68 / 99
二人で一緒に
しおりを挟む
「あの、沖縄でコーヒーって作れるんですか? コーヒーってなんかすごく暑い国で栽培されてるイメージがあるんですけど……勉強不足ですみません」
平松くんの質問に思わず笑みが溢れる。
私も山入端さんからこの島でコーヒーを栽培していると言われた時は同じような質問をしてしまったものだ。
こういうところも私たちはよく似ている。
山入端さんは平松くんがコーヒーに興味を持ってくれたことが嬉しいのか、沖縄でのコーヒー栽培についての説明を始めたが、平松くんはそれをなおも興味深そうに聞いている。
こんな前のめりで話を聞いてくれたら嬉しいだろうな。
「じゃあここのカフェスタンドのコーヒーは全部……えっと、山入端さんの農園で作られたものですか?」
山入端さんの名前をちゃんと覚えていたか。
ふふっ。可愛い。
しかし、西表産のコーヒーはブラックとアイスコーヒーとホットコーヒーだけのようで、私たちが頼んだカフェラテは海外の豆が使われていると知って、残念そうな表情を浮かべた。
山入端さんはそれに気づいたのか、試飲を提案してくれた。
ぱあっと顔が明るくなるのが正直で可愛い。
山入端さんはすぐにスタッフの宗方くんに試飲用のホットとアイスのコーヒーを二杯持ってくるように頼み、私にアイコンタクトをして見せた。
平松くんは純粋に喜んでいるが、アイスとホットが一杯ずつということは、私たちが一杯を分け合って飲むのが当然の関係だと思われていることに気づいていないのだろう。
さて、その事実に気づいた時にどんな表情を見せてくれるのだろうな。
「あっ、カフェラテもどうぞ飲んでみてください。今日は彼に焙煎からやってもらったので先日との味の違いを楽しんでいただけると思います」
そうだ。
話に夢中ですっかり忘れてしまっていたな。
以前、ここでコーヒーを頼んだ時、あいつがコーヒーを淹れることができたのは、山入端さんがコーヒーの味の状態を見るために作っておいた試作品を私たちの注文に使ったからだそうだ。
時間が経っていたが、流石に山入端さんが淹れたものだったから美味しく感じられたのだ。
きっと味が悪いことに気づかれたら、自分が偽者だということがすぐにバレると思ったのだろうな。
そういうところも悪賢いやつだったな。
「――っ、すっごく美味しいです! コーヒーの苦味と香りがふわって……この間のも美味しかったですけど、今日の方が好きです」
平松くんが宗方くんの淹れた今日のコーヒーを誉めると、山入端さんはまるで自分が誉められたような笑顔を見せた。
自分の時ならばそこまで表情を崩すことはないのに、やはり自分の愛しい相手が誉められたら嬉しいものなのだろう。
「どうぞ」
宗方くんが可愛いカップに淹れたコーヒーを持って戻ってきた。
宗方くんの手作りだと聞いて平松くんは驚きつつも興味津々だ。
イラストを描くのも好きだからこういう可愛らしいものがそもそも好きなのだろう。
和風っぽいこのカップが西表産のコーヒーというキーワードと相まってなんともよく似合っている。
今はコーヒースタンドだけだが、将来的にイートインスペースを作るならば、彼の手作りカップはコーヒーの味とともに人気になることだろう。
宗方くん自身は恥ずかしそうにしているが、山入端さんが乗り気だからきっとこれは近い将来実現するだろうな。
「平松くん、どっちから飲んでみる?」
せっかく出してくれたコーヒーを飲まないのは勿体無い。
平松くんも冷めないうちに飲みたいと思ったのか、ホットを選んだ。
砂糖とミルクを淹れて飲むのが好きな平松くんだからブラックは心配だったが、
「んっ! 美味しいっ!!」
とお世辞ではない心からの声が漏れていた。
「八尋さんも飲んでみてください。すごく美味しいですよ」
手渡してくれたカップを受け取り、平松くんが口をつけたところにわざと口をつけて飲むと、平松くんは一瞬にして顔を赤く染めていた。
ふふっ。間接キスだということにすぐに気づいたのは私を意識してくれている証拠だ。
ああ、もう本当に可愛くてたまらない。
「本当に美味しいな。山入端さん、いいコーヒーができてるね」
もちろん本当に美味しいが、今日のコーヒーが私にとってさらに極上のものに感じられる理由は山入端さんにも気づかれているだろうな。
アイスコーヒーの試飲も飲み干したところで、
「平松くん、そろそろ行こうか。早く行かないと日が沈んでしまう」
と声をかけた。
平松くんと海を見るためにやってきたのだからこれを逃すわけにはいかない。
ここに車を置かせてもらい、ビーチに行こうとすると
「帰りはぜひ上のレストランに寄ってください。兄にも話を通しておきますので、個室を空けておきます」
と山入端さんに誘われ、どうしようかと思ったが、ここで食べて帰れば夜は平松くんとゆっくり過ごせるだろう。
そんなことも考えて誘いを受けることにした。
平松くんの手を取ってビーチに向かう途中、
「ごめんね、今日はうちで夕食をと思っていたんだけど、あのレストランで食べて帰ろうか。いいかな?」
勝手に決めてしまったことを謝ったが、
「俺は八尋さんと一緒ならどこでも……」
と可愛い答えが返ってきた。
慌てたようになんでもないと言ってきたが、平松くんが私を意識してくれているのは間違いない。
このまま海を見ながら、平松くんの唇を奪えたら……どんなに幸せだろうな。
平松くんの質問に思わず笑みが溢れる。
私も山入端さんからこの島でコーヒーを栽培していると言われた時は同じような質問をしてしまったものだ。
こういうところも私たちはよく似ている。
山入端さんは平松くんがコーヒーに興味を持ってくれたことが嬉しいのか、沖縄でのコーヒー栽培についての説明を始めたが、平松くんはそれをなおも興味深そうに聞いている。
こんな前のめりで話を聞いてくれたら嬉しいだろうな。
「じゃあここのカフェスタンドのコーヒーは全部……えっと、山入端さんの農園で作られたものですか?」
山入端さんの名前をちゃんと覚えていたか。
ふふっ。可愛い。
しかし、西表産のコーヒーはブラックとアイスコーヒーとホットコーヒーだけのようで、私たちが頼んだカフェラテは海外の豆が使われていると知って、残念そうな表情を浮かべた。
山入端さんはそれに気づいたのか、試飲を提案してくれた。
ぱあっと顔が明るくなるのが正直で可愛い。
山入端さんはすぐにスタッフの宗方くんに試飲用のホットとアイスのコーヒーを二杯持ってくるように頼み、私にアイコンタクトをして見せた。
平松くんは純粋に喜んでいるが、アイスとホットが一杯ずつということは、私たちが一杯を分け合って飲むのが当然の関係だと思われていることに気づいていないのだろう。
さて、その事実に気づいた時にどんな表情を見せてくれるのだろうな。
「あっ、カフェラテもどうぞ飲んでみてください。今日は彼に焙煎からやってもらったので先日との味の違いを楽しんでいただけると思います」
そうだ。
話に夢中ですっかり忘れてしまっていたな。
以前、ここでコーヒーを頼んだ時、あいつがコーヒーを淹れることができたのは、山入端さんがコーヒーの味の状態を見るために作っておいた試作品を私たちの注文に使ったからだそうだ。
時間が経っていたが、流石に山入端さんが淹れたものだったから美味しく感じられたのだ。
きっと味が悪いことに気づかれたら、自分が偽者だということがすぐにバレると思ったのだろうな。
そういうところも悪賢いやつだったな。
「――っ、すっごく美味しいです! コーヒーの苦味と香りがふわって……この間のも美味しかったですけど、今日の方が好きです」
平松くんが宗方くんの淹れた今日のコーヒーを誉めると、山入端さんはまるで自分が誉められたような笑顔を見せた。
自分の時ならばそこまで表情を崩すことはないのに、やはり自分の愛しい相手が誉められたら嬉しいものなのだろう。
「どうぞ」
宗方くんが可愛いカップに淹れたコーヒーを持って戻ってきた。
宗方くんの手作りだと聞いて平松くんは驚きつつも興味津々だ。
イラストを描くのも好きだからこういう可愛らしいものがそもそも好きなのだろう。
和風っぽいこのカップが西表産のコーヒーというキーワードと相まってなんともよく似合っている。
今はコーヒースタンドだけだが、将来的にイートインスペースを作るならば、彼の手作りカップはコーヒーの味とともに人気になることだろう。
宗方くん自身は恥ずかしそうにしているが、山入端さんが乗り気だからきっとこれは近い将来実現するだろうな。
「平松くん、どっちから飲んでみる?」
せっかく出してくれたコーヒーを飲まないのは勿体無い。
平松くんも冷めないうちに飲みたいと思ったのか、ホットを選んだ。
砂糖とミルクを淹れて飲むのが好きな平松くんだからブラックは心配だったが、
「んっ! 美味しいっ!!」
とお世辞ではない心からの声が漏れていた。
「八尋さんも飲んでみてください。すごく美味しいですよ」
手渡してくれたカップを受け取り、平松くんが口をつけたところにわざと口をつけて飲むと、平松くんは一瞬にして顔を赤く染めていた。
ふふっ。間接キスだということにすぐに気づいたのは私を意識してくれている証拠だ。
ああ、もう本当に可愛くてたまらない。
「本当に美味しいな。山入端さん、いいコーヒーができてるね」
もちろん本当に美味しいが、今日のコーヒーが私にとってさらに極上のものに感じられる理由は山入端さんにも気づかれているだろうな。
アイスコーヒーの試飲も飲み干したところで、
「平松くん、そろそろ行こうか。早く行かないと日が沈んでしまう」
と声をかけた。
平松くんと海を見るためにやってきたのだからこれを逃すわけにはいかない。
ここに車を置かせてもらい、ビーチに行こうとすると
「帰りはぜひ上のレストランに寄ってください。兄にも話を通しておきますので、個室を空けておきます」
と山入端さんに誘われ、どうしようかと思ったが、ここで食べて帰れば夜は平松くんとゆっくり過ごせるだろう。
そんなことも考えて誘いを受けることにした。
平松くんの手を取ってビーチに向かう途中、
「ごめんね、今日はうちで夕食をと思っていたんだけど、あのレストランで食べて帰ろうか。いいかな?」
勝手に決めてしまったことを謝ったが、
「俺は八尋さんと一緒ならどこでも……」
と可愛い答えが返ってきた。
慌てたようになんでもないと言ってきたが、平松くんが私を意識してくれているのは間違いない。
このまま海を見ながら、平松くんの唇を奪えたら……どんなに幸せだろうな。
901
お気に入りに追加
1,090
あなたにおすすめの小説

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!
※、のところはご注意を。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる