛ばされた。

「何するんだよ!」

「何するんだだと? ハーヴィー、お前、公爵さまのご伴侶さまに手を出そうとしたというのは本当か?」

「えっ? な、なんで? いや、その」

「本当のことを言え!!」

父の剣幕につい、

「ああ、本当だよ! あの子は俺に救い出して欲しそうな顔をしていたからな」

と言ってしまった。

俺の言葉に父は顔を真っ赤にして激高した。

「お前はなんてことをしてくれたんだ! 
ならば、公爵さまに暴言を吐いたのも本当なのだな」

もうこうなったら、俺だって止まらない。

「ああ、本当だとも。金髪のくせに、あんな美人が伴侶だなんて図々しいんだよ!」

そう叫んだ瞬間、父の顔からスッと表情が消えた。

「お前は何も分かっていなかったようだな。
もう、あの令嬢との縁談は破談だ。
お前の行く先が決まるまで家から出ることは許さん!」

「はぁ? どう言うことだよ!!」

「うるさい!!!」

父はそう叫ぶと、俺を引き摺って地下にある物置部屋に押し込んだ。

「お前がしでかしたことよく考えろ! 
ここでしばらく頭を冷やすんだな」

そう言い放つと、その場から足早に立ち去っていった。

「なんだよ! あれはお咎めなしだったはずだろ! ふざけんなよ」

扉を何度蹴り付けても、どんなに叫んでも誰も来ない。
光も差し込まない真っ暗闇の部屋の真ん中で俺は疲れ果てて倒れ込んだ。
目を閉じると浮かんでくるあの美しい彼。
彼も俺を庇ったために何かお咎めを受けたりしていないだろうか?

俺があの男の手から救い出してやりたいのに……。

そんなことを考えながら数日を過ごしていると、物置部屋の扉が開き、俺はまた父の書斎へと連れて行かれた。

「喜べ! お前の縁談が決まった」

あれだけ怒っていたはずの父がなぜか上機嫌だった。

「なんだと? 縁談って俺をどこにやる気だよ!」

そう叫ぶと、父は俺に一枚の紙を差し出した。

「公爵さまからのご推薦で、お前はゴードン辺境伯さまの元に嫁ぐことになった。素晴らしい幸運だ、良かったな。お前の功績により、我が家は伯爵家に格上げだ。お前は最後に良い仕事をしてくれた。これで我がワーグナー家も安泰だ」

「ゴードン辺境伯って、あの……?」

「ああ、そうだ。せいぜい死ぬまで辺境伯さまに可愛がってもらえ」

「嫌だ! 嫌だ! 離せ!」

俺は逃げようと必死でもがいたが、ガタイの良い使用人2人に腕を持たれ身動きひとつできない。

俺は後ろ手に縛られたまま、その日のうちに荷物一つで馬車に乗せられ、辺境伯さまヤツの元へ連れて行かれた。

数時間走ってようやく降ろされた場所は古い洋館が一軒建っているだけのおどろおどろしい深い森の中だった。

付いてきた使用人に腕を持たれ、洋館に近づくと、中から白髪の屈強な大男が出てきた。

嫁いだ者が10年も経たずに次々と死んでしまうという……コイツがあの噂の辺境伯さま……。

「ああ、この子が今度の私の伴侶ですか」

ニヤリと口角を上げるその不敵な笑みが恐ろしさに拍車をかける。

使用人は声も上げずに、ヤツに公爵さまからの手紙をそそくさと渡したあと、続けて俺と荷物もポイっと渡し、足早に馬車に乗って元来た道へと帰っていった。

俺は1人取り残され、屈強な大男を前に気づけば身体がぶるぶる震えていた。

「ふん。怯えているのか? まぁ、いい。入れ」

ヤツは片手で俺を掴んで部屋の中に入れると

「さぁ、まずこれを飲むんだ!」

と、青紫色のドロドロとした液体を差し出した。

俺は差し出された得体のしれない液体に尻込みして、顔を背けると無理矢理頬を押さえつけられ、口に流し込まれた。
鼻と口を押さえられ、吐き出すことも許されずゴクンと飲み干すとたちまちじんじんと身体が熱くなっていくのを感じた。

「なっ、なに……こ、れ」

「ふっ。効いてきたか? 
それは私をみると欲情する薬だ。
お前はこれから死ぬまで私に発情し続ける。
さぁ、可愛がってやろうな」

ヤツのそんな説明など聞いていられないほど、今はただ疼く身体をどうにかして欲しくて俺は必死に身体を捩らせた。 

「よく見たらお前、綺麗な顔してるじゃないか。いつもは醜男・醜女ばかりなのに公爵さまも今回は珍しく良いのを寄越してくれたもんだな」

そう言って頬を撫でられるだけで、後孔が疼いてしまう。

「ひや……っん」

「ふぅん、いいな。感度も良さそうだ。ちょっとここで味見してやろう」

ニヤリと舌舐めずりしながら、俺の服を手早く脱がすとひょいと抱き抱え、俺のモノに勢いよく吸い付いた。

デカイと言われていた俺のモノは、この大男の口にはすっぽりと入ってしまう。

じゅぷじゅぷという淫らな音が俺の疼きを強めていく。
分厚い舌と窄まった唇で俺のモノ全体を舐め尽くされ、あっという間に達してヤツの口にぶちまけてしまった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「ほう。お前、俺の唯一だったか……これは、これは本当に当たりだったな」

浮かれ切った様子で寝室へと連れて行かれた。
嫌で嫌でたまらないのに、薬のせいか身体が言うことを聞かない。

「はぁ……っ、はや、くぅ」

俺の口がそう呟くと、ヤツは嬉しそうに

「これはいつもより楽しめそうだな」

と言って、後ろ手に寝室の鍵をカチャリと閉めた。




ゴードン辺境伯さまヤツは、元々この地に住んでいた研究者だった。研究中に不老不死の薬を誤って口にしてしまい、見た目は40代に見えるが、実際にはもう100歳をとうに超えているらしい。

この不老不死の薬から得られる精力の強さは尋常ではなく、相手をする人間は10年持てば良い方だ。
そして、精力を保つこの薬の効果は一生消えないらしい。

公爵さまは開拓の最中にこの地に人攫いの鬼が現れると噂を聞きつけ、ゴードンを探し出した。
理由を知って公爵さまは、ゴードンの類い稀な才能で作り出した圧倒的な軍事力に目を付け、この辺りの治安を守ってもらう代わりに、ゴードンに辺境伯の地位を与え、庶民の中からたくさんの褒美や金と引き換えに納得した者を伴侶として定期的に送り続けてきたのだという。

そして、今回伴侶に選ばれた生贄が俺というわけだ。

俺は寝室でゴードンに後孔に甘い蜜を何度も何度も出されながら、夢物語のようにそんな話を聞かされた。


ああ、なぜあの時あの子に声をかけてしまったのだろう……。
なぜあんなに彼を見下していたのだろう。
俺が見下せるような人ではなかったのに……。

そう後悔してももうどうしようもない。
こんな形で俺の唯一と出会ってしまうとは……。
まさか俺の唯一がこんなやつだったとは、一生知りたくなかったのに……。
俺は死ぬまでこの家で日がな一日コイツに抱かれ続けるんだ。
もうコイツから離れることもできない。
だって、身体がそう求めるんだ。
それが飲まされた薬のせいか、それとも唯一の甘い蜜のせいか……それは俺にもわからない。

これが勝ち組だったはずの俺の末路だった。
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